インタビュー

キーワード広告自動管理ツール欧州最大手のtdサーチウェア上陸/TradeDoubler社インタビュー

注目企業のネットビジネス戦略

トレードダブラー社TDテクノロジー

取材・文:編集部

2007年に日本展開を図っていたキーワード広告の自動管理ツール「BidBuddy」のテクノロジーワークス社が、ヨーロッパ最大級のデジタルマーケティング企業のトレードダブラー社に買収され、パワーアップした「tdサーチウェア」として、本格的な日本での事業展開を開始している。

トレードダブラー社でtdサーチウェアの事業を統括するマイケル・エンプソン氏に、自動入札ツールの進化と日本での展開について聞いた。

トレードダブラー社は、ヨーロッパを中心に事業を展開しているデジタルマーケティング企業。同社はTDテクノロジーのブランドで、広告代理店向けにキーワード広告の自動管理ツール「tdサーチウェア」を提供している。

同社でマネージングディレクターとしてTDテクノロジーの事業を率いているマイケル・エンプソン氏に、1年前にIMWグループのテクノロジーワークス社長としてWeb担のインタビューを受けてからの環境の変化や、キーワード広告自動管理ツールの進化、そして日本での展開について伺った。

IMWグループからトレードダブラーへ

マイケル・エンプソン氏
マイケル・エンプソン氏
トレードダブラー社 TDテクノロジー マネージングディレクター
ロンドンのAgency.com副社長、Scottish PowerとRoyal Bank of Scotlandのインターネット・ジョイントベンチャー企業の最高執行責任者、British Gasでのディレクター職など重要なポジションを歴任した後、自身でオンライン広告ビジネス、ロイヤルティプログラムを専門に行う企業を設立。2007年から現職。

●編集部 2007年5月にインタビューさせていただいたときには、英国IMWグループのテクノロジーワークス社として、キーワード広告の自動管理ツールの「ビッドバディ」を日本で提供するということでした。それが現在、トレードダブラー社として来日されていますが、テクノロジーワークス社やビッドバディに何が起きたのでしょうか?

●マイケル・エンプソン氏(以下、「マイケル」) 昨年にテクノロジーワークスの代表として日本を訪れて以降、我々のビジネスにさまざまな変化がありました。2007年7月25日に、トレードダブラー社が、IMW(インターネットマーケティングワークス)社を5,600万ポンド(約116億円)で買収しました。それにより、IMWグループだったテクノロジーワークス社(自動化ツールの提供企業)とサーチワークス社(検索マーケティングの代理店)も、トレードダブラーに買収された形になったのです。

●編集部 トレードダブラー社とは、どういった企業なのでしょうか。

●マイケル トレードダブラーは、ヨーロッパ最大級デジタルマーケティング企業で、本拠地のスウェーデンで株式公開しています。その規模は非常に大きく、ヨーロッパ18オフィスにいる550人以上の従業員が、1600社以上の広告主、12万5000以上のサイトと取引をしています。

トレードダブラー社の歴史はアフィリエイトマーケティングから始まりました。アフィリエイトプログラムの運営により、多くの市場で成功を収め、さらにバナー広告などをを取り扱うメディアビジネスへと事業を拡大させました。

現在は、そういったマーケティングサービスを効率良く利用するための技術(テクノロジー)として、アフィリエイト、ペイ・パー・コール、広告配信などを扱うサービスがあり、さらにアドネットワークも運営しています。

トレードダブラー社
http://www.tradedoubler.com/

●編集部 IMWグループ、特にテクノロジーワークズは、そのトレードダブラーのなかでどういった役割を果たすことになるのでしょうか。

●マイケル トレードダブラーは、既存のテクノロジーに加えて、IMWグループを買収することで検索マーケティングの技術を手に入れ、デジタルマーケティングに関するテクノロジーをフルラインアップで揃える形となったのです。

買収によって、テクノロジーワークスは、トレードダブラーの新しい事業部門「TDテクノロジー」となり、私がその事業を率いる役割となりました。TDテクノロジーは、検索テクノロジー、広告配信テクノロジー、アフィリエイトテクノロジー、レポーティングテクノロジーなどをまとめて管理できる「tdツールボックス」という非常にユニークな特徴をもっています。

2007年の秋には、我々はビッドバディを発展させたキーワード広告の自動管理ツールである「tdサーチウェア」のサービスをヨーロッパで開始し、非常に良い反応を得ました。

そして、アジア市場の第一歩として、トレードダブラー株式会社TDテクノロジーとして日本での体制を整え、2月には日本での事業展開を大々的に発表しました。

トレードダブラー株式会社TDテクノロジー
http://www.tdtechnology.co.jp/

自動管理ツール「tdサーチウェア」はBidBuddyの進化形

●編集部 テクノロジーワークス社は、親会社のIMWがトレードダブラー社に買収されたことにより、ヨーロッパでは「TDテクノロジー」というブランド名で事業を展開する形となり、テクノロジーワークス時代から展開の準備を進めていた日本では「トレードダブラー株式会社TDテクノロジー」というブランド名で事業を始めているということですね。では、焦点の、キーワード広告の自動管理ツールに関してはどうでしょうか。

