インタビュー

上から目線のマーケティングはもう古い! 企業と顧客が共創する「ナラティブ」が注目される理由

企業コミュニケーションの新たなキーワードとして注目される「ナラティブ」という概念。PRストラテジストの本田 哲也氏に、その概念および、マーケティングにおける価値や活用についてうかがいました。
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「ナラティブ」という言葉を聞いたことありますか。医療や教育現場では「物語」や「語り」とも訳され、活用されてきましたが、近年になってビジネス界隈でも注目されるようになりました。そうしたなか注目を集めている書籍が『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』です。

PRストラテジストの本田 哲也 氏が執筆し、多くの企業PR・マーケターの共感を呼んでいます。なぜ「ナラティブ」が今、注目されるのか。また、どのように活用されるのか。Web担当者Forum編集長の四谷志穂が聞きました。

共体験の価値が高まり、企業がその一員となる時代に

四谷: 2020年以降、コロナ禍になってから「ナラティブ」という言葉をよく聞くようになったと感じます。なぜ注目されるようになったのか、きっかけや背景についてどのようにお考えですか。

本田: 実はコロナ禍前の2018年頃から、じわじわと注目され始めていたんです。背景としてはSNSで人々が容易につながるようになったこと、そして、SDGs、ESGのように社会的な価値や意義にビジネス界全体で興味関心を持つようになったことがあります。混沌とした社会で「どうあるべきか」「どう生きるべきか」といった話がネットを通じてなされるようになり、価値観が合う人とのネット上でのコミュニケーションが密になる。すると、企業からの上意下達の発信ではなくフラットな関係になり、むしろ生活者の方がイニシアチブを持つ状態になってきます。

それをコロナ禍が後押しした気配はあります。ソーシャルディスタンスが求められ、外出できない状況で、価値観が合う人同士でのコミュニケーションがいっそう進みました。分断などの悪い面もありつつ、あえてポジティブ面だけ見れば、共通の価値観を持つ人が同じ体験をし、物事の裏側や本性まで見えるようになる中で、企業も真摯に人々の語りに耳を傾け、自ら輪の中に入って語り始めたということなのだと思います。

株式会社本田事務所 本田哲也氏

ナラティブとストーリーの違いとは?

四谷: 企業コミュニケーションにおける“物語”には、「ストーリー」という言い方もあります。「ナラティブ」との違いはどこにあるのでしょうか。

本田: 関係性で言えば、さまざまなストーリーの集合体がナラティブで、ナラティブの方が上位概念です。あえて比較すると、大きく3点において違いがあると考えています。

1つ目は「演者の違い」です。ストーリーは企業やブランドが主役で、「自分たちがいかに成功したか」などの美しい物語に仕上げられますが、ナラティブは生活者が主役で、その一人ひとりの誰もが自分の物語として語れるものです。

そして2つ目は「時間の違い」です。ストーリーには起承転結があって、必ず“終わり”がありますが、ナラティブは過去の話から、現在進行形でずっと続いて未来まで含まれます。

最後の3つ目が「舞台の違い」です。ストーリーの舞台はその企業が属する業界や会社内であることが多いですが、ナラティブの舞台は社会全体になります。言い換えれば、ストーリーが「会社から一方通行」であるのに対して、「社会で共有されるもの」がナラティブといえるでしょう。

ナラティブとストーリーの相違点

共感できるナラティブを軸にしたステークホルダーとの関係性づくり

四谷: 「ナラティブ」を企業コミュニケーションに活用するにあたり、マーケティングやPRといった観点から、どのようにアプローチしていけばよいのでしょうか。

本田: まずは「マーケティング」と「PR」の概念を簡単に整理して考えてみましょう。

PRとは「パブリックリレーションズ」のことで「世の中とどう関係性を作るか」が重要なテーマです。世の中にはさまざまな人がいて、さまざまな価値観や生き方がある。それを踏まえて、自社と接点がある方々と「ステークホルダー」として関係を結び、それを上手く継続することで企業活動がうまくいくという発想です。

一方、マーケティングとは、ブランドやモノを売るための企業活動そのもので、PRと同じレイヤーでは語れないのですが、ナラティブというPR的観点を取り入れることで、マーケティングにおける顧客とのコミュニケーションがうまくいくと考えられるでしょう。

四谷: なるほど。

本田: たとえば、メディアというステークホルダーに対し「メディアリレーション」というPRの活動があります。この時に重要なのは、「メディアとの関係性をつくること」です。PRの情報がメディアに価値があるなら、掲載・露出が増えてPR側のメリットとなり、メディアの存在価値も高められます。双方にとってプラスになるわけです。

一方マーケティングにおける広告は、費用を払ってメディアの場を借りることなので、メディア価値への貢献度など気にする必要はないかもしれません。しかし、やっぱりメディアには、メディアの読者にとって価値があり、共感性がある方が効果も高いはずなんです。

