[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

企業がユーザーの「信頼残高」を増やすためにできる、ただ一つのこととは?

マーケターコラム、今回はヘイ株式会社の加藤千穂さん。自身の買い物体験を振り返って、信頼残高が増える条件について考察しています。
ヘイ株式会社 PX部門広報本部 加藤千穂氏

こんにちは、ヘイ株式会社の"えんじぇる"こと加藤です。

じつは買い物が苦手です。もう少し詳しく言うと、選択肢がたくさんある中から「これ!」と選んで買うのが苦手です。最近も、掃除機の買い換えに1ヵ月かかりました。

ここでは詳しい過程は省略しますが、なぜ掃除機を選んで買うだけの作業に、1ヵ月も費やすことになったのか。一つ理由を挙げるとすれば、「選択肢が多すぎるから」です。

買える理由、買えない理由

この「ありすぎて選べない」という状況には、書店でもよく陥ります。

私は書店に行くことが好きで、特に目的もなく、偶然の出会いを期待してぶらりと行くことが多いのですが、特に大型書店に行くと「選べないー」という状況になりがちです。平積み、POP、ポスターなど、さまざまな方法で何百冊もの本がオススメされていて、目移りします。さんざん迷ったあげく、結局、どうしたらいいかわからなくなってしまって、何も買わずに店を出ることもしばしばです。

でも、これが、インディペンデント系の書店に行くと、手ぶらで出ることはまれです。場合によっては、何冊も手に取っては「あれも買おう、これも買おう」となります。

この旺盛な購買行動はいったいなにゆえ? それは、そのお店にある本はすでに店主のフィルターを通して「読むべき本」として置かれていることを知っており、そして私は、実際に買った本が面白かったという体験を通じて、そのフィルターを信頼しているから、だと思うのです。

「あの書店に行けばいい本に出会える」と思えばこそ、迷うことなく、あれもこれもと買うことができる。でも、これって、書店だけの話ではなく、ありとあらゆる買い物に当てはまりそうです。つまり、消費のスイッチを入れるのは、信頼関係の醸成なのではないでしょうか。

信頼できるお店とは?

今までの買い物体験を振り返って考えると、「このお店は信頼できる」と感じる要因は、こんなところにありそうです。

・接客がいい

自分にとって最適な接客をしてくれる。放っておいてほしいときはそうしてくれる。相談したことに適切に答えてくれる。ただ話すだけでも楽しい店員がいる

・陳列されている商品がいい

自分の欲しいものがある。買いたいと思わせてくれる商品がある(取扱商品の多さだけがいいことではない)

・買った商品がよかった

そのお店で購入した商品でポジティブな体験ができた

・情報発信が行き届いている

あらかじめ知っておきたい情報が過不足なく発信されている。頻繁にお店に行かなくても、SNSなどでそのお店の情報や雰囲気がわかる。そういった情報を日常的に発信している

これらの要因を考えていて気づいたのは、いずれも「自分が」いいと感じるかどうかが、とても大事な要素だということです。

つまり、自分がいいと思う基準や感覚がなければ、「信頼できるお店」を持つことはできない、とも言えそうです。

信頼できる情報源とは?

しかし、日常、必ずしも「信頼できるお店」でだけで買い物をするわけではありません。そのときに活きるのが「信頼できる情報源」です。

思い返せば、必要なものを選ばねばならなくなったとき、「◯◯さんが話していたアレ」「TwitterやInstagramで見たアレ」と、誰かのオススメを思い出すことがよくあります。後者は、インフルエンサーの投稿の場合もあれば、SNS上の友人のつぶやきだったり、リアルな知人友人のつぶやき、ということもあります。

この三者に共通するのは、普段から彼/彼女らの情報発信に接触していて、そのセンスを自分は好ましく思っていることです。ここでいう「センス」とは、趣味嗜好、考え方、生き方を言います。そうしたものに好感を持つことで、親近感がわき、その存在に共感し、さらに頻繁にその存在が発する情報に触れようとします。それによって心理的距離が近くなり、それが積み重なって、その情報源への信頼につながっていきます。

私自身は、ひとたび「この人なら信頼できる」と思うと、その人が紹介したものは、今特に欲しいものではなくても、買ってみようと思うこともあります。

一方で、信頼できない相手からの情報には、まったく惹かれません(当たり前かもしれませんが)。また、好ましく思っている人からの情報でも、たとえば、投稿に「#pr」がついていたら、すーっと気持ちが冷めていきます。かつては、私自身も、仕事でインフルエンサーマーケティングを実施していた身であったにも関わらず、年々「#pr」には敏感になっています。

