デジマ4つのマイルール

なぜ、分析結果は無視される? 日本経済新聞社のマーケターが実践する「人を動かす数字の使い方」

日経のマーケターが語る、数字を価値に変え、信頼を築くための4つのマイルール。若手デジタル人材必見!

事業会社において、ときにマーケターと他職種との間に垣根ができてしまうこともあるだろう。つい専門用語を多用してしまい意図が伝わらなかったり、現場を深く理解しないまま施策を実行してしまった経験がある人もいるかもしれない。

そんな事業会社のマーケターがもつべき心得について、日本経済新聞社のマーケターである岩田夏紀氏は「数字を翻訳し、判断を加速することがデジタル人材の役割」と語る。そんな岩田氏に、制作会社を経て事業会社のマーケターになった経緯や、仕事をする上で大切にしているルールについて聞いた。

日本経済新聞社 メディアビジネス ソリューション推進ユニット 商品開発グループ プロデューサー 岩田 夏紀氏

大手から制作会社への転職を決意

4つのマイルール

ルール1 確かな実力をつけるために自ら手を動かす

日本経済新聞社のメディアビジネス部門で、Webメディアの成長を牽引する岩田氏のキャリアは、凸版印刷(現:TOPPAN)のWebディレクターからスタートした。入社して約5年、大手のクライアントを担当して大規模なプロジェクトを任されていたが、岩田氏は漠然とした不安を感じていた。

大手の制作会社と組んでプロジェクトを進めることが多く、ディレクターやデザイナー、エンジニアは制作会社の方でした。この方たちのキャッチアップがうまければプロジェクトはスムーズに進み、私自身が手を動かす機会はほとんどありません。果たして自分はプロジェクトに必要なのだろうか。このままでは実力も伸びていかないのではないかと思っていました(岩田氏)

大手企業に所属していると、岩田氏が感じたような違和感にぶつかる場面もあるだろう。岩田氏が実力をつけたいと強く思った背景には、学生時代に映像制作をしていた経験が少なからず影響している。

Web業界でいきなり監督の立場になってしまったという感覚でした。映画監督になる人は最初から監督なのではなく、自ら撮影や編集をしたりADなどの経験をしてから監督になるのではないでしょうか。Webディレクターも同じで、当時はデザインや開発など何かしらの専門スキルをもつ人が、Webディレクターになるケースが多かったのです(岩田氏)

現在ではTOPPANはDXを実行する企業となり、残っていても岩田氏はスキルアップしていたかもしれない。しかし、自ら手を動かせる実力をつけたかった岩田氏は、制作会社へ転職した。

転職した制作会社のカルチャーは岩田氏にフィットし、経験とスキルを積み重ねることができた。ただ、どんどん若手が入社してくるため、入社して3年半ほど経つと岩田氏はもう若手ではなくなっていた。

当時のWeb業界はデジタルサイネージやOMOといったリアルとデジタルを融合させる施策がトレンドになり始めた頃でした。OMOに興味を持った私は店舗をもつ事業会社を経験したいと考え、事業会社に転職するなら今が最後のチャンスかもしれないと思いました(岩田氏)

転職を通じて得た多角的な視野を礎に、マーケターとして活躍の場を広げる岩田氏

数値を測定するだけで満足してはいけない。

ルール2 数値を読んでどう活用するかに、デジタル人材の価値が発揮される

岩田氏が転職したのは『earth music&ecology(アース ミュージック&エコロジー)』などの女性アパレルブランドをもつストライプインターナショナルだ。入社当初はWebマーケティング部で働いていたが、さまざまな経験を積むため、earth music&ecologyの事業部でECサイトを任されることになった。この経験が岩田氏に大きな影響を与えることになる。

事業部では週次ではなく日次で売上の推移をチェックします。ECの担当者なら昨日の自社ECの売上、ZOZOの売上数値やPVを出し、毎日数字を追っていくのです。そして、売上に伴う在庫数の予測と実数値も確認します。数字を確認していると、突然売上が上がったのはSNSで取り上げられていたなどの良い効果にもすぐに気づくことができ、悪い効果であっても同様です(岩田氏)

事業部での経験はアパレルビジネスの実情を知る機会にもなった。そのひとつが在庫管理だ。例えば、北海道の支店にだけ在庫があり、他の支店で購入したい人がいたとする。取り寄せればいいと考えるかもしれないが、商品を移動させるには時間とお金がかかる。急げば空輸となり輸送費は上がり、船便はコストを抑えられるがその間に季節が変わり、服の需要がなくなるかもしれない。

在庫管理や売上と利益、粗利が頭に入ってくると「この商品は〇割引までなら利益が出る」といった判断ができるようになりました。こうした経験を通じて、ECはWebの仕事というよりセールスの一部だと実感しました(岩田氏)

