Twitter中の人は、企業同士をつなぐ交渉人 花王ヘルシア「中の人」が教える「やってはいけない3つのこと」
花王株式会社の辻本です。私は2017年7月から2019年12月末まで、「ヘルシア公式Twitterアカウント」の運用を担当していました。今回は、前回の「情報の灌漑」に続けて、私の「Twitter中(なか)の人の活動」をご紹介します。
中の人が「やってはいけない3つのこと」
具体的なお話をする前に、まず私が日頃肝に銘じていたことをお伝えします。
- 企業やブランドの私物化
- 馴れ合いの集会
- Twitter内の話題化に固執
この3つを常に意識することで、炎上を未然に防ぎながらフォロワーを増やすとともに、トレンド欄への露出や他社とのコラボ商品を生み出すなどの成果が得られました。
なぜやってはいけないのか? 私なりのこだわりをご説明します。
[やってはいけない1]企業やブランドの私物化
Twitterアカウントの「中の人」が起こしている炎上、その多くは企業やブランドの私物化が原因です。
中の人は、「法人(企業やブランド)」と「個人(担当者)」の間に属する不安定な人格なので、さじ加減1つで発言の立場が変わってしまいます。
私物化とは、担当者が企業アカウントで個人的な発言をすること。極端な例をあげると政治的発言をするようなことです。
私物化を防ぐためには、「企業やブランド=人間」に、「担当者の個性=服」を着せるイメージを持つと良いと思います。服を着るときにはサイズ感が重要です。企業やブランドに合わせて自分の個性という糸を紡ぎ、適切に縫製することでフィットさせるのです。
また、TPOも考えなければなりません。世の常識を考え、空気を読み、スタイリングを吟味する。この感覚が大切だと思うのです。
[やってはいけない2]なれあいの集会
「中の人」の活動をしていると「コラボ企画」や「情報交換会」に招待されることがあります。
コラボ企画は、1つのアカウントでは得ることのできない多くのリーチを確保できるとともに、やり方によっては企業やブランドに対する新たなイメージが醸成できます。
情報交換会は、参加者同士の新たなつながりが生まれたり、お互いの悩みを打ち明けることで良い解決策を得られたりする貴重な場です。
これらの取り組みには多くの利点がある反面、時としてなれあいの集会と化してしまうことがあります。企業やブランドにとって参加する意義のない無関係なイベントや投稿が行われると、フォロワーによっては中の人が個人で遊んでいるようにしか見えずフォローが外され、最悪の場合は企業やブランドに失望してしまう可能性があります。
[やってはいけない3]Twitter内の話題化に固執
Twitterで話題になることに一生懸命な人は多いです。
よくある手法は、ハッシュタグ(#)を決めて前述のコラボ企画や情報交換会を開催し、多くのフォロワーを抱えた複数の中の人が短時間に一斉投稿する方法。各人のフォロワーに反応してもらうことで「話題の情報」としてトレンド欄にハッシュタグが載るようにします。
一度トレンド欄に載ってしまえば、多くの人が閲覧してくれるため、新しいフォロワーを獲得するには有効な手段です。
しかし、この方法に固執してなれあいの集会に参加したり、注目を集めるためだけに事業とは関係のない個人的コラボ企画を実施したりするケースがときどき見受けられます。
そもそもなぜTwitter上で話題になることが必要なのか? 話題化の先にある目的は、自社商品・サービスの認知や興味関心を獲得することです。「自社商品を知ってもらいたい人」「興味を持ってほしい人」に伝えるために、私は“情報の灌漑”を行うことが重要だと考えています。
フォロワー7,000人を50,000人まで増やした、ヘルシア「中の人」奮闘記
ここから先は、3つのやってはいけないことを心に留めながら行った具体的な活動をご紹介します。
私が特保飲料「ヘルシア」のTwitter担当に任命されたとき、花王には1人も「中の人」がいない状況で、モデルケースもなく、模索する日々が続きました。
「中の人」は楽しそうに見える仕事ではありますが、実際にやってみると、
- 投稿案の検討
- コンテンツカレンダーや投稿ルールの作成
- コメント対応
- 結果分析とレポート
など細かい作業が多く、炎上リスクへの不安も抱え続けるため、思った以上に負荷がかかりました。
当時のフォロワー数は約7,000人、エンゲージメント率は1%台。どれだけ手をかけてもエンゲージメントできる相手は70人以下で、これでは労力と成果のバランスがとれません。
1人でリーチを稼ごうにもうまくいかないので、ヘルシアと同じ志を持った中の人とつながりをもつことを考え、「健康」をテーマにしたTwitter上の仲間づくりをしました。
健康的な生活を送るためには、
- 適度な「運動」
- バランスのとれた「食事」
- 行動が結果に結びついているかの「計測」
が欠かせません。これらのテーマでご一緒できる企業にお声がけし、コラボ企画を実現することで、ヘルシアのフォロワーだけではなく、コラボ先のフォロワーにもヘルシアの情報を届けられると考えたからです。
企画提案にあたっては、
- Twitter DM
- 直接電話
- 「中の人」ネットワークによる紹介
- 情報交換会での交流
など、あらゆる手段でアプローチしました。
そしてコラボをするからには、「相手のメリット」を伝える必要があります。
私は提案する際に、そのアカウントの普段の投稿だけではなく、企業やブランドのビジョンをWebサイトで確認し、ヘルシアと組む意義を整理しました。