しかし、なぜ、こうも気持ちが冷めるのでしょうか。その感情は、「信頼残高」という概念で説明できそうです。

「信頼残高」の預け入れ/引き出しとは

「信頼残高」とは、スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』にある言葉で、相手との信頼感/安心感の強弱を銀行口座の残高に例えたものです。

相手からの信頼が増す行為を「預け入れ」、相手の信頼を損ねる行為を「引き出し」として、相手の中にある信頼口座の残高を増やしていくことが大事だと説いています。なお、書籍によっては「信頼口座」「信頼貯金」ということもあります。

『7つの習慣』では、相手の中の信頼残高を増やすために、

  1. 相手を理解する
  2. 小さな気遣いと礼儀を大切にする
  3. 約束を守る
  4. 期待を明確にする
  5. 誠実さを示す
  6. 信頼残高から引き出してしまったら心から謝罪する

という6つのポイントを紹介しており、これらの行為を「預け入れ」、その逆の行為が「引き出し」と説明しています。また、こうした人間関係において大切なことを、コツコツと積み重ねていくことが大事だと説いています。

接触頻度が高いと信頼残高は増える

同僚や友人などとリアルで交流をすると、信頼残高が増えます。これは想像しやすいのですが、私はデジタル上での接触でも、リアルと同じように信頼残高が増えるのではないかと思っています。

コロナ禍を経て、対面での接触が減り、リアルで会っていた友人知人よりも、SNS上の知り合いの方が接触頻度が高くなりました。

SNSで頻繁に見ていることで親近感も感じ、リアルで会ったことは数えるほど、または会ったことがなかったとしても、発信されている情報に共感し、徐々に信頼していくように感じます。

特に私自身、第1子を妊娠した頃にフォローした子育てアカウントの人たちは、子どもが大きくなっていく様子もInstagram上で見ているため、遠い親戚のような気持ちで子どもの成長を見守り、投稿しているお母さんたちの気持ちに共感しています。

逆に、SNSでつながりのない幼なじみの方が距離感を感じるようになり、気軽に連絡しづらいと感じることさえあります(私が人見知りなことも影響しているかもしれません)。かといって、いまさら幼なじみに「Instagramのアカウントを教えて」とも恥ずかしくて言えないんですよね。

たまにしか会えず、SNSで接触のない幼なじみに対しては信頼残高が増えることがないのですが、SNSで頻繁に接触している知り合いに対しては、どんどん信頼残高が増えていくと感じます。

もちろん、SNSで発信していれば何でもいいのかというとそうではありません。その人の思いや考え、家族や仕事など、いろんな面が見え隠れすることで、共感が生まれ、信頼残高が増えていきます。

数年前に言われていたインスタ映えのような、素敵な場所に行き、美味しいご飯を食べている憧れの生活……みたいなものではなく、いいことも悪いこともひっくるめた、等身大な姿にグッとくるのです。

前述した「#pr」のタグを見てすーっと冷めていく気持ちというのは、「広告=等身大ではないもの」と感じた私の、その企業やインフルエンサーに対する信頼残高が引き出されている状態なのかもしれません。

企業がユーザーの信頼残高を増やすには?

多くの企業がSDGsやESGを重要視しはじめています。その流れに賛同するユーザーも増えており、そうした活動を行う企業こそが、信頼に値すると考えるようになってきています。

ユーザーからの信頼を勝ち得るために大事なのは、情報の透明性です。企業は何を考え、何のために企業活動をしているのかを常に発信する。ユーザーからの問いかけに真摯に対応する。いいことも悪いことも、それらの行動をすべてオープンにする。その積み重ねが、ユーザーの信頼残高を増やす行為につながっていきます。

買い物で何かを選ぶときにも、表面的な商品情報だけではなく、さまざまな角度から多くの情報を集めることができるようになりました。カスタマーサポートが送ったメールの内容をTwitterでシェアしたり、いい体験も悪い体験も気軽にデジタル上で共有できます。ユーザーが商品や企業を選ぶとき、一番の決め手になるのは「信頼残高」です。

そうした状況で、企業としてユーザーの「信頼残高」を増やし、信頼関係を構築していくには、愚直に、誠実な対応を続けることしかないのではないでしょうか。

ご感想、ご意見があればぜひ、お気軽に私のTwitterアカウント(@sweet_chiho)へリプライをいただければ幸いです。

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