100点と思った提案書が40点だった若手時代。マネーフォワードのマーケ部長が語る自分の成長戦略
「残業して一生懸命作った提案書。上司から大量のフィードバックをもらって凹む……」「先輩から引き継いだ案件。なかなかクライアントからの信頼を得ることができない」こんな悩みを抱えて、仕事から逃げたくなったことはないだろうか。
株式会社マネーフォワードで HRソリューション本部 副本部長・マーケティング部 部長を兼任している敏腕マーケターの松原央達(ひろみち)氏も若手のときに同じ経験をしたという。
そのときは確かに辛かったですが、俯瞰してみると辛いというよりも、何かいい経験ができたと思えてきました。やはり任されたことをやりたいし、そのためにはスキルアップしたいと考えています(松原氏)
松原氏は新卒でトランスコスモス株式会社に入社し、Web広告のコンサルタントを経験する。その後、リクルートを経て、2022年にマネーフォワードに入社。Webマーケティングの仕事が楽しいと語る松原氏に、キャリアや仕事のマイルールについて聞いてみた。
ギターで頑張っても関東で2万位、Web広告なら日本で100位以内を狙えるかもしれない
学生時代は音楽に明け暮れていたという松原氏。社会人になる前は「ボーナスをもらってギターを買って辞めようと考えていた」という。そんな松原氏に、まずは若手時代の話を聞いた。
ルール1信頼獲得に飛び道具はない。
愚直にファクトに基づいた改善提案
クライアントからの信頼をなかなか得られない。若手のときにそんな歯がゆい思いをしたことのある人もいるかもしれない。松原氏もその一人だった。
1社目でWebマーケティングのコンサルタントをしていたときのことです。前任の先輩がクライアントから非常に信頼されていて、その先輩だから発注しているくらいの入れ込み方でした。私が定例会議で資料の説明をしても、疑問点があるとお客様はすべて先輩に質問していました(松原氏)
「どうしたら、お客様の信頼を得られるだろうか」と考えた松原氏は、愚直にファクトに基づいた改善提案をすることにした。
定例ではコンバージョンが増えた、クリック率が下がったなど数値の変化が話題になりやすく、なぜそうなったのかという深掘りは後回しにされがちでした。しかし、数値の変化を検証していけば、成功の再現性を高められ、同じ失敗を繰り返さなくなります。だからこそ、数値が変化した理由を分析し改善策を考えました(松原氏)
松原氏が提出した資料は30ページと膨大で、はじめのうちクライアントは「定例会議の時間中にこの資料は全部終わるのかな」という表情だったという。しかし、定例を重ねるにつれ松原氏の分析や改善への信頼感が芽生え、前任の先輩ではなく松原氏に連絡が来るようになった。
こうした徹底した分析から入るという松原氏のこだわりは、別の案件で基礎化粧品のWebマーケティングを担当したときにも実を結んだ。
認知度が高くブランド名検索が多い商品でした。ブランド検索が多いことだけが注目されがちですが、ブランドワードに至るまでにどのような検索をしたかが気になり、データをすべて引っ張り分析しました。
すると、入口となっているのはすべて『肌悩み』に関連するキーワードだったのです。そこで関連するキーワードに対するコミュニケーションを考え、クリエイティブの検証ポイントに指標を設けてPDCAをまわしました。その結果、クライアントから効果を評価されて、当初数百万円だった広告費は数千万円にアップしました(松原氏)
ファクトに基づいて改善提案を考えて、結果が出るとクライアントが喜んでくれる。松原氏はそのことが純粋に楽しかった。
社会人になる前は、ボーナスをもらってギターを買ったら仕事を辞めようと思っていました(笑)。でも、Web広告に出会って変わりました。ギターでは頑張っても狙えるのは関東で2万位くらいだけど、Web広告なら日本で100位以内を狙えるかもしれない。そこから仕事がどんどん楽しくなりました(松原氏)
100点だと思って作成した提案書が、40点の出来だったと知った
ルール2スキルと信頼を備えた人からのフィードバックを積極的にもらう
クライアントのWebマーケティングで経験を積んだ松原氏が次に選んだのは、リクルートだった。リクルートグループのインハウス代理店に入社し、
切れ者の上司が多かったです。例えば、自分が必死に考え抜き100点だと思って仕上げた資料でも、上司から見ると40点くらいだったのです。上司から一言二言フィードバックをもらって資料をブラッシュアップすると、60点以上になるという経験を何度もしました(松原氏)
フィードバックでつらいと感じる瞬間もあったが「積極的にフィードバックをもらった経験により、今の自分の成長がある」と松原氏は語る。ただし、フィードバックをもらう人を選んでいるという。
