AIを活用してデータ分析をしたい。そう考えてはいるが、AIをどのように活用すれば良いのか、どんなデータを入力すれば目的の分析ができるのかがわからず、頭を悩ませている企業も多い。
「生成AI × マーケティング フォーラム 2025」に、インティメート・マージャーの簗島氏が登壇。インティメート・マージャーは、国内最大級のオーディエンスデータを保有するDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)「IM-DMP」を提供している企業だ。
DMPは、もともとアドテクノロジー領域の技術だったが、最近はあらゆる産業のDXを支援する「X-tech(クロステック)」領域でのサービス提供の割合が増えているという。
本セッションでは、まさに“大量のデータ”を扱う専門家の視点から、データの品質に焦点を当て、成果の出る生成AI活用法や人間の役割などについて語られた。
AIの性能で差別化する時代は終焉
データ分析にAIを活用する企業が増えている。その一方で、多くの企業が「AIと人間の役割分担」に頭を悩ませており、AIに「どんなデータを入力すればよいのか」わからないというデータアナリストも少なくない。
AIとデータの関係は次のように表現されることが増えている。
高性能なエンジン(AI)+良質なガソリン(データ)=最大の成果(競争の優位性)
5年くらい前まではAIの性能が競争優位性になっていたが、生成AIが発展してきたことで、AI自体での差別化が難しくなっている。では、AI(エンジン)がコモディティ化する中で、何が新たな競争優位性の源泉となるのか。
簗島氏は、まさにその答えとして「競争の優位性を作るうえで重要になるのが、どんなデータを入力するかという『データの質』と『データの活用方法』、つまりAIと人間できちんと分業することです」と指摘する。
AIと人間の“分業”を成功させる「4つの考え方」
では、AIと人間の分業をどう進めるべきか。簗島氏は、まず「AIの能力と限界を理解し、日々進化する技術をキャッチアップし続けること」が前提にあると語る。
特に生成AIの進化はめざましい。海外を中心に、単純な指示を実行する従来型ではなく、AIエージェントを活用し、自律的な業務プロセスを遂行する事例も登場している。
その代表例が「Deep Research機能」だ。これは特定情報の調査だけではなく、周辺情報の収集、疑問点の発見、継続的な問題解決を自律的に実行する仕組みである。人間がやるよりも圧倒的に短い時間で問題を解決する。今後、AIエージェントはさらに自律的に動くようになり、近い将来には自動運転のように状況判断しながら定めた目標に向かっていけるようになると言われている。
この急速な進化を踏まえ、AI活用を成功させるために重要な「4つの考え方」を簗島氏は提示する。
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目的志向
何を達成したいのか、何を解決したいのかという目的を明確に持ち、それを実現するための手段として生成AIを活用すること。 -
人間とAIの協調
人間とAIの得意分野を生かして役割分担をし、協働体制を構築すること。AIにデータ処理を任せ、データからインサイトを引き出して考察し、最終的な意思決定を人間が下す。そういう役割分担が必要になる。 -
実験と試行錯誤
様々なユースケースを試してみること。そうすることでAI活用のスキルが向上していくからだ。 -
データの重要性
そして「データの重要性」を改めて認識することだ。AI自体の性能差が縮小している今、競争優位性の源泉はデータの質と活用方法にシフトしている。他社が持っていない会社独自のデータを組み合わせることで付加価値を創出し、差別化の要因になる。つまり、AI活用が当たり前になればなるほど、データの価値は上がっていくのだ。
今できるAI×データ活用術
どのようなデータをどのようにAIと掛け合わせればよいのか──。その検討に頭を悩ませている人も多い。簗島氏も、「ほとんどの業務に活用している」という企業から「議事録作成にのみ使っている」「生成AIサービスのアカウントを社員に配布しただけ」という企業まで、活用のレベルがまちまちな点に課題を感じているという。そこで簗島氏は、3つのレベル別に今できる活用方法を紹介した。
レベル1“まずは身近なデータ”で効率化
レベル1は、音声や資料といった身近な情報を「データ」として捉え直し、業務効率化につなげる最初のステップである。
「データ活用」と聞くと、多くの人がデータベース内の難解な数字をイメージしがちだが、日常業務で生まれる「音声メモ」「社内テキスト」「過去の提案資料」こそが、AI活用の第一歩となる貴重なデータソースとなる。
たとえばインティメート・マージャーでは、定例会の申し送り事項や議事録の骨子を音声メモに録音し、生成AIでテキスト化している。これはAI活用として最もとっつきやすく、成果も実感しやすい。簗島氏自身も3〜5分ほどの音声を録り溜め、顧客向け提案資料の作成に活用しているという。
