世界中に数多あるマーケティング関連本。どれを読めばマーケティングが分かるようになるのか。何から読めばマーケティングを理解しやすいのかを見極めるのは大変困難です。
「いっそ、あのマーケターの本棚をのぞき見できたら良いのに……」
そんな願いを実現したのが、連載「マーケターの本棚」です。今回はAdobe Marketo Engageの「2023 Japan Adobe Advocates」を受賞した、旭化成エレクトロニクスの井上望(いのうえ・のぞみ)さんに、デジタルマーケティングを遂行するヒントになった1冊を紹介してもらいました。
<プロフィール>
井上望:2010年に旭化成エレクトロニクス入社。電子部品のアナログ・デジタル回路の設計を経て、2019年よりデジタルマーケティングを担う部署に配属され、webコンテンツの制作やニュースレターの配信、解析業務などに従事。2022年6月よりAdobe Marketo Engageを担当。社内外でマーケター市場の活性化への貢献が評価され「2023 Japan Adobe Advocates」に選出される。
マーケティングオペレーションの定義から施策まで総合的に学べる1冊
『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』
著者:丸井達郎 、 廣崎依久
この本は「MOps」とタイトルにある通り、マーケティングオペレーションの教科書です。前半では「MOpsとは何か、その役割と重要性」についてと「デジタルマーケティングのノウハウをいかにして組織に定着させるか」について説明しており、後半はMA(マーケティングオートメーション)ツールやCRMなどのシステムの仕様や使い方、施策の回し方や効果測定の仕方などについて、総合的な視点で具体的に説明しています。
属人的になりがちなデジタルマーケティングのノウハウを組織に定着させる方法を解説
日本で一般的にデジタルマーケティングとかMAというと、広告施策やメールマーケティング、webサイトのコンテンツマーケティング、ECサイトなどを思い浮かべる人が多いと思います。これらはフィールドマーケターの管轄とされています。
MOpsは、マーケティングプロセスのDX化において、そのプロセスの設計・運用・管理を担います。「マーケティングとITの架け橋」とも呼ばれ、マーケティングテクノロジーの専門知識と分析力、実行力が求められます。欧米では6割以上の大手企業が専門チームを持っていますが、日本ではあまり明確に認識されていません。
本書によればフィールドマーケティングをやりつつMOpsの業務もこなせるスーパーマンはほぼいません。しかしMOpsはとても重要な仕事で、MOpsがないと施策を打つばかりで効果測定や改修まで手が回らなかったり、ノウハウが組織に定着せず成果が出なかったりすることが多い、と書かれています。
また本書には、日本では属人的になりがちなデジタルマーケティングのノウハウをいかに組織に定着させるかも書かれていました。それは、全ての業務をタスク管理して項目や担当者、期限、必要な工数までをシステムに登録し、ノウハウは全て社内wikiに一元管理して誰でも同じことができるように、成功事例を効率良く水平展開するテンプレートやマニュアルを作るという手法です。
なお、このような手法は欧米に適したやり方だと思われがちですが、実は日本の製造業はこうした管理がすでに確立されているとも言えるそうです。製造業の現場では、各工程の作業時間や収率、出荷予測、責任者、リソース配分、コストなどを厳格に管理しており、収率が悪ければ原因を解析して改善するというサイクルを実現しています。
マーケティングも製造業と同じことをやるだけ、と考えるとすっと頭に入ってきました。
「ツールを導入すれば効果が出る」という発想から脱却する組織作り
日本の企業は「とりあえずツールを導入すれば効果が出る」「何か施策を打てば解決できる」と思いがちです。しかし本来はツールをどう使うか決めてから導入すべきですし、何を解決したいか決めてから施策を打たなければ改善サイクルが回せません。
そして、専門的なシステムを導入し活用するためには「組織デザインから整える必要がある」そうです。とはいえ、一般社員がいくら「こうしなきゃ」と声をあげたところで、組織の構成まで変えることはできません。やはり、経営層が根本的な課題や解決策をしっかりと理解し、トップダウンで進めていく必要があるのです。
実は、当社も2020年からAdobe Marketo Engageを運用していましたが、その良さを活用しきれておらず、なかなか効果を実感できていませんでした。しかし本書の著者である丸井さん、廣崎さんに、本書に即した内容のコンサルティングをしていただき、組織体制やシステム連携など、動かしにくい部分から大きく変えることができました。
例えば、昨年から私はAdobe Marketo Engage担当者としてMOps業務の専任となり、web実装やインフラ担当、フィールドマーケターも専任担当者が配属されています。
システムについても、これまではAdobe Marketo EngageとCRMが理想的に連携できていない状態でした。「CRMは営業の持ち物、MAツールの情報で上書きしないように」という意識が優先されていたのです。それが本書に即したコンサルティングのおかげで、営業部門まで含めて運用ルールを合意形成でき、システムも理想的な形にトータルコーディネートされつつあります。
各種ツールの導入検討時や、導入後に効果を実感できていない人におすすめ
本書ではAdobe Marketo Engageだけではなく、その他のMAツールやSFA、CRMなどの一般的な仕組みも書いてあります。とはいえ著者がもともと株式会社マルケト(現アドビ株式会社)にいらっしゃった人で特に詳しく解説しているので、Adobe Marketo Engageユーザーにとってはより教科書となる1冊でしょう。
また、導入検討時に大事なことや、導入後どういう設定をして使っていくのか、一般的なシステムはこうなっている、といった仕組みについても書かれています
そのため、これから導入する人にはもちろん、以前の当社のように、導入済みだけれどうまく活用できておらず効果が実感できていない企業にとっても、とても頼りになる本だと思います。
どこができていてどこができてないかの答え合わせや、どのように改修すればうまく軌道に乗せることができるのか、立て直せるのかというヒントになるはずです。
各部門を統括することでより良い収益モデルを目指す「RevOps」
本書は主にMOpsについて書かれていますが、最後にRevOps(レベニューオペレーション)という組織についても書かれています。RevOpsとはMOpsよりもう一階層上位の概念で、MOps、セールスオペレーション、カスタマーサクセスをさらに統括する組織です。
会社全体として収益を上げていくためには、MOpsだけ頑張ってもダメ、セールスだけ頑張ってもダメ、そして様々なシステムを連携していかなければならない。
これらを1つのチーム(RevOps)が管轄してまとめていくことで、部場間の障壁もうまく調整されてより良い会社の収益モデルが実現される、と書かれています。
このRevOpsまで実現されると、本当にすごい会社になりそうだなあ、と最後までワクワクして読ませてもらいました。
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