SiteCatalystやTest&Targetが消える? アドビがAdobe Marketing Cloudで示した企業のマーケティングを「実践する」ための環境/Adobe Summit 2013基調講演レポート
アドビ システムズが年に一度開催するデジタルマーケティング関連の大規模イベントが今年も開催された。今年はイベント名を「Adobe Summit 2013」とし、米国ユタ州ソルトレイクシティで3月に開催された。
この記事では、世界27か国5,000名の参加者が集まった同イベントの基調講演で語られた「最後のミリセカンド」というメッセージと、これまで使い慣れた「SiteCatalyst」や「Test&Target」という製品名を使わないようにアドビが推し進めた統合サービス「Adobe Marketing Cloud」の姿とその狙いについてレポートする。
Adobe Summit基調講演
「The Last Millisecond(最後のミリセカンド)」における対策の重要性
Adobe Summit 2013初日の基調講演では、米アドビ システムズ社 上級副社長のブラッド・レンチャー氏がまず講演し、その後も基調講演をホストした。
基調講演のテーマは、「The Last Millisecond(最後のミリ秒)」。瞬間的なタイミングで、ユーザーの抱える課題に最適な訴求で解決策を提示し、デジタルマーケティングを成功に導くべきだということを意図としている。
レンチャー氏はまず、次のエピソードを語りながら、デジタルマーケティング活動における重大な課題は「テクノロジー」と「組織」にあると論じた。
このECサイトは、品揃えやファインダビリティ、ユーザビリティなどは高かったのかもしれない。しかし、サービス全体としては、「水泳のキャンプにおしゃれなゴーグルを持っていく」という顧客のニーズを満たせなかったのだ。
企業のマーケティング担当者は、ユーザーの期待を裏切ってはいけない。企業の提供するウェブサービスから得られる価値にますます期待を高めているユーザーの要求に、適切に問題解決を行うことが求められるのだ。
そして、レンチャー氏自身が野球選手になりたかったと告白しながら、次のメッセージを語った。
野球のピッチャーがボールを投げ、キャッチャーミットに到達するまで、わずか0.5秒間、つまり500ミリ秒。
そしてバッターが打ち返す瞬間が「最後のミリ秒」。バッターは、この「最後のミリ秒」で瞬時に判断している。
現代のデジタルマーケティングの世界も同様で、このスピードで最適な判断をしていかなければならない。
デジタルマーケティングにおいても、この瞬間的な判断とアクションを実現することが求められているとレンチャー氏は語気を強める。Webサイトへの訪問者を瞬間的にデータ解析し、その訪問者にとって最適な価値体験の提供を、その場で仕掛けていかなければならない。これは「テクノロジー」がなければ実現することは難しいのだとレンチャー氏は指摘する。
さらに、データを軸に、課題の特定、解決策となるアイデアを考案し、実行へ移すというマーケティング活動の業務プロセスについても、高速で対応することが求められている。これは「組織」に課題があるのだとレンチャー氏は指摘する。
実際、多くの企業およびWebマーケティング担当者は、「データを持ち合わせていても、アクションにつながらない」という課題を抱えていることが多い。その課題は「テクノロジー」と「組織」にあるとレンチャー氏は指摘しているのだ。
そして、それは、サイロ化(縦割り化)されてしまった組織と、そこで使われる製品に問題があるという。これを解決するのは「統合」というコンセプトに基づく活動であると提案する。
SiteCatalystやTest&Targetが消える?
