リフレーミングで視点を変えれば、新しいマーケティング価値が見えてくる
みなさん、こんにちは。
スタートアップ企業でマーケティングに携わっている瀬川(@motoy0shi)です。
先日、以前から気になっていた東京・お台場にある屋内型テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」に行ってきました。普段あまりテーマパークには足を運ばない私ですが、この施設が、尊敬するマーケターである森岡 毅さんが代表を務める株式会社刀(以下、刀社)のプロデュースだと知り、マーケターとして社会見学のつもりで訪れてみました。
無機質な入り口を抜けると、目の前には中世ヨーロッパの街並みが広がっていました。歩いていると、突然肩を叩かれ、振り返るとそこにはキャストが立っていて、笑顔でこう声をかけてきました。「やあ、元気にしてたかい?」
この「イマーシブ・フォート東京」は、2022年に営業を終了したショッピング施設「ヴィーナスフォート」の建物を活用して作られたことでも知られています。「女性のための美のテーマパーク」だった施設を、完全没入型の体験(イマーシブ体験)が楽しめる空間として再定義し、施設の大部分を再利用しているのです。
刀社は、本来であれば取り壊される可能性があった施設を、単に再利用するのではなく、没入体験を提供する劇場空間へと再構築しました。この工夫により、建設コストや開業までの期間を最小限に抑えつつ、顧客にとって新たな価値を作り出した点が、非常に興味深いと感じました。
このように、「イマーシブ・フォート東京」の事例は、既存のものに大きな改造を行わなくても、物事の見方や捉え方を変える(リフレーミングする)ことで新たな価値を創出できることを示しています。
この記事では、マーケティングにおけるリフレーミングの価値について、具体的な事例を踏まえて考察します。
リフレーミングとは?
そもそも「リフレーミング」とは、どのような概念なのでしょうか?
リフレーミング(Reframing)とは、物事の認識や捉え方の枠組みを別の視点で捉え直すことを指します。もともとは心理学の分野で使われており、特に家族療法などで活用されていた用語です。
マーケティングの文脈では、物事を新たな枠組みで捉え直すことで、顧客に新しい価値を提供する手法と言えます。
たとえば、古く寂れたものでも、「レトロ」という文脈を与えてリフレーミングすることで、「懐かしいもの」「古き良きもの」というポジティブで魅力的な印象を持たせることができます。実際にこうしたリフレーミングを活用し、古民家を改装したレトロなカフェが日本全国に次々と誕生し、人気を博しています。
ここからは、実際にリフレーミングを通じて新しい価値を提供している具体的な事例を見ていきましょう。
「暗い夜空」をリフレーミングし、観光地として成功した阿智村
長野県阿智村は、中央アルプスの南端に位置する小さな村です。かつては温泉地として栄え、南信州最大の温泉地として知られていました。しかしバブル崩壊後の景気低迷により、観光客が徐々に減少していたといいます。
そんな状況の中、村が着目したのが「星空」でした。実は、阿智村は2006年、環境省が主催する「全国星空継続観察」において、「夜空の明るさが星の観測に適している場所」という指標で最高点を記録していました。当時、村の人々は星空が美しいことを知っていたものの、それを観光客にとって価値のある観光資源として活用する発想には至っていませんでした。
そこで村は、「日本一の星空の村」として新たな価値を打ち出すことにしました。さらに、星空鑑賞だけでなく、プロジェクションマッピングや真っ暗闇を歩く体験などを組み合わせたナイトツアーを企画し、観光客がより長く滞在したくなるような仕組みを整えました。その結果、人口約6,000人の村に、年間10万人を超える観光客が毎年、訪れるようになったのです。
まさに阿智村も、自分たちの資産をリフレーミングにより捉え直すことで、観光に活用できる大きな価値を見つけ出したのでした。
お客様のアイデアで生まれた「無印良品のパスポートケース」の新しい価値
品質が良い商品を手頃な価格で提供することで人気の無印良品。今回紹介するのは、パスポートケースです。
その名前のとおり、本来は旅行中にパスポートを収納するためのケースですが、ある時期から「家計管理用の財布」として活用するアイデアがSNSで広まり、一時は品薄になるほど大ヒット商品となりました。
