2児の母、キャリアに迷ったらワクワクする方へ。アドビのマーケティングマネージャーが語る決断のポイント
幼い子供がいるときの転職。やりたい仕事があったとしても「転職の時期ではないかもしれない」と二の足を踏む人もいるだろう。アドビ株式会社でマーケティングを担当している松井 真理子氏は、子供が4歳と2歳のときに最初の転職をした。
子供がまだ幼かったので周囲には驚かれました。転職して忙しくなり、子供にさみしい想いをさせてしまうかもしれない。でも、母親が楽しく仕事をしていた方が家庭にもいい影響があるだろうと思ったんです(松井氏)
松井氏はセキュリティソフトウェアベンダーに転職し、「Adobe Marketo Engage」というMAの導入プロジェクトに参画する。その出合いが松井氏のキャリアを大きく変えていく。そんな松井氏のキャリアや仕事の4つのマイルールについて聞いた。
子育てをしながら、新しいキャリアの道へ
ルール1ワクワク仕事をしている方が家族にとってもいい
松井氏が1度目の転職をしたのは、子供が4歳と2歳のときだった。新卒で入社した半導体の商社では、展示会やセミナー、メールマーケティングなどを担当。2度の育休・産休を取得し13年勤めた。仕事と育児の両立に理解のある会社で、ワーキングマザーも多かったという。なぜ、松井氏は転職を考えたのだろうか。
マーケティングの活動が業績に貢献している肌感覚はあったものの、数値で示せないことにモヤモヤしていました。よりレベル高くBtoBマーケティングで収益貢献したいと感じていました(松井氏)
1社目の半導体の商社では、10万件以上の顧客データからターゲットを絞り、それぞれに合うメールを送っていた。今でいうところのMA(マーケティングオートメーション)を使う業務を、手動で行っており、途方もない作業だったという。BtoBマーケティングの世界を広げたいと考え、2013年にセキュリティソフトウェアベンダーへ転職した。海外のMAベンダーがまだ日本に上陸していない頃である。
しかし、松井氏も子供が幼い時期の転職に不安がなかったわけではない。1社目の通勤時間は電車で片道15分だったが、新しい職場は1時間かかる。育児で時間が制限される状態で迷いもあったという。最終的な決め手は何だったのだろうか。
仕事をしていてもマーケティングで貢献を示せないままだとハッピーではなく、マーケティングが進んでいる企業で学びたい、どんなオペレーションモデルが世の中にはあるのだろうとワクワクしました。転職したら、子供たちに寂しい思いをさせてしまうかもしれない。でも、母親が楽しく仕事をしている方が家族にとってもいいと考え、転職決断しました(松井氏)
ルール2マーケティングは学問。経験で判断しない
松井氏が転職した後、参画したのは「Adobe Marketo Engage」というMAの導入プロジェクトだった。3年半にわたる長期プロジェクトで、松井氏は外資系出身の同僚から多くのことを学んだ。「マーケティングは確立された学問だから、経験で判断しないように」という言葉が印象に残っており、今でも指針としているという。
同僚は、海外の有名大学でマーケティングを体系的に学んだ上司のもとで働いた経験がありました。同僚からは『いくら残業しても仕事はできるようにならない』とも言われ、どんなに忙しくても勉強する時間を確保すれば、結果的に早く成長できると教わりました。そして、私が育児で時間がないことを理解したうえで『これを読んでおくといいよ』と、いつも課題図書を提案してくれたのです(松井氏)
松井氏は往復の通勤時間を読書の場にしていた。育児と仕事の両立で疲れていると1、2ページ読んで寝てしまうときもあるが、本を開く習慣をつけて少しずつでも読み進めることに意味がある、ということが分かった。キッチンでお湯をわかしている隙間時間で読むなど、読書にはまとまった時間が必要だという固定概念を捨てた。多いときは1カ月に5冊ほどの課題図書を読んだという松井氏に、マーケティングの良書の見分け方を聞いた。
翻訳本は、数多くある本の中から訳すべきものとして厳選されているので、学びのあるものが多いです。逆に、翻訳本を要約して日本語で書かれている本は内容が薄いこともありました(松井氏)
課題図書を多数読み、マーケティングの体系的な理解が進んだ松井氏が気づいたのは、「プロダクトやお客様像の解像度が高くなければ、マーケティングはできない」ことだった。そのため、顧客に話を聞く機会を増やすことにした。
セキュリティソフトウェアベンダーでは、お客様の事例紹介の制作現場に立ち会いました。お客様が何を考え、どんな喜びや不安があるのかを知らなければ、お客様に届くメッセージは浮かばないからです(松井氏)
