コンバージョン率だけにこだわっていると失敗するよ
アクセス解析の歴史というのは、ある意味で聖杯探しの旅のようなものだ。真実の基準を求めて候補のリストを探索する。ヒット数、ページビュー数、ビジター数、ユニークユーザー数などなど。1つ1つの前に足を止め、その清らかさと徳を称え、新しい真実に地位を負われた異端の説を排撃する(1週間前には、その異端の清らかさと徳を称賛していたとしても)。
偽物の聖杯から飲んでも、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』に出てくる悪者のように顔が溶けてしまうなんてことはないが、君が判断を誤ったせいで会社がどれだけの損害をこうむったかを上司に報告するときは、多少面目ない思いをするのはしかたないだろう。
この記事を読めば、コンバージョン率にこだわりすぎて、このきわめて高くつく罠に落ちこんだりせずに済むはずだ。
コンバージョン率 速習講座
まずは基本からだ。新人さんのためにもなるし、業界でも用語の定義で一致しないことがあるからね(「ビジター数」は「ユニークユーザー数」や「訪問者数」と読み替えてもいい)。
コンバージョン率にはさまざまな種類があるし、「アクション」が意味するところも、それこそ何でもありだ。たとえば、
- クリック
- フォーム送信
- RSS配信登録
- 実際の販売
などが考えられる(もちろんこれ以外にもある)。
では簡潔な例で考えてみよう。先月1か月に君のサイトにビジターが1万人来て、そのうち450人がアクションを起こしたとしよう。
実にシンプルだろ? どうか誤解しないでほしいが、コンバージョン率というのは重要な基本的指標であり、有用な指標だ。問題は、単なる1つの数字にすぎないということにある(まあ、厳密には2つの数字だが)。では、何が足りないというんだろう? この問いに答えるために、3つのシナリオを考えてほしい。
[シナリオ1] トラフィックが犠牲になる
これは、リスティング広告の管理ではよく目にする状況だ。コンバージョン率を上げるためにトラフィックを削ってしまう問題だ。
次の例でポイントを説明しよう。
この3つの例では、どれもコンバージョン率(CR)が5%だから、みな同じかな? もちろん違う。他の条件がすべて同じだとして、まともな人間なら(C)をいちばんいいと思うだろう。問題に突き当たるのは、CRを最適化しようとするあまりトラフィックを犠牲にしてしまうときだ。
たとえば、昔ながらのPPCのシナリオを考えてみよう。
- ブランド名をキーワードとして、少ないトラフィックで高いコンバージョン率を狙うキャンペーン
- 製品名をキーワードとして、コンバージョン率は低めでも多数のトラフィックを狙うキャンペーン
この2つのキャンペーンがあったとする。クライアントが「コンバージョン率が低い」と不満を言ってきた。どうしようか? キャンペーンBへの支出を削るって? コンバージョン率は上がるけれど、残念ながら、トラフィックが減り、それに伴ってアクション(つまりは「販売」「売上」)も減ってしまうという副作用が現れる。
解決法 コンバージョン率と、全体的な見込み客つまりビジター数の両方に注意を払おう。コンバージョン率だけにとらわれてしまうと、全体的な数字を見失ってしまい、割合(率)だけしか目に入らなくなってしまう。リスティング広告の管理を担当しているのなら、許容できるCPA(アクション1件あたりの獲得コスト)を決めよう。CPAが限度内のトラフィックなら、コンバージョン率がよい数字だとは言えなくても追いかける価値がある。CPAが許容範囲を超えるようなら、トラフィックをあきらめなければならないかもしれない。コンバージョン率を上げたいというだけで、ビジターを切り捨ててしまわないことだ。
[シナリオ2] 客単価が下がる
コンバージョン率を上げる秘訣を知りたい? 価格を半額にしたらいい。え、それじゃ稼ぎが少なくなるじゃないかって?多分ね。もちろん、こんな極端なことをする人はいないだろうけど、客を最安値の商品に向かわせるような、販売方法や、価格戦略、情報アーキテクチャを取っている人は多い。それではコンバージョン率は上がるだろうが、売上は落ちる。
例を見てみよう。君のサイトには1日に1000人のビジターが来るとして、コンバージョン率を上げるため、高い製品(99ドル)よりも安い製品(29ドル)をプッシュしてみる。
コンバージョン率だけ見れば、Bはすばらしい成果だ。倍になった。だが残念ながら、売上は40%落ちている。新規顧客を引き付けるために、あえてこの代償を払う場合もあるかもしれない。だが、そういうビジネス上の判断をするには、必要な情報をすべて手に入れておこう。
解決法 ビジターを安い製品に向かわせるような変更をする場合は、コンバージョン率だけでなく平均購入額の変化も追跡するのを忘れないようにしよう。A/Bテストをやるのなら、両グループの購入額の平均値や中央値を追跡することを考えよう(製品の価格帯が広い場合は中央値のほうがお勧めだ)。
[シナリオ3] 顧客の忠誠心(ロイヤリティ)が失われる
2番目の価格シナリオを含めて、短期間で強引にコンバージョン率の上昇を狙うと、長期的な売上も顧客の忠誠心(ロイヤリティ)も低下する結果を招きかねない。新規顧客を引きつける魅力的な価格設定をしても、新規顧客はそのときだけ美味しい買い物をして、その後二度と現れないかもしれない。今日のコンバージョン率は上がったかもしれないが、それがバーゲン狙いや衝動買いの客のおかげだった場合は、来月のコンバージョン率は悲惨な状況になりかねない。
こういった販売や短期間の刺激策には何の益もないというわけではない。まず入口にトラフィックを引きつけることは、長期的な関係を築くうえで不可欠だ。重要なのは、顧客の(量だけでなく)質を変えるような行動を取る場合は、全体像を眺めたうえで行うことが必要だという点だ。
解決法 この記事の守備範囲からは少し外れるが、再購入や顧客生涯価値(LTV)についてのKPI(重要業績評価指標)がたくさんある。短期戦略を実施するときは必ず、コンバージョン率を測定するだけでなく、新しい購入買者が1回だけで終わりか、それとも長くひいきにしてくれるかを評価しよう。
コンバージョン率の有用性は変わらない
この記事でコンバージョン率を非難しているというふうに取られては困る。僕は毎日のようにコンバージョン率を見ているし、コンバージョン率の指標に基づいて、顧客の収益改善を実現した実績もある。
忘れてはならないのは、1つの指標に目を奪われて全体を見失ってはいけないということだ。これまでに登場したものであれ、これから現れるものであれ、どんなアクセス解析のデータであっても、状況によっては何かしら必須の情報を欠くものであり、無自覚に使えば進むべき道を見失いかねない。目標を念頭に置き、想定できる結果を考え、何よりも、全体像をつかむのに必要な分析ツールはすべて検討しよう。
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