【レポート】Web担当者Forumミーティング 2024 春

日本で急拡大する「リテールメディア」 イオンネクストと楽天の事例から学ぶ、その特長と課題とは?

日本でも急拡大しているリテールメディア。リテールメディアの定義を明らかにし、イオンネクストと楽天グループの取り組みを紹介しながら、課題や今後の展望について語り合った。

日本でも急拡大しているリテールメディア。しかし、リテールメディアがどのようなものかわからない方も多いのでは? 「Web担当者Forum ミーティング 2024 春 」の講演にアタラの杉原剛氏がモデレーターとなり、パネリストとしてイオンネクストの藤田泰寛氏と、楽天グループの春山宜輝氏が登壇。改めてリテールメディアの定義を明らかにし、イオンネクストと楽天グループの取り組みを紹介しながら、課題や今後の展望について語り合った。

(左から)イオンネクスト株式会社 メディアビジネス推進 担当部長 藤田泰寛氏、
楽天グループ株式会社 市場広告部 ジェネラルマネージャー 春山宜輝氏、
アタラ株式会社 代表取締役CEO 杉原剛氏

リテールメディアは「リテール=小売業者」「メディア=媒体」を組み合わせた造語

ここ数年でよく聞くようになった「リテールメディア」。まず「リテールメディア」の定義について杉原氏が説明した。

リテールメディアは『リテール=小売業者』『メディア=媒体』を組み合わせた造語です。2つの意味があり、1つは小売業者を主体とした、顧客と接点を持つメディア、ないしは広告プラットフォームという意味。もう1つは、メディアなので、コンテンツ・広告の配信管理や検証が可能なものを総称してリテールメディアと言われることが多いです。ここ何年間かで言うとリテールメディアは広告プラットフォーム事業的な側面が強いものかなと思っています(杉原氏)

杉原氏はこの定義について、リテールメディアとして代表的な存在である楽天市場を運営する楽天グループとイオンネクストの2社に投げかけた。楽天グループの春山氏がECでのリテールメディアの構造について以下の図で説明した。

ECでのリテールメディアの構造

リテールメディアの構造はケース①と②があり、②が一般的です。一つの売り場で店舗が出品している『セラーモデル』と、メーカーが納品している『ベンダーモデル』があります。

楽天市場はケース①のショッピングモールという形をとっており、楽天市場で商品を販売するためには『出店』いただきます。出店企業はさまざまな業種のケースがあり、小売業や量販のケースもあれば、メーカーが直接出店するケースもあります。更に、メーカーが直接出店せず、既に出店している店舗をメーカーが販促支援するケースもあります。楽天市場ではさまざまなかたちでリテールに対する広告が展開されています(春山氏)

上記の図で言うと、イオンネクストはケース②のベンダーモデルに該当する。杉原氏は「小売業者の目的や予算視点でみるとさまざまなかたちがあるのですね。リテールメディア自体のスコープの拡大を感じます」と話す。

イオンネクストの「Green Beans」。リテールメディアのロードマップを3年計画で策定

続いて、杉原氏は各社のリテールメディアの取り組みについて聞いていった。まず、藤田氏がイオンネクストが運営する新ネットスーパー「Green Beans」を説明した。

イオンネクストが運営するGreen Beans

Green Beansは食品・非食品を合わせて、最大5万点の品揃えがあり、配送時間を1時間単位で指定できるという特徴があります。AIとロボットによる最先端の大型自動倉庫、倉庫出荷型のビジネスモデルを展開しています。配送は自社配送で、最後のラストワンマイル、接客までも全て自社で一貫して行っています。

(広告出稿する)サプライヤーと一緒に、お買い物体験と商品体験を最大化することがリテールメディアの役割だと思って取り組んでいます(藤田氏)

リテールメディアの成長のロードマップを3年計画で策定し、現在は2年目の「Introduction」にあるという。2023年は「Learning」と位置づけ、サプライヤーと一緒にサービスの検証や、課題の洗い出しを行っていたという。

Green Beansリテールメディアの役割

楽天が展開するリテールメディア。リアル店舗と連携したオフラインのマーケティングを展開

続いて、楽天グループの春山氏が、楽天エコシステムの広がりについて説明した。楽天グループは楽天ポイントを軸とした楽天エコシステムを構築している。楽天市場に加えて銀行や、証券など70以上のサービスを展開しており、楽天会員数は1億以上になるという。

