Webアナリストよ、「データからアクションにつなげられない症候群」を打破し「アクション・ヒーロー」になれ/Adobe Innovation Forum 2012レポート
アクセス解析は、ツールを導入することもさることながら、導入後にどのように使いこなすか、データから何を読み取りいかに行動(アクション)へ移すかが難しいものだ。組織上のさまざまな壁が、進むべきゴールへの道を阻むことも多い。社内外の協力者(または抵抗勢力)には頭と感情がある。どのようにアプローチすれば、彼らに動いてもらえるのだろうか。
この課題に果敢に立ち向かい成果を出してきた米アドビ システムズ社のエバンジェリストであるブレント・ダイクス氏は、「ACTION HERO(アクション・ヒーロー)」になることを提唱する。
アドビ システムズが6月7日に開催した年に1回のマーケッター向け大規模イベント「Adobe Innovation Forum 2012」のジェネラルセッションのなかでも大きな反響を呼んだダイクス氏の「アクション・ヒーロー」セッションから、アクセス解析で行動して結果を産み出す“アクション・ヒーロー”になるためのノウハウをお届けする。
「アクション・ヒーロー」は、同氏が執筆したアクセス解析に関する書籍『Web Analytics Action Hero』で使っているキーコンセプトで、文字通り、データをもとにアクション(行動)を起こし、問題解決をしていけるヒーローのことを意味する。
優れたWebアナリストに求められる特性や組織に起こり得る問題をどのように解決すればいいのかについて、ダイクス氏は具体的でわかりやすいたとえや図を用いて解説した。
アクションできていない症候群への警鐘
ダイクス氏はまず、有名な次の言葉を引用する。
広告費の半分が無駄なのは判っている。
問題は、どちらの「半分」なのかが判らないことだ。
これは、アメリカ小売業界のパイオニアであるジョン・ワナメーカー氏の言葉である。広告主の課題は100年前から大して変わっていないということを示唆しているのだ。
しかし、本当に「どの広告が無駄なのか」はわからないのだろうか。
ダイクス氏は、マーケッターは大きく2つに分けられるという。旧式のマーケッターは「ヤマカン(勘頼り)」で、新式のマーケッターは「データ重視」だ。
アクセス解析のテクノロジーやツールを手に入れているマーケッターは、もちろん「データ重視」の新式マーケッターであり、適切なデータを元に行動すれば、前述の問題は解決できるのではないだろうか。実際に、最近の調査によると、次のようなことがわかっている※1。
ベテラン企業マーケッターの91%は、成功するブランドは顧客データに基づいたマーケティング判断していると考えている。
しかし、実際の現場は次の状況である。
57%は、ROI分析を一切行わずにマーケティング予算を決定している
36%は、たくさんの顧客データがあるが、どう扱えばよいかわからない
39%は、手持ちのデータを実行可能なインサイトとして活用できていない
この状況に対してダイクス氏は、
ワナメーカー氏の時代はデータが少なかったが、いまはデータが多すぎる。おぼれるほどのデータがある状態では、だれがマーケッターを救うのか?
誰でも助けられるわけではない。デジタルマーケティングや技術を深い意味で理解していて、データを怖がらない「アクション・ヒーロー」が必要なのだ。
という。では、その「アクション・ヒーロー」に必要とされるスキルとは、いったいどのようなものなのだろうか。
「アクション・ヒーロー」に求められる特性
「アクション・ヒーロー」とはどんな人物だろうか。
インディージョーンズのような勇気を備え、
シャーロックホームズのような知性を秘め、
マクガイバー※2のように革新性を生みだし、
ブルースリーのような圧倒的なパワーをもつ。これらのスキルによって、「価値」を生み出す人だ。
ダイクス氏は、「アクション・ヒーロー」のイメージをこのように描く。
同氏は米国で開催された別のイベントでも「データドリブン組織をつくるためには、クラスルームを飛び出して、インディージョーンズのように冒険に出かけよう
」と訴えかけている。彼のなかのイメージでは、有能なウェブアナリストは「行動するヒーロー」であるようだ。
「アクション・ヒーロー」として成功するための要因としては、次の3つがある。
- 能力
- 環境
- アプローチ
それぞれの要因について見ていこう。
アクション・ヒーローの成功要因その1: 能力
ダイクス氏は、アクション・ヒーローに求められる能力として、
- ビジネス的洞察力
- 解析スキル
- 人間的スキル
- デジタル知識
の4つに加えて、
- ヒーローの資質
があるという。
それぞれ能力はどんなものを指しているのだろうか。
ビジネス的洞察力
重要なのは、ビジネス全体を理解していることである。データを用いるには、問題がどこにあるのかをきちんと理解している必要がある。頼まれてからデータを出すにしても、アクションへつながるかどうかは、どんなデータをどう提供するかで変わってくるからだ。
ビジネス洞察力や全体的な大きな絵を描く思考法、顧客中心のマーケティング洞察力などが大事である。
解析スキル