また、過去の提案資料をGoogle NotebookLMなどのツールでAIに学習させ、社内ナレッジデータベースとして活用。疑問点があればAIに聞ける仕組みを構築している。
簗島氏は、こうした「AIにデータを入力しナレッジを蓄積する」ことこそがデータ活用の第一歩であり、明日からでも実行できると促した。
レベル2“既存データ”を活用して戦略化
レベル2は、社内に「存在するが使えていないデータ」を活用し、業務効率化を図る段階である。
多くの企業が「データ分析できる人材がいない」「基盤やリソースがない」といった課題を抱えている。しかし簗島氏は、これらの課題はAIによって補完できるようになった今、むしろ「データの確保と活用」そのものに集中できる時代になったと指摘する。
ここで重要になるのが、データ分析における「人間とAIの分業」である。
- AIの役割:大量データ処理、パターン認識、定型作業の自動化
- 人間の役割:戦略立案、意思決定、インサイトの抽出・考察
これまで人間がすべて行っていた面倒な「作業」をAIに任せ、人間は「目的の定義」や「仮説の立案」「最終的な意思決定」といった創造的な領域に集中できるようになる。
その好例が、多くの担当者を悩ませる「カスタマージャーニーマップの作成」だ。簗島氏は「作成に疲れた」という相談をよく受けるという。従来、顧客理解やデータ集計・可視化には膨大な時間がかかっていた。
しかしAIを使えば、アクセス解析とアンケートデータなどを渡すだけで、ユーザー数の推移グラフ(下図参照)やペルソナ分析、さらには月次レポート用の資料まで、指示一つで自動作成できる。
分析のハードルが劇的に下がったからこそ、AIの成果(アウトプット)の質は、インプットされるデータの質に直結する。簗島氏は「より成果を求めるなら、分析のためのデータを集めることに、より目線を向けるべき」と述べた。
レベル3“自律的AI×データ”でマーケティング最大化
レベル3は、AIがより自律的に動く「AIエージェント」や、文脈を記憶・活用する「MCP」といった先進技術を活用し、マーケティング活動そのものを高度化・最大化する段階である。従来は「工数がかかりすぎる」「人間では不可能」と諦められていたような、膨大な作業をAIが肩代わりするユースケースがすでに出始めている。
ハイパーパーソナライゼーションの実現
代表例が「ハイパーパーソナライゼーション」である。これは、顧客一人ひとりの状況やニーズに合わせて、最適な情報や体験を提供するマーケティング手法を指す。
従来、100人いれば100通りのメール文面を考えることは非現実的であった。しかしAIエージェントは、顧客一人ひとりの興味関心や行動履歴(データ)に基づき、「その人に響く」キャッチコピーやメール文面を自動生成し、最適なタイミングでの配信を可能にする。
属人化していた広告運用の最適化
広告運用も大きく変わる。自動化が進んでいるとはいえ、「この設定で正しいか」といった最終確認は人間に依存しがちであった。 AIは、過去の膨大な運用パターン(データ)を学習し、「毎年正月は予算を抑える」といったベテランの暗黙知(口頭伝承)までも再現。予算配分や設定を自律的に最適化する。
高度な分析・業務の自動化
ほかにも、以下のような高度な活用が可能である。
- コンテンツマーケティング:独自性の高い1次情報(データ)をAIに与え、他社には真似のできない深い分析記事やコンテンツを効率的に作成・発信する。
- データ分析の民主化:専門知識がなくとも、対話形式でAIに指示するだけで、Googleアナリティクスなど複数のデータを横断した分析や施策提案が可能になる。
- RPAの限界を超える:従来のRPAが苦手だった「画面の変更」や「予期せぬ条件変化」にもAIが柔軟に対応し、社内システムからのデータ収集や報告書作成を自律的に実行する。
AIが進化しても「人間の仕事」がなくならない
冒頭でも話したように、AI自体の性能差が縮小している今、データの質と活用方法が競争優位性を生む。AI活用をする際に重要なのは、AIが得意なところはAIに、人間が得意なところは人間に任せること。AIができることは増えていくが、人間がやることはゼロになることはない。分析の目的や意図を定め、AIに「何をすべきか」を教える作業は、これからも人間にしかできないからだ。
最高のエンジン(AI)に、最良のガソリン(データ)を注ぎ込む。そして、人間が「目的」という名のハンドルを握り、進むべき方向を示す。この「AI×データ×人間」の3要素によって最高の結果が出る世界は、今後ますます進化していくだろう。
最後に、簗島氏は「まだ一歩を踏み出せていない人へ」と、こうエールを送る。
データ活用に苦手意識をもっている、生成AIを活用したことがないという人は、まずはデータを集めることから始めてほしい。そしてデータを生成AIに入力してみる。人間では簡単にできなかったことが簡単にできる。そんな未来が来ていることを実感できると思います(簗島氏)
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