ファンを巻き込むPCサイト+携帯サイト+メルマガ+ファンブログの連携ワザ/ヤクルトスワローズ
かわちれい子のウェブマスターのお仕事
PCサイト+携帯サイト+メルマガ+ファンブログ
適切な施策の組み合わせでファンを球場へ誘う
東京ヤクルトスワローズ ウェブマスター 加藤 謙次郎氏
取材・文:かわちれい子(CreatorsNet)
写真:津島 隆雄
会社によって大きく異なる「ウェブマスター」の実態。所属部署は? 予算確保は? ワークフローは? サイトの目的は? 注目しているテーマは? さまざまなウェブマスターの姿を見ることで、これからのウェブマスター像を見出したい。
東京ヤクルトスワローズウェブサイトの基本的な情報は記事の末尾に掲載。
24時間稼働のファンブログが
広報の一員のような状態です
●かわち 東京ヤクルトスワローズ(以下TYS)のウェブサイトは、SNSやニュースなど、手のかかるコンテンツが多いんですが、何名くらいで管理されていらっしゃるんですか?
●加藤 ウェブサイト専任スタッフというのはいないんですよ。僕もWeb担当者ではありますが、広報担当としてマスコミ対応やお客様対応などの仕事も兼任しています。ですから、サイトにどんなコンテンツがあると良いのかというような企画は社内でやりますが、実際にコンテンツを作るのは、選手の取材や記事の編集まで含めて、外部の方にお願いしています。
●かわち ファンの方がTYSの公式サイトと併設されているサイトでブログを開設できていたのも、画期的ですよね。
●加藤 2006年に古田敦也さんが監督に就任したときに、肝煎りで「Fプロジェクト」というものを立ち上げたんです。「ファンのみなさんや地域のみなさんに愛され、球場をお客様で一杯にしよう!」というのがプロジェクトのテーマでした。その一環で、選手のブログを立ち上げていったんです。古田さんは2005年からブログを書いていたので、ファンのみなさんにもブログを作ってもらって、球団や野球が盛り上がればいいなということで、SNSとして運営していました。現在はオフィシャルブログ全体をスポーツコミュニティサイトのSPORAに移して、選手だけでなく、つば九郎(TYSの球団マスコット)、広報の僕などがブログを書いています。
●かわち ちなみに、だれのブログが人気なんですか?
●加藤 増渕選手や川島選手のブログですね。ブログで人気を集める要素っていうのがありまして、まずは更新回数の多さです。あと、写真の多いブログも人気ですね。増渕選手や川島選手のブログは、オフショットがあったり、絵文字や顔文字が頻繁に登場したりして、ファンのみなさんは選手のイメージとブログの内容のギャップを楽しんでいらっしゃるんじゃないかと思います。
●かわち ファンのみなさんも、ブログの更新は頻繁なんですか?
●加藤 はい。ブログをスタートさせて2年くらいですが、ファンのみなさんだけで10万回以上の更新回数があります。試合のあった日などは更新回数がとても多く、24時間、だれかがブログを更新している状況です。TYSの広報室は5人しかいませんが、ファンのみなさんが、広報の一員としてブログで記事を書いてくださってる感じですね。
●かわち ファンのみなさんが書き込まれるのは、やっぱり野球の話題が多いんですか?
●加藤 多いですよ。チームが勝っているときはいいんですが、負けちゃうと責められたりして、ちょっとへこみますね……。でも、野球のこと以外に、学生の方なんかは宿題やテストの愚痴なんかもこぼしていたりして、楽しんでいただいていると思います。
「コア」「ライト」「潜在的」
それぞれのファンに合った施策を
●かわち ブログを作るほどのファンってことは、かなり「コア」なファンですよね。
●加藤 そうですね。TYSのファンって、3つぐらいの層に分けられるんじゃないかと思うんです。コアファン、ライトファン、潜在的なファン。この3つです。
●かわち それぞれ、どういう位置付けなんですか?
