デジタルマーケターのための顧客体験入門(全3回)

「データ以上、企画未満」にご用心! 顧客データに基づいて企画を作るには

顧客のデータをきちんと集めても、そのまま企画ができるわけでもありません。『顧客体験マーケティング』の著者、芹澤連氏が、理想的な顧客体験を実現するための企画を生み出すための視点を解説します。(第3回・最終回)

前回はデータの正しい捉え方を解説しましたが、顧客のデータをきちんと集めても、そのまま企画ができるわけでもありません。『顧客体験マーケティング』の著者、芹澤 連氏が、理想的な顧客体験を実現するための企画を、きちんと実際の顧客から生み出すための視点を解説します。(第3回・最終回)

不十分な顧客データは、アイデアの飛躍なくして企画にならない

企画を作るためには、まずはさまざまなデータを集めることから始めると思います。しかし、データをどれだけ地道に調べても、それが企画書になる際には、外部からの要求や事情がデータとは関係なく絡んできて、結果的にあまりデータとは関係のない企画書になってしまった、という経験はないでしょうか。筆者もさまざまなプロジェクトを経験していますが、データがそのまま企画になるような、キレイなまとまり方をするケースは少ないように思います。

データを地道に調べても、データとあまり関係のない企画書ができてしまう……

今回は、そもそもどうしてデータと企画の間の断絶が起こるのか、断絶しないためにはどうすればいいのかについて解説したいと思います。

まず、すでに第1回第2回で述べたように、正しく成果や企画につながりうる顧客理解を行っていなければ、企画にまとめる際にアイデアによる飛躍が求められる幅が大きくなります。はじめから企画や施策の出口を意識して顧客を理解していれば、データと企画の間の断絶は少なくなります。

あなたが作っている企画が、横から差し込まれる意見でひっくり返されることを防ぎたいのであれば、まずは自分がどのように顧客と向き合うのかを見直すことが肝心です。

「データ以上、企画未満」は魔の領域

では、企画を作るにあたってデータを集めたとします。皆さんはデータが集まった後、企画を作るためにまず何をしているでしょうか。たとえば、会議やワークショップなどを行って、アイデアを出して企画をまとめようと議論をする、という過程を踏むことが多いと思います。

このタイミングを筆者は「データ以上、企画未満」の領域と呼んでいます。データと企画が連続しなくなるのは、この領域に問題があるケースがほとんどです。データを集めるまではデータドリブンでも、特に日本では十中八九、このタイミングの前後で“声の大きな人”ドリブンや“先に言った人”ドリブンに転じます。

なぜこんなことが起こるのでしょうか。いくらデータが進化しても、データから次の戦略や施策を生み出す「つなぎの仕組み」がないままだからです。その結果、「データ以上、企画未満」の領域がデータとは無関係に埋められて、属人的なアイデアで次の戦略や施策が決まります。

アイデアが悪いという話ではありません。私の問題意識は、データからどれだけ良いアイデアを生み出せるかは個人の力量次第になってしまう、という部分にあります。今は色々なデータが手に入ります。コンピューターも進化しました。しかしデータや計算機は「解くべき問題」を教えてくれません。顧客体験がどうあるべきかについては、それを提供する側の人間が考える必要があります。

「だからこそ関係者全員が実在の顧客と向き合って、理解を深めるべきだ」というのも正論で、まったくその通りです。しかし向き合う姿勢や時間があっても、全員が全員気づきを得られるわけではありませんし、良いアイデアを導き出せるわけでもありません。

つまり、「データ以上、企画未満」の領域の問題を解決することが、きちんとデータに基づいた企画を作る上で重要となるわけです。

「データ以上、企画未満」を埋める「アクセプターモデル」

今まさに企画書を作ろうとしているマーケターの皆さんにとって、「データ以上、企画未満」を埋めるためには、きちんとデータがアウトプットにつながる道筋が必要です。顧客を理解し、顧客が商品・サービスを選ぶという「モノが売れる仕組み」そのものを、どのように考えて組み立てればいいのでしょうか。

「モノが売れる仕組み」とは、言い換えればマーケティングそのものです。マーケティングという世界をひとまとめに論じることはもちろん容易ではありませんが、著者らは合わせて100以上のブランド、5,000人以上の顧客体験を分析した結果、ブランドが顧客に受け入れられるプロセスにはある一定の共通構造があることを突き止めました。これを「アクセプターモデル」と呼んでいます。

このアクセプターモデルを使うと、ブランドを価値として成立させた変化を顧客体験から抽出して、より多くの顧客に向けた施策として再現することができます。たとえば次のCM絵コンテは、あるブランドの購買意欲を高めることをゴールに、ファンの体験をデータドリブンで再構築したものです。

