SEOの価値をロジカルに伝えるには? ステークホルダーを納得させるROI説明術(前編)
SEO担当者の多くは、自身の仕事の価値をうまく説明することに苦労した経験が一度や二度はあるだろう。
「ステークホルダーにSEOの価値を伝える」という課題を対処するための戦術を、ホワイトボード・フライデーとしてお届けする。
具体的には、SEOの指標をビジネスの目標と一致させて、ROI(投資対効果)をめぐる厳しいやり取りにも自信を持って対応する方法について、ベサン・ヴィンセント氏が解説する。
私たちはなぜ、SEO担当者として自分たちの仕事を正当化しなければならないと感じるのか
こんにちは、Open Velocityのベサン・ヴィンセントよ。今回は、多くのSEO担当者が直面する共通の課題について話そう。それは、ステークホルダーにSEOの価値を納得させる方法だ。
次のような人に話すとき、難しさを感じてしまうことが多いだろう:
- 自分より目上の人
- SEOの効果を実感したことがない人
- SEOの専門家でない人
他のマーケターや他のチャネル、他の分野と比べて、なぜ私たちSEO担当者は、自身の仕事を正当化しなければならないと感じるのだろうか? その理由は大きく2つある。

「SEOは無料のトラフィック」という誤解
第一に、SEOは「無料のトラフィック」だという先入観が、一部のステークホルダーの間では今でも根強い。
この誤解は、SEOがクリック課金型広告(PPC)のようなチャネルとの対比で語られることが多いため、生じやすい。SEOに莫大な「手間」「時間」「リソース」のコストが投じられていることは、私たちSEO担当者なら誰もが知っているが、ステークホルダーからは次のように言われてしまうだろう:
SEOはお金かからないんでしょ?
私たちが直面している課題の1つが、ステークホルダーの次のような認識だ:
- SEOは無料なのだから、放っておいても自然にうまくいく
- 大変な労力をかける必要はない
効果が出るまでの時間軸の長さ
第二に、「SEOはスイッチを入れるだけですべてが流れ込んでくるようなものではない」点だ。SEOには長期的な時間軸で取り組む必要があることは、私たちなら誰もが認識していることだ。
実際に、ステークホルダーに投資を求める場合でも、効果が表れるまで3か月~6か月を要することも多い。
ROIの話題で使える「IMPACT」のフレームワーク
「ROIはいつ達成されるのか?」という恐ろしい質問に直面したとき、「それは状況次第です」という答えは、シニアステークホルダーへの回答として十分ではない。
そこで、SEOのROIに関する議論で使える「IMPACT」フレームワークについて紹介する。具体的な各要素について見ていこう。
![Identify the business strategy (ビジネス戦略を明らかにする) Map SEO metrics to business KPIs (SEOの指標をビジネスのKPIにマッピングする) Present a forecast (realistic expectation) (予測[現実的な予想]を出す) Align with levels of certainty (確実性のレベルに合わせる) Create a narrative (ナラティブを生み出す) Tell the truth (真実を伝える)](https://webtan.impress.co.jp/sites/default/files/images/blank.gif)
- I: Identify the business strategy
ビジネス戦略を明らかにする - M: Map SEO metrics to business KPIs
SEOの指標をビジネスのKPIにマッピングする - P: Present a forecast (realistic expectation)
予測(現実的な予想)を出す - A: Align with levels of certainty
確実性のレベルに合わせる - C: Create a narrative
ナラティブを生み出す - T: Tell the truth
真実を伝える
SEOのROI説明フレームワーク「IMPACT」
I: ビジネス戦略を明らかにする
ステークホルダーに業績を報告する際、特にあらゆるマーケティング分野で起こりがちなことだが、
- マーケティング側から見た成果
と、
- 実際のビジネス戦略(ビジネスが達成しようとしていること)
との関連性が見えにくいという問題がある。
ビジネス戦略については、何日でも、何時間でも、何週間でも話せるほど重要だ。より良いマーケターになるにはどうすればいいか? もし私が若い頃の自分にアドバイスするなら、次のように教えるだろう:
ビジネスがどのように機能し、ビジネス戦略とは実際どのようなものかを理解するべきだ
この点についてはかなりの時間をかけることもできるが、ここでは簡単な方法を紹介する。