楽天が展開する楽天エコシステム

サードパーティCookieの問題に直面する中、自社の持つ購買情報や楽天IDを中心としたマーケティングを積極的に進めていくという。では、リテールメディアとしてはどのように進化しているのか。春山氏は次の図を示し、説明した。

楽天が展開しているリテールメディア

最初は楽天市場の売り場をメディア化して、検索広告やディスプレイ広告を始めました。その後、データを活用しながら、楽天市場以外のSNSやGoogleなど外部メディアへの広告配信、さらにスーパーやコンビニなどリアルの売り場と連携したオフラインのマーケティングへとサービスをどんどん展開しています。今は上記の図で4.0のところまできています(春山氏)

上記の図をブレイクダウンしたのが、次の図だ。楽天が提供する多様なサービスの中で、一番大きなプロモーションをビジネスとして手がけているのは、以下の図の③EC販促支援だという。その他、店舗を支援するかたちでメーカーが支援策を講じたり(②)、単独流通施策としてメーカーから商品を卸して、楽天市場内で楽天が直営店舗として運営する『Rakuten24』で販売したりする(①)ケースもあるという。

楽天市場が取り組んでいるリテールメディア

単なる販促支援だけではなく、楽天市場というメディアを使った認知の拡大やブランディングも行っています。オフラインに関しても、楽天IDを共通の軸としたマーケティングを展開しています(春山氏)

楽天市場とGreen Beans、リテールメディアの具体的なサービスを紹介

続いて、各社で行っている具体的な活用事例について杉原氏が問いかけた。最初に楽天グループの春山氏は、同社のリテールメディア戦略について「単なるプロダクト展開ではなく、アテンションからパーチェスまで段階的に使っていただけるプロダクトを展開しています」と話した。具体例として楽天市場の出店者向けに、外部メディアへの広告出稿を簡単に行える仕組みを提供していることを挙げた。

楽天市場が提供している主要なリテールメディア

楽天市場の検索広告に出稿するのと同じような感覚で、GoogleやFacebook、Instagramなどの外部メディアへも非常に簡単に出稿できるようになっています(春山氏)

その他、非出店ブランド向けのサービスとして、特定の商品や正規取扱店舗に対して予算を割り振れる広告システムのほか、楽天市場内でブランドページの設置やマーケティング活動ができる「Brand Gateway/Show Room」というサービスを紹介した。「Brand Gateway/Show Room」はコスメブランドや食品、ビールメーカー、家電メーカーに利用されているという。

Green Beansの商品検索広告は「ECの棚取り」

イオンネクストの藤田氏は、「Green Beans」におけるリテールメディアの主力商品を紹介。「トップページにあるバナー広告と、商品検索の広告が代表的な商品です。商品検索広告はメーカーに説明する際、『ECの棚取り』と説明しています」と話す。

データとEC広告を組み合わせて効果を最大化

スーパーなど、オフラインの店舗では、マヨネーズのコーナーや調味料のコーナーがあり、そこでメーカーがどれだけ棚を取れるかが勝負です。商品検索の場合、キーワードごとに棚があるとイメージしてください。これを『デジタルシェルフ』という言葉に置き換えて、メーカーにご案内しています(藤田氏)

デジタルシェルフに加え、顧客IDや購買データ、検索クエリなどを組み合わせて、広告配信を行っている。「新規購入から継続購入まで全てデータトラックできる」と藤田氏。

「効果が高そう」と杉原氏。藤田氏は商品検索広告の効果事例を紹介した。1ヶ月間の全体販売数に対する商品検索広告経由の商品販売率が、サプライヤーA社では10月に13%だったのが、12月には23%に増加。サプライヤーB社では28%から43%に増加した。

商品検索広告の効果事例

この結果について、藤田氏は「ECの棚取りを活用することで、商品を探している購入意欲の高いお客様に自社商品をリーチすることができます。商品検索広告を活用することが、ECでの販売数を押し上げる一つの成功方法かなと思っています」と話した。商品検索広告の活用のポイントとして「人気のキーワードは取り合いになりますが、ロングテールのキーワードをいかに設定できるかが重要です」とまとめた。

