一生に一度のB2C企業はウェブサイトをどう扱うべきか/大和ハウス工業
かわちれい子のウェブマスターのお仕事
大和ハウス工業ウェブマスター 大島 茂氏
取材・文:かわちれい子(CreatorsNet)
PHOTO:今 紀之
会社によって大きく異なる「ウェブマスター」の実態。所属部署は? 予算確保は? ワークフローは? サイトの目的は? 注目しているテーマは? さまざまなウェブマスターの姿を見ることで、これからのウェブマスター像を見出したい。
大和ハウス工業ウェブサイトの基本的な情報は記事の末尾に掲載。
サイトの目的は「お客さまを捜す手段」
●かわち まずサイトの目的について伺いたいのですが、大和ハウス工業のサイトの目的を一言で表すと、何ですか?
●大島 「お客さまを探す手段」が大きな目的です。弊社が手がけている戸建て住宅やマンションは、おそらく、人生で一番高い買い物ですから、一度買ってみて気に入らないからすぐに次を買うというようなものではないのです。高い買い物ですから、物件そのものについてあらゆる角度から調べるのは当然で、企業の側からいえば、そうやって調べているお客さまがどこにいるのかを探す手段の1つがウェブサイトだということです。
また、弊社は原則直販という形式をとっているため、お客さまにはウェブサイトでいろいろ調べて頂いたうえで、全国にある展示場や分譲物件の現場に直接足を運んでいただきたいという役割もあります。
●かわち 調べ物の多いお客さまの要求に応えるとなると、ウェブサイトへの情報掲載も大変な数になりそうですね。
●大島 ページ数にすると、HTMLで1万ページは超えると思います。分譲地やマンションの広告は宅建業法によって「掲載しなければならない」と定められている情報が多岐にわたるので、そういった情報の更新によって毎日ページ数は変動しています。弊社の営業拠点は全国に散らばっていて、物件の最新情報は本社ではなく、全国の拠点にあるので、そこから情報を適切なタイミングで発信してもらうことにも工夫しています。
営業は「販売」が主な仕事なので、情報を更新するというのは二の次になってしまいがちです。でも、法令は遵守しなければならない。そのあたりの仕組み作りにはいろいろ工夫しています。
●かわち どんな工夫ですか?
●大島 たとえば、分譲物件の情報などは、週に一度も更新がないファイルは公開用のサーバーから消してしまう、という強制的な仕組みを用意しています。でも、それぐらいにやらないと、掲載している情報が「虚偽の情報」になってしまう可能性を否定できないのです。公開用のサーバーから消えるということは、たとえそれが虚偽の情報でなかったとしても、そうなってしまっているかもしれないというアラートなのです。さすがに公開されなくなったというアラートにはだれかが気づきますから、そこで情報が古くなっていないかというようなチェックができるわけです。
●かわち そこまで厳しいと、公開する情報の規模を縮小しようということにはならないんですか?
●大島 ウェブサイトを立ち上げた当時はそういうことを言う人も少なからずいました。でも、ここまでインターネットが普及すると、そういう声は自然と減っていきましたね。
週に一度も更新がないファイルは公開サーバーから強制的に削除。そうでもしないと「虚偽の情報」になってしまう
2000年に「ウェブ委員会」を組織
その後宣伝部に移管
●かわち 大和ハウス工業さんのウェブサイトは、いつ頃立ち上がったんですか?
●大島 1995年だったと思います。社員を研究生として派遣していた神戸大学の研究室に、インターネットのことについて詳しい先生がいらっしゃいました。その先生にいろいろ教わりながらやっていました。
●かわち 大島さんは当時からウェブサイトにかかわっていらっしゃったんですか?
●大島 当時、私は情報システム部に所属していたのですが、情報システム部や販促室(現総合宣伝部)、広報室などの部署にいた有志の3~4人で運営が始まりました。当初は、私自身は直接関わっていたわけではなく、若いメンバーが中心でした。
運営といっても、接続はダイアルアップ、社員各人にメールアドレスもないというような時代ですから、広報室にいた社員が「コンテンツを作りましょう」と社内営業をしていました。でも、時代が時代ですから、どこに行ってもインターネットというものについてイチから説明しなくてはならなくて。それは大変な業務でしたよ。
●かわち ずっと有志での運営が続いていたんですか?