「Adobe Marketing Cloud」への統合による組織連携の強力サポート
Adobe Summit 2013の基調講演および各セッションでは、この「テクノロジー」と「組織」について、現在のデジタルマーケティング活動における大きな課題であると繰り返された。この課題に真摯に取り組もうとする姿勢を、アドビ システムズおよび彼らのソリューションを活用する企業の経営者やマーケッターたちから感じることができた。
その最たるものは、「統合」のコンセプトを軸とした「Adobe Marketing Cloud」の発表である。
従来アドビ システムズが提供する27種類にものぼる製品を、「Adobe Marketing Cloud」のなかで5つのソリューションにまとめると発表されたのだ。
アドビ システムズという一企業が、異なる分野の製品を秩序なく販売をしているということではなく、壮大なコンセプトを持ったマーケティング戦略に基づき、有機的につながりを持って統合されたソリューションを提供するという方向だ。
単に製品群が整理されたというよりも、新たな価値を提供する総合的なソリューションであると理解するほうが正しいだろう。
今回の発表の要点は、次の5つだ。- 従来の27製品を5つのソリューションに統合した
- デジタルマーケティングにおける、4つの構成要素を「統合」するものである
- すべての製品は、シングルサインオンでアクセスができる
- 企業が組織としてマーケティングを「アクション」に導くための「総合ダッシュボード」が提供される
- すべての製品の情報や編集管理は、マルチデバイスでいつでもどこでも対応できる
5つの統合されたマーケティングソリューション
今回の統合により、従来、「Adobe SiteCatalyst」や「Adobe Discover」など個別製品として提供されていたものが、整理される。そもそも、組み合わせて利用することが価値をもたらすものでもあったので、利用者にとっても、あらかじめ導入すべきものがまとまり、シンプルになったといえる。そして、それらは、統合されることで、価値を強めるのである。
Adobe Analytics ―― アクションにつながる分析&レポーティング提供
Adobe Experience Manager ―― Webコンテンツマネジメントを基盤とした、顧客エクスペリエンスの強力な管理
Adobe Target ―― テストとパーソナライズ配信によるクリエイティブ訴求の最適化
Adobe Social ―― オウンド、アーンド、ペイドメディアにおけるソーシャルマーケティング活動の一括管理
Adobe Media Manager ―― マルチチャネル広告キャンペーン運用の効果測定&最適化
この統合が意味するのは、オムニチュア時代から使い慣れた「SiteCatalyst」「Test&Target」といった製品名が、今後は消えていくということだ。
もちろん、製品そのものが消えるわけではなく、それぞれの製品が、前述の「Adobe Marketing Cloud」5ソリューションに統合される形だ。たとえば「SiteCatalyst」や「Discover」は「Adobe Analytics」に、「Test&Target」は「Adobe Target」に統合されている。
デジタルマーケティングにおける、4つの構成要素を「統合」する
レンチャー氏は、デジタルマーケティングには4つの構成要素があると解説し、それらの活動自体は、「統合」されることによって、初めて価値をもたらすものであると力説した。
そして、そのコンセプトが「Adobe Marketing Cloud」の統合に反映しているという。
LISTEN(顧客に聴く)
デジタルの世界では、大量のシグナルが発信されているが、それらを価値あるデータとして、解析をすることが重要である。顧客層のデモグラフィック、ロイヤルティ、エンゲージメントなど、Webサイトに訪れるユーザーの行動傾向を掴むことが求められる。
また、ソーシャルグラフなどインターネット上で消費者が語る声に耳を傾けることがマーケティング活動にとって重要な情報源となる。しかし、課題は、デバイス間の情報が分断されていることや、組織においても、分散された状態でデータが眠ってしまっていることである。
また、顧客が誰なのかを知ることや、どんな体験を求めているのかを把握する必要があるが、的確に捉えるために数学的なアルゴリズムが必要であることや、人間が瞬時に意思決定するのは難しいため、テクノロジーが重宝する。
アドビ システムズでは、ビッグデータやそれらのデータを用いたアクションのオートメーション化に備えて、さまざまな投資をしてきたと、加えて説明した。
PREDICT(予測する)
マーケティング担当者にとっては、現状、世の中に提供されているソリューションツールに備わっている機能だけでも十分であるという。確かに、さまざまなツールはすでに、高機能であり、使いこなそうとするだけでも骨が折れる。
しかしレンチャー氏は、「
システムインテグレータよりも、マーケティングに戻るべきだ
」と強調する。また、「ビッグデータの重要性が叫ばれているが、沢山のデータを持っている人が勝つというのは嘘だ
」という。この2つの主張は、価値ある情報(Intelligence)を読み取らなければ意味がなく、また、組織内で戦略的に活用して初めて価値があるということだ。次に何が起こるのかという予測を導き出すということが、データの持つ価値である。
