デジマ4つのマイルール

会議前にやってみてほしい! ネスレ日本のマーケターが実践している「相手を動かすひと工夫」

デジマ領域で活躍する人は、どんな価値観で働いているのか。約700万人の会員組織を抱えるネスレ日本・守安さんの“マイルール”を聞いた。

「なぜあの人は動いてくれないのか」「伝えたつもりが伝わっていなかった」——そんなコミュニケーションのズレに悩んだことはないだろうか。

相手に行動してもらうには、まず“相手を深く知る”ことが欠かせない。ネスレ日本の守安氏は、会話や資料の先にいる「受け手」を徹底的に分析し、伝え方を設計している。

守安氏が実践するのが、「オーディエンスアナリシス」。相手の立場や思考を読み解き、伝え方を戦略的に組み立てる手法だ。ビジネスに欠かせない“人を動かす力”をどう磨くか。そのヒントとなる守安氏の実践とマイルールに迫る。

ネスレ日本株式会社 デジタル&Eコマース本部 データストラテジー&アクティベーション部 守安梨紗氏

表層的な数値を追って、わかった気になっていた

4つのマイルール

ルール1 自分の思考や結論を疑い、考え抜く

ネスレ日本はモノを売るだけでなく、体験やサービスを含めたプラットフォーム構築を行っている。会員組織は700万人に上り、最先端のデジタルマーケティングを行っていることでも知られる。新卒で消費財メーカーに入社し、リサーチや戦略立案の仕事をしていた守安氏は、マーケターとして新たなチャレンジをしたいと考えてネスレに転職した。

入社してみると驚くことだらけでした。700万人以上の顧客データをセグメントし、それぞれに向けたコンテンツをつくり、パーソナライズしたコミュニケーションをしていることが斬新でした(守安氏)

守安氏は半年ほど「キットカット」の担当をした後、「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」のブランド担当となり、ネスレ通販というECサイトの販売促進を担当した。前職ではデータ分析やユーザーインタビューから消費者のインサイトを探り、戦略に落とし込む仕事をしていた守安氏。自分の強みである消費者理解を生かして、キャンペーンの提案・実行をしていた。

最初の数年間、おおむね良い結果を残せていたが、守安氏には気にかかることがあった。

上司から『ブランド担当者としての意識が足りない、甘い』という指摘をずっと受けていたんです。正直なところ、結果を出しているのになんでだろうとモヤモヤしていました(守安氏)

モヤモヤした気持ちを抱えてしばらく経ったある日、守安氏は上司の言っていることに思い当たる瞬間があったという。担当ブランドの売上進捗を確認していたときに、「ここは売上の調子がよかったけど、なんでだと思う?」と上司に聞かれたとき、すぐに答えられない自分がいたのだ。

デジタル施策は結果がとてもわかりやすく、何か仕掛けたら次の日にはある程度結果がわかります。そういった数値だけを追っていると消費者のことがわかった気持ちになってしまうんです。

でも、数値の要因が答えられなかったとき、私は表層的なものだけを見て判断しているんじゃないかと感じました。すると、これまでの施策が薄っぺらいもののように思えて、もっと考える余地があったんじゃないかと急に恥ずかしい気持ちになったんです(守安氏)

それからは思いついた施策があっても「本当にこれでいいのか」と疑いの目をもって深掘りするようになった。たとえば、特定ページの離脱が多く、「ページのコンテンツの内容が良くないのでは」と思ったときにはすぐアンケートを取った。自分の仮説が正しいのかを確認するためのアンケートだったが、結果からは思わぬことがわかった。

『ページが読み込めない』という意見が大半を占めており、使用画像が重くて読み込みが遅くなっていたことがわかりました。もし、アンケートを取らずに自分の思い込みで進めていたら、誰も見ていないコンテンツの内容を改善し続けていたかもしれません。自分の思考だけに頼らずに、まずユーザーに聞いてみる、または社内の関係者に意見を聞いてみるなど、自分の考えが本当に合っているのかを確認するようになりました(守安氏)

これまでのキャリア

畑違いの部署に異動して後悔

ルール2 思わぬキャリアチェンジは掛け算のチャンス

守安氏は3年前に現在所属しているデータ戦略部に異動した。データ戦略部はマーケティングオートメーションやパーソナライゼーションなど、マーケティング施策を行う裏側のツールやデータを扱う部署だ。守安氏はすでにユニットマネジャーに昇進していたため、実務としては未経験の領域で、部署のマネジメントをすることになった。

戸惑ったのは、上司や部下の話を半分も理解できないことだった。データ戦略部の業務はIT関連の知識を必要とするため、専門用語にまったくついていけなかったのだ。

これまで行ってきたマーケティング施策の裏側には、自分の知らないこんな領域が広がっていたのだと驚きました。なぜ、こんな畑違いの部署に異動しちゃったんだろうという後悔と、何もできない自分への腹立たしさ、私にはどうせ何もできないという諦めの気持ち——いろいろな感情が混ざり合っていました。異動して1年くらいは本当にきつかったです(守安氏)

「つらすぎて異動当初のことはあまり記憶がない」と話す守安氏だが、会議が終わるたびに参加者を捕まえてわからないことを質問したり、本を買って調べたりしながら、業務への理解を深めていった。そして、ITの基礎を少しでも理解しようと、「ITパスポート」資格も取得した。

