「リレーションシップファースト」へのパラダイムシフトが起こりつつある米国のデジタルマーケティング
「リレーションシップファースト」こそが、これからのデジタルマーケティングのあるべき姿である。
これまでのマーケティングはアクイジション(新規顧客獲得)をスタートラインとして組み立てられていたが、これは、顧客とのリレーションシップ構築をスタートラインに据えて再考すべきである。
5月に米国サンフランシスコで開催されたデジタルマーケティングのイベント「Interact 2012」全体で強く打ち出されたのが、このメッセージだ。
キーノートスピーチや30以上のセッションを通じて、新しいマーケティングコンセプトやその最新事例などが紹介されたこのイベントで紹介されたコンセプトや事例をもとに、海外の最新デジタルマーケティング事情をマーケターのみなさんにお届けする。
「リレーションシップファースト」の視点でマーケティングを再考しよう
デジタルマーケティングのパラダイムシフト
Responsys(レスポンシス)社は、高度なメール配信ソリューションの提供からスタートし、現在はメールマーケティングのみならずさまざまなマーケ施策を統合するマーケティングソリューションを提供する企業。
レスポンシス社が提供するSaaS「Responsys Interact Suite」は、機能の豊富さやEメールのみならずディスプレイ広告やソーシャルメディアまでカバーする先進性がガートナーやフォレスターからも高く評価されている。
このイベント「Interact 2012」を主催しているのは、米Responsys(レスポンシス)社。Eメールをはじめ、ディスプレイ広告やソーシャルメディアなど幅広いチャンネルに対応したデジタルマーケティングの効果をアップさせるためのプラットフォーム(サービス)を提供している企業だ。
そのResponsys社がこれからのデジタルマーケティングのあるべき姿として提唱しているのが、「リレーションシップファースト」だ。
冒頭にも示したように「リレーションシップファースト」は、これまでのようにアクイジション(新規顧客獲得)を主軸とするのではなく、顧客とのリレーションシップ構築を主軸とする考え方である。
今回の「Interact 2012」では、イベント全体を通じて、この「リレーションシップファースト」のコンセプトが主張された。
目前のコンバージョンではなくLTVを追求する
そもそも「リレーションシップマーケティング」というコンセプト自体は、80年代から提唱されていた。顧客と長期に渡って関係を築き、ロイヤルティを獲得し、LTV(ライフタイムバリュー:生涯価値)を向上させることに重きを置く顧客中心主義(カスタマーセントリック)なマーケティング手法である。
実現にあたって鍵となるのは、顧客とのすべてのタッチポイントでより良いブランド体験を提供し、顧客のライフサイクルに合わせたコミュニケーションを行うことだ。そしてそのためには顧客を知ること、つまり彼らの行動やインサイトを知ることが必須である。
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アクイジションファーストとリレーションシップファーストの違い
では、Responsysが考える「アクイジションファースト」と「リレーションシップファースト」の違いとは何か。それを示しているのが次ぎの図だ。
これまでのマーケティングでは、まずアクイジション(顧客獲得)ありきだったが、顧客とのリレーションシップ構築を最優先にすることが「New School Marketing(これからのマーケティング)」のあるべき形だというのだ。
リレーションシップファーストへの転換がなぜ必要なのか
「リレーションシップ」がクローズアップされる背景としては、大きく次の3点が挙げられる。
- 市場が成熟し、新規顧客の獲得にコストがかかるようになっていること。
- 消費者行動が変化していること。
- デジタルメディアが多様化してきていること。
以前ならば、消費者は一方的に情報を受け取る立場であり、画一的なメッセージでも応えてくれた。しかし、今日の消費者は個人個人に合わせたメッセージを、彼らの行動に適したメディアで届けなくては、応えてくれなくなってきているのだ。
