かわちれい子のウェブマスターのお仕事

グループ各社の情報をまとめる立場に必要な素養と方法論/阪急阪神ホールディングス

かわちれい子のウェブマスターのお仕事

かわちれい子のウェブマスターのお仕事

@HANKYU+HANSHIN ウェブマスター
阪急阪神ホールディングス
山野 博子氏+藤井 裕志氏

かわちれい子(CreatorsNet)
写真:今 紀之(NOKI PHOTO CREATIVE/ナイスマックス)

会社によって大きく異なる「ウェブマスター」の実態。所属部署は? 予算確保は? ワークフローは? サイトの目的は? 注目しているテーマは? さまざまなウェブマスターの姿を見ることで、これからのウェブマスター像を見出したい。

阪急阪神ホールディングスのウェブサイト「@HANKYU+HANSHIN」の基本的な情報はこちらを参照

グループ百数十社の情報をとりまとめるポータル
連絡会議はメーリングリスト

写真左/
山野 博子氏(阪急阪神ホールディングス株式会社 グループ経営企画部 調査役) 写真右/
藤井 裕志氏(阪急阪神ホールディングス株式会社 グループ経営企画部

●かわち 阪急阪神ホールディングスのポータルサイトですが、「グループポータル」という呼び方は珍しいですね。

●山野 グループの総合力を活かしたウェブサイトの姿を考えたらこうなった、という感じですね。

もともと、阪急電鉄のウェブサイトは1994年の12月に立ち上がっていました。当時は阪急電鉄の企業情報のみのシンプルなものでしたが、「阪急」というブランド力もあったので、アクセス数はそれなりにありました。ところが、同居していた宝塚歌劇のコンテンツが当時としては爆発的なアクセスを稼いでいたんですね。お客様が集まっているのを放っといたらあかんやろう、これは本腰を入れてやらんともったいない、ということになって、正式に予算をつけて、2000年4月に沿線情報などを盛り込んだ地域ポータルサイトとしてリニューアルしました。「バーチャル駅長」や「阪急ぐるなび沿線レストランガイド」は、当時から続く人気コンテンツです。

このような形でしばらく運営していたのですが、2005年に当時の阪急電鉄グループが持ち株会社制に移行することになって、グループ全体が、その総合力を活かしていこうという考えになってきたんです。ウェブサイトもその姿勢を打ち出そうということになって、グループのポータルサイトを目指そうということになったんです。ほぼ今の形のグループポータルとしてできあがったのが2005年の4月です。

●藤井 当時はいろいろな企業が「総合力」を活かしたウェブサイトにリニューアルしていました。関西でいうと松下電器さんや大阪ガスさんなどです。そういった企業のサイトを横目で見ながら、うちはどういうのがいいんだろうと、二人で考えていました。

●かわち 担当はお二人だけなんですか?

●山野 そうです。でも、私たち二人の守備範囲は実は狭くて、グループポータルのトップページと各階層の扉ページのみです。そこから先は、各グループ会社のウェブサイトにリンクしているだけなんですよ。

グループ全体としては「インターネット担当者連絡会」というのを作っていて、グループ各社からWeb担当者とその上司の参加をお願いしています。連絡会の主旨は、主に連絡用のメーリングリストで情報共有しましょう、というものです。

●藤井 あとは、たまには顔を合わせてという意味で、自由参加のグループ内セミナーをやっています。外部から講師をお呼びしての勉強会ですね。グループ内で活発に活動している会社の担当者に講師をしてもらうこともあります。たとえば阪急交通社ですね。ここは旅行代理店ですが、とても熱心にウェブマーケティングに取り組んでいます。

「うちも頑張らんとあかん」というグループ内の好循環
メールマガジンは必須

●山野 メーリングリストだけとはいえ、各社のWeb担当者に直接連絡できる体制を作れたのは、非常に大きいことですね。

●かわち というと?

●藤井 この体制ができる前は、たとえば、各社を紹介するページをグループポータルに作るにあたって原稿が欲しい、というだけでも、ものすごい手間がかかってたんですよ。誰がWeb担当なのかわからないので、「担当者に渡してください」と総務部に書類を送るわけです。でも、そういう書類って、担当者のところに行くまでに想像以上に時間がかかったりするじゃないですか。そういう時間と手間が省けるようになり、とても効率的になりました。

●山野 でも、単に連絡体制が欲しかっただけではなく、グループ全体の情報発信力の底上げも図りたかったんです。特に、インターネットを使った情報発信力ですね。それには環境や人材、意識など、いろいろなことを底上げする必要があります。阪急交通社や宝塚歌劇はもともともすごく頑張っていて、そういうグループ内企業の頑張りがメーリングリストを通じてグループ内に伝わるんです。隣が何をやっているのかわかる環境をメーリングリストで作ることで、「うちも頑張らんとあかん」という意識が働いてきて、結果としてグループ全体の力が強くなっていくという循環ですね。情報を共有するということで、連絡会にもメールマガジンがあるんですよ。

●かわち メールマガジン?

