“芯を食う”マーケターとして、AIを最強の思考パートナーとする、クリエイティブな生成AI活用法

こんにちは、マーケティングおよび広告や映像製作の仕事をしている明坂です。
ここ最近、OpenAI(GPT)やGoogle(Gemini)がリリースするAIモデルの進化、賢くなり方がエグいですよね。日常のちょっとした疑問の調査はもちろん、普段仕事で行う作業もある程度代替してやってくれるので、作業方針の決定や成果物の品質確認に注力すればよく、作業効率が向上しています。
しかし、一方で脅威もあります。いまや生成AIは3秒で「それっぽい調査レポート」も「まとまった企画書」も量産します。「AIが吐き出した整理物を貼り合わせる人」ではなく、「AIを使って“芯を食った一撃”を生み出す人」になるために、AIをどう活用するべきかのハウツーを考えます。
AI進化の光と影──マーケターはどこへ向かう?
ここでは主にGPT 4oやo3、Gemini 2.5 Pro などにフォーカスします。これらは調査・要約・ライティングを秒速で処理し、マーケターの仕事領域を大きく侵食しつつあります。
先日、北海道の帯広に旅行をしたのですが、Gemini 2.5 Pro DeepResearchに「ホテルXXに泊まっているので、車で片道XX分程度の範囲で観光スポットやグルメをまとめてください。◯◯な系統が好きで、△△はイマイチ」ぐらいの調査依頼を投げてみました。
すると、ものの数分で特集記事レベルのレポートが返ってきます。雑誌やムックにもそれぞれの良さ、一次情報としての取材力やキュレーション・編集力があると思いますが、このカスタマイズ力を一度知るともう手放せません。

さまざまな作業における効率化の期待が膨らむ一方、「自分の武器が陳腐化する不安」が現場を覆うでしょう。ここで重要なのは、AI脅威論に埋没することではなく「AI協働による価値創造」の道筋を描くことです。正直、前述のようなリサーチと要約の力は(情報ソースが同じであれば)どれだけ頑張ってもAIのパワーには勝てません。ただ、AIにも苦手な領域はあります。
AIが得意なこと
- 圧倒的リサーチ力:公開情報の網羅と高速要約
- 構造化:未整理データを瞬時に分類・整頓
- 壁打ち相手:多角的なアイデア展開・代替案生成・24時間付き合えるタフネス
AIが苦手なこと・注意すべきこと
- 真偽判定:ハルシネーション/バイアスを自律判断できない
- 生の声の欠如:クローズド調査や現場の空気を拾えない
- 文脈・空気感:文化タブーや炎上ラインを誤読しやすい
結論として、AIの強みは「スピード × 表層網羅」であり、深い洞察はまだ苦手です。つまりそれらを踏まえた最終判断、責任ある意思決定はAIではなく、人間がすべきです。人間が、それまで生きてきたなかで得る経験や感情、場の雰囲気や空気感を感じとったうえで、深い洞察=インサイトを捉えた意思決定をすることが成果を大きく左右するためです。AIはまだそこまで感じとれていない部分があります。
AIに「新規飲料のSWOT分析」を依頼すると、“強み=健康訴求 / 弱み=価格高”のようなカタログ的文章が返ってきます。会議資料に貼れば最低限体裁は整いますが、芯を食ってはいません。このレベルの回答例は、今後フリー素材並みにコモディティ化するでしょう。では、どのような差分を人間として目指すべきでしょうか。

