【レポート】Web担当者Forumミーティング 2024 春

「上司の一言がガツンと刺さった」マーケター1年目に学びたいコト 

マーケターとして成長するために必要なマインドセットやスキルとは? EVeMの富家氏をモデレーターに、花王の辻本氏・ビービットの村石氏が、新人マーケターへのメッセージを語った。

マーケティングの世界へ飛び込み、日々奮闘する“マーケター1年生”必見。「上司から言われてガツンと刺さったコト」「1年目マーケターに伝えたいコト」を現役マーケターが赤裸々に語る。

Web担当者Forum ミーティング 2024 春」では、花王の辻本光貴氏と、ビービットの村石怜菜氏が登壇。EVeMの富家翔平氏をモデレーターに、新人マーケターが成長するための心構えとテクニックについて、自身の体験談を交えつつ鼎談した。

(左から)花王 ファブリックケア事業部 衣洗G 辻本光貴氏/
ビービット UXインテリジェンス事業本部 マネージャ 村石怜菜氏/
EVeM マーケティング部 Marketing Director 富家 翔平氏

上司から言われてガツンと刺さったコト

講演はEVeM富家氏がモデレーターを務める形でスタート。最初のトークテーマ「上司から言われてガツンと刺さったコト」について、3名それぞれが自身の新人時代を振り返りながら語った。

辻本氏:「最適解よりも、まずは納得解を早く出して」

辻本氏が上司から言われて刺さったこと「最適解よりもまずは納得解を」

辻本氏新入社員の頃、オウンドメディアの運営をしていて、上司から記事のアイデアを求められたんです。そこで僕はサイトのデータ分析をしながら、自分なりに3つほど案を出して、上司に持っていったんですね。「どれがいいですかね?」と複数案を出して、上司に判断を委ねた形です。

そこで言われたのが、「最適解よりも、まずは納得解を早く出して」という言葉。マーケターたるもの、まずは自分の意思が示せないと何も始まらない。加えて、「君一人で仕事をしているわけではないから、みんなでより良いものにしていけばいい」とも言われました。そこで気付かされたのが、次のようなことです。

  • 正確性・網羅性にとらわれて、スピードがなかったこと
  • (間違っていたとしても)まずは仮説構築をして、すばやく行動に移すことが大事。マーケター1年目は特に、自分のアイデアを早く周りに壁打ちすることで、自分の知識と経験を引き上げることができる。

富家氏新入社員なので、自分の考えに自信が持てなかったのかもしれませんね。仮説の立て方についてアドバイスはありますか?

辻本氏最初に「自分は何がしたいか」という軸を作ること。その後実際にデータなどを見ながら、「自分の仮説と実際のデータを比較すると、これくらいずれているな」「アイデアの方向性を変えた方が良さそうだな」と修正するというステップを踏むのがおすすめです。

「最初にデータを細かく見てしまうと、いろんな引き出しが開いて、どこに着目すればよいかわからなくなってしまう」と辻本氏。間違っていてもいいので、最初に仮説を立ててみることが重要だと語った。

村石氏:「目的と目標を混同していない?」

村石氏が上司から言われて刺さったこと「目的と目標の混同」

村石氏私が上司に言われて一番ガツンと刺さったのが「目的と目標を混同していない?」という言葉です。目的とは「最終的なゴール」のことで、目標とは「その過程にある具体的な指標」のことです。

私が事業会社にいたとき、上層部から「こういう目的を達成したいから、そのための企画を出して」と求められたのですが、伝言ゲームのようにいろんな人が間に挟まるにつれて、だんだん「目的」が忘れられ、「目標」だけがこちらに落ちてくるということがありました。

そのような状態で企画を考えて、上司に説明すると、「それじゃ目的を達成できないよね?」「目的と目標を混同していない?」と言われてしまうことが多かったです。

富家氏目的と目標の混同は、支援会社もよく陥りますよね?

村石氏支援会社は特に失敗がしづらいので、事なかれ主義に陥る人が多い印象を受けます。クライアントが本来成し遂げたい目的ではなく、「他社がやっているから、うちもやりたい」など、短期的な目標に沿った提案を考えてしまいがちです。

富家氏現在はマネージャーという立場かと思いますが、自社のメンバーが目的を見失いそうになったら、何と声をかけるんですか?