現代マーケティング理論の祖であるマイケル・ポーター氏は、企業が活用できる戦略的手段は3つに集約できると述べている。
戦略的手段1「コスト」
企業はコストで競争できる。つまり、市場で最も安い価格で提供するということだ。
IKEAやウォルマートのような企業がこれに該当する。その多くは市場で圧倒的な存在になろうとしている大企業で、利益率は非常に低い。勝負を分けるのは量である。
これをSEOに当てはめて考えると、「“量”と“コスト削減”に注力すべき」となる場合が多い。効率がすべてである。これが、ビジネスの取れる道の1つだ。
戦略的手段2「差別化」
次に、ユニークな(独自の)存在になれば、市場で差別化を図れて突出できる。これは、ブランド構築をめぐる議論の一環でもある。
誰もが思い浮かべるであろうまたとない好例は、アップルだろう。コンピュータというアイデア自体は必ずしもユニークではないが、その表現の仕方がユニークだった。
したがって、戦略に盛り込むべきは、そうした差別化を図り、市場でブランドを構築することだ。
戦略的手段3「集中」
最後に、集中である。対象を絞り込み、ニッチなオーディエンスに焦点を当てよう。
これは実に興味深い点である。なぜなら、これはたしかに効率性に関わることだが、違う意味での効率性だからだ。「自社の製品やサービスが特化している非常に狭い範囲のオーディエンス」にリーチしようとしているからである。無駄に動いて、回り道をして、最優先ではないオーディエンスにリーチしたくはないし、相手も自社の製品に興味はないはずだ。
これら3つの点がある程度わかったら、次にこう考えられるようになる:
- では、私たちのSEO戦略にはどのような役割があるのか?
- パフォーマンスにはどのような役割があるのか?
- パフォーマンスはどのような状況で機能しており、ビジネスが実際に達成しようとしていることと私たちはどのように整合しているのか?
驚くことに、多くのステークホルダー(つまり上層部)は、チームが次のような質問をするのを待っていると言っても過言ではない:
- では、私たちのビジネス目標は何か?
- 何を達成しようとしているのか?
- コストで競争しているのか?
- 差別化を図っているのか?
こうした質問をすることは、SEO担当者がそのビジネスに心から関心を寄せていることを示す、すばらしい方法だ。しかし同時に、ビジネスが目指していることと整合性のある目に見える成果を、はるかに優れた方法で形作るのにも役立つ。
これが、ビジネス戦略を明確にするということである。
SEOのROI説明フレームワーク「IMPACT」
M: SEOの指標をビジネスのKPIにマッピングする

SEO指標とビジネスKPIをマッピングすることも、結局は「整合性の問題」に関連している。ビジネスが目指していることと整合性を保つ必要があるのだ。
ここで、「指標とは何か」「KPIとは何か」という疑問が生じるため、一歩引いて考えてみたい。筆者は以前、この問題で非常に混乱した経験がある。
まず視点を下げてみると、非常に有益で大まかな考え方として、指標の多くはかなり戦術的である。単一のチャネルに焦点を当てている傾向も強い。たとえば、メールの「開封率」や「クリック率」などがその好例だ。SEOでは、「オーガニックセッション」や「オーガニッククリック率」などがこれに該当するだろう。
これに対し、KPIはビジネス目標に基づく場合が多い。ビジネスが追求する目標や成長シナリオと結び付いているのだ。その多くは部門横断的で、さまざまな部門がこの指標に貢献することになる。
その好例が「リードコンバージョン率」だ。これは必ずしも営業部門だけで完全に達成できるものではなく、マーケティング部門にも同じことが言える。このKPIを達成するには、協力して取り組む必要があるのだ。
他にも、組織内の部門を超えた高いレベルのKPIの例として、SaaSビジネスでよく使われる「顧客獲得単価(CPA)」に対する「顧客生涯価値(LTV)比率」があるかもしれない。これは、顧客を獲得するために費やしたコストがどの程度ビジネスの長期的な価値につながるかを示すものだ。
あるいは、パイプラインの速度(取り引きがどの程度の速さで「マーケティング→インサイドセールス→営業」というパイプラインを流れているか)などもあり、これにはマーケティング部門や営業部門が影響を及ぼせる。
以上が、ほんの一部だが指標とKPIの基本的な違いである。多くの場合、私たちはSEO指標を使っているが、それがビジネスKPI、より高いレベルで設定された目標にどのように貢献しているかを考えてみてほしい。
これも、ステークホルダーに投げかけるのに非常に適した質問だ。次のように聞いてみよう。
私たちのビジネスKPI、私たちが目指している目標は何か?
実際、スプレッドシート上でも、チームや自身が取り組んでいる指標を別のKPIにマッピングし直し、そこから一連の流れるようなナラティブを構築できる。これはとても効果的なやり方だ。
このように、実際の状況に当てはめて実践する必要がある。単独では作業できないのだ。
この記事は、前後編の2回に分けてお届けする。後編となる次回は今回に引き続き、ヴィンセント氏が提唱する「IMPACT」フレームワークの残る4つ
- P:予測を出す
- A:確実性のレベルに合わせる
- C:ナラティブを生み出す
- T:真実を伝える
について紹介する。
(後編は7/7公開予定)
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