四谷: マーケティングにおいても、「ナラティブ」であることが効果を発揮するということなんですね。確かに、メディアへの価値を考えず、自社都合で強くプッシュされていては、読者も困りますもんね。

本田: ナラティブの定義として「共創的」であるということを意識することが大切です。最強なのは、「みんなでステキな物語を創り上げる」という状態です。ステキなナラティブがあれば、メディアも、パートナーや顧客、ユーザーも、誰でも参加したくなるわけですよ。そういう物語は、決して企業だけでは創れないし、当然メディアだけ、ユーザーだけでも創れないものです。ただモノをつくるだけ、消費するだけというのが、共感できるナラティブがあれば、誰でも話したくなってきてしまうんですよね。

だから、予算を持ちナラティブであろうとするマーケターはメディアにとって最強ですね。逆に自社都合でプッシュばかりしているPRなんて言語道断(笑)。たとえ情報に共感できるものがあっても押し売りされれば、人はあっという間に気持ち悪くなるものですから、情報としての価値も下がります。費用を払わない分、悪質かもしれません。いずれにしても共感できるナラティブがあり、関係性をつくるというマインドが、これからのPRはもちろんマーケターにも必要になっていると思います。

行き詰まる従来型マーケティングと、躍進するナラティブ企業

四谷: 冒頭で、世の中で「ナラティブ」が注目される背景について伺いましたが、PRはもとより、マーケティングにおいても「ナラティブ」の価値が高まっている理由をどのように思われますか。

本田: 大きな流れとしては、誰もが「既存のマーケティングの限界」を感じていることがあるように思います。皆が共感でつながって話す時代になり、一方通行のこれみよがしな広告・マーケティング活動には「お金かければいいってものじゃない」と冷ややかな視線が向けられがちです。そもそも価値観やライフスタイルが多様化して大量消費が時代にそぐわなくなり、マスメディアの使われ方も限定的になってきています。デジタルマーケティングの世界でも、「いくらで何人刈り取れるか」というような極端な最適化が進みつつあります。

そうなると、もう消費者、特に若い世代は「企業に取り込まれること」に強いアレルギーを持つようになっています。お金をかけた広告や、ブランドストーリーのようなキラキラしたものに興味がなく、作られた情報に懐疑的な眼差しを向けている。何に興味があるかと言えば、自分の周りの友だちや家族、共通の価値観を持った友人・知人など、そしてネットでつながった人々が発信する情報です。

いわば「作られた」マーケティングは難しくなっている中で、ナラティブが突破口の1つと目されているのだと思います。もはや企業の「上から目線」をやめることに始まり、生活者の物語にどう寄り添えるのか、どうしたら一緒に物語を作ってもらえるのか、真摯に考えるべき段階にきていると思います。

四谷: 一緒に物語を作るというと、UGCによるコンテンツマーケティングだったり、商品開発に形だけ参加させたり、といったことを考えてしまう場合もありそうです。

本田: それは共創ではないですね。たとえば、米国のコスメブランドである「Glossier(グロッシアー)」は、ナラティブな企業であるといえるでしょう。「このブランドはなにか」などというコンテンツはいっさいなく、実際、広告を一切打たずにInstagramとYouTubeだけで情報を発信し、そこにはユーザーである普通の女の子たちが登場しています。

また、日本でもおなじみのアウトドア用品メーカーであるパタゴニアも、かなり徹底したナラティブな会社と言えるでしょう。商品の機能性やデザイン以上に顧客のロイヤルティを高めているのが「地球はみんなの故郷だから守ろう」というメッセージを掲げ、すべての活動の起点にしていることです。

出典:パタゴニアの公式サイトのメッセージ(編集部が画面キャプチャ)

たとえば、2017年にはトランプ政権がユタ州のナショナル・モニュメント(国定記念物)指定保護地域の大幅縮小を発表した際には、大規模な抗議メッセージをWebサイトに表示しました。そこにノンユーザーや競合他社まで賛同して盛り上げているんですよね。そこまでみんなを熱狂させたのは「地球を守る」というナラティブに対してです。この話の一員になりたいという気持ちから、パタゴニアの商品を身につけたいと考える人たちが大勢いるわけです。

「パーパス」を起点に、シンプルな「ナラティブ」を紡いでいく

四谷: なるほど、とてもよくわかります。だからこそ、企業の中にナラティブを取り込むこと、そしてそれを軸にして企業活動に生かしていくことが大切というわけですね。そうしたいときに、企業がまず意識すべきことはありますか。

本田: 最初に必要なのは、パタゴニアの「地球を守る」に該当する「目的=パーパス」です。企業として、「この世の中で何を実現するのか」ということですね。これがナラティブの「起点」です。