AI時代における人間の+α
以下のようなポイントは、特にAIだけでは力を発揮できない領域だと考えています。
課題、目的、評価指標など、本質的な「問い」を立てる
➜問いの設定は人間が行うべきメタ思考文脈や体験から生まれる「ニン」の注入
➜トレンドや文化の背景を解像度高く理解し、発信者のキャラクターから逸脱せず、そのうえでちゃんと「らしさ=ニン」をまとう複合条件的に空気を読む
➜社会的なタブーや世間の温度感を嗅ぎ分け、炎上リスクを考慮しきることは難しい。また、社内政治などデータ化できないものは扱えない前提の可視化
➜AIの強力な思考能力も、優れた前提(プロンプト)のうえでしか発動しない
特に、「ニン」や「空気感」という点で難しいであろう事例を以下にあげます。
実例 1:マクドナルド×ミーム
ネット黎明期の流行曲「男女」や「ぽっぴっぽー」や「Nyanyanyanyanyanyanya!」を販促に転用し、Xで大拡散。懐古ミームと新商品を絶妙ブレンド。ただし、土台グレーなネタも多いネットミームを類似案としてAIに生成させると、ガチものの黒歴史や権利NGも多く含まれる。
明日7/7(金)16:30に、とある映像を公開します。 pic.twitter.com/hKzin4b1r3
— マクドナルド (@McDonaldsJapan) July 6, 2023
実例 2:テレビ東京“お詫び広告”
TVerでの全国リアルタイム配信開始を、新聞全面で「今まで見られなかったエリアの方へのお詫び」として、逆張り訴求。テレ東のキャラクターを踏まえたうえで、文脈・自虐バランス・炎上リスクをのりこえ、社内に通す判断は人間の勘所だ(ちなみにこの広告は私が企画、製作をしました)。
4月に手掛けた新聞広告、テレビ東京のお詫び広告が、なんと新聞広告賞2022の優秀賞に選ばれました!
— アケサカシンタロウ (@dr_akesaka) September 8, 2022
ユニクロさんやファミマさんなど受賞広告が猛者だらけでビビっていますが、嬉しいです。関係者のみなさまありがとうございました。https://t.co/qdfsujqO5K pic.twitter.com/sx8EsPAcn2
AIとの建設的な壁打ちを設計する
生成AIは、“速いタイピスト”や“便利な検索エンジン”ではなく、「着想を量産し、要件に沿って瞬時に整理し直せる〈超高速ホワイトボード〉」として活かすと真価を発揮します。ところが使い方を誤ると――
- ざっくり質問 → それっぽい羅列 → 目を通して終わり
- AIが示した仮説を検証せず、企画書に貼り付ける
- とりあえず生成させたけど、芯を食っていない
──という「AI依存症候群」的なことも起こりかねません。
その結果、起こるのは、
- アウトプットの平均点化(誰がやっても似た資料)
- 意思決定が浅くなる(裏取りや本質的な問いが不足)
- 人間側の思考体力が逆に落ちる(受け身で済むため)
これでは意味がありません。これを突破する鍵は、「量産整理はAI、核心を突く問いと選抜は人間」という役割分担で短いサイクルを何度も回すことです。
手はやたら動く漫画家(AI)と、独自の世界観のある編集者(人間)のタッグみたいな分担