●山野 メーリングリストって、誰も投稿しないと、2~3か月は全然動かないことがあるでしょう? それは避けようということで、連絡会向けのメールマガジンを藤井が書いているんですよ。

●藤井 各社のウェブサイトがどんな動きをしたかというようなお知らせが中心ですね。メールマガジンは他にもたくさん書いていて、月に8本あります。まあ、最初は大変でしたけれど、慣れるとどうってことないですよ。グループポータルサイトのような一般のお客様向けのメールマガジンがほとんどですが、カラーもそれぞれなので、頭の切り替えには苦労していますけどね。

●山野 私たちが運営しているサイトは、メールマガジン必須なんです。新しいサイトやコーナーを作るときには、必ずメールマガジンも発行することにしています。

●かわち それはどうしてですか?

●山野 ウェブサイトは基本的に「待ち」ですが、メールマガジンは「攻め」のツールとして使えるので、我々としては非常に重要なツールであると位置付けています。

●藤井 メールマガジンでは、たまに利用者アンケート企画をやるんですよ。これが、読者の方の反応がすごくて、自由記述の設問でも、ものすごくたくさん書いてくださるんです。阪急電鉄のウェブサイトだった頃からの読者の方も多いのですが、みなさまからの「愛」を感じます。

●山野 たとえば阪急電鉄時代に、「阪急」というブランドに対してどんな印象をお持ちですか、というアンケートを行ったところ、びっしりと「愛」を書いてくださいました。印刷するとものすごい枚数になるんですが、それもうれしいですよね。

ウェブマスターは編集長、でも前職は電車の整備係

●かわち メールマガジンとセットのウェブサイトですが、どのコンテンツを藤井さんが担当されているのですか?

●藤井 ポータルサイト全体を見ています。トップページにある「新着情報」や「ニュースリリース」「おすすめ情報ピックアップ」などをグループ各社の担当者が直接更新できるようにする仕組みを考えたり、トップページのナビゲーションのカテゴリを考えたり、という仕事が多いですね。トップページの新着情報など、管理画面を作ってそこから直接アップデートできるようにしたら、意外な会社がものすごく頑張って情報を更新してくれるのを見ているとおもしろいですね。

●山野 藤井は、グループポータルの2代目編集長なんですよ。就任当時は名刺にも「編集長」という肩書きを入れていたくらいです。企業のウェブサイトって、顔が見えなくなりがちなので、編集長と呼ぶほうがキャラクタがはっきりしそうだな、と思いまして。グループ内でも編集長キャラで通しているんですよ。インターネットのことなら藤井に聞けという感じですね。

●かわち 藤井さんは、編集長になる前はどんなことをなさってたんですか?

●藤井 阪急電鉄のeコマースの部署にいました。その前は、車両を検査する部署で、カナヅチで車体をたたいて検査してました。不具合の起きている部品を交換したりとか、いわゆる現場ですね。

●かわち インターネットとはあんまり関係ないんですね。

●藤井 そうですね。でもまあ、電気系出身ですし、社内文書のOA化というような仕事もやっていた関係で、データベースだのプログラムだのということに戸惑ったということはないですね。

●かわち 藤井さんは簡単なものなら自分でシステムを作ってしまうとか。

●山野 グループポータルのトップページにある「新着情報」や「おすすめ情報ピックアップ」は、管理画面を通じて各社のWeb担当者が直接更新できるようになっていると言いましたが、この仕組みは彼が自分で考えて自分で作ったんですよ。

●かわち プログラムまで自分で書いてしまう編集長って、すごいですね。

●山野 うちのグループポータルの一番のリスクは、藤井が病気で倒れてしまうことです(笑)。

グループポータルとして各企業への「入り口」作り

●山野 グループポータルって、結局はグループ各社へのリンク集なんですよ。183社6団体※という大所帯ですから、全容を見渡す機会というのもそうはなく、社員でさえ知らない会社もあるんです。一般のお客様にはなおさら全容なんか見えるわけがない。じゃあ、そういう部分をどうやってお客様に紹介するかには苦心しましたね。※2006年10月1日現在

●藤井 各企業への「入り口」はいっぱい作りましたね。50音順、ビジネスジャンル別、など、とにかく入り口はいっぱい作りました。その結果が、今のトップページのナビゲーションです。

でも、グループ企業のリンク集というだけではちょっと寂しいので「阪急阪神研究所」という読み物コンテンツを準備しています。これは、私たちのグル.ープはこういうグループですというのを伝える直球勝負のコンテンツですね。ただ、凝りすぎると嘘っぽくなるし、頑張りすぎてもダメ。さじ加減には苦労しています。大変な労力をかけたけどお客様は「あ、そう」で終わってしまうこともありますから。

