アクション・ヒーローの成功要因その3: アプローチ
アクション・ヒーローの成功要因その3: アプローチ
3つ目の要因「アプローチ」も、組織を動かすために重要な秘訣である。
このトピックに関してダイクス氏は、
- アクションできない状況を理解する
- 成果を出すアクション・ヒーローのフレームワークを使う
という順番で、図解やたとえを用いてわかりやすく解説した。こうした説明から、氏自身のアプローチスキルの高さが伺われる。
1. アクションできない状況を理解する
ダイクス氏はまず、「アクションできない状況」を、ここでもたとえを用いて示した。
セットアップランドからアクションランドへ
前のセクションと同様にダイクス氏はまず、「アプローチ」の全体像を理解しやすくするためのエピソードを語りだした。
休暇に家族でディズニーランドへ行くとする。
私の住んでいるユタ州からディズニーランドのあるカリフォルニア州までは、車で6時間程度の距離だ。長時間のドライブで疲れてはいるものの、ディズニーランドが見えてきたら子どもたちはワクワクし始める。
我々は、ホテルから駐車場に入り、セキュリティを通り、ディズニーランドの玄関までたどり着く。もう子供たちは歓喜の声を上げている。
しかし、ここでディズニーランドには入らず、またホテルに戻る。
改めてホテルから駐車場に入り、セキュリティを通り、ディズニーランドの玄関へ行く……と、ディズニーランドには一歩も足を踏み入れずに、このループを1か月間、繰り返したらどうだろうか。子供たちは、ブーイングの嵐となり、家族旅行はひどいものとなるだろう。
なぜこんな突飛な話を持ち出したのだろうか。アクセス解析の世界では、これと似たようなことが起きているからだ。
次の図は、アクセス解析の「セットアップランド」と「アクションランドへ」を示している。
「配置」「測定」「レポート」の順序でアクセス解析のためのセットアップが進められる(ここまでは、ディズニーランドの例でいうと玄関の前まで行くところだ)。その後、アクションランド、つまり最適化の行動を行うエリアへ進んでいきたい(ここが目的地であり、一番楽しいところ)。
しかし、目的である改善を行わずにデータを取得してレポートすることを日々繰り返すだけの「アクセス解析」が、現実の世界にはいかに多いことだろうか。
解析が価値を生むまでのドミノ倒し
では、アクションランドに入り「成果」という目的にたどり着くにはどうすればいいのか。
ダイクス氏は、アクセス解析が価値をもたらすまでの道のりは、次のようなものだと示す。
- データドリブン領域(データを主軸にする)
- データ
- レポート
- 解析
- アクションアジャイル領域(データから最適化にすばやく繋げる)
- 意思決定
- アクション
- バリュー
この道のりは、各ステップの結果が次のステップにつながる「ドミノ」のような構造になっており、いずれかのステップが抜けてしまうと、それ以降は進まなくなるという性質がある。
たとえば、「意思決定」のドミノがなければ、「アクション」のドミノは動かず、「バリュー(価値)」にたどり着かないのだ。
- データドリブン領域(データを主軸にする)
2. 成果を出すアクション・ヒーローのフレームワークを使う
さまざまなたとえを使って「アクションできていない状況」を整理したダイクス氏は、浮かび上がってきた課題を解決するための「フレームワーク」を紹介していく。
マーケッターという職種は、さまざまな業務を抱えているものだ。とはいえ、限られた時間のなかであっても、アクションにつながる仕事をできなければ、存在する意味がない。効率的に効果を出すための工夫をする必要があるのだ。
そこで「アクション・ヒーローのフレームワーク」として、
- 優先順位
- 解析
- 結集
の3つを順に行うというものとして紹介された。順に解説していこう。
優先順位を付ける
まずは、物事に優先順位を付ける。優先順位付けに影響を与える要素として、次の5つが挙げられる。
優先順位付け5つの要因ビジネスの目標 ―― 最も重要なことを整理する。
影響能力 ―― アクションを行って影響を与えられる領域で行動すること。
潜在的なインパクト ―― 予算を確保するためにも行動の潜在的なインパクトまで予測する。
活動のレベル ―― 大きなホームランを狙うのか、小さなヒットを狙うのかを考える。
コンテキスト(文脈) ―― 全体のビジネス戦略にあわせる(他の4つの要因それぞれに影響する)
ここで最も重要なのは、そもそものビジネスの目標と、全体に影響を与えるコンテキストだ。