「ナラティブ」を実現している企業はまだ少なく、前述のパタゴニアも、そしてナラティブカンパニーとして取り上げられるアップルのような企業も、はじめから明確なパーパスがあって突き進んできたわけではありません。事業を進める中で気づきがあり、自分たちは社会に価値を提供できる、提供したいというように、徐々にパーパスができてきたと思われます。まずは、そのようにして先に到達した企業を参考にしながら、ナラティブを探すところから始めてみるのがよいと思います。

ただしナラティブを語る前に、まずは「何のために」というパーパスの整理と可視化は必要でしょう。といっても、暗黙知というか、企業文化と近い部分があるので、可視化されたものを読み上げているだけでは誰も共感しないし、研修をすれば急にできるというものでもありません。地道に数年かけて、定着させていくほかないと思います。

四谷: なかなか難しいと思いますが、具体的なアクション、取り組みとして可能なことがあれば紹介いただけますか。

本田: たとえばアマゾンでは、会議用を含む社内文書のほぼ全てにおいて、パワーポイントではなく、プレスリリースを書くことを推奨されています。これがまさに、「ナラティブを書く」のと同義なんですね。たとえば、新しい商品企画の場合なども、数枚の紙にユーザーがどのように喜ぶのか、物語が語られるわけです。もっともらしい資料を作るのではなく、シンプルにナラティブを書くという繰り返しで、一人ひとりのナラティブへの感性を高めているのだと思います。

こうしたナラティブの書き方のルールとしては、まず自分起点ではじめないことがポイントです。社会や世の中の大局観から入り、その課題に触れるのがパート1、そしてパート2ではその課題に対して自分たちの会社や商品がどのように解決できるのか、なぜ自分たちである必要があるのか。そして、パート3は、未来の顧客体験を想像しながら書いていきます。実はここが結構難しくて、「2年後にシェア30%」「ナンバーワンブランドを目指す」など、自社の目標を書く人が多いんですよ。企業や事業の目標ではなく、その商品・サービスでユーザーが3年後にどのように幸せになっているかを書くことが大切です。

ナラティブスクリプトの穴埋め表

ナラティブに必要な全体感と余白。自身の感覚を信じて挑戦を!

四谷: マーケターが「自分にはナラティブが足りているのかどうか」を振り返るポイントがあれば、教えていただけますか。

本田: まず、前提としてナラティブは、1つのパーツでは成り立ちません。常に全体感を意識することが大切です。それを踏まえて、以下の3つのポイントにちゃんと答えられるかを判断目安とするのがいいでしょう。

  1. そこに「物語」はあるか?
  2. それは「共創」されているか?
  3. それは「構造」として機能しているか?

単なる企業情報や商品スペックではなく、人々を魅了する内容か? 記憶してもらえるのか? 生活者が関与したくなる物語なのか? といったことを意識することが大事です。

また、ナラティブは共創することが前提なので、「余白」があることも大切です。生活者などのさまざまなステークホルダーが「参加できる余地」が必要です。マーケティングの世界では、IMCのようにあらゆるメディアを押さえて動線を張って刈り取って…、というように隙なく設計することを考えがちですが、それでは消費者がサービスの提供を受けるだけの側になってしまいます。

そこで、たとえば、「こういう施策をしたらTwitterでどんな発話が生まれるか」「こういう広告だとどんな反応があるか」と消費者の反応を想像して、その反応が返ってきたことを想定して次の施策を考えておくとよいでしょう。難しくはあるのですが、いろいろと工夫して全体設計に「入り込む場」をつくることが大切です。

当然ながらユーザーの反応は創発的でなかなか読めません。でも、それを受け入れて、その上でパーパスに基づいて軸をぶらさずに対応していく。たとえば、いい反応があれば、ちょっと追加の施策を考える、ネガティブな反応があったら広報からステートメントを出す、というようにマーケターと広報が連携することも大切です。マーケターは好調な時は強い人が多いのですが、トラブルやツッコミには弱いので(笑)、広報の方に冷静に対応してもらえるといいと思います。攻守のバランスが大切です。

ナラティブであるか、確認するべきポイント

四谷: それでは最後に、ナラティブをマーケティングに取り入れたいと考える、マーケターにメッセージをいただけますか。

本田: これまでのような「上から目線のマーケティング」では、効果がないどころか、結果的に企業のイメージを悪くしてしまう可能性があることをまず、知っていただきたいです。そして、「ステークホルダー全員で創りあげるナラティブ」の力をご理解いただき、過去の成功体験にとらわれず、自身のナラティブ的感覚、感性を信じて、施策に取り組んでいただきたいと思います。

四谷: マーケティングの世界でも、大きな変化が起きていることを実感しました。本日はありがとうございました。

ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力
(著者:本田 哲也/価格:2,640円(税込)/出版社:東洋経済新報社)
 
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