パナマが強いるキーワード広告の意識変革――「掲載順位」「総広告費」は捨てろ
キーワード広告先進国の英国から
自動最適化ツール「ビッドバディ」が上陸
パナマが強いるキーワード広告の意識変革
「掲載順位」「総広告費」を捨てて「ROI」「CPA」に目を向けよ
英国IMWグループのテクノロジーワークス社は、すでに設立して準備を進めていた日本法人の活動を2007年4月から本格的に開始した。同社は、「ビッドバディ(BidBuddy)®」というキーワード広告の入札管理を自動化して費用対効果によって最適化するツールを、日本でもASPとして広告代理店向けに提供していく。2001年から提供されているビッドバディは、世界で最も早い時期から提供されていたSEM管理ツールであり、すでに全世界で利用されている。
4月19日に六本木で開催された同社のカンファレンスと単独インタビューにより得られた「パナマ後の日本のSEMが進むべき道」をお伝えする。
18か月の準備期間を経て
ついに日本上陸
欧州オーバーチュアを立ち上げマネージングディレクタを務めた経歴を持つニック・ハインズ氏が率いるIMWグループには、広告代理店のサーチワークスと、ソフトウェアなどの技術を提供するテクノロジーワークスという主要な2社がある。
サーチワークス社CEOのジム・ブリッジデン氏によると、同社は検索マーケティングに関して欧州最大級、英国では第1位の広告代理店だ。Eコマースを主軸とするビジネスの顧客を中心としており、平均すると各検索エンジンについて顧客あたり約2万キーワードを管理し、さまざまな商品を多様な価格で販売する顧客に対してROI(投資対費用効果)やCPA(新規顧客獲得コスト)を高めていく施策を中心にしているという。同社は、欧州におけるヤフー、グーグル、MSNの最大の顧客でもある。
いっぽうテクノロジーワークス社は、サーチワークスが広告代理店として培ってきた検索マーケティングの専門的な経験と知識を、「ビッドバディ」というソフトウェアの形で実装して広告代理店に提供している。
同社は日本展開に関しては18か月をかけて周到な準備をしてきたという。すでに日本法人には検索マーケティングの経験を持った日本人スタッフを採用しており、ビッドバディの日本向けローカライズと日本向けの機能追加がされており、サービスを提供するインフラとして、日本のデータセンターと契約済みだ。また、日本の大手広告代理店との対話にも9か月をかけてきた。
ニック氏とサーチワークスCEOのジム氏は、オーバーチュアの前身となったGoTo.comをヨーロッパで立ち上げ、13か国に広げていった経験がある。「我々は、検索マーケティングを非英語圏で行うことに関しては精通している。日本でオーバーチュアを立ち上げるときにアドバイスをしていた経験もある」と言う。時間をかけて準備したこともあり、日本でのビジネス展開には自信を持っているようだ。
SEM市場は英国が最先端
その背景にあるのは……
欧州、特に英国での検索マーケティング市場の状況は日本のそれと似ており、広告代理店と大手広告主が業界の中心となっている。個人や中小の広告主が市場を引っ張っている米国とは大きく異なるのだ。
ただし、欧州ではグーグルが7割のシェアを持つのに対して、日本ではヤフーが6割以上のシェアを持ち、グーグルは3割強のシェアに留まっている点が異なる。これはすなわち、アドワーズ広告とオーバーチュア(欧州ではヤフーサーチマーケティング)のシェアの違いとなる。
キーワード広告の掲載順位に着目してみると、旧オーバーチュアの掲載順位は入札価格だけで決定されるためコントロールが容易だったのに対して、アドワーズ広告の掲載順位は、入札価格だけでなくクリック率やリンク先のページとの関連性などさまざまな要素で決められる。つまり、グーグルが主流の欧州では、広告主がどれだけお金を積んでも広告の掲載順位をコントロールできない状態にある。言い方を変えると、英国のキーワード広告は、すでに「掲載順位」を管理する時代から、「投資対費用効果(ROI)」や「新規顧客獲得コスト(CPA)」に注目して最適化する時代に進化しているのだ。
英国でこの7~8年検索ビジネスに携わっているジム氏は、次のように語る。
「当初、広告主は掲載順位を気にするためキーワード数を少なくしていた。ところが、大量のキーワードを管理するようになってきた現在、広告主の興味は掲載順位ではなく、検索マーケティングに投じた費用からどれだけの収益が見込まれるのかというところに移ってきた」
実際に英国のSEM市場は進んでいると考えていいようだ。日本ではインターネット広告費3,981億円に占めるキーワード広告の比率は29%に過ぎないが※1、英国では、インターネット広告費が2006年には新聞や雑誌を超えて約5,000億円(20億ポンド)となり、なかでもキーワード広告は前年比52%増と躍進してインターネット広告費の57.8%を占めている※2。
