マーケティングは生成AIでどう変わる? ソフトバンクのAIエンジニアが語る、ビジネス活用の最前線
マーケティングの分野においても日々急速に進化を遂げている生成AI。マーケティングプロセスの効率化やプロモーション・広告など用途は幅広いが、企業ではどのように生成AIを活用しているのだろうか。
「Web担当者Forum ミーティング 2024 春」では、ソフトバンクのAIエンジニアである鈴木祥太氏が登壇。文章・画像作成だけにとどまらない業務効率化のアイデアやプロモーション活用の最新事例を紹介した。
生成AIのトレンド最前線! マーケティング業務はどう変わる?
おなじみのChatGPTからBingAI、Copilot、Geminiまで。大注目のテクノロジーである「生成AI」は、今もなお進化を続けている。
特にOpenAIとGoogleは、AI業界では目が離せない存在です。OpenAIから発表されたモデル「GPT-4o(ジーピーティー フォーオー)」では音声入力が可能となり、話者の声のトーンや表情を認識して、適切な応答を生成します。
その他Googleは、次世代AIアシスタントである「Project Astra(プロジェクトアストラ)」や「Gemini 1.5」、「プロダクトAI機能」を発表。Googleがもともと保有しているWebサービスに生成AIを組み込ませ、情報と連携していくという、生成AIの次のステージを示しています(鈴木氏)
これらの発表からもわかるように、「昨今の生成AIはさらに一歩ステージを進めている」と鈴木氏。キーワードとして、マルチモーダル、高速、大容量の3つを挙げた。
生成AIの最新キーワード
- マルチモーダル
これまではテキストが主体のやり取りだったが、画像・動画・音声など、ありとあらゆる情報を1つのAIで処理できるようになり、精度が向上した。 - 高速
生成AIの応答速度が飛躍的に向上し、約0.3秒まで短縮された。 - 大容量
トークンが最適化され、日本語では約1.4倍の効率化。API(Application Programming Interface)利用コストが削減され、大量テキストの要約も可能になった。
これまでなかなか読み込めていなかったテキストなどのさまざまな形式のデータを読み込み、さらに回答を作成するといったことが可能になりました。これらはまさに、ユーザーが生成AIに求めるニーズの顕在化だと思います(鈴木氏)
これらのキーワードについて、マーケティングの領域で当てはめてみると、生成AIの活用の幅がさらに広がると鈴木氏は語る。
マーケティング領域における生成AI活用
- マルチモーダル
市場調査・分析での活用や、広告宣伝における画像・動画の生成、コスト削減。 - 高速
商品企画では、限られた時間で生成AIの試行回数を最大化することが可能に。また、広告宣伝の領域では、応答速度の短縮で離脱防止にもつながる。 - 大容量
市場調査・分析の際に大量のデータから複合的な分析が可能になる。
従来の人工知能は個別のタスクをこなすことしかできなかった。これからは、AGI(Artificial General Intelligence/汎用人工知能)・ASI(Artificial Super Intelligence/人工超知能)の実現に向け、ありとあらゆる情報を1つのAIで処理できる時代になるという。
生成AIは日々アップデートされていくので、継続的な利用・学習が大事だと思います(鈴木氏)
金融からメーカーまで、各企業における生成AIの最新活用事例
とはいえ、生成AIを実際の業務で活用するにはどうすればいいのだろうか、と頭を悩ませている担当者も多いことだろう。鈴木氏は、「企業における生成AIの導入は3つのステップからなる」と語る。
- 環境整備:社員が安全・安心に業務で活用することができるように、セキュアな環境を整える
- 定着推進:生成AIに関するリテラシーを向上させ、現場での利用定着を促す
- 業務実装:生成AIを活用した業務効率化のアイデアを企画し、業務実装することで効率化を図る
特にAIの利用については金融業界が圧倒的にリードしており、メガバンクを筆頭に、2023年3〜4月頃にはすでに各社が動き始めていたという。
みずほフィナンシャルグループでは、2024年度以内にAIを活用した銀行システムを本格的に導入し、最終的には自動で問題の検知・修復ができることを目指しています(鈴木氏)