ヘルシアだけのコラボが難しい場合は、別アカウントもつないで一緒に企画することも。各担当者の個性がうまく噛み合えば、実行の際に勢いが生まれます。
「その企画、おもしろそうだね!」という楽しみ要素も大事ですが、それぞれの事業活動に沿った共通ビジョンを掲げることで、馴れ合いの集会ではない「意義のある効果的な施策」に昇華します。
[事例紹介1]タカラトミー様 #サッカーボーグ中の人カップ
タカラトミー様主催のイベントにご招待いただきました。「サッカーボーグ」とはラジコン式のサッカーロボットのおもちゃです。
複数の企業を集めてサッカー大会を開催し、試合の様子をハッシュタグをつけてリアルタイムで投稿、さらに企画終了後には各企業のフォロー&リツイートキャンペーンが行われるため、フォロワーが楽しみながら参加できるキャンペーンでした。
ヘルシアとサッカーのおもちゃ、この2つにどんな共通項があるでしょうか? 実は、ヘルシアにはスポーツ飲料「ヘルシアウォーター」という商品があります。スポーツというテーマを掲げることでつながりを持たせ、Twitterならではのライブ感とエンタメ性のあるキャンペーンを実施することができました。
[事例紹介2]レタスクラブ様 ヘルシーレシピ企画
レタスクラブ様とのコラボでは、Twitter上で楽しげな料理シーンを公開するだけではなく、一連のコンテンツをレタスクラブ様のWebサイトに掲載していただくお願いをしました。
先方はパブリッシャーですからTwitter上での話題化にのみ固執する必要はないと考えたのです。
ヘルシーレシピ企画はヘルシアとコラボをする理由も伝わり、「料理と一緒にヘルシア緑茶うまみ贅沢仕立て(料理に合う飲みやすさと味を追求した商品)」という情報を多くの方に届けることができました。
レタスクラブ様も「Twitter上での情報発信に注力したい、フォロワー数を伸ばしたい」という思いがあったため、両者にとってプラスになる相性の良い企画となりました。
[事例紹介3]登山関連企画 #中の人ゆるハイキング部
始まりはカシオ計算機様との出会いでした。一見ヘルシアとまったく関係のない企業ですが、先方には登山用の時計「PRO TREK」、ヘルシアにはスポーツ飲料 「ヘルシアウォーター」があるため、登山をテーマに両者の商品をアピールできると考えたのです。
しかし、当時のフォロワーはお互い20,000人程度。がんばっても40,000人にしか情報が届きません。
そこでお互いの「中の人」コミュニティから、登山関連商品を販売する東急ハンズ様、「inゼリー」を販売する森永製菓様にお声がけをして、高尾山で投稿活動を行う企画を立案しました。楽しく登山しながら商品紹介することを目的に「#中の人ゆるハイキング部」の発信をすると、ノザキのコンビーフ様も加わって山頂でコンビーフ入りの料理を披露してくださり、登山には欠かせない食事シーンの演出ができました。
実施にあたってはGoogleトレンドを活用し、登山に注目の集まる時期を選定。当日はタニタ様から協賛いただいた歩数計をぶら下げ、誰の歩数が一番多いのかを競うイベントも並行することで、フォロワーのみなさんに興味を持って閲覧していただきながら各社の商品情報が届くよう仕掛けました。
道中、各社のおもしろいツイートも飛び出し「#中の人ゆるハイキング部」はトレンド入りを果たしました。共通目標に沿って当事者同士が純粋に楽しんだことが結果につながったのだと思います。
Twitter運用から事業貢献へ
中の人の活動は、やり方次第で事業貢献ができると私は考えます。
例えばタニタ様と組んだ商品企画。
タニタ様は健康イメージが強くかつ「中の人」スーパースターです。Twitter上でヘルシアと健康イメージでつながっていることを互いのフォロワーに認識してもらい、商品化に結びつけるのはどうかと提案したところ、2018年「ヘルシアうまみ贅沢仕立てで期間限定パッケージ品」として実現することができました。この企画は2019年「ヘルシア紅茶」でも継続実施しました。
ショップジャパン様とは、腹筋を鍛える「スレンダートーン」とコラボし、家電量販店のスレンダートーンブース内でヘルシアのサンプリングを実施。新しい商品体験の場が提供できました。
「中の人の活動は成果が見えにくい」という話をよく耳にします。弊社は自社ECを持っていないため、「Twitter運用で新規顧客を〇〇人獲得」といった証明は不可能です。
しかしTwitter上のつながりをさまざまな企画に結びつけることで話題化を図り、当初7,000人だったフォロワーを50,000人に増やすことができました。また商品化や商品体験の場を提供したこと、Twitterに限らず広く情報を拡散したことは事業貢献として認めてもらえました。
私はTwitter上の交流から「コラボ企画の流儀」と「情報の灌漑」「事業活動に結びつけるアイデア」「社内外の橋渡し」など多くのことを学ばせていただきました。
Twitterでおもしろいことを言って注目を集めている人を「中の人」と呼ぶムードもありますが、おもしろい人である必要はありません。
常に企業やブランドの見せ方を意識しながら仲間を集め、事業の垣根を超えた可能性を模索することも大切です。中の人は“投稿担当”から“エンターテイナー気質の交渉人”へ。大きな可能性を秘めた存在だと思いませんか?
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