デジタルマーケターのための顧客体験入門(全3回)

その顧客理解で施策を作れていますか? 「売れる」を再現できるポイントとは

マーケターにとって「顧客理解」や「顧客体験」の概念はあまりにも重要ですが、では本当に実務に活かせているでしょうか? 『顧客体験マーケティング』の著者、芹澤連氏が短期集中で解説する、実践のヒント。(第1回)
よろしければこちらもご覧ください

マーケターにとって「顧客理解」や「顧客体験」が重要であることは明白です。顧客理解を深めるために、カスタマージャーニーやペルソナを描いてみたという人もいるでしょう。しかし、その結果を本当にマーケティング施策や営業戦略に活かせているでしょうか? 『顧客体験マーケティング』の著者、芹澤連氏が短期集中で解説する、実践のヒント。(第1回)

顧客理解の大切さはわかるけれど……?

「顧客理解」がビジネスのアイデアや企画に結びついていない?

現在のマーケティング業界には、「顧客」や「カスタマー」が付く言葉があふれています。顧客理解の重要性を説いた書籍やコンテンツもたくさんあります。しかし、「概念はわかるけど、実務でどう実践すればいいのかわからない」という経験はないでしょうか。

一方で、今はいろいろな顧客データが手に入ります。アクセスデータや購買データ、SNSのデータ、アンケート結果――。顧客をよく知りたいだけなら、どのデータを使ってみてもそれなりに顧客理解は深められるでしょう。

しかし、顧客理解をするだけではビジネスには役立ちません。顧客理解をした後、アイデアや企画を生み出して初めて価値が生まれます。また、顧客理解というタスク自体にもさまざまな誤解や落とし穴が存在します。

マーケターは顧客理解をどう捉えればいいのでしょうか。本記事では、顧客理解を実務に役立てるポイントを解説します。

顧客の「現状」ではなく「変化」を理解する

まず、顧客理解をするうえで大事なことは、「顧客の現状」ではなく「顧客の変化」を理解することです。

たとえば、顧客理解の一環として、アンケートやインタビューをすることがあります。しかし、真摯に顧客の声に耳を傾けようとするほど

  • 顧客は「今」、何と言っているのか
  • 顧客は「今」、何を感じているのか

という「今(現状)」に目が行きがちです。顧客の声を聞くことは大切ですが、声を聞くだけでは、顧客理解とは言えません。

その理由の前に、「そもそもなぜ、顧客理解をする必要があるのか?」を一緒に考えてみましょう。

顧客理解をマーケティング現場で実施する理由

マーケティング現場で、「なぜ顧客理解が必要とされているのか?」それは「顧客が変化」しているからです。

大量生産、大量消費の時代は、皆が同じような製品を望み、同じメッセージに対して同じような反応を示していました。その時代には、顧客理解の重要性はあまり高くありません。

しかし現在あらゆる分野でデータとAIが活用され、社会の仕組みや産業構造は転換期を迎えています。また新型コロナウイルスが今までの生活様式や働き方、コミュニケーションのあり方を激変させ、DX(デジタルトランスフォーメーション)をより一層加速させています。

社会や生活に変化が起これば、商品を選ぶ基準や課題解決の優先順位も変わります。その結果マーケティングに対する反応や購買行動が変わり、前年を踏襲するやり方では、通用しなくなります。そのような局面で「顧客の今」を見ていても、変化に対応する手立ては見つかりません。

だからこそ顧客理解が必要であり、「顧客の現状」ではなく「顧客の変化」を知る必要があるのです。

「一時的な納得感」をもたらす、ペルソナの功罪

「顧客の変化」を知るには、実在の顧客の体験を追う必要があります。

顧客を見える化する代表的なツールに、ペルソナがあります。「ワークショップなどでメンバーと意見を交わしながら、ターゲット顧客のペルソナを作り上げる」――アイデア発想本などでよく紹介されている方法ですが、注意したいのは、現実にいない人のペルソナをいくら作りこんでも、成果につながるような新しい発見はほとんど得られない、ということです。

顧客データなしでもワークショップを行うと「新しい発見があったような感じ」は得られます。しかしそれは、元々自分が思っていた事を整理してアウトプットする機会が得られ、それがポストイットや相関図で見える化されたことにより、一時的な納得感が得られただけなので、思いもよらぬ新しい発見がないのは当たり前です。ブランドが顧客に受け入れられる過程で、実際に何が起こっているのかという情報はそこにはありません。

また、実在の顧客に基づいていても、顧客像だけが豊かに記述されていて、どうすれば購買者になるのか、書かれていないケースも見かけます。たとえば、次のプロファイルを見てください。

02_collexia01_01.png

首都圏在住の30代男性で広告代理店に勤務。SNSをよく見る。購買前にいろんなサイトで比較する。一人暮らし。趣味は旅行で、週末のドライブが好き。高校と大学で野球をしていて、社会人草野球チームに入ろうか検討中。現在彼女募集中で……

SNSをよく見ていて購買前に比較するなど“顧客体験風”な情報もありますが、購買との因果関係に言及していないので、どんな体験を提供したら買ってもらえるのか見えてきません。どれだけ顧客を理解しても、顧客の認識や行動を変えることができなければビジネスの成果にはつながりません。

「ブランドが価値に変わった理由」こそが最も役立つ顧客理解

結局、顧客理解を施策に落とし込むためには、「顧客像」ではなく顧客にとってブランドが価値になる「理由」や「条件」が必要になるということです。顧客を理解しても、戦略や施策が変わらなければ、成果につながらないからです。