●大島 2000年ぐらいに事務局機能を持たせた「Web委員会」というのを組織して、さまざまな業務を集約しました。そのときに私も合流したのです。情報システム部にも、インターネットチームができて、そこの責任者になりました。
クイックタイム・ブイアール。アップル社のクイックタイムを利用した映像技術で、マウスを使って物体をぐるぐる回してさまざまな角度から見たり、周囲の風景をぐるりと見回せたりする仕組み。
会員制のサイトを作ったり、当時流行っていたQuickTime VR※1でモデルハウスを表現したり、いろいろやりましたよ。今はほとんどのマス広告にURLが付いていますが、当時はその走りの時期で、新聞広告にURLを載せてウェブサイトで資料請求を受け付けるというようなものも、その頃から本格的になりました。
その後、2006年にウェブサイトの管理は総合宣伝部が主管するようになったので、Web委員会の機能は総合宣伝部に移っていきました。ただ、スタッフは実質1名しかいなく、私は裏でサポートをしていました。
●かわち そのときは、なぜ宣伝部に移られなかったのですか?
●大島 人事の問題なので……。私自身は、情報システム部の立場で、引き続きウェブサイト関連の業務もしていました。そのころ、コンテンツを一元管理できる仕組みの必要性が増してきたので、総合宣伝部と共同でコンテンツ管理システム(CMS)を導入しました。
CMSの導入が一段落したところ、ウェブの体制をさらに強化する必要があるとのことで、2007年1月に総合宣伝部に異動になりました。
●かわち 総合宣伝部に移られて、仕事の内容は変わりましたか?
●大島 変わったといえば変わったし、変わってないといえば変わってないですね。私の所属は正確にいうと総合宣伝部デジタルメディアグループというところで、バナー広告やキーワード広告の出稿管理という仕事もありますが、単純に広告の管理をするのではなくて、「いかに人を集めるか」ということを考えています。これまでの仕事はまさしく「ウェブサイト構築・運営」でしたけど、今の仕事内容は明確に「どうやって人を集めるか」というところが追加されましたね。
当社のように高額商品を営業担当者が直接販売している会社のウェブサイトでは、資料請求していただくのも目的の1つですが、それよりも、お客さまが直接現地を見に行ってみようと思い、直接行動を起こしていただくことのほうが重要ではないかと、最近は考えています。お客さまに、直接現地に来場いただいて、実際の建物を見てもらい、営業担当者と直接話をしてもらったほうが会社にとってもメリットがあると思っています。資料請求だけでは、まだ営業担当者と話はしたくないという人もいて、必ずしも、コンタクトできるわけではありませんので。
住宅って、おそらく一生のうちで一番高い買い物だと思うのですが、実は始めはイメージだけで、欲しいって思ったときにはまだ形が決まっていないのです。住宅展示場などでモデルハウスを見ることができても、それは自分が欲しい建物と同じかというと、そうではないケースが大半です。だから、営業担当者の役割重要で、ウェブだけでは表現できないところを、営業担当者と直接話をしてもらって、大和ハウスの住宅についての理解を深めてほしいと思います。
これまでは「サイト構築・運営」だった仕事内容に
「どうやって人を集めるか」が追加されてきました
広告が「効く」か徹底的に検証
●かわち 住宅購入にかかわる検索キーワードへのリスティング広告出稿は業界上げて「厚い」みたいですが、大和ハウスさんでもかなりの量を出稿していらっしゃいますよね。
●大島 おもしろいですよ。他のメディアではできないようなことができるから。
●かわち どんなことですか?
●大島 最近流行の行動ターゲティングや、Googleのプレースメントターゲットなんかを使うと、TVや新聞ではできないターゲティングができますよね。「さあ買うぞ」「そろそろかなあ」というような住宅購入についてちょっとでも興味がある顕在層も大事ですけれど、そこよりももっと潜在的な層もつかまえる必要があります。そうするためには、住宅購入に直接関連したキーワードやターゲットよりもっと効果のあるキーワードがあるのではないかというようなことを考えるのはおもしろいですね。
もちろん、顕在層に直接リーチできる媒体としてインターネットはものすごく魅力的ですね。でも、キーワード広告とかプレースメントターゲットとか、まだまだ“新しい”媒体を社内に説明するのは難しいこともありますね。そういったちょっと大変な部分はあるのですが、出稿については効果を求めることが当然なので、インターネットの中でもどんな媒体が「効く」のかという検証はやっています。
●かわち どんな検証ですか?