こうしたリアルな数字に日々向き合う姿勢は、その後の岩田氏のマーケターとしての土台になった。しかし、「大事なことは数値を測定できることではなく、どう活用するか」だと岩田氏は語る。

測定した数値自体は事実でしかなく、それだけでは誰も興味をもちません。「この前の施策が当たったから数字が伸びている」という評価に使ったり、数値にストーリーを載せて、新たな提案に活用することが大事です。数値をどう扱うかがデジタル人材の腕の見せ所です(岩田氏)

これまでのキャリア

『日経BizGate』リニューアルの裏側

ルール3数字を「翻訳」することで、事業判断をスムーズに進める

岩田氏が日本経済新聞社に転職したきっかけは、凸版印刷時代のクライアントから「もう一度一緒に働きたい」と声をかけられたことだった。

これまで制作会社と事業会社を経験していましたが、メディアの経験はなかったので、デジタルの業界の中でまだ自分が見たことのないものを見られるのではないかと思いました。また、日本経済新聞はメディアの中でもデジタルの立ち上げが早く、組織も確立されていると聞き、興味をもち転職しました(岩田氏)

入社して驚いたのはこれまでの会社との文化の違いだ。新聞社で働く人たちは文章を読むのも書くのも得意で、社内資料は文字が多用されているものが多い。さらに、新聞広告は掲載日を確実に保証できない。大きな事件が起きると急遽紙面が差し変わることもあるからだ。
岩田氏は日本経済新聞社での自分の仕事は「翻訳と判断」だと語る。

デジタルは専門用語が多すぎて、そのまま話すと伝わらないことが多いです。ですから、なるべくCTRなどの単語を使わず「どれだけクリックにつながったか」とかみ砕いて話すようにしています。ささいなことですが、私は外部のコンサルタントや制作会社ではなく、編集やセールスの方と同じ言語を話して、同じ場所に向かう仲間だと認識してもらうために大事なことです。数値がもつ意味を私が翻訳することで、編集長が素早く判断できるようになります(岩田氏)

この考えを基に、岩田氏が手掛けたのは『日経BizGate』というサイトのリニューアルプロジェクトだ。

コンセプトについて編集部と何度も話し合いを重ねました。その結果、世間一般でいわれる良いサイトである以上に、「自部門のビジネス成長を支援する」という事業目的に即したサイトにしようと目標を定めました。その目標を技術的に実現するために、開発会社やデザイン会社に正しく翻訳するのも私の役割です(岩田氏)

例えば、リニューアル後のサイトは編集部の作業負荷を減らせるよう、サイトのトップ6記事だけを編集長が決定すれば、他の記事は自動でセレクトされる仕様にしてある。

また、より多くの記事をユーザーに見てもらうため、TOPページに多くの記事が露出できるようにして、記事が重複することがないようロジックを考えた。この仕様はリニューアル前のユーザー調査の結果から決めたものだという。

アクセス分析で「もっと読む」というボタンがよく押されていることがわかりました。当時、TOPページには5つの記事が掲載されていましたが、それでは物足りなく感じているユーザーが多かったんです(岩田氏)

サイトをリニューアルした効果はすでに出ており、セールスがタイアップ広告を提案しやすくなったという。クライアントとリレーションを取りやすい仕掛けを組み込んだことで広告出稿のメリットも伝えやすくなり、商談数の増加につながっているそうだ。

デジタルと現場をつなぐ架け橋に

ルール4勤勉で、面倒見の良い存在として信頼関係を築く

事業会社のマーケターとして仕事をする上で岩田氏が大事にしてきたのは「勤勉で、面倒見の良い存在であること」だ。

アメリカのプロジェクトマネジメントの団体が作っているガイドラインの最初に書かれている言葉から影響を受けました。デジタル業界で仕事をする上で大事な心構えだと思っています。新たな技術や知識をキャッチアップするには勤勉であることが欠かせません。そして、後輩や他の部署の方にとって面倒見の良い存在でいることも心がけています(岩田氏)

岩田氏がこのように考えるようになったのは、事業会社に転職をしてからのことだ。制作会社にいた頃は、同じリテラシーや知識を持つ人ばかりだったが、事業会社にはデジタルの知識を持つ人が少ないため、質問を受ける機会が増えたのだ。

少し忙しいからといっておざなりな対応をしたら、私だけでなくデジタル業界や技術もつまらないものだと思われてしまうかもしれません。事業会社では売上を上げるために外で働く人たちが大勢います。その方たちからすると、社内にいてPCと向き合うマーケターは何をしているかわからない人になりかねません。社内の信頼関係があってこそ、同じ目標に向かっていけます。自戒を込めて、面倒見の良さを忘れないようにしたいと思っています(岩田氏)

4つのマイルール(再掲)
用語集
CTR / DX / EC / OMO / PV / SNS / キャリア / タイアップ広告 / デジタルサイネージ
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