変化の視点をもって顧客を理解して、ビジネスの要件に変換する――これが顧客理解の本質です

より正確に言えば、成果を生み出すには、「顧客がどう変化したのか、なぜ変化が起こったのか」という顧客の体験を理解して、「戦略や施策をどう変えればよいのか」というビジネス側の変化を生み出すことが必要ということです。

さて、顧客体験を見える化するためにカスタマージャーニーを描いてみた、という方もいると思います。確かに、カスタマージャーニーは顧客体験を理解するには優れたツールです。しかし、カスタマージャーニーは戦略や施策に落とし込むためのツールではありません。カスタマージャーニーを描くと「顧客理解」と「戦略立案」ができると、混同している場合も散見されますが、これは間違いです。

ブランドが受け入れられるプロセスと、価値成立の条件を捉える

たとえば、「ブランドは以前から知っているものの購入していなかった顧客が、新規に購入した」という状況を想定してください。ブランド自体に変化がないにもかかわらず、「今まで買わなかった人が買う」という状況は、顧客側に何らかの「変化」があったからです。

したがってブランドが購買されたとき、顧客の生活にどのような「変化」があったのかを理解できるカスタマージャーニーが必要になります。

どのような変化があったときに「欲しい」に変わるのか。ファンになるのか。競合ブランドからスイッチするのか。このような「何がどう変わったから購買したのか」がわかれば、「購買してもらうためには何をどう変えるべきか」は逆算できます。

筆者が執筆した書籍『顧客体験マーケティング』では、ナラティブ分析という手法を使って、カスタマージャーニーにおける「変化のルールやパターン」を分析する方法を紹介しています。大まかには、以下のような手順で分析します。

  1. ブランドの何が価値になったのか
    実際に顧客に受け入れられた価値は何だったのか。ブランドのどんな側面が顧客のどんな課題感とマッチしたのか。「ブランドの便益」と「顧客の課題」をセットにして捉える

  2. 顧客の課題感はどこから来たのか
    その課題は、顧客の生活の中で、どんな出来事がきっかけとなって生まれたのか。今までのどんな当たり前が当たり前ではなくなったときに生まれたのかを探る

  3. 顧客の理想に近づく生活変化が得られたか
    ブランドを購買して課題が解決されることで、顧客の生活がどう変わったのか。顧客が自身の生活にどんな理想や規範(べき論)を持っていて、購買後の生活変化がどれだけそれに近づくことができたのかを探る

以上のような順序で、「顧客体験における変化」と「ブランドが価値に変わった理由」を逐次的に紐解いていきます。ブランドを価値として成立させた変化を顧客体験から抽出して、より多くの顧客に向けた施策として再現すれば、ブランドが価値に変わる体験(施策)を狙って作ることができるわけです。本書ではこれ以外にも、顧客理解を成果につなげるための実践スキルを解説しています。

次回の第2回は、こうした顧客理解を具体的な「企画」につなげるための視点を解説します。

『顧客体験マーケティング 顧客の変化を読み解いて「売れる」を再現する(Web担選書)』が8月24日発売

書籍の詳細はこちら

本書は、顧客体験をデータで捉え、顧客理解から新たな戦略や施策、製品企画、クリエイティブやコンテンツを作り出す実践マニュアルです。100以上のブランド、5,000以上の顧客体験から導き出された「ブランドが価値として成立するプロセス」に基づいて、以下の内容を解説しています。

1人の顧客を深く理解して企画やアイデアを生み出す方法
  • 顧客体験を観察してデータとして捉える「ナラティブ分析」
  • マーケティングにおけるナラティブの実践と対話技術
  • ブランドが価値として成立する条件を見つける分析手法
顧客体験を軸とした施策の作り方
  • 顧客のナラティブから、ブランドが語るべきストーリーを開発する方法
  • ブランドを受け入れてくれるターゲット層の見つけ方
  • ブランドの新しい利用機会を創出する仕組み
  • データドリブンの施策開発事例(動画CM、新製品コンセプト、体験型イベント)
体験価値の算定
  • 顧客を奪いやすい競合の見つけ方と奪うためのストーリー開発
  • 売りたいモノありきで、ブランドのストーリーを最適化する方法
  • 簡単な分析で施策の体験価値を算定する方法
  • サブターゲットごとの体験を最適化する「顧客体験ポートフォリオ」
〈こんな人(企業)におすすめです〉
  • 顧客理解の必要性を感じているが、どう始めていいのか困っている人
  • 顧客中心のマーケティングが必要だと感じているが、実践手順がつかめていない人
  • 「顧客の声を聞いているのに、売上や成果に結びつかない」と悩んでいる人
  • データに基づく科学的な施策作りを行いたいと考えている人
  • 実務で戦略立案や施策企画、製品開発に取り組んでいる人
     
この記事が役に立ったらシェア!
よろしければこちらもご覧ください
メルマガの登録はこちら Web担当者に役立つ情報をサクッとゲット!
メルマガの登録はこちら Web担当者に役立つ情報をサクッとゲット!

Web業界の転職情報

もっと見る
Sponsored by

人気記事トップ10(過去7日間)

今日の用語

GRP
テレビCMにおいて、広告出稿回数ごとの視聴率を足した数値。 放送局が定めた ...→用語集へ

連載/特集コーナーから探す

インフォメーション

RSSフィード


Web担を応援して支えてくださっている企業さま [各サービス/製品の紹介はこちらから]