他社アプリを活用してブランドロイヤリティ構築 花王ロリエとヘルスケアアプリFiNCの挑戦
花王株式会社の辻本です。
皆さんは、スマホにどのようなアプリを入れていますか。
SNS、地図、ニュース、ゲームなど、さまざまありますが、習慣的に使うアプリはどれですか? どんな目的で使っていますか? そのアプリ内の機能をすべて使っていますか?それとも一部だけですか?
同じアプリでも人によって目的や使い方がさまざまですよね。前回はSNS(Twitter)の情報発信方法を紹介しました。今回はSNS以外の、他社アプリを活用したロリエの事例をご紹介します。
生理用品「ロリエ」の課題:ロイヤリティ形成の困難
生理用品は種類が非常に多いです。ブランドサイトをご覧いただければ、種類の多さは一目瞭然です。
下記のようにさまざまな要素が組み合わさって、サブブランドごとに商品バリエーションが展開されています。
- 用途(昼用・夜用)
- サイズ
- 肌ざわり
- 厚さ
- 羽の有無
- 香りの有無
自分に合うものを知って選んでいただけると良いのですが、商品の違いをあまり気にせず価格重視で購入する人が多いのも事実です。
私がロリエを担当していた頃は、特に20代・30代女性に商品の価値を理解してもらえない状況でした。「生理用品はどれも同じだ」と思われており、ロリエに対するロイヤリティが低いことを事業部は課題と捉えていました。
そこで、生理の悩み軸で20代・30代女性をターゲティングし、その悩みを解消するサブブランド「しあわせ素肌」「スリムガード」などを紹介するデジタル施策を実施しました。例えば、肌ざわりを気にする女性に「しあわせ素肌」を紹介するといったイメージです。
おおまかに下記3点の施策を行いました。
- 商品理解促進を目的に若い女性に人気のメディアでタイアップ記事を作成
- その記事に送客する広告をSNS等で配信
- タイアップ記事の効果検証
結果、たしかにサブブランドごとの商品理解は促進できました。しかし、肝心の「ロリエじゃなきゃいけない」というブランド全体のロイヤリティ形成にはつながりませんでした。
ロリエブランド全体のロイヤリティを形成するには、
- 各サブブランド情報を丁寧に伝え、ロリエは自分向けのブランド・商品と思ってもらう
- 商品を体験して、品質の良さを実感してもらう
この2つを地道にやるべきと痛感しました。ロリエブランド全体のロイヤリティの低さは「悩み解決商品を紹介する」1回の施策で、短期間に解決できる課題ではなかったのです。
ただ、各サブブランド情報を同じ人に継続的に届けようとして、性別・年代だけの絞り込みで広告配信を繰り返しても、サブブランドAの情報接触者にサブブランドBの情報が届くとは限りません。
とはいえリターゲティングを繰り返したら、情報接触者の規模がどんどん縮小してしまいます。可能なら、ロリエに深い理解を持つ人を雪だるま式に増やしたいところです。
ロリエブランド全体の理解を20代・30代女性で深めていき、ロイヤリティ向上を図る方法がないか。
悩んだ末、サブブランドの情報を1つにまとめたプラットフォームを作るアイデアが浮かびました。そのプラットフォームにターゲットを囲い込み、ロリエ各商品の情報を届けながら、その集団を拡大させる。
これをどう実現させるか?
そこで思いついたのが、健康管理アプリ「FiNC」の活用です。
健康管理アプリ「FiNC」との協働
ここから先は、FiNC活用アイデアに至るまでのプロセスと施策の仕掛けについて説明します。
私のアイデアは、「各商品ブランド全体のロイヤリティ形成」を目的に20代・30代女性が利用する健康管理アプリFiNCを活用し、下記2つを実行することでした。
- 生理が気になるモーメントで、ロリエの情報を繰り返し届ける。
- 商品体験機会を提供し、品質の良さを実感してもらう。
なぜ、こう考えたのか。
「デジタル上の情報発信方法」という大きな枠組みから整理しました。それは大きく3つあります。
- SNSで投稿
- 動画・記事タイアップによる情報発信
- アプリによる情報発信(自社アプリ・他社アプリ)
まず、「ロリエの情報を繰り返し届ける集団を作る」意味で、「SNS投稿」か「アプリで情報発信」の2つに絞りました。では、どちらがよいでしょうか。
私は「SNS投稿」は違うと考えました。
生理用品はセンシティブな商材です。SNSを広告活用することは良いかもしれませんが、日常的な話題作りが難しいです。
ヘルシアのTwitterアカウント運用を経験したときに痛感したことですが、商品のことばかり話すTwitterアカウントはつまらないです。飽きられます。
あなたは、生理用品の機能ばかり語るTwitterをフォローしますか?
生理用品のパッケージばかり出てくるInstagramをフォローしますか?
加えて、SNS運用はフォロワー獲得に時間がかかります。
私は「アプリによる情報発信」に決めました。ただし、自社アプリの開発はしません。コストがかかります。
開発費だけではなく、iOSやAndroidのアップデートに適宜対応するランニングコストやセキュリティを担保するための費用、データストックするデータベース費用など、莫大な予算が必要です。もはや「工場を建てるくらいの気持ちで挑む」感じでしょうか。よって、他社アプリの活用が現実的と考えました。
では、どのアプリが良いか。
「最適な人に、最適なタイミングで、最適なコンテンツを」というデジタルマーケティングの基本を頭で唱えながら、アプリを横並びで比較しました。
- ロリエの情報を届けたい20~30代女性に人気
- 何度も見てくれて生活の一部になっている
- 生理が気になる時にロリエの情報を届けられる
この3点が集約されているアプリ、それが健康管理アプリのFiNCでした。
FiNCは歩数や体重の記録、フィットネス情報の発信など、健康的なからだづくりを心がける女性に人気のアプリで、ユーザーの利用頻度は高いです。
また、ロリエの情報を出しやすい「生理カレンダー」ページがあります。私はこのページをロリエの情報面にしようと考えました。
さらにFiNCにはチャット機能があります。ブランドアカウントを作成してロリエ各商品の情報を届けながら、その集団を拡大できます。
さっそく、ブランド担当者を説得し、FiNCの担当者に相談して、企画立案と開発準備に入りました。
アプリ内設計の工夫とブランド価値構築の方法
とりあえずFiNCに情報を出せば良い? 違います。
「アプリ内の機能を知り、必ずブランドの情報に触れる動線を設計」するべきです。
なぜか?
