サイトの品質・コンバージョン率を単純な考え方で“劇的に”改善するコツ/エクスペリエンス
損失を知ることで改善の予算申請を行える
「オウンドメディア総点検!!~訪問者に最適化されていないサイトの『損失』を可視化する~」と題した基調講演では、数々の企業サイトを手掛けてきたエクスペリエンスの橘守氏が登壇した。
企業サイトの現状把握と改善サービスを提供する橘氏は、その経験のなかで「IA、UX、カスタマーエクスペリエンス、ユーザビリティ、コンテンツマーケティング、インバウンドマーケティングといった1つひとつの言葉も重要な概念ではあるが、それよりも単純で効果が大きい考え方がある。まず自社サイトについて数字で語ること、最適化されていないサイトの損失がどれほどかを可視化することだ
」と強調する。
難しいことを言っているわけではない。単純なトップページ直帰率だけからでも損失は換算できる。たとえば、1か月当たりトップページに100万人が流入するサイトにおいて、直帰率が50%の場合と25%の場合を比較すると、2ページ目以降の月間流入数は前者が50万人、後者が75万人となる。
トップページだけでコンバージョンすることはまずない。仮にこのサイトのKPIであるコンバージョン率が1%だとすれば、直帰率50%で5000人、25%で7500人のコンバージョンとなる。1件あたりのコンバージョン価値が平均10万円だとすれば、直帰率50%で5億円、25%で7億5,000万円の売り上げとなる。つまり、直帰率50%と25%の間で2億5,000万円の損失が生まれていると考えられる。
― | トップページ流入数 | 直帰率 | 2ページ目以降流入数 | CVR | CV数 | 平均CV価値 | 売上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
サイトA | 100万人 | 50% | 50万人 | 1% | 5000 | 10万円 | 5億円 |
サイトB | 100万人 | 25% | 75万人 | 1% | 7500 | 10万円 | 7億5,000万円 |
「私は、サイトを評価する際の基準値として、すべての商品ジャンルでとは言えないが、トップページの直帰率はオーガニック検索の場合、25%までは目指せると考えている。全体直帰率は30%、広告経由の流入でも直帰率は50~60%まで持っていけるはずだ
」と橘氏は語る。また、入力フォームの項目すべてがファーストビューに収まる場合、入力完了までのコンバージョン率は50%以上を目指すべきだという。
さらに、入力項目が25以上ある口座開設やローン開設の入力ページにおけるコンバージョン率は通常10%ほどだが、橘氏はこれまでの経験から40%以上を目指すことができると力説する。こういった基準値をしっかりと出すことで、自社サイトが毎日どれくらいの損失を出しているかを知ることができ、改善のための予算を胸を張って申請できるようになるのだ。
サイトの出来・不出来はアクセス解析でわかる。ページビュー数や訪問者数をただ眺めるだけでは改善にはつながらない。訪問ルートや訪問回数、目的ページへの到達率やサイトの効率などを確認し、サイトの目的やKPIにつながるルートをしっかりチェックすることが重要だ(橘氏)
最大の損失ポイントは“直帰率”
オウンドメディア(自社メディア)は本来、現在の顧客だけでなく未来の顧客の姿まで見ることができる操作可能なマーケティングコミュニケーション装置のはずだが、実際には顧客が見えていない企業が多いと橘氏は苦言を呈する。
たとえば、Google アナリティクスには「加重並べ替え」という機能がある。ある一定以上の訪問数のページのなかから直帰率順に並び替えることができるが、一度この機能でどれだけ自社サイトの直帰率が高いかを見るべきだ(橘氏)
KPIやKGIの設定が漏れている場合も顧客が見えなくなってしまう。たとえば、ある企業の有料会員申込フォームでは、大幅なコストをかけて毎月約400人程度の有料会員を獲得していた。しかし、フォーム入力完了後の「個人情報確認ページ」にコンバージョンタグを入れていなかったため、「個人情報確認ページ」から「送信完了ページ」までの間に300人近くの離脱があることに気づいていなかったという。「あとは送信ボタンを押すだけ」という場面で損失が発生していたのだ。ここで重要なのは可視化することだと橘氏は指摘する。有料会員獲得の価値に換算し、損失を可視化しなければ施策の評価も、改修の予算を組むこともできない。
サイトの状況を可視化して数字を把握しなければ、
