「自分の強みを見つけたい」スターバックスSNS担当が語る、自分らしいキャリアの歩み方
「あなたの強みは何ですか?」そう聞かれたときに即答できるだろうか。とくに若手の頃は経験が浅く、自分には強みがないと不安に感じている人がいるかもしれない。
若手の頃はスキルも自信もなく、自分には何ができるのかがわかりませんでした。『何が得意なのか?』と聞かれても、何も答えられない自分がいました(多羅尾氏)
そう語るのは、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社でSNSを活用したマーケティングを担当する多羅尾 世里(たらお せり)氏だ。
多羅尾氏は新卒で大手Web制作会社に入社し、Webディレクターの仕事を経験する。20代前半の頃は、自分の強みがわからずに焦っていたという。若手なら誰しもぶつかる可能性のある壁を、多羅尾氏はどう乗り越えたのか。また、SNS運用で大切にしていることなど、キャリアや仕事に関する4つのマイルールを聞いた。
自分の強みがわからず悩んだ若手時代
ルール1自分の“好き”を共有、相手の“好き”も知る
大手Web制作会社でWebディレクターとして働いていた多羅尾氏。仕事の転機が訪れたのは、入社2年目で新しい部署に配属されたときだった。配属早々、上司に「たらちゃんは何ができるの?」と質問される。各人の強みを知り、どのプロジェクトにアサインするかを決めるための質問だったが、多羅尾氏はあることに気づいた。
当時は『私は〇〇ができます』と言えるものが何もありませんでした。周りにいる他のメンバーはそれぞれ強みがあり、傍から見ても明らかでした。そのときから、自分の強みはなんだろうと考えはじめました(多羅尾氏)
その頃、多羅尾氏が担当していた業務は、大手飲料メーカーのWebサイトやCRMの制作・運用だった。その業務のひとつにメールマガジンの制作もあり、この業務は自分の強みになるかもしれないと気づく。
大学時代はフリーペーパーを制作していました。物事を人にどうおもしろく伝えたらいいかを考えて、少しユニークな見せ方を考えることが好きだったのです。この視点や経験がメルマガの制作に生かせるのではないかと考えました(多羅尾氏)
それからは、とにかく多くのアイデアを出すと決めた多羅尾氏。最初は企画を受け入れてもらえるか不安だったが、思いきって提案してみると、スムーズに自分の提案が通ったのだ。その後はアイデアを出して実践し、結果を見て改善するPDCAをひたすら回していった。その結果、メルマガの配信数やクリック率は順調に増加したのだ。
メルマガの好調が後押しし、クライアントのオウンドメディアも成長しました。その実績によって他の仕事も任されるようになり、『メディアのコンテンツ作りができる』ことが私の強みになったのです。自分のスキルを生かせる仕事があることは自信につながり、その結果アウトプットの質も変わっていく実感がありました(多羅尾氏)
こうした経験から、多羅尾氏は自分の好きなこと、やりたいことを声に出し、周囲に伝えることを心がけているという。
周囲に『〇〇が好きなんだ』と伝えていれば、自然と縁をつないでもらえたり、チャンスがやってきたりすることがあります。そして、自分の好きを伝えることと同じように、周囲の人のやりたいことを理解し、いいところを見つけて称賛することも大切にしています(多羅尾氏)
こうした多羅尾氏の想いは、スターバックスのSNSにも反映されている。スターバックスが2023年5月に実施した「FIND YOUR “VIVID” COLORS!」という企画だ。さまざまな店舗で働くパートナー(従業員)の趣味や特技、想いを動画で伝えている。
この企画で伝えたいことは2つあります。1つは、自分色に輝く、あらゆる個性をもつパートナーの姿を通して、自分自身や周りの人たちの個性を認め合う文化を広げていきたいということ。
2つめは、このようにあらゆる個性をもつパートナーたちが作りあげているのがスターバックスというブランドであり、スターバックスはそんな魅力的な人たちと働ける場であるということです(多羅尾氏)
制作会社から事業会社へ転職
ルール2自分らしくいられる環境を選ぶ
1社めの大手制作会社に9年勤めた後、多羅尾氏はスターバックス コーヒー ジャパン 株式会社に転職する。転職の経緯を多羅尾氏は次のように語る。
事業会社の立場で、よりダイレクトにお客様の反応を知りたいと思ったことが転職を考えた理由です。また、デジタルマーケティング以外の領域にもチャレンジしたいという想いもありました(多羅尾氏)
最終的に同社に転職した理由は2つある。1つは全国に約1,800の店舗があり、5万人のパートナーが直接お客様にブランド体験を届けている独自性とダイナミックさ。2つめは面接を通じて、「自分らしくいられる環境だ」と感じたからだという。選考されているというよりも、キャリアのためには何が大事か、ブランドの歴史など学びのある話をしてもらい、マーケティングの授業を受けたような感覚だったのだという。
仕事においては業務内容はもちろんのこと、誰とどんな雰囲気で働くのかが重要だと思っています。前職でも多様な人たちの中で、のびのびと楽しく働かせてもらっていました。とても居心地がよかった分、他の環境で馴染めるだろうかと不安もありました。ですが、面接の時間だけでも、『目の前の人に向き合ってくれる』という空気を感じました。
スターバックスは人を大事にするブランドだというイメージをもっていましたが、面接の場でも実感しましたね(多羅尾氏)
同社は「お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。」というバリューを掲げている。こうした雰囲気が選考の場にもあったのだ。
事業会社で働きたいと思って転職した多羅尾氏は、前職と現在の仕事の違いについてどう考えているのだろうか。