このパスポートケースには、複数のファスナー付きポケットがついており、もともとは海外旅行時の硬貨、紙幣、レシートを分類して収納するために設計されていました。しかしこれを、「食費」「医療費」など、項目ごとに現金を分けて管理する家計管理ツールとして使うアイデアが生活者の間で広まりました。ポケットで分けられる構造が、家計を見やすく、わかりやすく管理するのに、役立ったのです。
こうした使い方が広まる中で、生活者から「もっとポケットを増やせないか」という声が寄せられました。これを受けて無印良品では、専用のリフィル(追加ポケット)を発売。これによりさらに人気が出て、現在では旅行用品の中でもトップクラスの売上を誇る商品に成長したとのことです。
この事例は、パスポートケース本来の用途に囚われず、家計管理ツールという「リフレーミング」により新しい視点で捉え直すことで、生活者のニーズに応え、新たな価値を創出した成功例と言えるでしょう。
2つのリフレーミング事例に共通する考え方
ここまで紹介した2つの事例には、以下の3つの共通点があります。
①自分たちが持っている資産(アセット)を見直す
1つ目は、自分たちがすでに持っている資産(アセット)を見直すことです。
多くの企業や地域では、自分たちの資産や強みを「当たり前のもの」として見過ごしがちです。リフレーミングの第一歩は、その資産を別の視点で見つめ直し、顧客にとって新たな価値を生む可能性を探ることです。
阿智村では、昔から星空が美しいことは知られていました。しかし、それを観光資源として活用する発想はありませんでした。そこで環境省の調査をきっかけに、「日本一の星空の村」という視点でリフレーミングした結果、星空は村の主要な観光資産として注目を浴び、新たな観光需要を生み出したのです。
とはいえ、自分たちの資産や強みは、自分たちではなかなか気づきにくいものです。リフレーミングには、第三者の意見や視点を取り入れることも効果的です。自分たちでは気づいていないような資産を発見できたり、新たな価値を生む活用方法を思いついたりするかもしれません。
②顧客にとって価値がある枠組み・文脈を捉える
2つ目は、顧客にとって価値がある枠組み・文脈を捉えることです。
リフレーミングで重要なのは、ただ物事の見方や捉え方を変えるだけではなく、その変化が顧客にとって価値あるものでなくてはならないことです。
単に「古い」ものを「レトロ」と言い換えるだけでは、顧客の心は動きません。「レトロであること」がなぜ顧客にとって価値があるのかを明確にする必要があります。
たとえば、西武園ゆうえんちは、「古さ」をリフレーミングして「昭和」というコンセプトを打ち出したリニューアルを行い、V字回復を遂げました。その背景には、日本人の根底にある「横のつながり(コミュニティー)」を通じた幸福感が、生活者の心を動かす価値であるという洞察がありました。
顧客を深く見つめ、顧客の価値観に寄り添ったリフレーミングだったからこそ、大きな成果を生み出すことができたのです。
③顧客に価値がある枠組み・文脈に沿って、商品サービスをブラッシュアップさせていく
3つ目は、顧客にとって価値がある枠組み・文脈が見つかったら、それに沿って商品やサービスをブラッシュアップし続けていくことです。これにより、リフレーミングによって生まれた価値を最大化できます。
阿智村では「日本一の星空の村」という資産を中心に据えつつ、星空鑑賞以外のコンテンツや体験を用意することで、観光客が長く滞在して楽しめるよう、仕組みのブラッシュアップを行ってきました。無印良品では、パスポートケースに専用のリフィルを追加で発売することで、家計管理ツールとしての利便性を高め、新たな需要を獲得していきました。
このように、リフレーミングするだけでなく、顧客視点で商品やサービスを絶えず進化させていくことが、マーケティングの成果を高めるうえで非常に重要なのです。
まとめ
今回の記事では、リフレーミングの概念を具体的な事例をもとに紹介しました。
自分たちの資産をリフレーミングしてみれば、これまで気づかなかった新しい価値が見えてくるかもしれません。その価値は、次のビジネス成長のきっかけになる可能性を秘めています。
ぜひこの記事を参考に、ご自身のビジネスにもリフレーミングの視点を取り入れてみてください。
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