●加藤 「コアファン」は、公式携帯サイトに登録してくださっていて、メルマガも受け取っていて、ブログも開設しているような「濃い」ファンですね。この方々は、神宮球場での試合には繰り返し来てくださる根っからのファンです。
「ライトファン」というのは、インターネットでは特にアクションは起こしていないけれども、年に数回は球場に足を運ぶというような方々です。
「潜在的なファン」というのは、文字どおり潜在的なファンで、テレビのスポーツニュースやインターネットのニュースサイトで試合結果や野球にまつわるニュースは見るけれども、球場に足を運んだことはない、というような方々です。
ライトファンと潜在ファンの間に、昔は球場まで観に行ったけど、最近は行ってないというような層があるかもしれません。コアファンの方は別にして、ライトファンや潜在的なファンの方々に、もっと球場に来てもらうためにどうすればいいか、というのが、インターネットの課題ですね。
●かわち 実際、球場で野球を観ると楽しいですよね。
●加藤 そうですよね。神宮球場はドームではないので、風や空気を感じながらゲームを観戦できるんです。テレビの前で観るのとは臨場感や迫力がまったく違いますね。ただ、3月~4月あたりのナイトゲームって、観戦にはちょっと寒いな、ということがあるじゃないですか。そんなゲームのために、その時期の前売り限定で「あったかグッズチケット」というものを1日150枚だけ発売しています。マフラー、手袋、巾着袋のフリース3点セットにホットドリンク1杯がついた観戦チケットなんですけれど、なかなか好評ですよ。
携帯ならではの特性を活かして
「ちょっと球場に行くか」を誘発
●かわち TYSにとってPC向けサイトや携帯サイトは、ファンの方へのアプローチツールであると同時に、球場への集客ツールという感じなんでしょうか?
●加藤 チケット販売は球団の収入の大きな柱ですから、基本は「ホームページから球場へ」です。でも、集客ツールというのとはちょっと違いますね。ウェブサイトを通じてTYSのことをよく知ってもらい、選手の顔を知ってもらう、そして、球場に足を運んでもらう、ということです。TYSのファンだけども忙しくてなかなか球場には行けないという方々と、いかに「良い距離感」を作っていくかが大事だと思います。
●かわち チームが負けると、ブログには悪口も書かれるとおっしゃっていましたが、TYSのファンは、どういう気質なんですか?
●加藤 シャイですよ。すっごく。阪神タイガースのファンは熱狂的なので、球場まで応援用のユニフォームを着て来て、ゲームが終わったらそのまま帰るという人が多いんです。でも、TYSのファンはシャイなので、球場で普通の服装に着替えて帰っちゃうんです。球団としては、そのまま来て帰ってくれれば、それだけでTYSをアピールしてもらえるのに、と複雑な心境ですね(笑)。でも最近はユニフォームのまま帰っていくファンの方も増えてきているようなので、ありがたいですね。
●かわち 「距離感」といえば、神宮球場はとても立地が良いですよね。
●加藤 そうなんですよ、神宮球場って、東京のど真ん中なんですよ。新宿区、港区、渋谷区がちょうど交わるというか、そういったあたりにあるんです。以前、球場に足を運んでくださったお客さんに「球場に来る直前、どこにいましたか」というアンケート調査をしたことがあるんですが、「職場」という回答が圧倒的に多かったんです。港区や新宿区、渋谷区といえば、オフィスエリアですから、それも当然なんですが、仕事が終わってから「ちょっと野球でも観て帰るか」と立ち寄りやすいんだと思います。また、一番近いのは東京メトロ銀座線の外苑前という駅ですが、同じく半蔵門線や都営大江戸線、JRなど、徒歩圏内の駅が5つほどあるんです。交通の便の良さも魅力ですね。これらの魅力を活かして、ふらっと立ち寄るお客さんを増やせればと思っています。
●かわち とはいえ、野球って、いつも満員御礼で、ふらっと立ち寄るっていうのは難しいんじゃないかと思うんですが……。