課題は広域営業とマーケティング部、メーカー内でリテールメディアの予算が分断されていること

リテールメディアはこれから伸びていく領域だ。それゆえ、感じている課題もあるだろう。杉原氏が投げかけた次のテーマは「現在の課題」だ。

イオンネクストの藤田氏は、「サプライヤーの理解度もまだまだこれから」と、小売業者とサプライヤーとの協業体制をどう作っていくかを課題として挙げた。特に、メーカー側の組織構造が課題だという。具体的には、藤田氏はメーカーの広域営業といわれる販促領域の営業担当者とやりとりをすることが多いという。

一方、メーカーにはマーケティング部や宣伝部が存在する。メーカーによって、リテールメディアに対し、広域営業とマーケティング部や宣伝部がどうタッグを組んでやっていくかに違いがあるという。「広域営業の販促予算と、マーケティング部の広告予算は分断されているので、それをリテールメディアでいかに統合して使っていくかは、以前から言われている課題ですよね」と杉原氏も頷く。この課題に対し、藤田氏は最近少し解が見えてきたと、次のように話す。

ポイントはデータです。購買データや検索のデータを、広域営業とマーケティング部の両方に提供しています。両組織をブリッジするソリューションとして、これらのデータを使い始めているメーカーさんが徐々に増えてきています。なので、私たちも積極的にデータを提供するようにしています(藤田氏)

「メーカーの広域営業と、マーケティング部が一堂に会してミーティングを行う機会はないのですかね?」という杉原氏の質問に対し、藤田氏は「少しずつ増えている印象はある」と答えた。広域営業の担当が、マーケティング部へ支援を依頼するかたちで座組ができているケースもあるという。

続いて、楽天グループの春山氏は、オフラインデータの取得の重要性を挙げた。

オフラインのデータをどのように効率的に取っていくかが課題です。お客様の購買体験をなるべく損なうことなく、シームレスにお客様が購買データを提供してくれるような仕組みをなるべく早く構築する必要があると感じています(春山氏)

また、杉原氏は「2023年はリテールメディアプラットフォームがどんどん立ち上がり、日本のリテールメディア元年だったと思っています。2024年は、徐々にメーカーの予算がついてくるフェーズ2に差し掛かったのではないか」と分析。日本よりもリテールメディアが進んでいるアメリカのウォルマートやターゲットの事例に触発されるかたちで、日本のメーカーも予算を使って実験を行う機運が高まっていると語った。

重要なのはお客様のお買い物体験をよくすること。広告は手段でしかない

最後のテーマは今後の展望についてだ。まず、イオンネクストの藤田氏は「オンラインで購入してオフラインでお届けする。ここまでを私たちはリテールメディア化したいと考えています」と、オンラインとオフラインの融合を挙げる。具体的には、配送時にスタッフが直接お客様に商品サンプル品を渡す取り組みを開始している。

「購入」から「お届け・商品体験」までをリテールメディア化

購買IDで誰に配ったかがわかるので、そのお客様がGreen Beans内でその商品を購入したか・しなかったか、オフラインからオンラインへの広告の効果をトラックすることができます。私たちはこのサービスを強化していきたいと考えています(藤田氏)

「ネットスーパーでもあり、自社配送も行っている。以前から、配送も含めてリテールメディアとおっしゃっていたので、そのこだわりを感じる」と杉原氏。

楽天グループの春山氏は、「現在、楽天市場はオンラインが主戦場ですが、楽天市場でマーケティングをしていただいた商品・ブランドが、楽天市場を含めたいろんな売り場、コンビニであったり、百貨店であったり、スーパーなどで売れ始めるような、そういったインパクトを与えることができるメディアに成長していきたい。また、IDをベースとして効果を可視化できる仕掛けをつくっていきたい」と語った。

楽天市場の役割の発展

最後に杉原氏から今後の意気込みを尋ねられ、藤田氏、春山氏ともに顧客体験の向上こそが重要だと語った。

業界的には、リテールメディアによって新しい広告収入が生まれる期待が感じられますが、広告は手段でしかありません。いかにお客様のお買い物体験をよくするかが重要なので、広告が邪魔にならないようにしていきたい(藤田氏)

我々も広告ビジネスを行っているつもりはありません。『Shopping is Entertainment!』が我々のスローガンで、楽天市場は店舗やメーカーの売り場であり、いろんな方々にショッピングを楽しんでいただく場。お客様の体験を損ねることなく、プロモーション活動ができる仕掛けをつくっていくかを常に考えています(春山氏)

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