プログラマティック配信――コンテンツマーケティングの未来?(前編)
「コンテンツ」と「プログラマティック取引」を結びつけて考えてみると、新しい世界が広がる。
コンテンツマーケティングには、大きな2つの課題「コンテンツ制作」「コンテンツ配信」がある。この記事は、その後者、つまり「作った良質なコンテンツをいかに良いターゲットに触れてもらうか」に関する解説だ。
コンテンツプロモーションは難しい。オーディエンスが多様化し、彼らにリーチするためのチャネルも増え続けているため、コンテンツマーケターの仕事は途方もなく大変なものになっている。
しかし、ありとあらゆるチャネルにわたり、リアルタイムで、まさに適切な人々に適切なタイミングでリーチする単一のソリューションがあるとしたらどうだろう。
そんなものなどありそうにないと思えるかもしれないが、実は、この選択肢はもう目前にある。それどころか、ある人々にとってはすでに存在している。
その選択肢こそ、「プログラマティック」だ。
このプログラマティック配信は、「コンテンツ」という観点からはまだ初期段階だ。しかし、プログラマティックを支える技術や方法論は、コンテンツマーケティングの世界、さらにはSEOにとって大きな可能性を秘めている。
プログラマティックとは(まず広告で理解)
複雑で利用しづらいように見えることの多いプログラマティックの世界や、関連する専門用語および略語に慣れていない人のために、少しだけ基本に立ち戻ってみよう。
「プログラマティック」とは、ソフトウェアやアルゴリズムを利用した広告の買い付けや配信について説明するために使われる用語だ。
(この記事はコンテンツマーケティングにおけるプログラマティック配信を解説する記事だが、ここはまず「プログラマティック広告配信」を解説していることに注意してほしい)
プログラマティックは現在、広告の世界に希望をもたらしている。扱いにくく非効率な人間的要素を排除できるからだ。プログラマティックによって広告主は、まさに適切な場所にいる適切な人々にリーチできるようになってきている。
以下の図はプログラマティック広告配信に関するものだが、ここから、今後数年で進むだろう普及の勢いが見て取れる。
プログラマティックの攻勢からは逃れられないのだから、その仕組みを明らかにしておくべきだという点には同意してもらえるだろう。
DSP・SSP・アドエクスチェンジ・RTBがわかれば、プログラマティックは大丈夫
プログラマティックとは、どういうものか。ごく簡単に言うと、次のようなシステムのことだ。
システムの一方には、いわゆるDSP(デマンドサイドプラットフォーム)と呼ばれるものがある。これは、すべての広告主が列をなして、どういった人々にリーチしたいかを共有する場所だ。「こういうオーディエンスに広告を表示できるなら、この値段でその枠に入札する」という情報を「マシン」に対して伝える。
システムのもう一方には、SSP(サプライサイドプラットフォーム)がある。これは、メディアやパブリッシャーなどが、どういった人に広告を表示できる枠を販売できるかのインベントリライブラリで、その情報を「マシン」に対して伝える。
ここまでは、とても簡単だ!
真ん中にはアドエクスチェンジと呼ばれるシステム(「マシン」)がある。パブリッシャーはここに提供可能なインプレッションをSSPを通じて登録し、広告主は購入したいインプレッションをDSPの技術を利用して選択する。この取引は通常、ターゲットを設定できるインターフェイスを使って行われる。人口統計から最近の購入行動や関心事、さらには購入意図まで、あらゆる要素に基づいてターゲティングを行い、その情報に基づいて広告枠を媒体するのだ。
その後の売買処理はきわめて迅速で、広告が表示されるページ(入札対象のページ)が読み込まれる瞬間に行われる。その一瞬(1秒未満だと言われる)に競売が行われ、最高金額で入札した広告主がその枠に広告を表示する権利を得る。
これがRTB(リアルタイム入札)と呼ばれているもので、当然ながら多くの人がプログラマティックや広告一般の未来と考えているものだ。僕たちが利用しているプラットフォームはCadreonと呼ばれるものだが、市場へのルートは他にもたくさんあり、クライアントとして直接取引したり、エージェンシーのソリューションを経由したりする。
直接取引だけどプログラマティックな「プログラマティックダイレクト」
さて、「SSP」「DSP」「アドエクスチェンジ」「RTB」がなぜマーケターにとって重要なのかについて話を進める前に、あと1つ、「アドバンストプログラマティック」(別名:プログラマティックダイレクト)として知られる、別のバージョンのプログラマティックがあることに触れておくほうがいいだろう。
大手の広告代理店は、一括購入で割引したり、プレミアムインベントリや需要のあるインベントリを確保したりするために、アドバンストプログラマティックを利用してインベントリを事前に大量購入する。その後、そうした「枠」を思いのままに使うことで、同じシステムを介して広告を展開し、オーディエンスターゲティングの機会を活用できる。
では、プログラマティックは広告のためのものか?
