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マーケで成果を出すために組織の壁を壊そうとする「Adobe Marketing Cloud」はスゴかった/Adobe Summit 2013レポート

複数の異なる役割を持った担当者が次々と舞台に登場し、一連のキャンペーン活動を連携して行って見せた。

デジタルマーケティング関連の大規模イベント「Adobe Summit 2013」初日基調講演の後半では、「Adobe Marketing Cloud」を用いた大掛かりなデモンストレーションが行われた。その名も「MEGA DEMO(メガデモ)」。基調講演の前半で話された「統合」というコンセプトに即して、複数の異なる役割を持った担当者が次々と舞台に登場し、一連のキャンペーン活動を連携して行って見せた。

このメガデモを通じてアドビは、「(部署間同士の垣根である)サイロを壊して、チームでコラボレーションをする」というコンセプトのもとに本気でイノベーションの実現のために開発に取り組んでいるということを伝えようとしていた。

※筆者はアドビ システムズ社の招待を受けてこのイベントに参加していることを開示しておく。ただし、招待がなくても参加する意志があったことを付け加えておく。

あらゆる情報をつなげる、洗練された「Adobe Marketing Cloud」の総合ダッシュボード

デモは「Adobe Marketing Cloud」の新たなインターフェイスの紹介から始まった。

基調講演の前半の記事で説明したように「Adobe Marketing Cloud」として統合された製品群には、シングルサインオンでアクセスでき、ログインするとまず表示されるダッシュボードには、あらゆるデータ・コンテンツ・情報がフィードされ、マーケティング施策の全体像がこのプラットフォーム把握できるようになっている。

ダッシュボードに表示されるのは、たとえば次のような情報などだ。

  • アクセス解析レポート
  • A/Bテストの設定状況
  • ソーシャルメディアでの発言状況
  • クリエイティブ編集過程

アドビでは、これを単なるダッシュボードではなく、Pinterestのボードのようなものだとして扱っているようだ。

「Adobe Marketing Cloud」のダッシュボードには、さまざまな情報が表示される。

またクラウドサービス全体として、専門領域の担当者が組織の垣根を越えてコラボレーションするために工夫された機能(たとえばメール機能、ドラッグ&ドロップでのファイルのアップロード、ファイルのやりとり、修正指示のやりとりなど)が随所に盛り込まれている。

そして、「Adobe Marketing Cloud」の各ツールが、管理画面も含めてマルチデバイスで運用管理できるようになっていることも特筆すべき点である。デモンストレーションでは、各担当者がタブレット(iPad mini)を片手に操作を進めていた。タッチパネル式の簡単操作で、適切な情報にアクセスし、編集も行える。 これは便利だ。

「Adobe Marketing Cloud」の総合ダッシュボードは、ピンタレスト風の画面で「フィード」が表示されるようになっている。
紹介しているのは、デイビッド・ニューシュラー氏(アドビ システムズ エンタープライズテクノロジー担当副社長)。
※本記事の紹介内容は、開発中のものだが、すでにアドビ システムズ社内ではβ版が使用されているという。

マーケティングクラウドには、当然のようにクリエイティブクラウドも統合

ジオメトリクス社のECサイト

デモンストレーションは、アウトドア製品を取り扱う仮想の企業「ジオメトリクス社」のECサイトのキャンペーンを題材とし、一連の業務をステージ上で行ってみせた。

手始めに、トレーニングシューズの販促キャンペーンを新たに立ち上げるにあたって、デザイン制作担当者がキャンペーンで使う画像クリエイティブを作成した。使ったのは、マーケティング向けクラウドの相棒であるクリエイティブ向けクラウドサービス「Adobe Creative Cloud」だ。作成した素材はドラッグ&ドロップでクラウドサービス上にアップロードされ、ダッシュボードを通じてマーケティング担当社に共有される。

このアクションを受けて、マーケティング担当者であるニューシュラー氏がアクセスしている「Adobe Marketing Cloud」のダッシュボードに、新たに作成された画像が新着マーク付きでフィードされた。画像の修正指示も、コメントや注釈(矢印で示したり線で囲んだり)を使って、このインターフェイス上でやりとりできる。その指示もデザイナー側のダッシュボードにすぐに表示され、修正指示に従ってデザイナーが画像を修正し、またマーケティング担当に戻すといった業務プロセスをスムーズに行えるのが特徴だ。

クリエイティブ素材に納得したマーケティング担当者は、その画像を使って新たな広告キャンペーンを作成するのだが、画像のやりとりをしていたクラウドサービス上で、そのままマーケティング施策の設定に移れる。

