SEOの成果未達、どう伝える? ステークホルダーを納得させるROI説明術(後編)
この記事は、前後編の2回に分けてお届けしている。
今回のホワイトボード・フライデーでは、「ステークホルダーにSEOの価値を伝える」という課題を対処するための戦術を探る。
ヴィンセント氏は「IMPACT」フレームワークを提唱した。
- Identify the business strategy (ビジネス戦略を明らかにする)
- Map SEO metrics to business KPIs (SEOの指標をビジネスのKPIにマッピングする)
- Present a forecast (realistic expectation) (予測[現実的な予想]を出す)
- Align with levels of certainty (確実性のレベルに合わせる)
- Create a narrative (ナラティブを生み出す)
- Tell the truth (真実を伝える)
前編では、「I:ビジネス戦略を明らかにする」と「M:SEOの指標をビジネスのKPIにマッピングする」について説明した。後編となる今回は、残る「PACT」について見ていこう。
SEOのROI説明フレームワーク「IMPACT」
P: 予測を出す

予測の難しさと重要性
予測は、SEOやマーケティング全般において厄介な問題になりやすいと認識している。私はさまざまな分野を手がけてきた「マーケティングジェネラリスト」だ。現在は戦略コンサルティング会社を経営しており、この問題に何度も直面している。
未来を予測するのは非常に難しい。ときには「確固たる、絶対確実な予測を出さなければならない」というプレッシャーを感じることもあるだろう。
しかし、SEOの担当部署やエージェンシーから予測を受け取ったステークホルダーの立場になって考えてみれば、それはあくまで「予測」であり、文字どおり、将来に関する現実的な予想にすぎないことは理解できるはずだ。
確実性のレベルに合わせた予測の提示
なお、予測するにはさまざまな方法がある。これについては詳しく掘り下げることもできるだろう。このテーマだけでホワイトボード・フライデーの動画を作る価値は十分にある。しかし、「状況次第」と答えるだけでは不十分だと私は考える。
この全体的な問題、つまり次のような問題について助言したい:
- 予測を出すにはどうすればよいか
- このROIがいつ達成されるのか聞かれた場合にどう答えるべきか
予測を出す場合は、確実性のレベルに合わせることが非常に有用だと私は思う。なぜなら、誰もが知っているように、私たちの仕事には変動要因があるからだ。
世界中のあらゆるものに変動要因が存在する。未来は誰にも予測できない。そのため、1つの予測だけでなく、複数の予測を示そう。具体的には次の2つもあわせて示すのだ:
- 最悪のシナリオの中で最良のもの
- 最良のシナリオ
この両方を示すことで、何が可能かについて有意義な議論をする機会が得られる。
「最悪のシナリオの中で最良のもの」と「最良のシナリオ」
私が予測を出すときに好んで用いるやり方は、この2つのシナリオを提示することだ。
最悪のシナリオの中で最良のもの: 達成可能なことが達成されると考える下限に近い水準である。すべてが順調に進めば、基本的に達成可能だと考える。
最良のシナリオ: あらゆることをして、驚くべき成果を出し、高水準の期待値にも達する場合である。
私が本当に興味深いと思うのは、その中間の境目の部分に目を向けることだ。たとえば、SEOの予測を立て、それに基づくと、次の結果が得られたと仮定する。
- 最悪のシナリオの中で最良の場合: SEOは3倍のROIを達成できる。
- 最良のシナリオ: ROIは6倍になる。
- 他のチャネル(例:クリック課金型広告): ROIは5倍になる。
この提示により、ビジネスとの間で非常に興味深い会話、あるいは交渉とも言える協議を行う余地が生まれる。この予測を示されたステークホルダーは、次のように考える可能性がある。
これは本当に興味深い。たしかに、最悪のシナリオの中ではあまり良くない。ROIが5倍にもなるクリック課金型広告にもっと資金を投じるべきかもしれない
ただし、これは「さらに量を追求でき、そのチャネルがまだ飽和状態になっていない」ことが前提だ。最良のシナリオは興味深い。最良の場合は、他のチャネルのパフォーマンスを上回る。
ここで、次のような議論になるだろう:
その最良のシナリオを実現するには、何をする必要があるのだろうか?
この場合、はるかに突っ込んだ議論ができるようになる。なぜなら、現実的に考えてこれを達成するには、追加のリソースが必要になるかもしれないからだ。実現するには、エンジニアリングチームの全面的なサポートと協力が必要になるだろう。
予測の目的
交渉や会話の余地もはるかに広がるし、こうした会話ではまだ、誰かに責任を問われるとは限らない。しかし、予測について1つ言えることは、後で振り返って実際の結果と比較できなければならないということだ。
これは非常に興味深い作業だ。実際にやってみると少しぞっとするかもしれないし、設定したKPIや指標に達しない場合はどうなるかについては後で説明する。しかし、それこそが予測の目的なのだ。
意思決定のための情報を得るだけでなく、後でパフォーマンスを振り返るための有益なツールでもあるべきである。
SEOのROI説明フレームワーク「IMPACT」
A&C: 確実性のレベルに合わせて、ナラティブを生み出す
これがA(Align with levels of certainty)である。たしかに、確実性のレベルとよく整合性が取れるし、C(Create a narrative)のナラティブも生み出すと思う。ナラティブについては少し例を紹介した。
だが、ステークホルダーがSEOやマーケティングに詳しくない場合、君はその分野の専門家として呼ばれたわけだ。相手は検索チャネルの専門家ではない。何が起こっているかを説明するには、いくらか大変な作業が必要になる。
くり返すが、「状況次第」という答えは使えない。なぜなら、状況が決まる要因「X」「Y」「Z」があるはずだからだ。その原因は、直面する可能性のあるシナリオであり、競合他社にも依存する。私たちは孤立して存在しているわけではない。常に状況に応じた要因が絡んでいる。製品にも依存するし、これらの機能を今後数年のうちにリリースする予定があるかにも依存する。
したがって、人々を巻き込み、合理的な予想と整合性を持たせるには、そうしたナラティブを構築することが非常に重要となる。なぜなら、予測は未来に関する合理的な予想であるべきだからだ。
SEOのROI説明フレームワーク「IMPACT」
T: 真実を伝える
最後のピースは、真実を伝えることだと私は考える。
ステークホルダーから、「このROIはいつ達成されるのか」と言われるのは怖い。くり返すが、そうした質問に対しては、合理的な回答を用意しておくべきだ。しかし、ROIを達成できていない場合、KPIを達成できていない場合はどうなるだろうか?