マイケル・エンプソン氏

●マイケル 2007年の時点では、我々の検索マーケティングの技術は「ビッドバディ」という名前でサービスを提供していましたが、そのビッドバディが「tdサーチウェア」という名前のサービスになりました。

tdサーチウェアは、単に名称を変更しただけでなく、ビッドバディがもつ8〜9年の歴史を引き継いだうえに、その機能を大幅に改善しています。

tdサーチウェアは、検索マーケティングを行う広告代理店のために作られたサービスなので、機能の改善にあたっては、世界中の広告代理店の意見をヒアリングし、その結果を重視しました。英国、フランス、ドイツ、オランダなど各地で、既存のお客さまとワークショップやミーティングを開き、彼らが検索マーケティング関連のサービスに対して求めているものを理解し、それを実現するように改善を重ねたのです。それによって、tdサーチウェアは、特にユーザー視点での使いやすさを重視したものになりました。

日本でのTDテクノロジーの本格始動は1月でしたが、それから間もなく私は日本を訪れています。それも、日本のお客さまの声を聴くためです。日本のお客さまがtdサーチウェアに対して感じていること、製品にどんな特徴が求められているのかなど、貴重なフィードバックをたくさん得られました。

●編集部 ビッドバディからtdサーチウェアになって、どのような点が改善されたのでしょうか。

●マイケル 新しいtdサーチウェアでは、ユーザビリティが大幅に改善されたことに対して、日本のお客さまはすばらしい評価をしてくださっています。

特に、レポーティングの機能は、日々パソコンの前に座って作業をしている広告代理店の担当の方にとって使いやすいものにと改善されています。「tdサーチウェアのおかげで、レポート作成にかかる時間が半分になった」と興奮して語ってくださる方もいらっしゃいました。

もちろん、キーワードやクリエイティブの編集、レポートなども含めたキャンペーンの管理全体が改善されていますので、「tdサーチウェアによって全体の作業時間を25%短縮できた」というお客さまもいらっしゃいました。tdサーチウェアは、ビジネスの能率を向上するための技術なのです。

また、トレードダブラーは、tdサーチウェアをはじめとする製品の機能や使い勝手を常に改善しており、ヨーロッパでは3か月ごとに大規模なバージョンアップを行っています。

●編集部 3か月ごとですか!

●マイケル 我々のビジネスは、非常に動きの早いデジタルマーケティングの世界のニーズを満たすためのものですからね。さらに我々は、その変化をリードし、変化に応えていく必要があると考えています。そして、その変化は、ビジネスの最前線で活躍しているお客さまによってもたらされるものなのです。

また、5月には改めて製品の担当者が日本を訪れ、製品を使っていただいているお客さまや、将来のお客さまと意見交換をさせていただきました。

日本は見逃せない重要な市場でありコミットしていく

●編集部 日本におけるTDテクノロジーの展開についても教えてください。

●マイケル 昨年のインタビューの時点で、私は日本のマーケットに対するコミットメントを表明していましたが、日本のTDテクノロジーもしっかりとした体制を整えています。

代表取締役として、オフラインやオンラインのマーケティングにおいて長い経験をもつ、元オーバーチュアの横田 祐介が就任しています。また、ビジネスデベロップメントディレクターとしてダブルクリックやアマゾンで経験を重ねた石川 陽子が就任しています。

さらに、TDテクノロジーでは人材の厚みを増しています。4月には、お客さまの増加に対応するために、検索マーケティングの経験が豊かで、日本語も流ちょうに話せるスタッフを英国から連れてきました。

また、日本のお客さまに対してサービスの質を高めるために、日本にデータセンターを契約しており、サービスのレベルを確保しています。

こうして、日本法人の人材やインフラに対してコミットすることにより、日本に進出しようとしている他の海外企業と明確に差別化をできるものと考えています。日本のお客さまなのに海外の本社と海外の法律で契約しなくてはいけない企業もありますが、我々は、日本語を話すスタッフが、日本の法人として日本の法律に基づいて契約しますから。

日本へのコミット度合いを繰り返しますが、トレードダブラー全体のCEOであるウィル・クーパーは、すでに日本を二度訪れています。彼がカンファレンスに出席したり、主要なお客さまとお会いして日本に対する投資を増やすことを確認したりしているのも、トレードダブラーにとって、日本というマーケットが非常に重要だからです。

●編集部 ビッドバディは広告代理店向けのサービスでしたが、tdサーチウェアはやはり代理店向けなのでしょうか。それとも、中小規模の広告主が自ら使うサービスでもあるのでしょうか?

●マイケル 引き続き、広告代理店向けのサービスであることは変わっていません。英国では、広告主さまが直接tdサーチウェアを利用して自らのキャンペーンを管理している場合もありますが、全体としてはごく一部です。

●編集部 2007年からの1年で、日本の状況も変わってきています。特に、オーバーチュアがモバイル分野に本格的に進出したり、携帯電話のキャリアが検索エンジンと提携したりしています。TDテクノロジーとしては、そういった状況に対してどういった対応を考えているのでしょうか?