解析そのものを取り扱うためには、専門的な知識が必要になる。興味があることで吸収が早くなり、広い視野を持つことにつながる。詳細指向であり、かつ目的指向である必要がある。問題解決のためにロジカルシンキングで整理できるスキルも求められる。
人間的スキル
データを定性的に読み取るには、人の気持ちを読み解くスキルが求められる。また、ある1人の専門担当者が取り出したデータをアクションへつなげるためには、部署を超えてさまざまな人とやりとりすることも少なくない。
スムーズな意思疎通ができるためのコミュニケーションスキルは、「アクション・ヒーロー」になるための重要な要素の1つだ。
デジタル知識
デジタルマーケティング、オンラインビジネス、Webデザイン、オンライン技術などのデジタルに関する知識を収集しておくことが望ましい。データを取得するには技術スキルが必要だし、レポートの定義を把握するためにはテクニカルな知識があったほうがいい。
これらは、(後天的に)学ぶことができるものだ。重要なことは、常に変わりゆくトレンドを捉えて、学習し続けなければならないということである。
ヒーローの資質
ダイクス氏は、さらにヒーローとしての資質について、
- 情熱的
- 率先的
- 自信
- 執拗
- 機知/創造性
が必要であるとし、ドイツ哲学者のヘーゲルの言葉を引用した。
この世で、熱意なしに達成された偉業は1つもない
筆者自身、コンサルティング業務をするうえで、ダイクス氏の挙げた資質は、Webアナリストに必須のものだと感じている。しかし、これらは一朝一夕で身につけられるものではなく、継続的に成長しつづける必要がある。
アクセス解析ツールを使えば、さまざまなデータを取得できるし優れた分析機能を利用できる、しかしツールは決して「魔法の箱」ではない。ツールを活用して成果につながる行動を起こすのは人であり、すなわち人のスキルが重要なのだ。
アクション・ヒーローの成功要因その2: 環境
2つ目の要因は、「環境」だ。この意味をわかりやすく示すために、ダイクス氏は知人の事例を紹介した。
Webアナリストのピーターは、ある会社でマーケティングの責任者をしている知人から「ドリームチームを作ろう」と誘われ、意気揚々と転職を決めた。
しかし、転職して3か月後に、彼を誘ってくれたマーケティングの責任者が退職に追いやられてしまったのだ。
社内での後ろだてを失ったピーターは、6か月後にはお払い箱になってしまった。クビの理由は、意思決定の裏付けにしか使わなかった(課題を課題として認識し、そのうえで何を対策するのか、その後検証をするという行動ができなかった)からだ。
ダイクス氏はこうした事例を示したうえで、会場のスクリーンに「砂漠地帯」と「鯉が泳ぐ庭園」を映し、「どちらの環境に身を置きたいか」と問い掛けた。
もちろん、「アクション・ヒーロー」が活躍できるのは、鯉が泳ぐ美しい景観の庭園だろう。「どれだけ優れていて熱意があっても、適切な環境がなければ、アナリストの努力は報われない
」のだから。
ダイクス氏によると、データをアクションにつなげるには、7つの条件が必要であるという。
上層部の支援
先述のピーターの例でわかるように、組織を横断して動くには上層部の支援が必要だ。
部署が違えば既得権益や利益相反のためにうまく物事が進まないこともあるが、トップダウンであれば、他部署の文化的背景を乗り越えることができる。また、上層部の言葉が添えられていれば、面倒な業務であっても優先順位を高めて行動してくれる担当者も出てくるようになるだろう。
戦略
戦略がすべての方針を決定する。最終的な目的地がどこかが決まっていて初めて、どうやってそこに行くかを考えられるのだ。ビジネス理解に基づくデータの取り扱い方は必須であり、適切な戦略の下でデータが生きてくるものだ。
スタッフの配置
自分一人では限界があるため、適切にスタッフが配置されている(できる)ことが望ましい。それによって、本来アナリストが成すべき仕事に集中できるようになる。
トレーニング
他のメンバーを教育することで強い組織を作りだすことができる。
データ
信頼できるクリーンなデータをすぐに手に入れられることは重要だ。洞察しようとした際に、データの定義自体が間違ったものでは判断自体を見誤ってしまうし、ノイズが多ければ無駄な工数がかかってしまう。
ツール
さまざまなツールを時間短縮のために活用したい。
アカウンタビリティ
アカウンタビリティ(説明責任)については、「説明責任が伴わなければ、何も生み出されない」と強調された。
いずれの条件も、データからアクションへと美しい循環を生み出す環境を整えるために重要だ。
ダイクス氏の解説はアナリスト側からみた組織論だが、アナリストを受け容れる組織側からみると、現状の組織そのままにアナリストを追加しても、必ずしもうまくいくとは限らないことを意味している。
優れたテクノロジーを手に入れたとしても、組織的に変革が行われなければ、物事が進展していくことは難しい。ダイクス氏のアドバイスを実現させるためには、組織全体で、中長期的な視野で戦略を練り、覚悟をもって取り組んでいく必要があるだろう。
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