前職では、デジタルマーケティングエージェンシーであったため、そのプロフェッショナルたちが周りにいて、同じ方向を見ながらチームで各プロジェクトを推進している感覚が強かったです。
一方、事業会社の場合は、隣には全然違う業種の方が座っていて、自分とは全く違う課題を抱えていたりします。そのため、自分の業務領域は自分でジャッジして進めていく必要があり、個々人がもつ業務裁量や責務が大きく、それがやりがいでもあります。また、様々な業種の方々のプロフェッショナルを垣間見るごとに、刺激をもらっています(多羅尾氏)
スターバックスがSNSの発信で大切にしていること
ルール3お客様と一緒に盛り上がり、共有する輪を広げていく
多羅尾氏が担当している業務は、公式SNSアカウントの運用やSNSを中心としたコミュニケーションプランニング、ユーザーインサイト分析などだ。同社のSNSアカウントは企業の公式アカウントとしてはフォロワー数が非常に多いことで知られている。Twitterが716.3万人、Instagramが358.1万人と総フォロワー数は1,070万人以上だ(※2023年6月時点)。
多羅尾氏も転職後に初めてSNSの投稿をしたときは、とても緊張したという。SNSでのコミュニケーションを企画するうえで大切にしていることを、多羅尾氏に聞いた。
『お店での心地よさをデジタルでも』がモットーなので、お店のパートナーがお客様に語りかけているようなトンマナを心がけています。スターバックスのブランドの強みは、全国の店舗でパートナーが、一人ひとりのお客様に一杯のコーヒーを通じて、エクスペリエンスを届けていることです。店舗での思い出や体験をお客様が店の外でも持ち続けていただけるように、再度ご来店いただけるようにという想いでSNSを運用しています(多羅尾氏)
お客様からの評判が高かった投稿の一例として多羅尾氏が語ったのは「パープルハロウィン」というハロウィンの時期に行った企画だ。「ゴーストのしわざ」というコンセプトの紫色のフラペチーノ®を際立たせる、妖しげな雰囲気のビジュアルを作成。紫いも味のフラペチーノ®に新しい世界観を演出したことで、SNSでも話題になったという。
さらに新作の飲み物だけでなく、グリーンやオレンジ、レッドのカラーをモチーフにした既存のドリンクのカスタマイズもハロウィンの世界観にのせて提案した。
いつものドリンクを、ハロウィンならではの遊び心で発信したところ、お客様のSNS上の会話でたくさん話題にしてくださいました。スターバックスの公式発信よりも、お客様のツイートがBUZZになることも多いです(多羅尾氏)
他にも、毎年恒例となり今年は店内ポスターに仕掛けをつくった「さくらAR」、初めてTikTokでコンテンツを発信した「バナナナバナナ」など、お客様主体で楽しめるコンテンツを新商品のコミュニケーションに取り入れている。
企画を考えるときに意識していることは、「お客様と一緒に盛り上がり、共有する輪を広げていく」ことだと多羅尾氏は語る。
お客様一人ひとりが楽しんでいるからこそ、SNS上でポジティブな声が広がっていきます。そのため、私たちが大切にしているのは、どのようにお客様に投げかけるか、どのような会話のきっかけを作ったら楽しんでもらえるかという視点です。
プロモーションに関わるメンバーでコンセプトを企画するときは、『どんなネーミングならお客様が口にしやすいのか』『自分なりの楽しみ方を見つけてもらえるのか』という視点を大事にして、お客様のパワーを生かせることを大切にしています(多羅尾氏)
同社はほとんど広告をしないことで知られている。その理由のひとつは、お客様の声に勝る広告はないと考えているからなのだ。
ルール4“お客様の声”をウォッチして読み解く
多羅尾氏は、効果を測る際は「数値だけではなくお客様からの定性評価も重視している」そうだ。実は、前職でメルマガ制作を担当していたときから心がけていたのだという。
デジタルメディアでは、反響は数値で分かりますが、なぜ反響が良いのか、なぜ反応がイマイチなのか。『なぜ』の部分は、数値だけでは考察できません。また、施策やコミュニケーションが目指すブランドのTake Awayをちゃんと届けられたのかは、数値だけでは見えてきません。
どのようなお客様がいて、どんな部分に共感してもらえたのか、どんな部分が物足りなかったのか、お客様の声に向き合い、定性面での評価を行うことで、お客様のインサイトを読み取り、商品や施策への改善に生かしています。
ありがたいことに、とてもたくさんのお声がSNS上に上がっているので、それらを正しく読み解くソーシャルリスニング分析の精緻化も、チームで力を入れて取り組んでいます(多羅尾氏)
現在、スターバックスで担当しているSNSの場合なら、リツイートやいいねの数だけでなく、コメントやハッシュタグなどの定性評価につながるものはすべて確認している。こうしたお客様の声が起点となったSNS企画はあるのだろうか。
お客様が年内最後にスターバックスに来たときに、“#スタバ納め”というハッシュタグが使われていることに気づきました。そのように日常でスターバックスの一杯を楽しんでいるみなさんと、1年の締めくくりにご挨拶の機会を作りたいなと、それからは年末に必ずスターバックス納めの投稿をするようになりました(多羅尾氏)
最後に、どんなマーケターでありたいか多羅尾氏に聞いた。
お客様がポジティブな気持ちになれる瞬間を作り出すことを大事にしています。そういった瞬間を一つひとつ形にできるマーケターになりたいと思います。現在はデジタルに強みを置いて仕事していますが、領域は決めずに「できることはとりあえずやる」精神で、人間としての充足感を届けられるマーケターになりたいと思います(多羅尾氏)
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