何を改善すべきか、どこまで予算をかけるべきなのかもわからない
また、ひとくちに直帰率と言っても、その内容の違いにも注目するべきである。たとえば、製品名を含む検索キーワード経由の直帰率は低いのに、製品名を含まない検索キーワードの直帰率が大幅に高いという場合だ。この場合、製品認知はないものの、その製品を求めてカテゴリ名などで検索して訪れた見込み客を、みすみすと逃すサイト構成になっている可能性がある。
広告会社の報告書は、流入数とコンバージョンの報告ばかりしているが、そんなものはまったく意味がない。そのページが訪問者の目的ページの場合は別だが、最大の損失ポイントはサイト品質を表している直帰率にあることが多い(橘氏)
訪問者の視点でサイトを作りこめているか
橘氏は、実際に「訪問者を逃がしているサイト」と「訪問者を逃がしていないサイト」について、惜しげもなく事例を紹介した。
事例1:訪問者を逃がさないサイト
まずは、B2Bサイトの良い事例として、日本ブランド戦略研究所発表の「BtoBサイトランキング」においてニーズ充足率の高い、三菱電機の「Factory Automation」(工場の自動化)サイトを紹介した。同サイトは、サイト内検索で文字を入力するとサジェスト機能が働くほか、検索結果画面にも、その製品のカタログ・資料やマニュアル、ソフトウェアへのリンクがわかりやすく明確に表示される。また、条件絞込みも用意されており、探す人に親切な設計となっていると説明する。
また、Googleで「シーケンサ」などのカテゴリ名で検索すると、トップにFactory Automationのサイトが表示されるようになっているが、これは、サイト全体が製品カテゴリや事例ごとに構造化されていること、加えてメタタグの記述をしっかり行い、適切なキーワードが埋め込まれるように作りこまれている証拠だ。「リスティング広告に無駄にお金を使うより、オウンドメディアをしっかり作れば結果が出る」と橘氏は話す。
事例2:訪問者を逃がしているサイト
その一方で橘氏は、“良くない事例”も挙げた。いずれのサイトも、表面のデザインはしっかり作り込まれたサイトに見えるのだが、ちょっとしたことで大幅に見込みユーザーを逃しているのだという。
良くないサイトの事例
- サイト内検索を行うと、検索結果画面にアドワーズ広告も表示され、結果的に他社製品を自社サイトで紹介してしまっているサイト
- 製品カテゴリが多い企業で、製品カテゴリごとに個別最適化されたサイドバーが使われているため、ナビゲーションが異なり、カタログへのリンク名も「Webカタログ」「カタログ請求」などバラバラな表記でわかりづらいサイト
- 旅行の申し込みサイトで、宿や日程、交通手段などを決定し、最終的に申し込む段階になってから「会員登録を行ってください」と促し、登録しないと申し込めない仕様のサイト
3番目の旅行会社の例を指して橘氏は、「こういった仕様のサイトは実は多い。我々の経験から考えると、この仕様では、会員登録を促す画面で50%の訪問者が離脱する。旅行という単価の高い商品で50%の失注は大きな損失となる。こういう場合、会員登録でも旅行の申込でも必要な項目はほぼ同じであるため、旅行を申し込めば自動で会員に登録されることを伝えればよいだけだ
」とアドバイスする。
また、トップページに貼るラベルの作り方でも直帰率は大きく左右される。自社のサービスやキャンペーンのラベルを大きく表示するケースは多いが、サービス名やキャンペーン名だけが表示されているだけでは、その先のページを想像することができず、だれもクリックしてくれない。しかしそこで、サービス名やキャンペーン名とともに、キャッチで一言「そこで何ができるか」を示すだけで、クリックされる率は大幅に向上する。
ユーザーはサイトにどんな目的で訪れ、目的を達成できるのか。訪問者を徹底的に理解し、顧客基点でサイトを構築することが重要
会員登録時に、限定的なパスワードを登録するように求めることも機会損失の原因となる。たとえば、「半角数字6桁」のパスワードを求めているサイトが存在するが、実際問題として、半角数字6桁のパスワードを使っている人はほとんどいない。たいていのパスワードは8~16文字の半角英数字で作ることが多く、普段と形式の異なるパスワードを考えるのが面倒というだけで離脱してしまう。万が一登録してくれたとしても、その後の利用頻度はガタ落ちする。
損失を出さないために優先すること
前述したような、訪問者に最適化されていないWebサイトは損失を出し続けており、企業はそのことに気が付いていない。訪問者は自分の訪問目的以外の情報は目に入りづらく、提供者の思い通りにはならない。