AIの強みと人間の強みを“交互打ち”で掛け合わせ、及第点の「それっぽい」資料を、意思決定に耐える戦略案へアップグレードすることが必要です。
- AIの強み:網羅的情報収集・高速整理・多角的発想
- 人間の強み:目的設定・文脈理解・勘所による選抜
以下では、機能性飲料の商品開発のロールプレイの例を示します。
STEP 1:【AIにまかせること】
公開情報をAIを使って集め、白地図を描く
AIを使って、公開されている情報をまとめるステップです。たとえば、皆さんがお使いのAIに次のようなプロンプトを入れて情報を集めてきます。注意点としては、ハルシネーションや裏どりの甘さを想定し、AIで出力させるときに出典URLを添付し、1次情報を確認することは人間がやりましょう。
プロンプト例:
「2022–24年の機能性飲料市場に関するニュース・業界レポート・主要プレイヤーIRを時系列で要約し、シェア推移・主要トレンドを5点で整理せよ。また特にSNSで話題になった投稿や投稿に対する反響をまとめて」
STEP 2:【人間が行うこと】
問いを深掘りし、AIにツッコミまくる
STEP 1でまとまった情報を出して終わり、ではなく、AIがまとめた情報を見ながら、人間が「違和感を覚える部分」や「さらに深ぼった質問」をAIにどんどんしてきます。
具体例(プロンプト例):
「ヘルスコンシャス層を“SNS映え狙い”と“本気健康志向”で分けた差分は?」
STEP 3:【AIにまかせること】
ペルソナ別に機会領域や商品原型を量産する
深めた問いを軸に、AIにペルソナ・利用シーン・未充足便益を組み合わせて仮説を多角展開させます。この段階は量が大切。人の思考だけでは出づらい斜め上の切り口や極端なパターンをあえて歓迎しましょう。
プロンプト例:
「ズボラ健康志向30代女性をペルソナに、①摂取シーン ②便益 ③潜在ジョブを組み合せ、パターン化し、機会マップを12セルで示せ」
羅列止まりで評価・判断軸が不明瞭な場合は、次のように追加指示をします。
プロンプト例:
「インパクト×実現性マトリクスで色分けせよ」
STEP 4:【人間が行うこと】
文脈・競合動向・自社資産を重ねて絞り込む
ビジネス実装のリアリティ、ブランドらしさ、炎上リスクなど、数値化しづらい変数を総合でジャッジする工程です。この“残す/捨てる”選別こそがマーケターの経験や腕の見せどころ。AIでは評価できない観点で人間が磨き込むべき方向性を対話しながら選抜します。
具体例:
自社強みレバレッジ可?、競合が真似しづらい?、社内キーマンがのる?、ブランドのキャラクターに合っている?、その他世間に受け入れられない空気感や疑問などを投げかけます。
STEP 5:【人間とAIの共同で行うこと】
コンセプトの確定とKPIを設計するために、“芯を食った一滴”を戦略フォーマットに落とす
人間はブランド文脈や組織事情を勘案しながらトンマナを微修正し、「コンセプト+STP+アクション+指標」の セットを固めます。そして、最後に「誰が読んでも狙いと測り方がずれない状態か」をチェックし、全工程を次案件へ引き継げるナレッジとして保存し、完了します。
プロンプト例:
「選抜データを基に①ブランドストーリー120字 ②STP ③4P ④90日アクションプラン ⑤測定KPIを整理」
※前提と方向性がしっかりしていれば、AIに叩きを作らせても、そこまでずれないと思います。
なお、人間の体重がのった、人間だからこその熱量のあるアウトプットにならない場合は、“自社らしさ”・トンマナ調整を必ず挿入して、KPIを設計します。その際、先行 / 中間 / 成果の3層に絞ることがポイントになります。

上記は、あくまで私が直接清涼飲料の調査を行う場合はどうするか、という例ですが、実際にコンテンツの企画をする際やイベントのプロモーションを考える際においても、概念的には同じようなプロセスで行っています。
試しに過去、自分が担当したプロモーションで成功したと言えるものを題材にしてロールプレイしたところ、7割程度は同じような整理になりました。ただ、最終的なプロモーションのフックとなるアイデアやクリエイティブ部分はどれだけ会話しても「優れた」レベルのものが出るには至らなかったので、そこは人間にしかないドライバーを効かせる部分だと思います。
たとえば、先日仕事で行っていた作業で「大喜利ライブイベントのプロモーション案を考えています。特にプレスリリースにして注目を集められる記事見出しになりそうなアイデアを出してください」みたいな壁打ちをしていたのですが、割とどうにもならないものが永遠に出てくるのでそれはそれで辛い。結局、本筋として採用する案は出なかったので、もともともっていた案の肉付けとして使いました。

おわりに──AIと共進化するマーケターへ
生成AIは脅威ではなく能力を拡張するパートナーです。ただし、“平均点生成機”のうえに立つ「問い・ニン・勘所・前提可視化」を磨かなければ、マーケターとしての差別化は難しくなります。そこで、明日からのAIとの対話アクションとして、以下を提案します。
- 毎日10分、AI壁打ち:世の中の関心事やプロモーションの情報を構造化、さらにアイデアの拡散をする(結構私も毎日やっています)
- 自分のニン(個性や特色)棚卸し:直近成功・失敗から“自分しか出せない視点”をメモ、新たにかけ合わせられる先を探す
このアクションでAIとの“良い付き合い方”を身体化し、より本質的で創造的な作業に向かう時間への没頭を実現してみてはいかがでしょうか。よろしければ、これを読んでいるあなたのマーケティング業務におけるAI活用のポイントなんかを、私のXアカウント(https://x.com/dr_akesaka)まで教えてください。それではまた。
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