[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

逆境を乗り越え輝いた「ブラックサンダー」、理解されない企業文化からの脱却と市場浸透へのポイント

マーケターコラム、今回は明坂真太郎氏。現在のブラックサンダー像を作り上げた河合社長に話を伺い、イケてる企画を生む企業文化の秘密を探った。
明坂真太郎氏

こんにちは、マーケティングやクリエイティブ制作の仕事をしている明坂真太郎です。

去年、私が「宣伝会議」のコピーライター講座を受講した時の話です。その時の講師は、電通で数多くの有名CMを手掛けた著名なクリエイターの方でした。ある回の講義の終盤に 質問時間があったので、私はこのような質問をしました。

広告主は広告主で達成したいことがあるし、クリエイターはクリエイターで生み出したいクリエイティブがあり、うまく折り合いをつけることは難しいと考えています。 双方がうまく折り合えることは、クリエイティブ制作においてどのレベルの重要度であると思いますか? また、優れたプロモーションや企画を生み出すことができる広告主にはどのような特徴があると思いますか?

その質問に対して講師の方の回答を端的にまとめると、「よいプロモーションはよい広告主が生み出すもの。そして、クリエイターと広告主のコミュニケーションがよい企画の要である」と仰っていました。ここでいう「よい広告主」を個人的な解釈で分解すると、次のようなことだと思います。

  • 自分たちの顧客のことを理解している
  • クリエイターのアイデアや意図を汲み取れる
  • チャレンジ精神があり、柔軟である

優れたプロモーションや広告を生み出し頻繁に話題になっている企業といえば、個人的には日清食品やマクドナルド、ユニクロ、アース製薬などを想起するところですが、それらの企業が生み出す企画はどんな企業風土、環境から生まれるのでしょうか?

日清食品のどん兵衛PROのCMを「はじめまして松尾です」が制作して話題になった(UUUMより引用:https://uuum.jp/posts/672381

今回はそんな疑問に迫るため、前述した企業に並んで多くのユニークなプロモーションで話題になっているチョコレート菓子「ブラックサンダー」を製造販売している有楽製菓の代表取締役社長 河合辰信さんにインタビューを行い、優れた企画を生み出す組織のポイントについて深堀っていきたいと思います。

各企業のトガったプロモーションたち

まずは、先ほど列挙した企業のユニークなプロモーション事例を少しさらってみましょう。斬新なプロモーションを頻繁に生み出す日清食品とマクドナルドですが、最近は特に新旧さまざまなネットの流行、いわゆるネットミームを取り入れるのが得意です。

流行ったものをパロディすることは、瞬間的に多くの注目を集めやすいメリットがある一方で、スベってしまうと叩かれたり、評判を下げたりするリスクもあります。ミームが使われる文脈や消費している人々の空気感を掴んだうえで、大半の人が「すごい」と思える完成度まで上げることが必要で、さらにはそれを流行が熱いうちに完成へと仕立てるわけです。

YouTubeにて8,321万回再生(2024/02/22時点)されているゆこぴさんの楽曲「強風オールバック」は、多くのクリエイターが替え歌や実写パロディを制作していますが、その文脈をまだ流行りが落ち着く前に「シーフードヌードル」のテレビCMでやっているのには素直に驚きました。

ゆこぴさんのポスト(https://twitter.com/yukopipikku/status/1635959842375610369/)

また、過去のミームをリバイバルさせた事例も多く、マクドナルドが昨年行ったポテナゲ(ポテトとナゲットのセット商品)のプロモーションは、2006年にリリースされニコニコ動画でブームなった楽曲「男女」のパロディでした。

マクドナルトのポテナゲ男女のポスト(https://twitter.com/McDonaldsJapan/status/1676848456139145216/)

日清食品の「チキンラーメン」では、日本テレビ系列で放送されていた「エンタの神様」で2006年頃からブレイクしたアクセルホッパーさんのネタにある特徴的なリズムと振り付けを元ネタにパロディを行っています。