村石氏「それはゴールドリブンなの?」「この施策を実行して、結局どうなるの?」と問いかけます。今、自分が支援会社のマネージャーになって、当時の上司と同じことを言っているのは自分でも意外です。

辻本氏僕も「目的→戦略→戦術」という順番で考えることはとても大事だと思っています。マーケター1年目は特に思考が「おもしろい施策をやりたい」といった戦術(How)に偏りがちになって、“バズ”だけを求めてしまうことがあります。「当初何をしたかったか」の目的に立ち戻ることはとても大切です。

富家氏:「足りてないのは知識や経験じゃなく解像度」

富家氏が上司から言われて刺さったこと「足りないのは知識でなく解像度」

富家氏僕が1社目の通販会社で、掃除機の訴求文を考えていたときのことです。デスクに座って、訴求ポイントについて「吸引力かな? 重さかな?」と考えていたんですが、その時に上司から「とりあえず掃除機を使ってみな」って言われたんですよね。

言われた通り僕はスタジオに行って、各社の掃除機をかけてみたんですが、

  • このヘッドの形は持ちやすいな
  • 階段でも使いやすいな
  • 充電が15分で切れたけど、15分あったら十分だな

など、いろんな発見がありました。そこで気づいたのが、顧客を知り、価値を体感し、事業を理解するための行動ができていなかったということ。10年経った今でも「体験」に時間とお金を使うようにしていて、それがマーケターとしての土台になっています。

辻本氏私たちのような消費財メーカーにとっても、現場はとても大切です。たとえばドラッグストアのお客さんを見ていると、弊社の商品を手に取って裏面を見たり、価格を見てスマホの電卓機能で計算する人もいる。どんな風に悩み、選んでいるのかという現場を見ることで、顧客の解像度はぐんと上がります。

1年目マーケターに伝えたいコト

後半のテーマは「1年目のマーケターに伝えたいこと」。マーケターとして活躍するための心構えとテクニックについて、3名がそれぞれ語った。

辻本氏:「周囲の出来事を読み解き、定式化しよう」

辻本氏が1年目マーケターに伝えたいこと

辻本氏皆さんに伝えたい心構えの1つ目は、「受け身じゃダメ」だということ。上司からの依頼を打ち返すだけでは不十分です。

私が思うにマーケティングとは、新たな市場を作り、人の心を動かし、行動を喚起すること。世の中の出来事を観察しながら自分で問いを立て、行動しなければ、新たな市場は切り拓けません。

辻本氏そして2つ目は「温故知新の転用」です。私は、人間の本質は昔から変わらないと思っています。だからこそ、過去の事例からマーケティングの本質を掴み、現代風にアレンジすることが効果的なのです。

注意すべきは、「真似る」ではなく「学ぶ」という点だと辻本氏。一時、X(旧Twitter)で「どっち派? キャンペーン」が流行し、多くの企業アカウントが追随したが、それに適さない商材を無理に「どっち派?」のフォーマットに押し込んでいるケースでは、キャンペーンが盛り上がっていなかったという。

富家氏「真似る」と「学ぶ」の違いは難しいですよね。真似にならないために意識した方がいいことはありますか?

辻本氏これはテクニックの話にもつながるのですが、普段からいろんな企業さんのいろんな施策を読み解き、定式化することだと思います。

たとえば、若者に人気のアイドルが20年前に流行った曲を替え歌しながら商品の告知をしている施策があり、大きな反響を得ているとします。それをあなたが目の当たりにしたときに、「ああ、この施策っておもしろいね」で終わらせず、噛み砕くことがすごく大事なんです。

  • なんでこのアイドルなんだっけ?
  • なんで20年前のこの曲を替え歌したんだっけ?
  • この担当者って最終的に何を狙っているんだっけ?

このように、自分なりに咀嚼をして定式化していく。すると、自分が今の会社でプロモーションの企画を考えるときに、転用ができるようになるのです。

村石氏:「組織貢献をしてから自己実現」

村石氏が1年目マーケターに伝えたいこと

村石氏心構えの1つ目は「目的ドリブン」です。私は目的に到達しないと、会社員として世の中に貢献できないと思っています。

よくあるのが、本質を捉えていないのに、とりあえずフレームワークでまとめてみたというパターン。世の中にはいろんな手段やノウハウが溢れていますが、それらに踊らされず、本質から考える癖を身につけましょう。