徐々にIT関連の知識が深まるにつれて、守安氏はマーケティングとITの両方を理解できることのメリットに気づいていく。守安氏にはブランド担当の経験もあり、マーケティング施策の裏側も理解している。すると、ブランド担当から施策の相談を受けたときに「このデータを活用したら面白いことができるかもしれない」というアイデアが浮かぶのだ。

マーケティングとITの両方を理解している人は、社内にも非常に少ないことに気づきました。2つのキャリアをいい感じに掛け算できれば、珍しい経験を積んでいる人として周囲や会社にベネフィットが与えられるかもしれないと思うようになりました(守安氏)

マーケティングとITの知見をかけ合わせ、新たな価値創出に挑む守安氏

相手を理解し、共感を生むコミュニケーション術とは

ルール3「オーディエンスアナリシス」を常に意識する

守安氏の仕事は社内の多くの関係者と関わる機会が多い。そんなときに意識しているのが「オーディエンスアナリシス」だという。オーディエンスアナリシスとは、自分が情報を届けたい相手(オーディエンス)の特性を知り、伝える内容や方法を調整するために分析することだ。新卒時代の上司に教わったのだという。

会議に臨む前に、相手のバックグラウンドや仕事上の目標を考えます。そして、自分がその会議で相手にどんな気持ちになってほしいか、どんな行動をしてほしいかを紙に書き出し、頭の中を整理してから臨むようにしています(守安氏)

オーディエンスアナリシスを行うメリットは、一方的に自分の要望や想いを伝えただけで会議が終わってしまうことがなく、伝えたいことがきちんと相手に伝わることだ。

ITとマーケティングの担当者では普段よく使う言葉が違うので、どちらかが専門用語で話しはじめると、相手が置いてけぼりになってしまうことがあります。部署や役割によって大事にしていることや目標が異なるため、相手にどう伝えるべきかを考えるようにしています(守安氏)

また、守安氏はマネジャー職になって6年目を迎えた。これまで一貫して大事にしてきたのはメンバーの多様性を生かすことだという。

それぞれに得意・不得意があって、物事の好き嫌いもあります。その違い自体が素晴らしいことだと私は思っているんです。それぞれが好きや得意を持ち寄って協力するからこそ、みんなでワクワクするような仕事を実現できる。そんな瞬間が一番楽しいです(守安氏)

メンバーが好きや得意を持ち寄れるチームの雰囲気づくりのために、守安氏がしていることがある。それは、新たなメンバーが増えたときに、まず自身の苦手なことを伝えて協力を頼むことだ。

私は予算管理がとても苦手で、管理職としては致命的かもしれません(笑)。『予算の数字がオーバーしないように、みんなで目を光らせてね』と伝えて、一緒に管理してもらっています。先に伝えておけば助けてもらえるし、『みんなパーフェクトじゃなくていい』と伝えたいんですよね。そうすれば、誰かの苦手なことを強みとしている人がカバーしてくれて、多様性を生かせるチームになります(守安氏)

「みんなパーフェクトじゃなくていい」。守安氏が目指すのは、違いを力に変えるチームづくり

生成AI活用で月に数千万円の売上創出!

ルール4 メンバーの「やりたい」「ワクワク」を大事にする

自身のマネジメントスタイルについて「メンバーの自主性を生かすために、あえて仕事を与えないようにしている」と守安氏は話す。部署としてやるべき施策のアイデアが浮かんでいても、ギリギリまで言わずに、メンバーそれぞれにやりたいことを提案してもらうのだという。

具体的には、会社の年度始まりの1月に向けて、年末休みの宿題として「こんなことを自分はやってみたい、ワクワクする」ことを粒度は問わず三つ考えてもらうようにした。そして、年始に宿題発表会を行っている。

各自の「やりたいこと」を引き出し、それをうまく整理して会社の方針に結びつけるのが私の役目です。みんなの熱量が高く、いい結果が生まれそうだというプランを見せられれば、会社はそれを承認してくれます。だから、こちらから仕事を与えるのではなく、メンバーが熱量高く取り組めることを大事にしています(守安氏)

ネスレ日本では「EverydayAI」を掲げ、業務効率化や新たなビジネス価値をつくるために生成AIの活用が推奨されている。実際に守安氏の部署でも生成AIを活用した事例も出てきている。

具体的には、ネスレ通販が展開するコーヒーの定期便サービスにおいて、クレジットカードの有効期限切れによって売上損失が起きているという課題に、生成AIを活用したのだ。

カードが有効期限切れになりそうな会員を抽出してメールを送ったり、サイトにログインしたときにポップアップを出すというシンプルな仕組みができればいいのですが、実現には大きな課題がありました。500以上にもなる取引データのファイルを開き、対象会員をピックアップする作業が非常に煩雑で、人が行うことが現実的ではなかったのです(守安氏)

500以上のファイルからワンクリックで対象の会員データを抽出


守安氏のチームは、生成AIを使って対象顧客を抽出するプログラムを開発できないかと模索した。何度も生成AIとのやり取りを重ねながら、最終的にワンクリック、月にわずか5分ほどの作業で対象の顧客IDを抽出できるようになった。この取り組みによって月に数千万円の売上創出につながったのだという。今後の展望について、守安氏はこう語った。

今の部署はITとマーケティングの知識が必要なハイブリッドな部署で、とても面白い仕事が実現できます。今後もマーケティングと最先端技術を掛け合わせながら、マーケティングを自動化したり、パーソナライゼーションでコミュニケーションを最適化させたり、新たな施策をどんどん作っていきたいです(守安氏)

4つのマイルール(再掲)
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