チキンラーメン ひよこちゃんのポスト(https://twitter.com/nissin_hiyoko/status/1719519624725926025/)

ミームのパロディ、特に歌やダンスのパロディは瞬間1秒で注目を引くインパクトがあり、テレビCMをはじめマスプロモーションや、X(旧:Twitter)のような拡散性のあるSNSと非常に相性がよいと思います。

しかし、世間や顧客の空気を感じ取り、高いクリエイティビティを持ち、アグレッシブなチャレンジ精神を発揮できるチームでないと、ここまで頻繁に生み出していくことは難しいでしょう。当然、クリエイターだけでも広告主だけでもなく、それぞれが重要なポイントをしっかり抑えるようワークしているからこそ生み出せるのだと思います。

パロディでなくとも、ユニークな企画、プロモーションを生み出していくために必要な風土やチームの空気感なのではないでしょうか。

ブラックサンダーはどうやって社内でその空気感を作ったのか?

有楽製菓の社長である河合さんは、ご親族の後を継ぐ形で2010年有楽製菓入社。2018年から現職につかれています。今でこそ「義理チョコと言えば?」でも想起されるブラックサンダーですが、自虐的なキャッチコピーなど、奇抜なプロモーションを行い始めたのは河合さんが入社後に立ち上げたマーケティング組織がワークしてからだそうです。

どういった背景でマーケティング組織を立ち上げ、何を目的にプロモーションを企画してきたのか、インタビューから紐解いていきます。

有楽製菓株式会社 代表取締役社長 河合辰信氏

――ご自身と有楽製菓について簡単にご紹介いただけますか

有楽製菓 代表取締役社長 河合氏(以下省略):有楽製菓は、私の祖父が創業し今年70年目になる会社です。私が3代目の社長で、メイン商品のブラックサンダーは、1994年に誕生しました。発売してすぐは全然売れず、一旦販売中止になったのですが、九州の営業マンがなんとか自分のところだけでも売らせてほしいと懇願して、根負けして復活したっていう経緯があります。 で、そこからほそぼそと10年ほど販売していました。

有楽製菓のメイン商品 ブラックサンダー

――たしかにブラックサンダーって子どものころあまり見なかったけれど、大人になって気づいたら「在った」ってイメージです

でも、発売当初はヒット商品になるには程遠いような状態で、パッケージの変更などの試行錯誤をしていました。流れが変わったのは、販路を大学生協とかに広げ始めた頃ですね。子供の駄菓子としては高いんですけど、大学生にとっては比較的リーズナブルな、コスパのいい商品っていう感覚ではまり始めました。

体操選手の内村航平君が好物だって言ってくれたり、ネット上の掲示板サイトやブログとかで取り上げられたりしました。そういうことがあってヒットしていった、というのがブラックサンダーの流れです。

――学生にちょうどいい駄菓子というところから、どのようにブランドイメージを発展させたのでしょうか

私が関わり始めた2011年から今のようなマーケティング活動を始め、いろいろな取組みをしてきました。今年のバレンタインはサナギ新宿というイベントスペースでブラックサンダーの天ぷらを販売する、というイベントを行いました。

ブラックサンダーの天ぷら

――チョコレートをあげると、揚げるのダジャレでしょうか

バレンタインだから、もちろん人にあげるもそうですが、ブラックサンダーって、ブランドとしてその人の気分を上げるっていうのをすごく大事にしています。そこにフライの揚げるもかけて「あげる」にこだわったイベントを4日間行い、延べ1万人ぐらいの方に参加していただけました。

――集まりましたね! 告知はどうやって行ったのでしょうか

ブラックサンダーの公式Twitter(現在X)での告知がメインです。およそ70万人のフォロワーがいます。

Xでの公式アカウント ブラックサンダーさん【公式】(@Black_Thunder_)