砂の中に頭を突っ込んで、「これは誰にも言わずにおいて、誰にも批判されないことを祈るばかりだ」と言いたくなる。しかし、私がキャリアを通して学んだことだが、むしろ自信を持って適切な説明をするほうが、ステークホルダーからの信頼を高めることになる(その説明については後で取り上げる)。
私は多くの投資マネージャーと仕事をしているが、誰もが人間であり、物事が常に計画どおりにいくとは限らないことを理解している。こうした人たちが本当に知りたいのは、「なぜ計画どおりにいかなかったのか」ということである。

未達KPIを分析する際の質問
KPIを達成できない場合は、いくつかの質問とそれに対する回答を用意することで、「問題を掘り下げて解明しようと努めたこと」を示せる。KPIを達成できない場合は、次のように具体的な詳細まで掘り下げれば、非常に役立つ。
- どのKPIを達成できなかったのか?
- 達成できなかった理由は何だと思うか?
- どの程度達成できなかったのか?
原因は「内部要因」と「外部要因」のどちらにあると考えているだろうか。
内部要因の例
たとえば、内部での実務上の問題だと考えているだろうか。自分たちにとって合理的あるいは現実的なKPIを設定したが、内部のX、Y、Zの問題が原因で達成できなかったのか。
私も過去にKPIを達成できなかったことがある。それは率直に言って、私たちが制作していた一部の資料が不十分で、オーディエンスに刺さらなかったからだ。
そうした「不達成の原因」がわかれば、解決策が見えてくるかもしれない。
外部要因の例
外部要因は、競合他社のこともある。このKPIを設定した時点では、市場でこの機能やこのレベルのサービスを提供する企業は他にいない場合もある。だがその後、競合する3社が参入してきて、自分は完全に打ち負かされてしまった。このような状況は、非常に興味深い分析の対象になる。
未達の期間と範囲の確認
また、KPIを達成していないのは、短期的に見てもそうなのだろうか。これは、たとえば「今四半期に達成できなかったKPI」なのか、「長期的な傾向の一部」なのか。なぜなら、それを明らかにすることで、実際にここで何が問題なのかを分析できるようになるからだ。
私の経験では、次のようなことが多い(必ずしもそうとは限らないし、状況にもよるが):
四半期の場合は、内部での実務上の問題など、より直接的な要因であることが多い。
長期的な傾向の場合は、外部市場の長期的な変化を示していることが多い。ここでも、状況を理解することで問題を修正でき、より正確な未来予測を立てられる。
最後に、KPIを達成していないのは1つだけか。これは非常に興味深い質問ともなる。なぜなら、これが「単発的な事象」なのか「長期的な傾向」なのか、「具体的に何を修正する必要があるのか」といった全般的な問題に関わるからだ。
具体的な問題点の特定
たとえば、コンバージョンが足りなかった場合、次のように考える:
適切な数のリードを確保しているか?
パイプラインには適切な数の取引があるか?
どちらもYESの場合、問題はコンバージョン率だろう。
そうではなく、パイプラインにあるリードが少なく、さらにそれらがコンバージョンにつながっていないのならば、集客の問題なのか、または、より広い市場や外部の問題が関連しているかもしれない。
だが、推測してはいけない。実際に詳しく調べる必要がある。
診断なくして解決策なし
先ほども述べたように、外部のステークホルダーは、物事がうまくいかないことを受け入れてくれる。
彼らが本当に知りたがっているのは「それに対して君が何をしようとしているか」だ。問題を本当に理解しなければ、「何をするべきか」も分からない。診断なくして解決策は見つからない。
うまくいっていない状況を診断せずに対策を進めるのは、言ってみれば、「医師が患者を診察室に呼び入れて診察することもせずに、抗生物質を処方する」ようなものだ。
これで、「ROIはいつ達成されるのか」という恐ろしい質問に対処する準備が、ほんの少しでもできるようになることを願う。
情報を開示することの重要性
「ROIはいつ達成されるのか」という質問は、ときに少し理不尽に感じることもあるし、すべての答えが出せるようなものでもない。
では、どうすればいいのだろうか。君が得られるだけの情報を提供しよう。
たとえば、情報に不足している部分がある場合は、そのことを率直に認めよう。そうすれば、その情報を見つける手助けをしてくれるかもしれないからだ。
私は以前、財務部門のところに行って、特定のチャネルに投資する根拠を示すために、ある種の予測を立てなければならない状況になった。そのとき私は、「ここまでは調べてわかったが、これらの情報が足りない」と伝えた。
すると、そのときのCFO(最高財務責任者)は、次のように言ってくれた:
わかった、いいね。これは手伝うよ。一緒に見て、やってみよう
正直なところ、大きな信頼が得られたと思うし、手伝ってもらったことで仕事もはるかにやりやすくなった。
以上、見てくれてどうもありがとう。ベサン・ヴィンセントがお届けした。Open Velocityの詳細や事業内容について知りたい人は、openvelocity.comを見てほしい。
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