ASSEMBLE(組み立てる)
データやコンテンツは、分断された状態ではなく、意図を持って「組み立てられたもの」となるべきである。まず、高度な顧客データの分析は「Adobe Analytics」で行う。そして、顧客データを取得し、最適なコンテンツをミリ秒で提供する。これを実現するのは、「Adobe Target」のソリューションである。
DELIVER(提供する)
優れたデータや企画設計ができたとしても、最終的に、アクションにつなげなければ意味がない。デジタルマーケティング活動における構成要素の最後の1つである「提供する」ソリューションにも、アドビ システムズは投資をしてきた。
たとえば、ユーザーに最適な体験を提供できるコンテンツマネジメントソリューションである「Adobe Experience Manager」は、マルチデバイスにも対応しており、ユーザーにとって、最適な情報提供ができる環境を整えている。
すべての製品は、シングルサインオンでアクセスができる
これまで、マーケターは数多くの製品を利用しており、それぞれのツールにユーザー名とパスワードでログインして利用してきた。しかし、今回、発表された「Adobe Marketing Cloud」の5つのソリューション群では、一度のログインで、横断的にアクセスできるようになるという。
またこのログインにはAdobe IDを用いるので、「Adobe Creative Cloud」にも同一のログイン情報ででもアクセスできるように準備を進めているようだ。
企業が組織としてマーケティングを「アクション」に導くための「総合ダッシュボード」が提供される
レンチャー氏は今回の統合に関して「組織が高度なデジタルマーケティング運用を進めていくためのプラットフォームが、これで整った。しかしこれは、単なるツールではない。導入した組織の業務プロセスを変革するものとなるのだ」とアピールした。
その代表が、新しく追加されたダッシュボード機能だ。このダッシュボードはマーケティング関連サービスとクリエイティブ関連サービスで連携しており、さまざまなクリエイティブ、各種レポート、最適化施策などに関して、立場ごとに必要な情報をPinterestのようなインターフェイスでフィードするものだ。
たとえば、分析担当者が、データを考察した結果を、コンテンツ制作担当者へ渡す。そして、クリエイティブ案を作成したものを、マーケティング担当者がチェックをする。さらに、それを受けて、テスト設計担当者がA/Bテストやターゲット配信を設定し、それが実行される。この業務プロセスを、1つのプラットフォーム上で完結させるという構想だ。
役割の異なる担当者同士が連絡をやりとりすることを助けるこのダッシュボードは、組織として実際に「アクションする」ことを助けるように作られている。これまでは「サイロ化(縦割り)」されていた組織が、連携して動けるようにするためのものなのだ。
すべての製品の情報や編集管理は、マルチデバイスでいつでもどこでも対応できる
これまでWeb関連で「マルチデバイス対応」というと、サイトを訪問するユーザーや顧客とのコミュニケーションにおけるマルチデバイス対応が語られることが多かった。しかし、アドビが今回提唱するマルチデバイス対応は、組織の内側にも向いている。
顧客にとってのマルチデバイス提供のみならず、マーケティング担当者など運営側も、マルチデバイスで対応できることが望ましい。
会議中や外出中に、持ち運びが便利なタブレットを用いることで、時間や場所に制限されずに、マーケティングの状況判断ができ、業務プロセスを進行させることができるようになるからだ。
Adobe Marketing Cloudでは、前述のダッシュボードや管理画面が、マルチデバイス対応されている。実際にセッションでは、実際に複数の担当者が入れ替わる形式で、大掛かりなデモンストレーションが行われた。彼らは、iPad miniを用いて、タッチスクリーンの画面上でダッシュボードやAdobe Marketing Cloudの各種ツールを使い、マーケティング施策をサクサクと展開させていた。
Adobe Summit 2013の基調講演は、「The Last Millisecond」のコンセプトを皮切りに進行された。瞬間的な判断とアクションが求められる次世代のデジタルマーケティングの課題への解決策は「テクノロジー」と「組織」における「統合」である。
「Adobe Marketing Cloud」は、その統合を組織が運営するためのテクノロジーを備え始めていることがアピールされた。「The Last Millisecond」の瞬間に、ストライクアウトを取られるのではなく、ホームランを狙えるかどうか。今後、我々は組織運営の課題と向き合わなければならないだろう。
少し前述したが、今回の発表で、「Adobe Marketing Cloud」は「Adobe Creative Cloud」とも連携強化されることにより、クリエイティブとマーケティングの業務プロセスをスムーズに加速化させることができるになると伝えている。これにより、アドビシステムズが掲げる「アートとサイエンスの融合」のビジョンが、より一層、現実化されていくことになるだろう。
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