――公式アカウントとしてはかなり多いですね、やはり、ブラックサンダーは身近な存在として親しみを感じられるお菓子なんでしょうか

お菓子って実体よりも大きく見られることが多いですね。企業規模は全然小さいんですけど、身近な分すごく大きな企業だと思ってもらっているようです。知ってくれている方も多いですし、お菓子に対してネガティブな感情を抱いてる方ってやっぱり少ないというか、健康上の理由でちょっと食べないんですってことはあっても、お菓子が憎くてしょうがないみたいな人はほとんどいないんで。

――ブラックサンダーはこういう存在だ、こうしたキャラクターだよねっていうのは最初から社内で認知していたのですか

先ほどブラックサンダーに火がついて売れだした時、ブログにも書かれ始めた話をしたんですけど、当時、mixiとか掲示板で口コミ的に「ブラックサンダーって知ってる?」みたいに書いてもらって広がっていった。ここがすごく大きなポイントだったと思いますね。ブラックサンダーはオンライン上で話題にされやすい、ネットと親和性が高いなっていうことは、ブランドのマーケティングをやり始めた時に1番最初に感じました。

なので、いかに話題にしてもらうか、口コミで広めてもらうかを考えて、そのためにネタを作るというか、話題の種をお客様に提供する。そういう感覚でこれまでやってきています。

河合さんにZoomで取材中の明坂

――キャラクターを狙って作ったわけではなく、世間の空気感にうまく乗っかっていった感じなんですね

マーケティング部を私ともう1人で立ち上げた時に、「ブラックサンダーってなんでこんなに愛されているの?」っていうことを研究しました。

もちろん、物質的な価格や味の良さはベースにあるんですが、プラスアルファで、他のお菓子にない異質さというか、枠を少しはみ出していく、そういったキャラクター性、いじりポイントなど話題になるものがいろいろあるなと思ったんです。ブラックサンダーを話題にすることでお客様どうしにコミュニケーションが生まれる、っていうのが1番の大きな強みになる要素だと我々の中で認識して、これをベースにやっていきましょうとなりました。

――「義理チョコ」ブランディングもその頃からですか

チョコレートなのでバレンタインに当たり前に売れるだろうと思っていたら、思いのほか売り上げの山がバレンタイン時期にこない。それを、有楽製菓に入ってから気づきました。

そこで、バレンタインになんかやった方がいいよね、っていうことになりました。でも、ここまで研究してきたブラックサンダーのキャラクターを考えると、本命チョコではないよね、ということであえて義理チョコですよと、堂々と謳いました。女性にとっては値段も安いし、本命だと間違えられることもないので、安心して使える義理チョコです、という方向で考えていきました。

それに、やっぱり義理チョコでももらったら嬉しいし、みんながハッピーになる。こうした立ち位置を作っていこうという方針の中で、「一目で義理とわかるチョコ」っていうコピーを提案してもらって、進めていきました。

駅の通路に大きく掲出されたOOH(Out Of Home)広告

――その認識や方針は社内にどう共有したんでしょうか

まず、マーケティング部内で共通言語化しました。その後社内にも共有しましたが、「それはそれ」みたいな感じで理解してもらうのは簡単じゃなかったですね。でも諦めずに、我々はこういう理由でこんな取組みをしますよっていうのを何度も積み重ねて発信して、次第に結果が伴ってきたんで、やっとみんなが理解してくれるようになったんです。

――結果とともに雰囲気を変えていったわけですね

そうですね。ものづくりをすごく大事にしている会社なので、 いいものを作ればお客様に買ってもらえるっていう感覚がすごく強い。お客様の認識がこうだからこうしたプロモーションするとか、マーケティングで発信をしていくという考え方があまりなかったんですよね。