●加藤 それが、あるんですよ、当日券(笑)。そういうときに、携帯サイトやメールマガジンが活きてくるんじゃないかと思ってます。ナイトゲームだと、当日の先発オーダーはだいたい17:30くらいにわかるんです。試合開始が18:20ごろですから、この50分を利用して、先発オーダーや今日の試合の見所などを載せたメルマガを配信したりサイトのニュース欄に掲載したりすることは十分可能です。それらを見た人が、よし、今日はちょっと仕事を早めに切り上げて観に行くか、となってくれるように考えているんですよ。
平日にちょっと早く仕事が終わったときの選択肢って、食事に行ったりお酒を飲みに行ったり、せいぜい映画を観に行ったりでしょう? その選択肢の1つに「野球を観に行く」というのがあってもいいじゃないかと思っていまして、選択肢の1つにしてもらえるようにがんばっています。あ、神宮球場では6回終了時から発売される、お得な「3イニングチケット」もご用意していますので、急な残業があっても大丈夫ですよ(笑)。
基本は「ホームページから球場へ」ですが、集客よりも、いかに球団のことや選手の顔を知ってもらい「良い距離感」を作っていくかが大切です。
人気はやはり動画コンテンツ
今後はブログパーツやガジェットも
●かわち PC、携帯を通じて、どんなコンテンツが人気なんですか?
●加藤 やっぱり、動画は人気ですね。先日配信した古田前監督の引退試合は、ものすごい閲覧数でした。TYSの携帯公式サイトは有料なんですが、登録してくださっているファンの方も多いんですよ。携帯サイトって、PCとは違って試合中に球場で観てもらえるじゃないですか。それって、ものすごい長所だと思うんですよ。今年は神宮球場のスーパーカラービジョンが新しくなったので、ビジョンと携帯サイトと連動して、試合中は球場にいるから楽しめて、球場にいたから試合後も楽しめる、そんなことができたらいいなと思ってます。
●かわち ウェブサイトへのアクセスは、パターンがあるんですか?
●加藤 ありますよ。Yahoo!のトピックスに掲載されるとものすごい数のアクセスがあります。あと、スポーツ新聞のウェブサイト経由でのアクセスも多いですね。試合のある日やその翌日なんかはやっぱりアクセスも多くなりますが、試合のない日にアクセスを減らしたくはないですから、そういう日にもTYSの情報がスポーツ新聞などに掲載されるように工夫しています。
●かわち 工夫というと?
●加藤 試合のない日にはネタも少ないわけで、そういうときに「おいしい」情報を出すと記者さんが記事にしてくれたりします(笑)。
●かわち 他のプロ野球チームがやってること、気になりますか?
●加藤 はい、多少は(笑)。どんなファンサービスをやっているんだろうとか、どんなコンテンツを持っているんだろうとか、横目でちらちら見てますよ。特に今年はオリンピックイヤーなので、スポーツ全体が盛り上がりますからね。うちも、ブログパーツやガジェットを配布して、盛り上げていきたいと思っています。
●かわち あの、提案なんですけれど「初めての野球観戦」っていうコンテンツはどうですか? 野球のルールがわかんないっていう人に向けた簡単ルール解説がサイトにあると、初めてでも楽しめるんじゃないかと思うんですけれど……。あと、神宮球場観戦ポイントとして、球場でないと楽しめない見所として、たとえば「ブルペンをチェック!」みたいなのがあるといいんじゃないか思うんですが。
●加藤 それ、いいですね。いただきます(笑)。
●かわち 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
東京ヤクルトスワローズウェブサイト概要
球場への来場を促すことを主目的として、ファンのリテンションのためのコンテンツや施策を行っている。
PC向けサイト(650万PV/月)、携帯サイト(月額210円、2万会員)、公式ブログ(約1700ブロガー)、メールマガジン「スワ通」(PC向け1万7000人、携帯向け2万7000人、計4万5000人)があり、すべての媒体を合わせた年間予算は約2,200万円程度。
ソーシャルもやってます!