FiNCに限らず、あらゆるアプリのユーザーには、そのアプリを使う「目的」があり、他のアプリよりも「価値」を感じるから使います。
そして、同じアプリでも人それぞれ使い方が異なる理由は、「目的」と「価値」が違うからです。
- ユーザーは「目的」に沿ったアプリ内の習慣がある。目的に無関係のものは無視
- ユーザーは「価値」がないと、アプリ自体、あるいはアプリ内の機能を利用しない
この2つを意識しないと、アプリを活用した施策は無駄になります。
ちなみに「価値」の種類は、「便利・お得・楽しい」の3つに集約されます。
- 便利:「シンプルで使いやすい」「他のアプリにはない機能」など
- お得:「クーポンや決済ポイントがもらえる」「貴重な情報や商品が手に入る」など
- 楽しい:SNSやゲームなどに多い。「人からの反応が嬉しい」「わくわくする」など
今回は「FiNC内でロリエの情報に触れる体験を完結させる」ように設計しました。途中でFiNC以外のWebサイト等に移動させることは、ユーザーのアプリ利用動線を妨げるので絶対ダメです。
まず、FiNC内にロリエの商品を紹介する記事を作成。そこへ送客するための入り口を2つ用意しました。
- ユーザーが「自身の体調を管理する」目的で記録をするページ
- ここにロリエの情報を出すことでモーメントに合った情報接触を実現
- FiNC担当者に相談してバナー枠を新設
- お気に入りのアカウントからメッセージが届く仕組み
- ユーザーが「自分に有益な情報をキャッチする」目的で閲覧するページ
- ロリエ公式アカウントを作成し、フォローしてもらうことでキャンペーン告知が可能に
次に、FiNC独自の「ミッション」機能を活用し動線を強化しました。ミッションとは、ユーザーがある特定の行動を実施するとFiNC内で使用できるポイントが得られる仕掛けです。
- 生理カレンダーの登録
- ロリエアカウントの登録
- ロリエの記事閲覧
3つの行動をミッションとして動機付け、“お得”の価値をプラスすることで、ユーザーがロリエの情報に触れる機会を最大化。あとは生理カレンダーや、ロリエアカウントに価値を感じれば、その機能の利用が習慣となり、ロリエはユーザーへのアプローチを繰り返せます。
施策結果とその後
初回施策(ロリエスリムガード)の結果は、下記のとおりです。
- 記事PV:2ヵ月で14万PV(目標3万PV)
- ミッション参加者:12万人(目標5万人)
- ロリエ公式アカウント登録者数:12万人
- FiNCからのサンプリングキャンペーン応募者25,000人(全応募者の約半数)
- ロリエスリムガード購入意向者:約7割(5段階評価のトップ2合計)
一気にロリエアカウントのフォロワーを獲得し、スリムガードの「商品理解」を促進させました。しかし、「よかった、よかった」で終わらせてはいけません。まだロリエのサブブランド「スリムガード」しか紹介していません。
この企画を始めた目的は「ロリエじゃなきゃいけない」というブランド全体のロイヤリティ形成です。ロリエアカウントのフォロワーを増やしながら、その他のラインナップを紹介していくことでロリエ全体の価値を伝えるべきです。
- ロリエがどのような想いで商品を作っているのか
- 女性のどういった悩みに、ロリエの各商品が対応しているのか
こうした話は、サブブランドを1つ紹介しただけでは伝わりません。継続的にロリエの商品情報を提供し、「ロリエだったら、この商品かな」と認知していただきながら、サンプリング施策と絡めることで、実際に商品を体験して価値を理解していただかないといけません。
FiNCユーザーに限らず、世の中の人は、1回の情報接触で簡単に自分の行動を変えるほど甘くありません。積み重ねが大事です。
FiNCの企画は事業部内で評価され、継続的な取り組みとなりました。私は初回の施策の結果が出た時点でロリエの担当を外れましたが、2020年6月現在のロリエ公式アカウントのフォロワーは約21万人に増加。「しあわせ素肌」「アクティブガード」といったさまざまなサブブランドの価値を順次伝えています。
最後に
ブランドの情報発信方法は公式SNSや自社サイトだけではありません。他社アプリの機能を活用し、ユーザーの習慣に沿って目的と価値を意識した動線設計をすれば、アプリ内で自然にブランドへの理解を深めるスキームを構築することができます。
皆さんも、スマホのアプリを使うときには「このアプリと自社の情報をどう絡ませるとよいか」考えてみるのはいかがでしょうか?
FiNCご担当者より一言
ヘルスコンシャス層の関心に合わせた商品選択視点を持ってもらうことをテーマにお手伝いをさせていただきました。アプリで生理記録をしてもらう「行動」を施策の中に組み入れるなど「カラダのすべてを、ひとつのアプリで。」をコンセプトにしているFiNCらしいお手伝いができた施策になったと思います。
(株)FiNC Technologies
インタラクティブ・コミュニケーション事業部
ストラテジックプランナー
小島健太郎
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