フィードバックはさまざまな人にもらいにいくのではなく、『この人の〇〇のスキルを盗みたい』と思えて信頼感のある先輩や上司にお願いしていました。フィードバックのうまい方たちは、フィードバックされる側のことを理解しています。その人の強み、苦手なこと、今度どうなっていきたいのか。それらを踏まえて言い方を工夫したり、要点を絞ったりしてくれていたと思います(松原氏)
また、フィードバックを受けるうえで大事にしていたのは、自分が理解できていること、そうでないことを明確にし、論点をつくって相談することだ。そうすることで、より具体的なフィードバックがもらえるようになる。
成長につながるフィードバックを受けてきた松原氏は、現在マネーフォワードで20名以上のメンバーをマネジメントしている。過去の自分の経験を生かしながら、どう伝えるのがメンバーにとってよいのか、会社の軸だけでなくその人の働く軸で話すことを心がけているという。
実体験を通じて感じた、中小企業のバックオフィスの課題
ルール3社会課題にコミットしているメンバーと働く
マネーフォワードは、個人向けのお金の見える化サービス『マネーフォワード ME』や、事業者向けのバックオフィスSaaS『マネーフォワード クラウド』などを提供している会社だ。
松原氏がマネーフォワードに転職するきっかけにつながったのは、リクルート在職中にマーケティングコンサルの副業をしていて自身の会社を設立したことが関係している。
会社を設立して知ったのは、バックオフィス業務は非常に手間がかかることでした。煩雑な業務が多く、本来の仕事より時間を取られていました。そして、多くの中小企業の経営者が、自分と同じ悩みを抱えていると知ったのです。バックオフィス業務の効率化ができれば、日本の社会課題の解決ができると思いました(松原氏)
マネーフォワードを選んだのは、カジュアル面談で会った本部長クラスの社員と話し、一緒に社会を変えたいと思える仲間だと感じたからだ。
IRや決算説明書を読みこみ、気になった点を面談で質問しました。突っ込んだ内容で即答が難しい質問にも、ちゃんと考えながら真摯に答えてくれた印象がありました。計算高さがなく、純粋に社会課題を変えたいと考えて、事業にコミットしている人たちだと思いました(松原氏)
「バックオフィスの課題は根深い」と松原氏は語る。例えば、松原氏は自身の会社があるため、前職に勤めていたときに本業と副業どちらの会社で保険に入るかを選択する手続きが必要だった。役所に行く必要があると考え、会社の移転手続きや労務手続きなど、役所で直接手続きしようとすると手間や時間が非常にかかったという。
しかし、マネーフォワードに入社後、同社のプロダクトを使用すればネットで申し込みが完結できると知ったのだ。
Webマーケティングの仕事をしてきた私でも『ネットで手続きできるのでは』という発想にならず、役所に行かなくてはと思い込んでいました。なぜなら、法人設立時に固定電話の番号がないと法人の銀行口座が開設できなかったため、『会社手続きは昭和の世界だ』と思っていたからです。こういった非効率な思い込みをひとつでも多く取り除いていきたいです(松原氏)
ルール4単に事業拡大を追求するのではなく、社会課題の改善に焦点を当てる
松原氏はリクルートでBtoCマーケティングを経験し、現在マネーフォワードではBtoBのマーケティングを担当している。どのような違いを感じているのだろうか。
リクルートでは求職者にどうサービスを使ってもらうかを考えていました。マネーフォワードではHR領域のプロダクトを担当しているので、企業の人事労務担当者はもちろん決裁者にも魅力を感じてもらう必要があります。マスに向けたBtoCに比べると対象者の範囲は狭まり向き合う層は変わりましたが、人を動かすという点では大きく違いません(松原氏)
仕事をする場は変わっても、松原氏のアプローチ方法は大きく変わっていないという。マイルール1で述べたように、ファクトを見つめて何が課題なのか紐解いていくスタイルだ。
その結果、今やるべきだと考えたのが中小企業のバックオフィスの改善です。日本の中小企業が本来の業務に向き合えて、出力を最大に上げられるようにしていきたい(松原氏)
最後に、今後どのようなマーケターでありたいか松原氏に聞いた。
課題を解決できるソリューションやプロダクトがあっても、その情報を知らない企業も多いです。だからこそ、私は多くの企業が早く課題解決するためにどうしたらいいかを常に考え続けています。
事業がただ伸びるというより、事業が伸びたおかげで、社会の課題がどれだけたくさん解決できているか、そこが一致できている施策が重要です。なので、マーケ施策全般、特に弊社からの情報提供を許可いただいた方へのメール施策については、全件「その情報は有益か。表現は適切か」をレビューしています。
アウトプットし事業成果を出すことによって、社会課題を解決する。そんなサイクルを回し続けるマーケターでありたいです(松原氏)
ソーシャルもやってます!