さて、キャンペーンを開始してから少したち、その初速はどうだろうか。KPIダッシュボードでレポートを確認したところ、コンバージョン率が低下してしまっていることがわかった。状況をウェブアナリストに伝え、原因特定と対策を考えてもらうように依頼をする。

こうしたやりとりも、すべて「Adobe Marketing Cloud」のプラットフォーム上で完結してしまう。これが、アドビの考える「部署間の壁を壊す」新しい姿だ。

スピーディに原因究明ができる高度な解析機能「Adobe Analytics」

次に登場したのは、コンバージョン率が低下している原因を調査するように依頼されたウェブアナリストのブレント・ダイクス氏(彼は2012年に日本で「アクションにつながるWebアナリティクス」に関して講演し、好評だった)。

コンバージョン率が落ちてしまっている原因を分析し始めたダイクス氏は、検索エンジンの数値が大きく伸びていることを発見する。

アナリストとしての経験からダイクス氏は、「ちょっとしたことを調査するために何百というレポートを観なければならないこともある。しかしこのインターフェイスでは、調べたいデータに影響するような関連レポートが表示されるので、極めてスムーズに問題解明に辿り着きやすくなっている」と語った。

「Adobe Analytics」のレポート機能を用いて分析を進めるブレント・ダイクス氏

数値が急増している要因となっているレポートをもとに「テラフィット」という検索キーワードを発見したダイクス氏は、そのキーワードグーグルで検索してみる。すると、森の中でトレーニングする新たな顧客層がいるということを突き詰めた(これは、デモ用に用意された検索行動だ)。これをヒントにダイクス氏は、「こうした検索から訪問する人を区別するユーザーセグメントを作り、そのユーザー層には特別な訴求をするようにランディングページを変更するのが有効だろう」と結論づけた。

今回、デモされた「Adobe Marketing Cloud」は、まだベータ版だということだが、これが実現されれば、非常に強力だ。ユーザーとして早く使ってみたいと思わせる。ワークフローが簡素化されて、チームでコラボレーションしやすいことがわかる。1つのソリューションとして提供されることが、強みであろう。

クリエイティブをウェブサイトへ適応させる「Adobe Experience Manager」

続いて対応するのは、連絡を受けたサイトのコンテンツ管理・運用担当者であるセドリック・ヒュースラー氏。

ヒュースラー氏は、新たなユーザーセグメントに向けたメッセージと訴求を考え、特定のユーザー層がサイトを訪れた際にはその内容が表示されるように設定する。

ここで使われるのは、コンテンツ管理とマーケティングオートメーションが統合されたエクスペリエンス管理ツールの「Adobe Experience Manager」だ。

スマートフォンやタブレットにも対応できる「レスポンシブWebデザイン」の機能が備わっており、さらにクリエイティブ管理がDAM(デジタルアセット管理)に対応しているのが特徴だ。そのため、「Adobe Creative Cloud」で作成されDAMに登録された素材を、すぐにサイトで使うために呼び出せる。

「Adobe Experience Manager」は、デジタルアセット管理(DAM)を通じてクリエイティブ向けクラウドサービスとつながる。

パーソナライズを実現する「Adobe Target」

ジオメトリクス社ECサイトのトップページには、さまざまなニーズを持ったユーザーが訪問する。そこで、だれに対しても同じ内容を表示するのではなく、訪問者によって最適な表示するパーソナライズ化を実現させることで、効果を引き上げることができるようになる。

デモで次に登場したのは、テスト管理の担当者であるジーナ・カサグランデ氏。「Adobe Target」によってサイトをパーソナライズするデモを行った。

カサグランデ氏によると、「Adobe Target」でサイトをパーソナライズするには、「オーディエンス」と「エクスペリエンス」の2つを設定するだけだという。要するに、「誰に」「何を」表示するのかを設定する機能が用意されているのだ。