ビジネスの目標が重要なのは、CMOの目標と課題を正しく理解しなければ、戦略がどういうものになっているか把握できないからだ。戦略がはっきりしていなければ、パフォーマンスを測定できなくなってしまう。
そもそも戦略とは、
- どこで(範囲)
- なにを(目標と目的)
- どのように取り組むか(イニシアチブ)
であり(ここでの「どのように」は抽象レベル)、これがベースとなって具象レベルで「どのように取り組むか」の戦術が作られていく。そして、戦略を、実際の戦術、そして行動へと落とし込んでいく際に必要となるのが「デジタル測定戦略」の策定だというわけだ。
このステップでは、ビジネスのゴールを特定し、どんな制約や課題があるかを協議し、優先順位を付けてグループ化して課題をKPI付けしていくという流れになる。
コンテキストの重要性を示すためにダイクス氏は「コンテキストホイール」という図を示し、「アナリストはコンテキストの車輪となること」を説く。
アナリストは、自身の周囲にある5つのコンテキスト、つまり
- 会社
- 顧客
- 競合他社
- 解析プラットフォーム(ツールなどの環境)
- 業界
をそれぞれ理解する必要があり、それぞれのコンテキストを読み取ったうえで判断をすることが求められるのだ。
なかでも特に、まず会社を把握しなければいけない。「会社の戦略は何か」「業績はどうなのか」「パフォーマンスで現場に問題はないか」などを把握しておかないと、結果としてアクションが成果を生めず、分析が無駄になってしまうからだ。
解析
具体的なアクセス解析に関するトピックが、この段階でようやく登場だ。
アナリストは、レポーティングを少なくしてより多くの解析をしなければいけない。では、どうすればいいのか。その答えが、インサイトを読み解くための解析手法である「HEROIC解析アプローチ」だ。
HEROIC解析アプローチ- Have a hit list (標的リストを設ける)
- Evaluate data and its context (データとコンテキスト評価をする)
- Recognize opportunities (機会を認識する)
- Obtain deeper insights (深いインサイト)
- Inspect monetary value (金銭的価値を調査する)
- Choose the best options (最善のオプション施策を選択する)
いずれも、アクションにつながるための解析を実施するにあたって重要な視点である。
深いインサイトを得るためには、ビジネス全体や前後関係を把握することと、いくつかの階層に掘り下げて解析をすることがポイントとなるである。「鳥の目」と「虫の目」で判断することで、精度の高い仮説を立てることができるようになるからだ。
さらにダイクス氏は、次のように述べる。
アナリストは重要だが、もっと重要なものがある。
それがなければ、いくら解析しても無駄になるもの、それは「収益」だ。ゴールを見据えていない数値が並んだだけのレポートは、何も生み出さないばかりか、二度と見てもらえなくなるかもしれない。収益を重視するレポート作成の具体的な手法を、ダイクス氏は「解析を収益につなげる3つの方法」として紹介した。次の3つをアクションとしてレポートに含めるのだ。
資産やリソースを再割り当てする
ROIなどの指標において、効果の低いものはコストを下げて、高いものにコストを寄せるといった再割り当てを行う。たとえばキャンペーン予算の再配分などのアクションだ。
比較対象に照らして標準化する
たとえば、ランディングページのなかでコンバージョン率が全体平均よりも悪いページを改善するといったアクションだ。
期待される上積みを創出する
現状の数値に対して、ポテンシャルが見込めれば、施策により上積みを狙う。難易度は高いが、「こう改善すればこう収益が上がる」というアクションを提示するということだ。
結集
ここではダイクス氏の(翻訳されたスライドの)表現そのまま「結集」としているが、「人を動かす」という意味だと考えてほしい。
ダイクス氏は、人的リソースの配置や役割の変換を、かなり重要視している。特に、アクションを起こすための協力者を「結集」させることが重要であると述べているのだ。
抵抗勢力は出てくるものだと心得る
優先順位をつけ、解析し、アクションに移そうとしても、必ず組織のなかから抵抗が出てくるものだ。
アナリストがデータを出して説明すると、広告担当者、サイト制作担当者、デザイン担当者、システム担当者などから、次のような反応があったことはないだろうか。
