[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

花王のデジマ部署で上司から学んだ マーケティングを進化させる組織づくり

マーケターによるリレーコラム、今回は花王の辻本光貴氏。マーケティングを進化させるための大事なポイントを紹介します。
花王 辻本光貴氏

こんにちは。花王株式会社の辻本です。

今回は「マーケティングを進化させる組織づくり」を紹介します。

デジタルマーケティングの部署に配属されてから6年、この部署で私は、「心理的安全性を保ち、個人の長所を活かしながら互いにアイデアを出し合うことで、より良いものにしていく大切さ」を学びました。

心理的安全性とは、「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」のことであり、複雑かつ絶えず変化する環境で活動する組織において、価値創造の源として欠かせないものです(エイミー・C・エドモンドソン著『恐れのない組織』より引用)。

心理的安全性が高い環境になるかどうか、大きなカギを握っているのは、そのチームのリーダーである上司です。私が所属しているデジタルマーケティングの部署は、どの上司もすばらしい方ばかりでした。上司に倣い、私が将来、組織を率いるリーダーになった際には、下記3つを心がけたいと考えています。

  1. 部下の長所を見つけて伸ばす
  2. 社外とのつながりを作り、部下に自己研鑽の機会を与える
  3. メンバー同士で気軽に相談し合える環境を作る

ここからはこの3つの要素について、私のエピソードを交えながら説明します。

部下の長所を見つけて伸ばす

私が転入した2017年当時、花王のデジタルマーケティング担当は片手で数えられる程度しかいませんでした。

ブランド数が多い花王のデジタルマーケティングを数人で対応すると知ったときには、社内のデジタルプロ集団の1人としてやっていけるか、不安になりました。

不安を抱えながらも、先輩社員から仕事を教わりつつ進めていた私に、上司はこのようなことを面談で伝えてくれました。

「うちの部署は新卒もいれば中途もいて、各メンバーで得意領域が違う。同じデジタルマーケティングでも、アプローチの仕方は人によって違うかもしれないね」
「辻本さんは、異なる要素を結びつけて新しいものを作り出すのが得意だね」
「右から左に流してしまうと、辻本さんのいる意味がないから」

異動して数ヵ月の私は、「プロとして正しくやらなければ」という意識が強すぎて萎縮していました。周りに意見を求めて確かな解決法を模索するものの、おそらく仕事を自分事にできていなかったのでしょう。

上司からの言葉を受けて、「得意領域もやり方も人それぞれ。自信をもって堂々とやれば良い」とマインドを変えることができました。

当時はまだ駆け出しのデジタルマーケターだったため、もちろん周囲に相談しながら仕事を進めましたが、自分の長所を提示されたことで、引き受けた仕事を「自分ならどうするか」と考えられるようになりました。

その後は、経験を積みながら新しい取り組みにも挑戦する私の様子を見て、「君はいつも楽しそうに仕事をしているな」と、他部署の人から言われるほど、自信をもって仕事ができるようになりました。

社外とのつながりを作り、部下に自己研鑽の機会を与える

上司は当時、花王が所属している日本アドバタイザーズ協会のWeb広告研究会(現・デジタルマーケティング研究機構。2021年に名称変更)に私を連れていきました。

Web広告研究会には、事業会社や支援会社など、あらゆる立場の方々が在籍しており、これまで花王社員とのつながりしかなかった私にとって、新鮮な環境でした。

ソーシャルメディアやイノベーションをテーマに、コミュニケーション活用法などを参加者と議論しました。「在籍するだけでは意味がない。発言しないとダメだよ」という上司の言葉を胸に、緊張しながら発言した瞬間を今でも鮮明に覚えています。

共通の悩みを持つ方々や、B to Bのような花王と異なるビジネスモデルの方々との交流を通じて、マーケティングの奥深さを知り、発展していくデジタルマーケティング業界の動向を肌で感じました。

こうした機会から得たインスピレーションをもとに、花王のブランド資産やテクノロジーの潮流、施策を実施したときに想定される反響などを別の角度で捉えて、自分が携わる企画をより良いものにしたり、ブランド担当者の悩みを解決したりできました。

メンバー同士で気軽に相談し合える環境を作る

上司はチームメンバーとの対話も推奨していました。

当時の部署は、SNSのクチコミや検索ワードのデータからインサイトを見つけ出すのが得意な人や、動画の作りや広告コピーのワード1つで効果が変わる知見を持つ人などのように、異なる得意領域をもつ人々で構成されていて、世代もバラバラでした。

そのため、私が先輩方に相談する場面が圧倒的に多かったのですが、私が立案した施策内容や広告効果について、先輩方からヒアリングを受ける場面もありました。

お互いが持つ情報を気持ちよく交換しあえる空気作りがなされており、全員が相談に対して笑顔で応えてくれるような関係性は、上司だけでなく、先輩方の優しさもあって成り立っていました。

ヘルシア公式Twitterアカウントを担当した際には、「運用のルールを作るときには、自分だけではなく、メンバーからも意見を求めるとより確実なものになるよ」と上司から事前にアドバイスを受けました。このときも、どの先輩方も自身の感じる大切な運用のポイントを包み隠さず私に教えてくれました。これによって、炎上することなく、安心して運用を続けられました。

チーム学習によるマーケティングの進化

ここまで読んだ方はお気づきかもしれませんが、私は上司と先輩方の相談しやすい環境のもとで、さまざまな人から意見を引き出したうえで最適解を実行し、新たな知見を得てチーム内に共有していました。そして同じことを先輩方も行っていたのです。

つまり異なる得意領域をもつ個人同士が、社内外で得た経験や知見を共有して、さらに効果的なマーケティング手法を見つけ出すサイクルが生まれていました。

このサイクルを作り出すには、心理的安全性と積極的な情報共有が欠かせません。

「こんなことを聞いて良いのか」
「自分は組織に必要とされているのか」
「あの人はどんな仕事をしているのか」

心理的安全性が担保されず、積極的な情報共有ができない状態では、仮に個人ベースで仕事が完結しても自分自身の成長や、チーム全体の成長にはつながりません。

世の中が複雑化して対象顧客の解像度が粗くなってしまうと、戦略と戦術が陳腐化します。だからこそ、深い顧客理解のもとで戦略と戦術を練るという一連の流れを、アップデートしなければいけません。そして昨今の環境変化は早いが故に、1人の力では追いかけきれません。チームの学習の仕組み化が問われているのです。

そこで私はこれまでの経験をもとに、チームの学習の仕組み化チェック項目を作ってみました。

【チーム学習のチェック項目(部下用)】
  • 上司、同僚に気軽に質問できますか?
  • 同僚の仕事概要を説明できますか?
  • 上司はあなたの長所、短所を理解していますか?
  • あなたや同僚は、外部から積極的に情報収集していますか?
  • あなたや同僚は、経験や知見をお互いに共有しあっていますか?
【チーム学習のチェック項目(上司用)】
  • 部下同士の会話を奨励し、部下に必要に応じて語りかけていますか?
  • 部下の仕事概要を説明できますか?
  • 部下の長所、短所を理解していますか?
  • 外部での部下の学習を奨励していますか?
  • 部下同士の経験や知見交換の場を設けていますか?

チームの学習の仕組み化はリーダーのトップダウンで成立するものではなく、チーム全員が同じような意識を持たなければ成り立ちません。気になる方はぜひチェック項目をチームメンバーに確認してみてください。

今年も1年、読者の皆様に参考になる情報を届けられるように頑張ります。よろしくお願いいたします。

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