現場のマーケティングノート

DAZNが仕掛ける「テクノロジーのサッカーW杯」 タイパ時代に“見なきゃ損”をどう作るか?

DAZNは、FIFAワールドカップ2026を全試合ライブ配信する。同社は「テクノロジーのW杯」を掲げ、新たな視聴技術を活用した共体験を生み出すねらいだ。

名久井梨香(Web担編集部)

7:05

DAZNは、サッカーW杯(FIFAワールドカップ2026)を全104試合ライブ配信する。日本代表戦については全試合無料配信すると発表した。

同社は、今大会を「テクノロジーのW杯」と位置付ける。メディアの分散化が進み、スポーツ視聴のあり方も変化するなか、DAZNはどのような視聴体験を提供していくのか。同社のマーケティング戦略と広告フォーマットから、スポーツマーケティングの最前線を探る。

「知っている」から「つながっている」へシフト

現在のコンテンツ消費は、タイムパフォーマンス(タイパ)が重視され、映画の早送り視聴に代表されるように「見る」よりも「知る」ことが優先される傾向にある。この潮流に対し、DAZNが挑むのは「見なきゃ損だよね」と思わせるほどの共体験の創出だ。

社会の分断が進み、「同時に同じものを見る体験」が希少になっています。だからこそ今回のW杯では「いまこの瞬間、皆が同じものを見ている」という高揚感と、自分が社会の一部であるという実感を届けたい。目指すのは、「知っている」から「つながっている」への体験のシフトです(マーケティング担当 治田耕一氏)

FIFAワールドカップ2026配信におけるDAZN独自の提供価値

単なるコンテンツ配信でなく、W杯という巨大イベントを起点に、コアなファンからライト層までを巻き込み、社会全体で熱狂を共有する場をつくりだす。その実現のために、次のようなテクノロジーを駆使した視聴体験を提供する:

  • マルチアングル視聴
    1つの画面を最大4画面まで分割できる。選手にフォーカスした視点や監督目線など、好みの視点をボタン一つで切り替え可能にする。

  • データテインメント
    ヘディングの高さ、シュートのスピード、ゴールからの距離などのデータをリアルタイムに画面上に表示する。同時に選手名も表示するため、ライト層でも視覚的に楽しめるエンタメ要素を付加する。

  • FANZONE(ファンゾーン)
    既存の機能を活用し、視聴者同士でクイズや投票に参加しながら観戦できる。

  • MOMENT BOOSTER(モーメントブースター)
    AIを活用したSNS動画拡散機能。ファンが熱狂した瞬間=熱狂モーメントをAIが自動でピックアップ。視聴者は試合を観戦しながら、そのモーメント動画をXに共有できる。こちらも既存の機能を活用したものだ。

DAZNが目指す姿

ファンの熱狂や感情に深くリーチし、LTVを最大化

ユーザー体験の進化に伴い、広告フォーマットも大きくアップデートされる。導入されるのが、試合の流れを遮らない新しい広告枠だ。

たとえば、国歌斉唱後からキックオフ直前のタイミングである「ゴールデンブレイク」や、前半・後半に設けられる給水タイムを活用した「クーリングブレイク」に広告枠を新設。また視聴者が常に確認する、画面上の時計(スコアボード)周辺にも、広告枠を設置する。

企業・ブランドにとって最も気になるのは、これらの広告がもたらすビジネスインパクトだろう。今回のW杯では、10兆円規模の経済循環を生み出すとFIFAは試算している。

スポーツファンは、チームやスポーツそのものを自身のアイデンティティの一部とみなす傾向が強く、支援してくれるブランドを「自分たちの仲間」として受け入れる特徴があるという。またDAZNのデータによれば、同プラットフォームで広告に接触したユーザーは、そうでないユーザーと比較して、購買金額が約3倍にのぼる実績が出ている。

DAZNのデータ

この期待値の高さは、広告セールス状況にも表れている。すでに全広告枠の大半が完売しており、広告主の3割を新規顧客が占めているという。

これまでスポーツ広告は「価値がある」とされながらも、その費用対効果が不透明でした。しかし今回、我々はその価値を明確なビジネス成果として可視化できると確信しています。

DAZNというプラットフォームは、ファンダムの熱狂や感情に深くリーチすることが可能です。結果として、ファンとブランドの間に根強いつながりを生み出し、LTV(顧客生涯価値)の最大化に貢献できると考えています(メディア担当 黒川佳則氏)

「データテインメント」でスポーツの価値を再定義

DAZNにとって、サッカーW杯のライブ配信は今回が初めての挑戦となる。意外にも思えるが、これまでの実績を積み上げた上での満を持しての参入だ。DAZNのCEO・笹本裕氏は次のように話す。

2025年のクラブW杯での経験から、膨大なトラフィックを支えるインフラは整っています。今回はこれまでのW杯とは全く違う、新しい見方を体験していただけるはず。特に「データテインメント」による新しい映像体験は、スポーツの価値を再定義するものになります(笹本氏)

また、大勢で観戦できる大規模なイベントも計画しているという。DAZNは、スポーツエンターテインメントを進化させる構えだ。

来年にはバスケットボールW杯も控え、ラグビーW杯も放映権の獲得を目指しています。今回のサッカーW杯を皮切りに、「W杯といえばDAZN」という立ち位置を確立したい(笹本氏)

新たな映像技術を駆使した「テクノロジーのW杯」は、視聴者を熱狂させるだけでなく、広告主にとってもビジネス成果を最大化させる、新たなスポーツマーケティングの幕開けとなりそうだ。

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