●大島 やはりアクセス解析はちゃんとしていますよ。うちの部署以外の人でもアクセス解析ツールを利用できるようにしてあるので、自分でレポートを作ってしまう事業部の担当者もいます。もちろん、うちの部署からも定期的にレポートを発行していますし。
広告出稿の効果測定ということでは、アクセス数だけを見るのではなくて、実際にどれだけ資料請求があったのかや、実際の契約率はどうだったのかまで追求していますので、やっていることは結構複雑かもしれません。資料請求せずに直接現地に行くお客さまもいらっしゃるので、資料請求の数がすべてというわけではありませんけどね。
広告出稿の効果を求めるのは当然。
ネットでもどんな媒体が「効く」のか検証しています
お客さまが便利になることはちゃんとやろう
●かわち ケータイへの対応はどうしていらっしゃいますか?
クリックコール。主に携帯電話向けサイトで、広告やリンクをクリックすると、そのまま特定の電話番号に電話をかけられる仕組み。
●大島 ケータイ向けサイトも始めましたよ。主に現場案内のための地図とclick-to-call※2のために。
●かわち どうしてその2つなんですか?
●大島 両方とも、現地に足を運んでくださるお客さまが便利になるようにと思って作っています。住宅展示場やマンションのモデルルームって、わかりにくい場所だったりすることもあります。そういうときに、ケータイで周辺地図を見ることができれば便利だと思っています。click-to-callもそうで、展示場や営業所の電話番号にその場で直接電話してもらうことができるじゃないですか。問い合わせの電話でもいいし、展示場までの道のりがわからないという電話でもいいですし、とにかく、お客さまが便利になることはきちんとやろう、というようにしています。
Web担は5人でも多数が携わって運営
●かわち いろいろと多岐にわたることをやってらっしゃいますが、デジタルメディアグループは総勢で何人なんですか?
●大島 私を入れて5人の所帯です。総合宣伝部に移管されたときに、それまでWeb委員会に参加していた者が中心で、情報システム部から移って来た者が3人、経営企画と営業から移って来た者が1人ずつですね。営業から来た社員は初めてインターネットの仕事をすることになったので、言葉とか仕組みとか、そういうところについてくるのが精一杯な感じがしますが、とても頑張っていますよ。
●かわち そんなに少ない人数ですべてのことをやっていらっしゃるんですか?
●大島 直接のWeb担当者は少ないのですが、総合宣伝部のチーム以外にもインターネットに携わる人数は多いのですよ。xevo(ジーヴォ)などの戸建て住宅のサイトやマンションのサイトなどのコンテンツのようにそれぞれの事業部がやっているものもあるし、インフラ面はこれまでどおり情報システム部と連携してやっているので、私らが全部を管理する必要はないのです。ウェブサイトを通じて入ってくる問い合わせも各担当部門が窓口となっているので、それらの対応を直接することはほとんどないですし。私達は宣伝部なので、当社のウェブサイトをたくさんの人に知ってもらうための仕事に注力しています。
●かわち 企業サイトのWeb担当者にとって大切な能力って、どんなことだと思いますか?
●大島 最低限、コミュニケーションがとれること。特別な能力っていうのは必要ないと思います。まあ、「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」がきちんとできること。でも、これはウェブの仕事だけじゃなくて社会人として仕事を遂行するうえでの最低限でしょう。それができたうえで、課題・問題と思えることを発見して、いろんな人とコミュニケーションをとりながら解決していけることが必要な能力だと思います。うーん、これも、ウェブの仕事だけにいえることじゃないですね。
●かわち 今後、デジタルメディアグループとしてはどちらの方向に「仕掛けて」いきたいとお考えですか?
●大島 「大和ハウスのクロスメディア戦略」を作っていかなくちゃならないと思います。テレビや新聞を担当しているグループは隣の席にいて情報の共有がしやすいので、インターネットではないメディアとどのように組んでいくといいのかということを考えていかなければならないと思っています。ITを知っている私と、メディアを知っているメディア担当が「総合宣伝部」という傘の下にいる意味は大きいと思います。
CGMについても考えたいですね。住宅購入記のようなものをブログにアップしている人って、結構多いのですよ。そういうところは無視しているままではいけないな、と。あと、ケータイサイトについても、もっと力を入れていきたいですね。
●かわち 本日はお忙しところ、ありがとうございました。
ブログに書かれている住宅購入記のようなものも
無視しているままではいけません
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