「アクセプターモデル」に基づいてデータドリブンで作成したCM絵コンテ

アクセプターモデルについては、共著者の村山がマンガで説明した記事もあるので参考にしてみてください。

参考:アフターコロナで変化した顧客体験を4ステップで分析「売れる」を仕組み化する【マンガで解説】https://webtan.impress.co.jp/e/2020/09/09/37370

変化の時代を乗り切るための「顧客体験マーケティング」

今回の連載を通して、顧客理解のための視点や、顧客理解から企画(顧客体験)を生み出すためのポイントについて解説しました。特に第3回では、「データ以上、アイデア未満」の領域を埋めることがいかに難しいか、またこの領域をきちんと埋めて「モノが売れる仕組み」を作ることの重要性をお話ししました。

「モノが売れる仕組み」、つまりマーケティング計画全体を組み立てることは容易ではありませんが、それをなるべく仕組みに落とし込み、再現性の高い方法で作れるようにしたマニュアルが、筆者が執筆した『顧客体験マーケティング』という書籍です。

日本では分析や企画といった「考えること」に大きなコストを投下する習慣がありません。目に見えて成果につながるアウトプットを直接的に生み出さない(と信じられている)からです。しかし顧客について「考えること」はもはや付帯業務ではなく、ビジネスの成果を生み出す根幹です。

顧客体験はすでに多くの企業でミッションの核として扱われるようになりました。また、顧客1人1人に合わせた体験を提供するパーソナライゼーションが進化していけば、「広告かコンテンツか」「製品かサービスか」といった区分は意味をなさなくなります。代わりにブランドとして「何を語るか」というストーリーの質、「どんな体験をしてもらうか」というサービスの深さがより一層重要になり、顧客体験を考えること自体が売上や顧客獲得といった成果により強く結びついていくと予想できます。

顧客について「考えること」に出口を用意して、アウトプットを生み出す道筋を与える――このことは顧客体験がビジネスの中心になっていくにつれて、より大きな意味を持ちます。

現在は変化の時代です。この先データ×AIの動きが進展すれば、生活の中心はどんどんデジタルへ移っていくでしょう。そのような世界になったとき、ビジネスの成功則はもはや我々の頭の中や過去事例にはなく、デジタル中心の世界の価値を当たり前に享受して生きている生活者の体験から学ぶしかありません。

そうした局面で、本書が解説する『顧客体験マーケティング』は大きな武器になるでしょう。つまりブランドが価値となる条件を実際の顧客の体験から学び、その理解を基に「ブランドが語るべきストーリー」や「提供すべき体験」を生み出し、施策や商品コンセプト、クリエイティブなどに落とし込むスキルです。マーケターに限らずすべてのビジネスパーソンに、『顧客体験マーケティング』を参考にしていただければ幸いです。

『顧客体験マーケティング 顧客の変化を読み解いて「売れる」を再現する(Web担選書)』が8月24日発売

書籍の詳細はこちら

本書は、顧客体験をデータで捉え、顧客理解から新たな戦略や施策、製品企画、クリエイティブやコンテンツを作り出す実践マニュアルです。100以上のブランド、5,000以上の顧客体験から導き出された「ブランドが価値として成立するプロセス」に基づいて、以下の内容を解説しています。

1人の顧客を深く理解して企画やアイデアを生み出す方法
  • 顧客体験を観察してデータとして捉える「ナラティブ分析」
  • マーケティングにおけるナラティブの実践と対話技術
  • ブランドが価値として成立する条件を見つける分析手法
顧客体験を軸とした施策の作り方
  • 顧客のナラティブから、ブランドが語るべきストーリーを開発する方法
  • ブランドを受け入れてくれるターゲット層の見つけ方
  • ブランドの新しい利用機会を創出する仕組み
  • データドリブンの施策開発事例(動画CM、新製品コンセプト、体験型イベント)
体験価値の算定
  • 顧客を奪いやすい競合の見つけ方と奪うためのストーリー開発
  • 売りたいモノありきで、ブランドのストーリーを最適化する方法
  • 簡単な分析で施策の体験価値を算定する方法
  • サブターゲットごとの体験を最適化する「顧客体験ポートフォリオ」
〈こんな人(企業)におすすめです〉
  • 顧客理解の必要性を感じているが、どう始めていいのか困っている人
  • 顧客中心のマーケティングが必要だと感じているが、実践手順がつかめていない人
  • 「顧客の声を聞いているのに、売上や成果に結びつかない」と悩んでいる人
  • データに基づく科学的な施策作りを行いたいと考えている人
  • 実務で戦略立案や施策企画、製品開発に取り組んでいる人
     
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