さらに、伊藤園では日本で初めてテレビCMにAIタレントを起用し大きな話題に。パルコでは、キャンペーンにおけるグラフィック、ムービー、ナレーション、音楽といったすべてを生成AIで制作。AI活用がクリエイティブな領域にも広がっていることを示した。
また、業務改善の他社事例も多い。三井住友海上火災保険では、社員向け生成AIチャットツール「MS-Assistant」に損害保険業務の専門的な照会応答機能を追加した。サトーでは「AI画像スキャン値付け」を導入し、AIによる商品判別からラベル発行までを自動化することで、ミス防止を実現した。
なお、他社の事例では、定量的な評価により「生成AI活用が有効である」と実証されている。例として、住友生命保険では元々1週間かかっていた企画書作成が1日に大幅短縮。野村證券ではAIボット導入により、FAQの対応体制が3名から1名に削減したという。
ソフトバンクの事例から見る「生成AI活用を成功させるカギ」とは
では、ソフトバンクでは、どのように生成AIを活用しているのだろうか。
ソフトバンクは生成AIを積極的に活用しており、弊社の全社員約2万人を対象にセキュアな生成AI環境の提供や、「プロンプト大会」の開催を行っています。このように、現場レベルでの活用を促進する取り組みを行っています(鈴木氏)
その結果見えてきたのが、生成AIの「現場社員との親和性の高さ」だという。ポイントは以下の3点だ。
- 自然言語で使えるため、利用開始のハードルが低い
- 業務活用にあたり専門知識やプログラミングが不要
- 業務内容を最も理解している現場社員からの活用アイデアが出やすい
また、具体的な活用事例としては、法人顧客向けの問い合わせ対応支援が紹介された。
自社データ連携前は20%ほどだった回答支援範囲が大幅に改善し、平均60分ほどかかっていた対応時間が10分ほどに削減できました(鈴木氏)
現在ソフトバンクでは、Zoom会議の文字起こしデータから自動で議事録を作成するローコードツールの開発を進めているという。会議に出席して録画さえしておけば、メールで勝手に議事録が届くという時代が、すぐそこまで来ている。
一方で、「生成AIが現場に定着しにくい」というケースも一部存在する、と鈴木氏は語る。現場の主体性が伴わない場合、受け身の姿勢となり、利用率が右肩下がりに落ちていく。
生成AI活用を成功させる鍵は、生成AIが身近となる風土を育むこと。現場目線のアイデアを出してもらうなど、主体的なマインドを作ることが大切です。もちろん、環境を提供するだけでなく、理解・活用促進までのフォローが重要。勉強コンテンツの発信や社内コンテストの実施など、生成AIが根付くまでの全体の流れを設計することが、成功の鍵です(鈴木氏)
実際にソフトバンクでは、ChatGPTに特化した研修や生成AI活用コンテストなどの施策の結果として、生成AI利用率は約3倍に、1人あたりの累計質問数は約5倍に急上昇したという。
「AI×マーケティング」の未来を表す3つのキーワード
最後に、AIとマーケティングの未来を表すキーワードとして、鈴木氏は「自律分散」「ノウハウシェア」「自己実現」の3つを挙げた。
これまで生成AIは、使える一部の人間に業務が集中する「中央集権」型になっていた。しかし、誰もが生成AIを使えるようになることで、「自律分散」型になるという。AI部門の担当者が現場社員にスキルを伝播することで、管理面でも自律分散型の組織へと移行していくのではないかと指摘する。
そして、生成AIの運用や推進、活用方法について、これまで管理者が現場社員に波及させていたが、今後は現場社員同士でコミュニケーションをとり、ノウハウを交換(ノウハウシェア)していくようになるのではないかと鈴木氏は語る。
今後、AIの利用率がどんどん上がっていくにつれて、AIと人がほどよいバランスでミックスする必要があります。人が描いた道をAIが実現する時代、みなさん自身がどんな道を描くかが重要です(鈴木氏)
鈴木氏は、生成AIの導入を「歴史に残る転換点」と位置づけ、「このテクノロジーの進化、そしてマーケティング分野への浸透を、ぜひ楽しんでいただければと思います」と語り、セッションを締めくくった。
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