ここまで読んだ人は、僕が目的を忘れて、すっかり「広告」モードになってしまったと思っているだろう。しかし、まさにそれがポイントだ。
世間ではプログラマティック取引というと、広告に関するものだとみることが多いのだが、実際にはまったく別の見方ができるのだ。
確かに、これは広告を改革するものだ。ただし、これらの広告を単純に「インターネットに開いた穴」と考えれば、話をコンテンツへと持っていくことができる。
インターネットに開いた穴
あえてわかりきったことを言うと、広告クリエイティブは「コンテンツ」ではない。
広告というものは、最悪の場合は注目を無理やり集めようとするだけだし、良くてもブランドに直接結びつけようとか、直接的な反応を得る機会につなげようとすることに力点を置きすぎてしまう。
ではここで、これらのスペースを利用して素晴らしいレビューコンテンツを紹介した場合を想像してみよう。
たとえば、「どちらのMacBookを買うべきか?」という、The Wirecutterによる非常に優れたガイドのコンテンツがある。こうした記事をより多くの人に見てもらうために、(SEOだけでなく)広告を使うのは悪くない。
その際にプログラマティックを利用すると、「過去2週間以内にアップル製品を扱っている小売店舗を訪れたことがあり、アップルのサイトにもアクセスしたことのある人」に狙いを定めて、この記事への誘導を訴求できる。
別の例を挙げよう。「マクラーレン570S vs アウディ R8 V10 Plus vs ポルシェ911ターボS」というスーパーカーのバトルを扱った素晴らしい動画レビューがある。この動画は英国の著名な自動車メディアが作成したもので、購入を検討すべき最高のスポーツカーを扱っており、Audi R8に試乗したばかりの人が対象だ。
こちらも、プログラマティックを使えば最適な人にこのコンテンツを届けやすくなる。
機会は無限にある。
ネイティブ広告
「ネイティブ広告」については、コンテンツへの誘導をOutbrainやTaboolaのようなプラットフォームを通じて提示する、現時点では原始的なコンタクトポイントの自然な拡張だと言う人もいるかもしれない。
だがそれは、広告クリエイティブの配信のためにGoogleディスプレイネットワークを使用することと、リアルタイムプログラマティックの使用を比較するようなものだ。
前者はグーグルのパブリッシャーサイトだけに限定される「壁に囲まれた庭」であるのに対して、プログラマティックは、ウェブ上にあるほぼすべてのサイトにおよび、さらにテレビやラジオ、屋外にまで、実に魅力的なさまざまな領域にリーチできる(これらの領域がプログラマティックの世界にどう収まるのかは後述しよう)。
ネイティブ広告は、(従来、コンテンツの広告用と見られていたスペースを使って)僕たちの意識のなかにある機会に狙いを定めるのに役立つものだが、重要なのは、プログラマティックによるリーチのほうがどれだけ強力かを理解することだ。
この分野で注目を集めつつある非常に興味深い企業として、フロリダに拠点を置くTripleLiftがある。
提供されているモデルを利用すると、各ブランドはプログラマティック技術を使ってネイティブインベントリを購入でき、広告主はコンテンツエリア内にあるこれらの「壁に囲まれた庭」である枠に入っていける。このようなエリアは、広告とコンテンツの境界をさらに融合させようとしているコンテンツマーケターにとって一等地と言えるものだ。
しかし、興味深いことに、そしておそらくはこの技術が広告主にのみ販売されていて、コンテンツマーケター向けに販売されていないためだろうが、実際の例としては、魅力あるコンテンツではなく広告ベースのクリエイティブが表示されることが多い。
とはいえ、以下の例では、Diggのプラットフォームを通じて提示される記事がどのように見えるかがわかる。
他のチャネルを組み込む
従来のデジタル広告は、キーワードターゲティングをベースにしている(AdWordsなど)か、よりオーディエンス重視ではあっても単一のネットワークまたは小規模な「ネットワーク群」(GoogleディスプレイネットワークやFacebook Audience Networkなど)に限定されている。だが、最高のプログラマティックプラットフォームなら、もっとずっと広範にリーチできる。
優れたシステムを利用すると、たとえば次のような要素全体に及ぶ選択肢が得られる。
- グーグルのスタックにアクセスできるDoubleClick Bid Manager
- アマゾン
- FacebookやInstagramを含め、ウェブ全体にわたる動画ソリューションのTubeMogul
- AOL、マイクロソフトや米ヤフーの資産を含む(日本ではAOLプラットフォームズ)
- PubMaticやRubicon Projectなどの大手サイト向けプライベートマーケットプレイスで、Time Warner、Zoopla、The Timesなどへのアクセスを提供
- ラジオチャンネル
- 屋外インベントリ(デジタルビルボードなど)
- テレビ広告
デバイスの枠を越えたターゲティングのためにメディアの機会を結びつけることを専門とする仲介業者はたくさんある(DrawbridgeやTapadなどのように)。以下の画像は、こうしたエコシステムにおける企業を概観できるように並べたものであり、戦略のいかんにかかわらずその一環として調査しておかなければならないものだ。
英国内の鉄道運営会社共通で、チケット販売などさまざまな鉄道サービスを提供している組織のNational Rail Enquiries(NRE)でオンラインセールスマネージャーを務めるジョナサン・マコーリー=オリバー氏は、Marketing Weekの記事で、この市場包括的なアプローチの利点について見事にまとめている。
NREはプログラマティックを利用して、同社のウェブサイトが毎月獲得する数百万件のページインプレッションに対し、広告がターゲットオーディエンスにスムーズに配信されるようにしている。
マコーリー・オリバー氏は次のように説明している。
私がマーケターのところに行って、製品を購入する可能性の高い人にピンポイントでメッセージを届けられると言えば、それは大変価値がある。5秒間に800万人のユーザーにそれができれば、彼らはこの話に飛びつくだろう。この1対1の関係は、そうした技術の進歩によってもたらされたものだ。
これを、コンテンツ配信管理の中心的なツールとして考えてみてほしい。
この記事は、前後編の2回に分けてお届けする。プログラマティックを利用したコンテンツ配信の可能性について説明した今回に続いて、後編となる次回は、実際にどのような使い方が考えられるのかを見ていく。→後編を読む
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