例えば、「新宿でこういうイベントやります」と話すと、「それをやったら売り上げに繋がるの?」とすぐに返されてしまいます。当時は私もマーケティングをかじり始めたばっかりだったんで、どうにも答えようがなくて、「お客様にとってのブラックサンダーってこうなんで、こういうイベントをするといいんですよ」っていうのをとにかく話すしかなかった。それでも理解はなかなかしてもらえず、最後には。「とにかくやらせてくれ」って言ってやらせてもらいました。

――情熱なのか、社長のご子息っていうポジションパワーなのか微妙なところですね

当時まだ全然役職もなかった頃に父が社長だったんですけれど、社長に何度も話をもっていって、「そこまで言うならもうわかった」って、根負けさせるところまでやりました。まだマーケティングをかじり始めたばかりで基本しかわからなかったんで、 論理的な説得すらできず、どちらかというと勘、感情面での訴求でした。

でも、ありがたいことに1番最初の大きな企画っていうのが、「一目で義理とわかるチョコ」のバレンタインキャンペーンだったので、それで結果が出て、その後は比較的やりやすくなりましたね。

現在のブラックサンダーの位置づけを確立させた河合さん

――クリエイターと一緒によいものを作り上げるときの心構えはありますか

基本的に丸投げは絶対にしないようにしています。自分たちがちゃんと大事に守るべきものをちゃんと守る。とはいえクリエイティブな部分は、私はプロじゃないので「こういうクリエイティブを作って」とは極力言わないように、ということを意識しています。絶対に大事にしたいことを前提に、幅はいくらでもいいからこのコンセプトの中でやってくださいっていうポイントを伝え、クリエイターのアイデアを極力邪魔しないようにしたいと思っているんです。クリエイターが全力を発揮してもらえるような状態にすることを、すごく意識しています。

――クリエイターのクリエイティビティをよい方向に導いて加速させることを考えているんですね

そうですね。全部が全部上手くいったものばかりではないですけど、うまくいったものはもうほぼほぼそうですね。

我々は、皆様が思うようなブラックサンダー像を捉えることができていると思っていますから、ブラックサンダーらしい企画とか、商品、そういうものを出していくっていうのは、間違いなくできます。ただ、商品だったらお客様の欲しいもの、企画だったらヒットするようなもの、話題になるようなものになるとは限りません。「ヒットするもの」と「ブランドらしいもの」をうまく繋げることが1番難しいと思います。

ブラックサンダーのバレンタインイベントの会場前に立つ河合さん

――マクドナルドをはじめ、頻繁にヒットプロモーションを生み出す企業から感じるものはありますか

マクドナルドさんの打率、すごく高いですよね。あと、全くの0から生み出しているのではなく、これを組み合わせたら、ちゃんとお客さんに届くよね、響くよねってことをやられているなって思います。うまくいったパターンをいかに取り込んで形にするかっていうのは、普段から意識しています。人間の 心というか考え方というか、人間がいいなって思うものって、そんなに昔から大きく変化しているわけではないですよね。

多くの人がいいなと思うものを自分たちなりの形にカスタマイズして提供するっていうのが、ヒットするものを着実に作る、お客様に響くものを作る上では、すごく大事な考え方なんだろうと思います。

――ありがとうございました。

◇◇◇

情熱とクリエイティビティの掛け算でヒットが生まれる

インタビューの中で、ブラックサンダーを体現することは100%できると言い切られていたことが印象的でした。いじる余白が多い商品が生まれたのは、最初は偶然だったのかもしれませんが、そこからうまく世の中の認識を取り込んだうえで、道を外れないようにさらに発展させていくということを続けられてきたからこそ言える言葉だと思います。

冒頭のパートで述べた、よい企画を生み出せる組織の3条件をブラックサンダーは今の段階で満たしていると思いますが、そこに至るまでには少なからぬ情熱と時間を要していますし、ヒットを量産するためにはそこからさらにアイデアの引き出しの多さや料理法を卓越していく必要があるという話を伺い、改めて気が引き締まる思いがしました。

本記事に興味やご意見がある方は、ぜひ私のXアカウントへリプライをいただければと思います。それではまた。

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