また、「何を」表示するのかの設定ではA/Bテストも行えるため、よりユーザー層に適したコンバージョンさせるための訴求を突き詰められる。

本キャンペーンでは、「テラフィットトレーニングに最適なランニングシューズ」を複数パターンのレイアウトとキャッチコピーでテストすることにした。

「Adobe Target」の画面。3種類のテストパターンが右サイドに表示されている。

どのクリエイティブが効果的だったのかのテスト結果は、ダッシュボードを通じて共有し、意見を交換できる。

A/Bテストの結果はダッシュボードにフィードとして表示され、各担当者がコメントを記入してやりとりできる。

オーディエンスのクチコミ反響を把握できる「Adobe Social」

さて、世間のユーザーは、このキャンペーンをどのように受け止めているのだろうか。次に登場したのは、ソーシャルメディア担当者であるスティーブ・ウィリグ氏だ。

ウィリグ氏は「Adobe Social」のレポートを確認し、TwitterやFacebookで何が話題に上っているのかをチェックし、今回デモのストーリーの対象である「ランニング」の話題が急増していることを把握した。さらに、YouTubeで「テラフィット」に関する動画がよく観られ、コメントも活発に投稿されていることもわかった。

世の中の人がソーシャルメディアで話している内容が興味深いものであれば、それをクリエイティブチームへフィードバックできる。マーケットが反応している情報は、よりコンバージョン率を高めるためのヒントになるというわけだ。

「Adobe Social」のレポート画面で、キャンペーン関連の「Running」の話題が増加している様子がわかった。
「Adobe Social」にはソーシャルメディアが収益化につながっているかどうかをチェックする機能もあると紹介された。

プロモーションの全体最適を実現する「Adobe Media Optimizer」

※「Adobe Media Optimizer」は英語版での名称で、日本では「Adobe Media Manager」という名称になっている。

インターネット広告などのプロモーションでは、どのメディア(リスティング広告ならキーワード)にいくら投資すれば、最大のリターンが得られるのか、費用対効果を見極めることが大事である。単なるコンバージョン数だけではなく、売上高を指標とすることが、ビジネスのインパクトを正しく評価できる。

さて、「テラフィット」の広告キャンペーンは、費用対効果は見合っているだろうか。プロモーション担当者であるマーク・イーマン氏が紹介した「Adobe Media Optimizer」の「ポートフォリオ・パフォーマンス」のレポートを用いれば、費用対効果(ROI)と売上高のインパクトが一目でわかる。マトリクス形式のビジュアルグラフなので、効果の善し悪しがすぐにわかるのだ。

「ポートフォリオ・パフォーマンス」の画面イメージ。金融工学で発展した統計手法が用いられている。

さらに、今後、広告予算をどのチャネルに投資すればいいのかを判断するために予測シミュレーションの機能も備わっている。デモでは、「ある一定のコストをかけたとしても、得られるリターンには限界点がある」ということがグラフで示され、非常にわかりやすかった。

「Adobe Media Optimizer」の予測機能を語るマーク氏。最適な予算配分がシミュレーションできるという。

テクノロジーは揃った。あとは組織がどう動くかだ。

一連のキャンペーンが結果としてコンバージョン率を向上させていたことが確認されたメガデモだったが、その一連の流れのなかで

  • マーケッター
  • デザイナー
  • アナリスト
  • サイト運営者
  • テスト担当者
  • ソーシャル担当者
  • プロモーション担当者

といった関係者がそれぞれの役割を果たし、デジタルマーケティング活動を推進させていた。その様子は、カンファレンス会場の多くの参加者から好評だった。

アドビシステムズのCMOであるレンチャー氏は、次のように総括する。

ユーザーが情報に触れる「The Last Millisecond(最後のミリ秒)」の瞬間に、ユーザーが求めるタイミングで最適な提供をすることが求められている。

それをより良く行うためには、適切なテクノロジーを用いるのが現実解であり、またそれを達成するためには、デジタルマーケティングの一連の業務プロセスを、関連組織のスタッフそれぞれが一緒に進めることが必要なのだ。

デモンストレーションに出てきた5つの製品群は、それぞれ専門領域において高度な機能が備わっている。しかし、ただ専門的なだけでなく、組織間の壁を壊し、必要なコミュニケーションや情報・データのやりとりをしやすくするプラットフォームが用意されている。これは、強力なアピールポイントであるだろう。レンチャー氏は、語気を強める。

テクノロジー環境は、十二分に揃った。

テクノロジーはすでに存在しているので、次に問題となるのは、企業がどう動くかなのだ。デジタルマーケティング活動を行う組織にとっては、新しい課題を突き付けられたのではないだろうか。

もちろんアドビ システムズ自身もそれに果敢にチャレンジをしているところだ。この業務プロセスを推進させるためには、新たな組織文化をつくることが求められ、それを遂行させるスキルを持った人材が必要になってくるであろう。デジタルマーケティングの世界は、ハードルが高くなっているようにも感じられるが、だからこそ、ますますおもしろくなってきたといえるのではないだろうか。

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