さらに消費者は、一方的な情報の受け手でもなくなってしまっている。彼らはWeb・メール・モバイル・ソーシャルメディアなど複数の情報チャネルを持ち、自らもそれらのチャネルを駆使して情報を発信し、ブランド体験や意見を広く「シェア」するようになっている。
このような背景もあり、企業が成長を続けるためには新規顧客の獲得に限られたコストを投じるより、顧客とのコミュニケーションの質を高め、彼らが繰り返し商品やサービスを購入し自らブランド体験を拡散してくれるような関係を築くことに投資することが重要になってきているのだ。
さらに言えば、こうしたリレーションシップを構築して満足のいくブランド体験を継続的に提供できなければ、顧客は離れていってしまう。
またいっぽう、顧客がこのように変化していった背景にある近年のデジタル技術の革新は、企業にも良い変化をもたらしている。
というのも、Webサイトをはじめとする複数のメディアにおけるユーザー行動などのデータを統合し、それに基づいて適切な(関連性のある)コミュニケーションを実現することが可能になっているのだ。
顧客それぞれに合わせたコミュニケーションをするということは、これまでは実現が困難だと思われていた。しかしすでに、こうしたことを実現する技術は、手の届くものになっているのだ。
リレーションシップファーストへの転換をすでに始めている先進企業
ここで、リレーションシップファーストに取り組んでいる海外の先進企業の事例を紹介しよう。「ダラー・レンタカー」だ。
ダラーの考える「顧客中心のリレーションシップマーケティング」とは、個々の顧客に合わせ適切なコンテンツを用意し、顧客が望むチャネルでコンタクトを行うことを意味する。
米国ではレンタカーを予約して当日にキャンセルしてもキャンセル料が発生しない。そのため、予約した客がカウンターに現れずキャンセルになることが非常に多く、予約した客をいかに実際にカウンターまで誘導するかが課題となっていた。
そこで、顧客の会員登録有無や、利用日までの日数といったステータスに応じてさまざまなチャネルで予約のリマインドを実施し、常にダラーを想起させる施策を行った。
これは「eMinder」という名のリマインダープログラムとして実施され、やむなくキャンセルされてしまった場合でも、後日またダラーを選んでもらえるようにリマインドする施策も、そこに組み込まれている。
その内容は以下の通りである。
チャネル ―― 以下のような複数のチャネルを、顧客に合った形で活用
- ディスプレイ広告
- 自社サイト
- Eメール
コンテンツの最適化 ―― 予約リマインドを繰り返し送るだけではなく、ディスプレイ広告ではダラーの利便性を訴求する内容にするなど、タッチポイントとなるチャネルも踏まえてコンテンツを設計
タッチポイントの最適化 ―― 会員登録している場合にはEメールを使い、メールを読まない会員や非会員に対してはディスプレイ広告を使い、予約した利用日が間近であればモバイルにも送るというように、顧客の属性・状態・行動に合わせたメディアでコミュニケーションを実施
ここで紹介した事例のポイントは、次の3点だと言える。
ライフサイクル ―― 顧客の購買行動や製品の利用サイクルに合わせて、それぞれのポイントで最適なコンテンツを提供する。
クロスチャネル ―― ロイヤリティのレベルやコンテンツの目的・内容に応じて最適なチャネルを選択し組み合わせる。
オートメーション ―― 多数の顧客に対してきめ細かなコミュニケーションを実施するのは手動では限界があるので、実現するためにはオートメーション(自動化)が欠かせない。
ダラー・レンタカーでは、Responsys社の「Responsys Interact Suite」を利用し、Eメールとソーシャルメディアとディスプレイ広告を一元管理し、マーケティングのオートメーションを実現している。
迫り来るターニングポイント
このように、米国ではリレーションシップマーケティングの重要性が再認識されつつあり、多くのマーケターが対応を迫られている。
一部の先進的企業ではすでにその対応が始まっており、今後はこのパラダイムシフトにどう対応するかが企業間の競争力に大きな差をもたらすかもしない。
そして、このような状況は遅かれ早かれ日本にも波及してくるだろう。
次回の記事では、「リレーションシップファースト」を強化するための、ソーシャルメディア活用について紹介したい。
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