[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

有人より無人サービスを選ぶのはどんなとき? その心理を深掘りしてみた

マーケターコラム、今回はSTORES 株式会社の加藤千穂さん。人はどんなときに「無人」を選び、「有人」を求めるのか、日常の体験をもとに考察しました。
STORES株式会社 広報本部 加藤千穂氏

最近、身のまわりの店で無人化がどんどん進んでいるのを感じます。

たとえばスーパーのレジ。有人レジが空いているのに、ついセルフレジに向かってしまう自分がいます。「わざわざ店員さんに頼むほどでもないかな」と思ってしまうからでしょうか。

先日、くら寿司に行ったときのこと。受付から会計まで、ほぼすべてがセルフサービスという体験をしました。それはまるで、ドラえもんの世界に迷い込んだかのような、ちょっとした未来体験でした。

店に入って出迎えてくれたのは、人ではなくタッチパネル。画面に従って受付を済ませると、テーブルの横にある画面で席への案内も自動。注文はテーブルのタブレットで行い、食事が終わると自動精算機で会計。最後まで、店員さんと言葉を交わすことはありませんでした。

これが、これからの飲食店の当たり前になっていくのかもしれない――そう思いながらも、「すべてが無人になるって、本当に理想的なことなのかな?」と、ふと疑問が湧いてきました。

無人化=自分のペースで進められる心地よさ

よく考えてみると、無人化されていて「ありがたいな」と感じる場面には、ある共通点があります。それは、自分のペースで物事を進められるという安心感です。

たとえば、スーパーのセルフレジ。大量の商品をカゴに入れて、「スキャンが面倒だと思われるかも」と店員さんに気をつかうこともなく、黙々と自分のリズムで会計ができます。その気軽さが、とても心地よく感じられます。

ファストフード店やカフェのモバイルオーダーも同じです。カウンターで後ろに人が並んでいたり、店員さんを待たせていると感じたりすると、つい焦ってしまいます。でも、スマホで注文するなら、誰にも急かされることなく、納得のいくまでメニューを選ぶことができます。そんな「プレッシャーからの解放」も、無人化の魅力の一つです。

私たちには、「周りの目が気になる」「人に迷惑をかけたくない」といった気質が、どこかにあるのかもしれません。だからこそ、「誰も待っていない」「誰にも見られていない」という環境が、安心や自由を感じさせてくれるのでしょう。

無人化の心地よさは、単なる効率の良さだけでなく、そんな「他人に気をつかわないですむ空間」がつくられているからなのかもしれません。

人がいることに価値を感じるとき

一方で、「やっぱり店員さんがいてくれてよかった」と感じる場面もあります。

興味深いのは、同じファミリーレストランでも店舗によってサービスの方針がずいぶん違うこと。

多くのファミレスがセルフサービス化を進める中で、私が訪れたデニーズの店舗では、店員さんがテーブルまで来ておすすめメニューを丁寧に紹介してくれました。さらに「これ、美味しかったですよ」と一言添えてくれると、不思議と「それにしてみようかな」という気持ちになります。

こうしたちょっとした会話ややりとりが、ただの「食事をする時間」を「お店で過ごす豊かな体験」へと変えてくれる。そんなふうに感じました。

アパレルショップの店舗は、店員さんから声をかけられることが多くて苦手なのですが、「これはいいかも」と思ったときには、逆に店員さんの意見を聞きたくなります。さらに、手持ちの服との合わせ方やコーディネートのアドバイスなど、プロならではの提案があるのも、有人サービスならではの魅力です。

状況や心理状態で変わる「理想のサービス」

あらためて振り返ってみると、無人と有人どちらの方が良いのかは、いつも決まっているわけではありません。そのときの状況や自分の心理状態によって、心地よいと感じるサービスの形は変わります。

コンビニでの買い物は、朝の通勤で時間がないときや、深夜に小物を買いたいときは、セルフレジですばやく済ませたい。でも、宅配便の発送や公共料金の支払いなど、ちょっとややこしい手続きが必要なときには、やはり店員さんがそばにいてくれると安心します。

ホテルのチェックインも同じです。出張で利用する場合は、到着してすぐに自動チェックイン機で手続きを済ませられると、とても便利です。一方、プライベートでの旅行は、フロントで笑顔とともに丁寧に迎えられると、「旅行に来たんだな」という特別な気分が高まり、その体験がより豊かなものになります。

提供側の「思い」が大切になる

「有人サービスか無人サービスか」という違いは、単にコスト削減や業務効率といった理由だけでは語りきれないように思います。

たとえば、同じファミリーレストランでも、店員さんが自分の感想を交えながらメニューを紹介してくれるデニーズのようなお店もあれば、完全にセルフサービスに切り替えた店舗もあります。「この価格帯なら自動化で十分」といった一律の判断ではなく、「どんなサービス体験を提供したいか」というお店の理念や想いが、サービスのかたちに表れているのではないでしょうか。

無人化か有人化かという二択ではなく、どこをデジタルに任せ、どこを人の手で行うか。そのバランスをどう取るかが、店舗それぞれの「らしさ」を表現する手段になってきていると感じますし、それこそが今の店舗運営に求められていることなのだと思います。

もちろん、人手不足という現実的な課題もありますし、私自身、セルフレジやモバイルオーダー、テーブルオーダーといった便利なサービスはとても重宝しています。

でもやっぱり、店員さんとのちょっとしたやりとりにホッとしたり、嬉しくなったりすることもあり、その両方の良さを感じながら、「どんな目的なのか」「どんな体験をしたいのか」「どれくらいの価格帯なのか」といったことに応じて、サービスのスタイルを選びたい。そんなふうに思うのが、いち消費者としての正直な気持ちです。

ご感想、ご意見があればぜひ、お気軽に私のXアカウント(@sweet_chiho)へリプライをいただければ幸いです。

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