富家氏最近では生成AIのアウトプットをコピペする人もいるようです。今の時代こそ、本質を捉える思考が必要になりそうですね。

村石氏2つ目は、「まずは組織貢献してから自己実現」ということ。特に新卒だと「いつかこういうキャンペーンをやりたい!」という風に、マーケティングで自己実現したい方も多いと思います。でも私のおすすめは、まずはやるべきことにフォーカスして、できることを増やして、徐々に自己実現に近い領域を拡張していくこと。配属された部署がやりたくない仕事だったとしても、まずはその仕事をやり切って、「他の仕事も任せられるね」と評価してもらう。やりたい仕事が舞い込む状況作りですね。

富家氏やりたいことがあるなら、まずは組織貢献して、お声がかかるように頑張りましょうということですね。

村石氏3つ目は「百聞は一見に如かず」。先ほどの富家さんの掃除機の話とも重なりますが、ビービットでは「ユーザーを憑依させよ」という考え方があり、顧客視点に立つことが重視されています。UX改善のためのユーザー行動調査においては、4~5人のユーザーを見れば行動特性が8割ほどわかると言われているので、個別のユーザーを深掘りして、細かく見ています。

富家氏辻本さんは、ユーザー視点を持つために意識されていることはありますか?

辻本氏シンプルですが、知人や周りの人に聞くということです。たとえば僕は、洗剤のキャップには40mlの線が書いてあるから、みんな当然40mlを使うんじゃないかと思っていましたが、友人に話を聞いてみると、「何となく半分くらい」「一応2杯入れてる」など、意外な話が出てくることがあります。「わかった気にならない」ことは大事ですね。

富家氏:「非合理な意思決定にこそ、意思が必要」

富家氏が1年目マーケターに伝えたいこと

富家氏合理的な判断には、あまり意思がいりません。なぜなら合理的な思考さえ持っていれば、全員が同じ意思決定ができるから。逆に非合理な意思決定ほど、文字通り「意思」が必要です。

たとえば何かのイベントを企画するときも、来訪者数や受注数などの成果が見込めるのであれば、開催すべきかの意思決定は簡単です。一方で、前例のないような、成果が出るか不透明なイベントをやりたいときは、本当に意思だけが問われます。こういう機会って案外多いです。

合理的に考えると、どんどん他社と同じ方向に行ってしまいます。だからこそ意思を持って、自分がやりたいことをちゃんとやる、という心構えは必要なのかなと思っています。ただ、意思を込めるには借りてきた言葉とか、誰かから聞いた情報じゃなくて、自分の目で見て自分で体感した「一次情報」が大事になります。だからこそ、困った時は現場に行ってみてほしいですね。

辻本氏すごく共感します。僕の経験上でも、定量調査をやると、出そうとしているプロダクトがどんどん丸く、無個性になっていくんですよね。データを集めて方向性を探るのはもちろん大事ですが、データに溺れず、意思を持つことを僕も意識しています。

富家氏1年目の方に伝えたいテクニックとしては、構造化して整理し、言語化する訓練を積むこと

たとえば「事業理解ができているか?」という問いに対して、自分たちのサービスを一言でいうと? ラインナップは? 何ができる? を自分の言葉で書いてみる。物事の理解を深めるとはどういうことなのか、常に疑問を持って行動するということは、マーケターの普遍的なテクニックだと思います。

先輩マーケターからのメッセージ

最後に3人が、1年目のマーケターへメッセージを送った。

辻本氏僕は入社当初、商品を担当する事業部を希望しておりましたが、かないませんでした。しかし、いろんな部署を渡り歩く中で、身につけた能力の組み合わせで自分のオリジナリティが出せるようになってきました。いまは当初希望していた事業部で、その能力を活かしています。マーケター1年目でやりたい仕事ができていないと感じても、そこで腐らずに、まずは目の前の仕事を一生懸命頑張ってみていただければと思います。

村石氏私は人間の行動や心理に興味があり、それを探求していく中で、マーケティングの知識を身につけてきました。マーケター1年目の皆さんも、自分の興味関心を大事にしながら、目的や本質を意識して、キャリアを歩んでいっていただければと思います。

富家氏自分の意思をしっかり込められるか、その仕事に誇りを持てるのかを自問自答すること。自分の仕事に誇りを持てるかが、最終的にはマーケティングの成否を分けると思います。マーケター1年目だからこそ、誇りを持ってお仕事に臨んでいただければと思います。

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