●山野 阪急阪神ホールディングスグループ全体としての最大公約数というものはないんですよ。阪急交通社と宝塚歌劇に同じヘッダーを使えと言っても、それはムリな相談でしょう? 多種多様なグループの事業を表現する1つの解は、なかなか見つかりません。でも、「リンク集」と割り切って考えると、ちょっとは気が楽ですよね。グループポータルではグループ企業へのリンクは作ります、でも、そこから先は皆さんでやってくださいね、ということです。実際、会社情報やIRのページも、私たちではなく広報担当やIR担当が運用しています。

●かわち そこで、担当者会が活きてくるんですね。

●藤井 そうですね。担当者会ができて1年後ぐらいから、各担当者は「ウェブを使わんとあかん」と、だいぶ意識が変わりましたからね。

●山野 グループの社員もこのウェブサイトを結構見てると思いますよ。大所帯のグループを理解する一助にはなってるんじゃないでしょうか。また、社員も「阪急」や「阪神」に対してロイヤリティの高い顧客でもありますし、社員が利用してくれるというのはいいことだと思います。

●藤井 フラットに情報共有できて、また、理解できる仕組みはいいですよね。

ウェブマスターに必要なのは経験よりも会社への愛

●山野 自分の会社やグループについての理解って、ウェブマスターの必須条件だと思います。経験があるとかないとかよりも、グループのことをどれだけ理解しているかのほうがよっぽど大事ですよね。あと、どれだけお客様の信頼に応えようとするか、また応えるか、ということが一番ですね。藤井は、そのへんが半端じゃないので、任せていて安心ですし、ある意味藤井を尊敬しています。

●藤井 グループの理解といっても、難しいことじゃないんです。社内で今どんなことが起きているのかを知ることが基本ですよね。これもメルマガと一緒で「待ち」ではなく、「攻め」の情報収集に自分から動くときもあります。まあ、グループの本業が「サービス・エンタテインメント」であるというのも大きいですよね。お客様第一ですから。

●山野 お客様第一ということを考えてウェブサイトを作った象徴が、阪急百貨店のロゴがトップページにあることですね。

●かわち どういうことですか?

●山野 阪急阪神ホールディングスと阪急百貨店は、会社組織としては資本関係が薄いグループなんです。そのへんの事情を考えると、ここに阪急百貨店のロゴがあるのはおかしいんです。でも、お客様にはそんなこと関係ないじゃないですか。「阪急」という言葉で浮かぶのは「電車」という方もいれば「百貨店」という方もいらっしゃる。そういうお客様に対して、あれは別グループなんでリンクしてませんとは言えませんよ。同じ「阪急」というブランドを思い浮かべてくださっているお客様ですから。

●藤井 アクセスしてこられる方の多くは電車やバスといった交通関連の情報を求めてられているということも、ログ解析を通じてわかっています。でも、交通関連へのリンクはナビゲーションの端に置いてあります。多くの方がそれらの情報を求めてくださっているので、本来ならもっと目立つところにナビゲーションがあってもいいんですが、求められているリンクはどこにあってもクリックされるんですよ。ここだけお客様第一とは少し矛盾しているんですが、我々としては交通関連以外にもグループ企業はいっぱいあるので、そちらも見てほしいという思いもありまして。ジレンマですね。

●山野 でも、お客様第一という信念があると、ぶれることが少ないから、精神的にはラクですよ。

とはいえ、最大公約数がないということは、完成型がない、ということなんですね。グループみんなの声に応えられているかも自信はないんです。もちろん、お客様の期待に応えられているかということもですが、これからは皆さんのニーズを探っていって、もっと進化させたいですね。

●藤井 私が今後気にしたいのはユーザーインターフェイスですかねえ。人間工学というようなところに踏み込んでしまうかもしれませんけれど、ホームページをご覧いただくお客様にいかにスムーズに情報を見ていただくかといったことをもっと考えたいですね。

●かわち 今日はありがとうございました。

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@HANKYU+HANSHIN ウェブサイト

http://www.hankyu-hanshin.co.jp/

阪急阪神ホールディングスグループのポータルサイト。エンタテインメイント・スポーツ・レジャー・出版、海外旅行・国内旅行、ホテル、ショッピング・グルメ、住まい・まちづくりなど、グループ国内外百数十社の情報が掲載されている。
阪急阪神ホールディングスの会社概要

(2006年10月1日 阪急ホールディングス株式会社から商号変更)

  • 設立: 1907年10月19日
  • 主な事業内容 :「阪急電鉄株式会社」「阪神電気鉄道株式会社」「株式会社阪急交通社」「株式会社阪急ホテルマネジメント」の4社を主な事業内容に持つ純粋持株会社

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※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.5』 掲載の記事です。

※社名、所属部署、利用サービス、価格など、この記事内に記載の内容は、取材当時または記事初出当時のものです。

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