情報の主導権が企業からユーザーへと移行している今、訪問者の目線(顧客基点アプローチ)でサイトを構築することが常に求められている。訪問者のニーズを充足させることで購入・検討につながる確率も上がる。つまり、売上を増加させるためには、訪問者を増やすよりも、まずニーズ充足度を高めて離脱率を改善することが効率的なのだ。
たとえば、20万人が訪れる「商品選択ページ」でまず90%が離脱し、その後2万人が到達した「申込フォーム」で再び90%が離脱、最終的に2000人が申込を完了するサイトがあるとする。
- 商品選択ページ:訪問者20万人(90%が離脱)
- 申し込みページ:訪問者2万人(さらに90%が離脱)
- 申し込み完了:2000人
このサイトの売上を2倍にしようとした場合、最初の訪問者を2倍の40万人にする方法も考えられるが、それにはかなりのコストと労力が必要だろう。しかし、「商品選択ページ」と「申込フォーム」、それぞれのコンバージョン率を10%から13.5%にアップさせると考えれば、流入は21万9478人に増やすだけでよくなる。さらに言えばこの場合、長期的に広告にコストをかけるよりも、一時的にサイトリニューアルのコストをかけるだけで実現できるのだ。
直帰率を下げるために有効な施策
橘氏は、直帰率を下げるために実行している例として、トップページにおいて、ドロップダウンメニューでサイト内コンテンツを明示し、第2階層や第3階層であっても、ユーザーが求める場所へダイレクトに行けるナビゲーションが有効だと説明する。
また、競合するいくつかの製造業サイト(コンデンサ)を比較し、各社が激しい競争をしている事例として、クロスリファレンス検索機能を挙げた。これは、他社品番を入れれば、自社の同等製品を検索できるようになっているものだ。ある企業が数年前に導入した機能であるが、競合他社がそれを追いかけ、その後のリニューアルですぐにこの機能を取り入れているのだという。
評価の高い最先端企業のサイト施策を、2番手や3番手の企業がすぐ追随するというWebサイトの競争がすでに起こっている(橘氏)
キーエンスの事例ページでは、「商品ジャンル」「業界」「職種」「テーマ」「工程」「アプリ分類」の6つのカテゴリから事例を探すことができ、訪問者が的確に求める情報に行き着けるナビゲーションを実現している。
また、パナソニックの製品ページでは、製品の特長など一般的な説明だけではなく、製品を見つけた後に訪問者が求めるであろう「問い合わせ」や「見積もり依頼」、「各種ダウンロード」、「セミナー情報」などへのリンクもすべて同じページの中でサポートしている。リンク先ではダイレクトに製品にひも付いたページが表示され、改めて製品を探すなどの手間を省いている。
入力フォームのコンバージョン率を向上させる6つのポイント
橘氏は、入力フォームのコンバージョン率を向上させる施策についても具体例を挙げて説明した。
フォームのコンバージョン率向上のポイント
- 必須項目は「※」などの記号ではなく「必須」と明記する。
- 入力中にリアルタイムで「登録まで残り3項目」など残り項目数を明示する。
- 入力が間違っていた場合、登録ボタンを押した際にまとめてエラーを表示するのではなく、次の項目に移る瞬間にエラー通知する。
- 半角/全角を切り替えなくても入力できる仕様にする。
- 入力項目単位でログ解析し、どの項目の入力がボトルネックとなって離脱率が高くなっているかを見極める。
- 規約への同意と申込完了を分けるのではなく、一度のボタンで処理する。
これらの施策をきっちり行うだけで、ユーザーに入力の手間をかけさせてしまう入力フォーム画面における離脱率を抑えられるのだという。また橘氏は最後に、「このセミナーのあと、帰ったらすぐにやってほしいことが4つある
」と語る。
すぐにやるべきこと
- サイトの直帰率確認
- もうすぐGoogle検索のSSL化により、検索キーワードが取れなくなってしまうため、今のうちに流入キーワード500位までを確認してコピーする
- 加重平均直帰率表を作成し、訪問者の期待を裏切っているページを明らかにする
- KPIとして管理している項目についてのコンバージョンタグの組み込み漏れをチェックする
「これらを行うだけで、明日からやらなければならないことが見えてくるはずだ
」と橘氏は語り、基調講演を終えた。
株式会社エクスペリエンス
http://www.x-perience.jp/
ソーシャルもやってます!