ユーザー会への参加がきっかけで、アドビへ転職
ルール3与えられた機会は自信がなくてもつかむ
松井氏は、MA導入プロジェクトが一段落した後、同僚とともにAdobe Marketo Engageのユーザー会に参加するようになった。ユーザー会は、Adobe Marketo Engageを利用するユーザーが事例などを共有する場で、マーケターの横のつながりをつくれる。松井氏は参加を重ねるうちに、ユーザーの立場で自社事例を話したり司会をしたりするようになった。
人前で話すのは本当に苦手でした。同僚が『前に出て話そうよ』と言ってくれたので最初は仕方なくやってみたんですが、いいことばかりでした。人前で話すには、自分の仕事を深く理解する必要があるし、興味を持った人が話しかけてくれるんです。人見知りで自分から話しかけるのが苦手だったので、ありがたかったです(松井氏)
やがて、Adobe Marketo Engageのユーザー会への参加や登壇が、現在松井氏が所属しているアドビへの転職にもつながっていく。転職のきっかけは、ユーザーとしてユーザー会で活動してきた松井氏を長年見てきたアドビ社員からの勧めだった。「新体制になるアドビに来ていただくのは松井さんにとって非常に良い機会になると思う」と松井氏に声がかかったのだ。その誘いをどう思ったのだろうか。
前職でのBtoBマーケティングの仕事は楽しかったのですが、プロダクトの領域であるセキュリティは難しいと感じていました。アドビならお客様はマーケターであり、私自身もマーケティングが好きです。ユーザーの気持ちもわかるうえにプロダクトであるAdobe Marketo Engageにも詳しい。マーケターの役に立てるマーケティングをすることにワクワクがとまりませんでした(松井氏)
ルール4女性のマーケターを後押しする
Adobe Marketo Engageは現在アドビが提供する『Adobe Experience Cloud』内の製品として提供され、松井氏がマーケティングを担当している。転職したことによって、心境の変化や新たな気づきはあったのだろうか。
アドビに入社して、日本とグローバルのマーケティングの差をより強く感じました。海外では大学でマーケティングを体系的に学び、マーケティング部門はCRMとMAをつないで組織の収益貢献を示せている。日本の場合は特に経営層が
『成功している組織のグローバルオペレーションモデルとは何なのか』を理解することから始める必要があります。また、アドビでユーザー会を主催しマーケターの方々と話す機会が増え、自分がマーケターの役に立てる実感をもつようになりました(松井氏)
そんなことを考えていたときに社内のリーダープログラムを受ける機会があり、松井氏は自らのビジョンとミッションを言語化した。ビジョンは「日本のデジタルマーケティングがグローバルの競争と戦える強さを持つ」、ミッションは「BtoB分野の女性の成長と活躍を支援する」だ。
松井氏が特に力を入れたいのは、BtoB分野で女性のマーケターを後押しすること。海外では女性マーケターのリーダーも多いが、日本ではまだまだリーダーが少ない。MAを使いこなすことで、彼女らの成果・評価につなげられるようにしたいという。
『昇給や昇進はしなくてもいいです』『人前で話すのは苦手です』という女性は非常に多いです。私自身もそうなので気持ちはよくわかります。実際に『ユーザー会で事例紹介をしてほしい』とご依頼すると男性に断られることはほぼなく、女性には断られることが多いです。でも、思いきってチャレンジすると変化が訪れます。たとえば、ユーザー会で登壇すれば参加者から話しかけられる機会が増え、新しい情報が得られます。人脈が広がれば、他のマーケターから話を聞けるため、代理店やベンダーに頼りきりにならず仕事を進めていけます。結果、成長し、自社内で活躍できるようになっていくのです(松井氏)
実際に、ユーザー会の参加者から「今の会社を辞めようと思っていたけど、ユーザー会に参加して、まだまだやるべきことがあると気づいた」という感想をもらったこともあるという。
私自身、ユーザー会に参加したことで大きく世界が広がり、成長させてもらいました。多くのマーケターにユーザー会を通じて、仕事のモチベーションを高めてもらいたいです。そのためにも、初めての方も入りやすい雰囲気づくりを心がけています。マーケターの方が横のつながりを広げられる場にしたいと思っています(松井氏)
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