マイケル・エンプソン氏

●マイケル モバイルのマーケット、モバイル検索、モバイルコマースの市場は、日本では特に大切であることは理解しています。おそらく日本は、この分野に関しては世界で最も進んでいるといえるでしょう。ヨーロッパ各国は、少なくとも1年は日本に遅れています。

しかし我々は、検索エンジンが何か変わったとしても、そのほぼすべての変化を、グーグルやヤフーとtdサーチウェアをつなぐAPIを通じて知ることができます。

我々は、ヨーロッパにおいて、検索エンジン企業とは常に近い関係で行動してきています。グーグルとヤフーにとって、我々は最大規模の顧客ですから、米国の本社とやりとりすることもあります。そして、これからも、さらにその関係を緊密に保っていきます。

つまり我々は、モバイル市場に関しては、その重要性を認識し、ソフトウェア市場のニーズに対応させることで、市場にとって我々の製品が重要であり続けるように努力しているのです。

日本のモバイル市場は、手を付けずにおくには、あまりにも重要すぎるのです。

日本の検索マーケティングを「技術」で支えていく

●編集部 日本の広告代理店の、検索マーケティングに対する態度や考え方は変わってきているように思われますか?

●マイケル 広告主も広告代理店も、検索マーケティングのより洗練された活用方法を、どんどん学んで行っていると思います。数年前には少なかった入札キーワード数が、今は大きく増えてきています。

広告代理店の構造という視点では、推奨認定代理店やオンライン代理店などいろいろありますが、私の認識としては、検索マーケティング関連の代理店の資本関係が変わりつつあるように思われます。オンライン代理店が成長するにつれ、旧来の代理店がデジタルマーケティングにより興味をもつようになってきているのではないでしょうか。

また、ROI(費用対効果)やCPA(顧客獲得単価)といった観点からも、技術を活用する意識が浸透してきているように思われます。

●編集部 そういった変化を裏付ける数値データなどがあれば教えてください。

●マイケル そういったデータは、売り上げに直接関連するデータなので、具体的にお教えするのは難しいものです。しかし、数年前と比べれば、質問を受ける機会が明らかに増えてきていますし、トレーニングも以前にも増して実施しています。

また、パフォーマンスベースの施策であるアフィリエイトで起きていたことが、検索マーケティングの世界でも起きていると、よく言われています。これは、我々が過去にヨーロッパで見てきた産業構造の変化であり、我々がお客さまに伝えてきたことなのです。

検索マーケティング世界、バナー広告の世界、アフィリエイトの世界は、それぞれ近づいてきています。だから、我々はtdサーチウェアを、検索マーケティング、バナー広告、アフィリエイトの各システムとつなぎ合わせてデータをまとめて見られるようにすることで、単なるデジタルマーケティングのプラットフォームとしだけでなく、企業のマーケティングをトータルで管理できるようにしているのです。

tdサーチウェアには、アフィリエイトやバナー広告のマーケティングデータを検索マーケティングのデータとまとめて見られるテクノロジープラットフォームがあります。

そういった形でパフォーマンスベースのマーケティングデータをまとめて見られるようになれば、さらにROI/CPAベースの考え方が進んでいくのではないだろうか。

●編集部 そういった各種マーケティングデータの統合は、たとえばオムニチュアのジェネシスが実現しているような機能とは、どのような違いがあるのでしょうか?

●マイケル tdサーチウェアは、検索マーケティングの世界でずっと活躍している人が作ってきているものです。それに対して、他社のツールは、アクセス解析を中心として、各種データを1つのレポートにまとめられるようにしているものだと思っています。

tdサーチウェアは現時点ではアクセス解析の機能はもっていませんが、今後のプランとしては予定しています。アクセス解析は非常に高度な機能なのですが、今年の遅くか、来年の早い時期には実現したいと思っています。

●編集部 最後に、日本の読者に対して、より良い検索マーケティングを実践するためのアドバイスを。

●マイケル 日本の検索マーケティング関連の広告代理店の方に知っておいていただきたいのは、tdサーチウェアは、ヨーロッパ最大の代理店が作った、世界で最も優れている検索マーケティングのアプリケーションだということです。他の同様のツールよりも高度な機能を、より短い時間で利用できるtdサーチウェアを活用することで、貴社のお客さまに、より優れた結果を、より効率的にもたらすことができます。

最先端の広告代理店は、検索マーケティングに対しても、適切な技術を利用することで生き延びていくことを考えなければいけません。そして、検討するべき対象のツールはtdサーチウェアなのです。

昨年から株式会社化して日本に進出してきているのですが、日本は大事な市場ですので、今後も引き続き代理店さまやお客さまと一緒に成長していきたい、そういうスタンスです。

我々がユニークなのは、その独立性です。他の技術がグーグルとくっついていたり、特定の代理店が持ち込んできたりしているのに対して、我々は独立的な立場なので、そういった立場で、代理店さんの成長を助けていく仕事をできればと思っています。

●編集部 ありがとうございました。

※インタビュー実施:2008年4月

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