英国では5年かかった変革
日本ではパナマによって
急速にしかも強制的に
現代英国流のキーワード広告では、「クリック単価」「クリック率」から導かれる「広告費」に、「コンバージョン率」「売り上げ単価」から導かれる「総売り上げ」、そして利益率などを組み合わせてキーワード広告の費用対効果を測る。その状況を見ながらコンバージョン率を改善したり、クリック単価を最適化したりするわけだ。
現在、日本ではキーワード広告に使う予算を月額いくらで設定している広告主は多いだろう。しかし、費用対効果が確保されているならば、キーワード広告のコストがどれだけ上昇してもそれだけ利益を確保できるため、総広告費を気にする必要がないはずだ(在庫が切れない限り)。
「英国はSEMのあるべき姿をリードしているし、その成長のスピードは2~3年は落ちないだろう。日本でも同様の動きが今後加速するはずだ。というのも、検索ユーザーのリテラシーが高く、また知識の高い広告主と代理店がうまく連携できている背景が英国と同じ状況だからだ。パナマがスタートした今、日本のインターネットマーケティングは重要な時期にさしかかっている。我々がこのタイミングで日本での活動を開始した理由はそこにある」(ニック氏)
日本のSEM市場は大変革の時期を迎えている
しかも急激に、そして強制的に
日本でも、オーバーチュアの新スポンサードサーチへの移行が完了して掲載順位決定方式が変更されると、キーワード広告の掲載順位を決定できない「パナマ後」の世界が来る。それも短期間で急激に。
実は、欧州でも2002年にはヤフー(つまりオーバーチュア)が大きなシェアを持っており、グーグルのシェアは10%しかなかった。しかし、5年ほどの間にグーグルのシェアが70%にまで伸びた。つまり、掲載順位をコントロール「できる環境」から「できない環境」への変化がゆっくりと起きた。ところが、日本では新スポンサードサーチへの移行によって環境が急激に変えられてしまう。どれだけ掲載順位を指定できる世界を好んだとしても、すべてのアカウントは最終的にはオーバーチュアによって強制的に新スポンサードサーチに切り替えられる。つまり、この急激な変化からは逃げられないのだ。
そのためビッドバディでは、日本での急激な市場環境の変化に対応するまでの過渡期向けに、2つの新機能を搭載したという。1つは「プレミアレンジ戦略」と呼ばれる掲載順位指定の機能で、新スポンサードサーチで得られる上位掲載広告の入札価格範囲の情報を元に、掲載順位を“ある程度”指定できる。もう1つは「バジェットオプティマイザー」と呼ばれる予算最適化機能で、1日の予算額を見ながらキーワードの入札価格の上げ下げを自動的に行い、決められた期間内で予算を管理できる。
これらの日本向け機能は、本誌セミナーなどでもおなじみのルグランの助けを得て追加されている。ちなみに、ルグランはこれ以外にも、インターフェイスやマニュアルの日本語化や日本における体制の構築、マーケティングなど、さまざまな面でテクノロジーワークスの日本進出を支えている。
今後大手代理店の
市場シェアが変わる?
ニック氏は言う。
「広告主も広告代理店も、今日本で何が起きているのか、何が変わっているのかを正しく理解する必要がある。掲載順位の管理からROIやCPAの管理への変化を正しく理解して適応できなければ、広告主は混乱してしまう。
この過程は、我々が過去にすでに通り過ぎてきたところだ。そして、この変化は“たぶん”ではなく、間違いなく起こる。
欧州では、広告主はROIベースの考え方を学習し、代理店は広告主の要求に応えるために努力をしてきた。しかし、すべての代理店がそれに対応できたわけではない。英国にもサーチワークスよりも大きな広告代理店が存在するが、SEMという市場に関して言えば、サーチワークスは彼らよりも規模で30%大きい。というのも、広告主はROI重視のSEMに関して知識や技術の助けが必要で、大手の代理店はその変化に迅速には対応できなかったからだ。
日本の代理店にとってもこれは大きな課題になるだろう。もしかしたら、日本では今後、大手代理店の市場シェアが変わってくるかもしれない。広告代理店として、専門性、技術、知識、プランを持っていないのならば、それはクライアントにとって大きな問題として顕在化してしまうからだ」
日本では広告代理店の役割は掲載順位を確保する作業の代行だった。しかし、その役割が果たせないとしたら、ROIやCPAを改善するアクションを提案する以外にどんな役割があるというのだろうか。
英国で起きた変化は 「必ず」日本でも起きる
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