花王では、2024年より「ヘアケア事業」の変革を開始している。ロングセラー商品の「エッセンシャル」のリブランディングや、同年に誕生した新ブランド「melt(メルト)」は、1,400円以上の高価格帯(ハイプレミアム)製品として市場を席巻する。
こうした変革のなか、同社では認知獲得を目的にPinterest(以下、ピンタレスト)広告に出稿したところ、購入意向が13倍、動画完全視聴単価がベンチマークの約半分といった成果を出した。
想定以上の効果を発揮した「ピンタレスト広告」の特徴と活用ポイントを、花王の事例から探る。
“アイデア発見”や“推し活”で愛用されている「ピンタレスト」
ピンタレストは2010年に米国で創業し、全世界で6億人のユーザーを持つビジュアル探索型プラットフォーム。2013年11月から日本でもサービスを開始し、国内利用者数は月間1280万人にのぼる(2025年第3四半期時点)。主な利用者層は、ミレニアル・Z世代だ。
インテリアやファッションをはじめ、ライフスタイルのアイデアを発見するための「インスピレーションメディア」として主に活用されている。それに加えて、近年では「推し活」での需要も増しており、特に日本では、推しのアイドルやアニメのピン(画像・動画)をキュレーションして、お気に入りの写真集のように楽しむ人も多いという。

そんなピンタレストでは、2014年に米国から広告事業を開始。日本では2022年6月から開始された。運用型だけでなく予約型もあり、多様なフォーマットでフルファネルの広告サービスを提供している。
ピンタレストの広告は、ビジュアルのインパクトに長けています。
また、ほかのSNSは「人とのつながり」や「おすすめ」を起点に幅広いコンテンツを閲覧するのに対し、ピンタレストのユーザーは、次にやりたいことや買いたい物の「アイデア探し」を起点に明確な意思を持ってコンテンツを探している点が特徴と言えます。つまり、ユーザーが広告に触れる際の意識が異なっているのです(ピンタレスト 成田氏)
ピンタレストでは、各ユーザーが求めているアイデアを提示する方針から、ユーザーが保存したピンを基準に最適化するアルゴリズムを採用しているという。さらに、あるユーザーが広告を保存すると、そのユーザーに似た興味関心を持つ別のユーザーに保存したピンがオーガニック表示される「アーンドインプレッション」もあり、広告効果を拡大させる仕組みが組み込まれている。
また、「ブランドセーフティ」や「ユーザーのポジティビティ」にも積極的に取り組んでいると成田氏は付け加える。
広告主が安心・安全に利用でき、ユーザーがポジティブな気持ちで閲覧できる環境を守るため、より厳格な広告ポリシーでサービスを提供しています。たとえば、Pinterestではダイエット広告を掲載することはできません。こうした取り組みによって、ネガティブなマインドにつながりかねないリスクを未然に防いでいます(ピンタレスト 成田氏)
ヘアケア商材は、予約型の「プレミアスポットライト」経由で購入意向13倍に
そうしたピンタレストの特徴を踏まえ、花王は予約型広告の「プレミアスポットライト」と運用型広告を活用することにした。予約型広告は一日一社限定で提供される商品でホームフィードと検索ページ画面において、モバイルデバイスの約50%の画面に表示される広告で、目立つ場所を独占して配信をすることで、認知拡大につなげやすい。
出稿期間は、2024年4月~6月。新生活が始まる時期は、ピンタレストではヘアスタイルなどのアイデアを求めるユーザーが多くいるという。

私自身がイチユーザーとしてピンタレストを活用していて、強制的に広告を見せられる印象が薄く、雑誌のページをめくるような感覚で自然と広告に接しやすい点もメリットだと感じたんです。
そこで、まずはピンタレストのコアユーザー層と、製品のターゲット層が一致するヘアケア商材から試してみることにしました。シャワーのように膨大な情報があるなかで、好きなものを選んで、集めて、迷いながらも最終的にご自身で選ぶという楽しみを体験していただけたらと(花王 板橋氏)
ビジュアルプラットフォームの特性に沿い、広告は文字情報を削ぎ落として視覚的に使用イメージが伝わりやすいクリエイティブに仕上げた。この15秒の動画を「ヘアスタイル」の検索画面に対して1か月強にわたって掲載したところ、次の高パフォーマンスを獲得した:
- プレミアムスポットライト経由の購入意向がベンチマーク対比で13倍
- 動画の完全視聴単価が、ベンチマークと比較して約半分(動画広告を最後まで視聴したユーザーが多かったことを示す)。
これはブランドリフト調査で測定された数値だ。好調を牽引した要因は、何だったのか。
当初の目的は「認知獲得」で、その数値が伸びているのは納得できるのですが、「購入意向」まで高まったのには驚きました。
さまざまなプラットフォームで広告を配信していますが、完全視聴率はそれほど高くありません。数秒でスキップされることが少なくないなか、ピンタレスト広告で完全視聴した方が多かったのは、「情報が役に立つ」「興味がある」と感じていただけたからだろうと。
広告も1つのコンテンツとして視聴されたことが「購入意向」につながったと考えています。ユーザーと広告コンテンツの相性が良かった証拠だと思います(花王 板橋氏)
ビオレUVは、「ターゲットとの好相性」でエンゲージメント数がベンチマーク対比3.4倍を獲得
花王では、日やけ止めブランド「ビオレUV」における広告施策でも、高いパフォーマンスを獲得している。国内では圧倒的な知名度を誇る「ビオレUV」だが、海外ではそれほど知られていない国もある。

そこで、世界的ボーイズグループ「Stray Kids(ストレイキッズ)」を起用した、ブランド初のグローバルキャンペーン「SUNLIGHT IS YOUR SPOTLIGHT.」(太陽こそが、あなたのスポットライト)を2025年4月より、15以上の国と地域で開始した。
当初はピンタレストの活用予定はなかったのですが、国内の担当社員が「ストレイキッズを起用するなら、推し活のプラットフォームであるピンタレストしかない」と言い切ったんです。その熱意でグローバルの担当者も説得し、活用にいたりました(花王 板橋氏)
アジアを中心に、プレミアスポットライトと運用型をかけ合わせて1か月強にわたって配信したところ、カルーセル広告においてベンチマーク対比で3.4倍のエンゲージメント数を達成したという。この成功の要因は何だったのか。
前提として、ピンタレストにおける「ストレイキッズ」のグローバルでの検索スコアや保存ピン数が非常に高いというデータがありました。そのうえで、「ストレイキッズ」の関連キーワードをターゲティングして、ストレイキッズに確実に興味がある人だけに配信しました(ピンタレスト 成田氏)
板橋氏は、エンゲージメント数に加えて「アドベリフィケーション」の観点でもピンタレストのメリットに触れた。
結果として、担当者の狙い通りの効果となりました。やはり「推し活パワー」はすごいのだなと。また、ヘアケア製品も含めてピンタレスト広告を活用して感じたのは「安全性の高さ」です。
広告配信の数値を専用のツールで計測したところ、日本ではブランドセーフティが97%、ビューアビリティが約30%、インシデント率が2%となりました。他SNSと比較して、安全性と透明性が非常に高いと認識しています(花王 板橋氏)
今回の結果を踏まえ、「ヘアケアや化粧品以外の製品カテゴリーでも、ピンタレストの活用可能性を探りたい」と板橋氏は考えを示した。ピンタレストでは、言語化しにくいビジュアル検索の強みを活かしながら、よりシームレスな購買体験の構築を強化していく方針だ。
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