アイデアの幅を広げ、企画立案に役立つ「要素連結の思考法」とは?
花王株式会社の辻本です。
皆さんは普段、どのように企画立案していますか。どこから手を付けるべきかわからないときや、納得のいくアイデアが浮かばないときなど、苦しい場面があるのではないでしょうか。
いいアイデアがすんなりと思い浮かばないようなとき、私は企画立案の方法として、複数の要素を結び付けてアイデアの幅を広げる「要素連結の思考法」を実践しています。
以前の記事でご紹介した「Twitter中の人の企画」や、「社外アプリの活用」などは、この思考法で立案しました。要素連結の思考法を何度も繰り返し、企画立案することで、今ではかなり柔軟な発想ができるようになったと私は考えています。
今回は私と同じように企画立案に悩む方々のために、「要素連結の思考法」をご紹介します。
要素連結の種類について
要素連結とは、文字どおり要素と要素を連結すること。連結の方法は、大きく分けて3種類、「共通」「補完」「包含」があります。
連結方法の種類(1):共通
「共通」とは、まったく同じ項目を含む要素Aと要素Bを連結する方法です。
たとえば、製紙業(A)と建築業(B)はどちらも「木」が関係しています。「木」という共通項目を軸に2つの業界を連結して考えると、「両業界がタッグを組んで、環境を守るために植林活動プロジェクトを行う」というような企画が発想できます。
連結方法の種類(2):補完
「補完」とは、ワンセットの関係であるような要素Aと要素Bを連結する方法です。
たとえば、洗濯機(A)と洗濯洗剤(B)、牛肉(A)と焼き肉のタレ(B)などは「補完」として連結すれば、一緒にプロモーションを企画するというアイデアが生まれます。
連結方法の種類(3):包含
「包含」とは、要素Bをその原料や材料、上位概念である要素Aと連結する方法です。
たとえば、大掃除に欠かせないアイテム(A)として、ダストワイパーの「クイックルワイパー」、風呂用洗剤の「バスマジックリン」、トイレ用洗剤の「トイレマジックリン」など(B)を、大掃除キャンペーンとして紹介する企画があります。
「共通」「補完」「包含」の3つのパターンで要素連結させていくと、企画アイデアの幅が広がりますが、そもそも肝心の「連結相手となる要素」はどのようにして見つければいいのでしょうか。
要素の発想法
「連結相手の要素」を見つけるには、「要素の発想法」を使います。基本となる発想法は「連想」「場面想起」「上位概念を模索」です。
発想法(1):連想
「連想」とは「関係がある言葉を自由に思い浮かべること」。共通する要素を見つけやすいです。昔、「マジカルバナナ(R)」という連想ゲームが流行しました。「バナナといったら、黄色。黄色といったら、レモン」という形で言葉を連想して複数人でつないでいくゲームです。この方法を担当する商品やサービスで実践します。
たとえばシャンプーの場合、「シャンプーといったら泡、泡といったらふわふわ、ふわふわといったら羊の毛。じゃあ、シャンプーの泡を羊の毛に見立てて、Twitter投稿用の素材を作ろうか。ふわふわしたものをシャンプーの泡で表現するクリエイティブシリーズをつくると面白いのでは?」というふうに考えていきます。
発想法(2):場面想起
「場面想起」は、商品やサービスを使う場面を思い浮かべる方法です。使う場面では周りにあるものが補完関係にあることが多いので、補完する要素を見つけやすいです。花王の特定保健用食品・機能性表示食品シリーズ「ヘルシア」の場合は、「場面想起」で食事時や運動のシーンを思い浮かべ、見つけた要素と補完関係で連結し、飲食業界やスポーツ関連の企業にお声がけして、企画を実施しました。
発想法(3):上位概念を模索
「連想」と「場面想起」だけでは、なかなか納得のいくアイデアが浮かばないときもあります。そのときは応用として、「上位概念を模索」してみてください。
「上位概念の模索」は、商品やサービスの意義を考えて、連結できそうな要素を探す方法です。「ヘルシア」の場合は「人々の健康」を大切に考えているため、上位概念は「健康」になります。この理念にあった企業を検討し、タニタ様にお声がけしました。
企業の活動だけではありません。日常を少しでも楽しく過ごすための、コロナ禍のアイデアにも「上位概念の模索」が潜んでいます。
たとえばベランピング(ベランダ+キャンピングから作られた造語)。キャンプに行きたいけどステイホームを意識した人が、キャンプの上位概念を「外の空気を吸って、まったりできること」と考え、家のベランダに椅子を置いてキャンプ気分を味わっています。つまり、行動のどこに満足ポイントがあったのかを上位概念として振り返り、それと同等の満足感を得る代替案を探った結果、これまでにないアイデアが生まれたのです。
アイデアをどのように絞るか――パラノとスキゾの観点から
「連想」「場面想起」「上位概念を模索」で発想した要素を、「共通」「補完」「包含」で連結し、企画立案する。これが私の「要素連結の思考法」です。繰り返しあらゆるパターンを検討することで、初めは思いつかなかったさまざまなアイデアが生まれます。
ただし、無限にアイデアを作っても、実践する企画は1つ。最後はどう絞るかが大事です。絞り方の法則はたった1つだけです。
「社内外のルールに則り、事業戦略に沿ったもっとも勝機のある企画に絞る」
ここでいう「社内外のルール」とは、社内規定や法律などのことを言います。そして、企画は戦術の話です。事業戦略に沿っていないと意味がありません。
勝機があるかどうかは、パーセプションチェンジ(認知や認識の変容)をさせたい相手に響く企画かどうか。要素連結の思考法は、パーセプションチェンジさせたい相手に響く可能性のある企画を、「あれもあり、これもあり」と幅広く出せますが、適切な企画選定が必要です。
ここで最後に、皆さんにお伝えしたいのは、企画立案・選定においては、「パラノ」と「スキゾ」の両面を自分で意識すべきということです。理想を言えば、企画立案はスキゾの状態で、企画選定はパラノの状態で、となります。
パラノとスキゾはどちらも哲学の言葉です。パラノとは、「あらゆることを自分の価値基準の領域に囲い込もうとすること」。これを意識しすぎると新しい価値は生み出せません。思考停止に陥ります。
スキゾは反対に、「自分の人格やアイデンティティを持たず、あらゆる価値をこだわりなく受け入れること」です。「あれもあり、これもあり」とさまざまなアイデアが生まれやすいです。
なかなかいいアイデアが出せなくて悩んでいる人は、知らず知らずのうちに何かの枠に縛られて、パラノの状態に陥っているのかもしれません。その人はぜひ、要素連結の思考法を繰り返してみてください。そうすると、「あれもあり、これもあり」とスキゾ的な物事の捉え方ができるようになるはずです。
反対に、アイデアはいくらでも浮かぶが、どれに決めればいいかわからないという人は、「社内外のルールに則ったアイデアのうち、事業戦略に沿ったもっとも勝機のある企画はどれだ」と自問自答をすることで、パラノ的な状態となり、意思決定がしやすくなるかもしれません。
今回はパラノの傾向が強い人が、できるだけスキゾ的に物事を捉えられるように、要素連結の思考法を中心にご紹介しました。企画立案は苦しいが、楽しい。そういう感情を、要素連結の思考法で、読者の皆様が抱けたならば嬉しいです。次回もご期待ください。
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