その抵抗の原因は、デザイナーの経験則や好みであって、アナリストのあなたはその経験則に従うよりも良い結果を出せる提案をしているのかもしれない。しかし、相手は人間だ。提案する側が適切なアプローチをしていなければ、相手は動かないものだ。
また広告についても、どのような修正ならば実行できるのか仕組みを把握したうえで提案をするかどうかで、相手の反応は大きく変わってくる。
データを軸に改善施策をする場合、制作や広告の担当者には負荷やコストが掛かる。彼らのいる部署の意思決定の文化はまた異なるだろう。
協力して行動するためには、お互いの利害を一致させることが求められるのだ。
抵抗勢力に負けないための4つの手順
ダイクス氏は、抵抗勢力を排してアナリストの解析結果を採択してもらうには、次のようなアクションが必要なのだという
- 相手(意志決定者と、影響力のあるユーザー)を知る
- 訴求力のある(伝わる)メッセージで伝える(なぜその変更が必要で重要なのか)
- 主要な利害関係者とこうしたアクションを最後までやりきる
- 経営陣や意志決定者にその成果を伝える(ループを閉じる)
最後の「ループを閉じる」は、最終結果をフィードバックすることで、プロジェクトを終了させることを意味する。やりっ放しでは、次の相談ごとを受け容れてもらえなくなるかもしれない。
メッセージを正しく伝える3つの「物語」アプローチ
「訴求力のあるメッセージを伝える」ということについては、アナリスト特有の癖を改善する必要もあるだろう。
専門知識を持ったアナリストにとっては、データは、雄弁にモノを語っていることだろう。
しかし、慣れていない担当者にとっては、データは、数字の羅列でしかなく、何が読み取れるのか、次に何をすべきなのかがさっぱりわからないものだ。周辺の情報に紐づけて考えることも難しい。これでは、アクションにはつながらない。
そこで、相手にアクションしてもらえるようにするための工夫として、ダイクス氏は「物語を語る」ことを推奨する。チップ&ダンのヒース兄弟が聴衆を惹き付けるプレゼンテーションのポイントとして示す「
データは幾千ものストーリーの集約。そのいくつかを語れば、データの意味が判りやすくなる
」にも通じるものだ。具体的には、データで物語るためのアプローチとして、次の3つを紹介している。
- 「顧客はヒーロー」に仕立て上げる
- 「悪役」を登場させる
- 「たとえ」を用いる
物語に悪役を登場させるのは、スティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーションの王道でもある。ヒッチコック氏も、悪役が脅威であればあるほど物語はおもしろくなると語っている。たとえば「無駄に掛かりすぎているコスト」が悪役となり、「最適配分の施策」をする担当者がヒーローという物語や、「社内プロセスなど組織上の問題」を共通の悪役とすることも考えられる。
「たとえ」については、すでに、ダイクス氏のプレゼンでふんだんに用いられているように、異文化・異世界のことでも、身の回りのもので置き換えることでわかりやすくなるものだ。ダイクス氏は、「たとえはショートカットのようなものであり、データがわからない前提で作るのがいい」と述べている。
この「アクション・ヒーロー」のセッションは、アナリストやマーケッターにとって、非常に示唆に富む内容だった。
彼のような先駆者が、問題にぶつかりながらも真摯に対応してきたなかで作り上げてきたフレームワークは、後に続く我々にとって非常に参考になるありがたいものだ。それこそ、「能力」「環境」「アプローチ」を彼のいう「アクション・ヒーロー」のレベルで満たすことができれば、いちアナリストではなく、さらにその上もキャリアとして目指せるのではないだろうか。
こうしたイベント以外にも、日本国内ではWebアナリストが集まり、研究成果や事例を共有しあう場も用意されている。これらに参加して情報交換することも、参考となるはずだ。使命感と熱意をもって、適切なアプローチをすることで、データからアクションを起こす動きを妨げる問題を着実に乗り越えていくことができるだろう。
筆者自身、Webアナリストの職種は非常におもしろいと感じている。それは、壁にぶつかりながらも解決するなかで、成長を感じられるからだと思っている。
引き続き、協力者と共に活動をすることで、ダイクス氏の提唱する「アクション・ヒーロー」を目指していきたい。
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