「ソフトバンク流 Web改革のすすめ」大改革を成し遂げた極意
「ソフトバンクグループ統合サイト改革」
企業サイト・サービスサイト合計6つを「www.softbank.jp」に統合
基調講演は2部構成で行われた。第1部の「ソフトバンクグループ統合サイト改革」という興味深いテーマに、会場の期待感が高まる中、ソフトバンクモバイル Webコミュニケーション部の笹本慎一氏が登壇した。
笹本氏はまず、「ソフトバンクは、よく通信キャリアと思われているが、実は“インターネットカンパニー”なんです
」と自社を紹介した。今後、戦略的シナジーグループ5,000社を目指しており、現在ソフトバンクは、世界中のインターネットカンパニー群を合わせて1,300社を突破。そのうちグローバルネットワークで世界各国をつなぎ、ソフトバンクグループのサービスを利用するユーザー数は世界で数十億人に達しているという。
ソフトバンクはインターネットカンパニー世界No.1を目指している。そのためには、世界中の人々から最も必要とされる企業グループにならなくてはならない。認められた証として、時価総額、営業利益、顧客満足度などのあらゆる項目でNo.1であること。これらが指標になります(笹本氏)
そんなソフトバンクはどのように自社サイトの統合と改革に取り組んだのか。笹本氏は改革にあたり、No.1であり続けるために「仕組み」と「体制」を作ることに目標を置いた。
まず仕組みは、“No.1プラットフォーム”を作ることである。ソフトバンクではそれを、「クラウドシステム」「サイト統合」「ランキング」「利益創出」など、あらゆる項目でNo.1を目指すこと、重要となるクラウドシステムは、「サイト」「ソリューション」「インフラ」のすべてでNo.1になることだと定義した。
そのために、徹底的な市場調査を行い、ソフトバンクがNo.1になるために必要な要件定義と選定評価をしたうえで、“No.1プラットフォーム”として構築したという。
次に体制は、“ITプロフェッショナル人材”を集めることである。今後“No.1プラットフォーム”を運用保守・改革進化させていくには、ITプロフェッショナル人材が不可欠になる。そこでソフトバンクグループ内外から優れた人材を招集し、チームの体制を構築したという。
ソフトバンクはなんでも勢いだけで行う会社に見られがちですが、実は、徹底的な事前調査・データを重視する会社なのです。今回の改革では、定量面においては“No.1プラットフォーム”の必要要件を数値化して、発注先を選ぶ際にも、条件を満たしていない場合は、ソフトバンクグループ会社や長い付き合いがある会社に気を使うなどといった“聖域”は一切作らずに強い決意で評価選定を実行しました。 そのためにずいぶん社内でぶつかり合いもしました(笹本氏)
そしてソフトバンクでは、2013年10月、「ソフトバンクモバイル」と「Yahoo! BB」のサービスサイトと、「ソフトバンク」「ソフトバンクモバイル」「ソフトバンクBB」「ソフトバンクテレコム」4社の企業サイト、合計6サイトを「www.softbank.jp」のアドレスに統合・刷新した。
以前は、同業他社に比べてやや使いづらいという評価を得ていたソフトバンクのサイトだったが、統合後の調査では、同業他社に比べてもユーザから使いやすいという評価を得られた。同時に、オンラインでの売上獲得による利益創出も従来に比べて100倍に、アクセススピードを10倍以上に高速化し、運用コストは3分の1削減するなども実現できた。その他、クオリティの平準化、ガバナンス(グループ統制)など、それぞれの指標で大きな成果を上げることができた。
外部評価から見ても、統合後のソフトバンクのサイトは高い評価を得ている。たとえば、週刊ダイヤモンドの実施した「ホームページ顧客満足度」調査では、2013年度に初めてソフトバンクが同業他社を抜いて、通信キャリアで1位となった。
また、IRの面からみても、日興アイ・アールの「2013年度 全上場企業ホームページ充実度ランキング調査」で1位を、大和インベスター・リレーションズの2013年「インターネットIR表彰」の最優秀賞グランプリを、ゴメス・コンサルティングの「Gomez IRサイト総合ランキング 2014」において金賞に選ばれており、国内初の3冠獲得をすることができた。
No.1プラットフォームの仕組みを作るというソフトバンクの目的は果たされたと言えよう。
ソフトバンク流Web改革の肝は「3つの極意“GTP”」にあり
Web改革を推進するにあたっては、数々の難題の壁を乗り越えなくてはならない。ソフトバンクがこうした改革を実現した裏には、下記の3つの極意があった。
- GOAL 圧倒的No.1にこだわれ
- TEAM 同志を見つけよ
- PASSION 勝ちグセをつけよ
最初の“GOAL(ゴール)”について、笹本氏は、圧倒的No.1を目指すというのは、シンプルでわかりやすく、一致団結しやすい目標であり、目標達成に大きな役割を果たすと説明した。
「あるITソリューション業界トップである競合A社の会員1万人を3年以内に越えよ」という課題があるとします。
競合A社が会員1万人を持っているとしたら、我々は会員1万人を目指す目標は立てません。圧倒的No.1ですから、最低でも10倍、3年以内に10万人の会員を目標にします。3年で1万人と10万人では視点が異なり、戦略と戦術が大きく変わってきます。1万人はただの通過点に過ぎず、結果的に目標を達成できず8万人に終わったとしても、業界No.1になれているのです(笹本氏)
続いて笹本氏は、“GOAL”を実現するための“TEAM(チーム)”の重要性についても述べた。Web改革においては、関係する部署と対立して前に進まないということが多々あるだろう。そういう時に、自分の目標だけを達成しようとしても、他部署にも目標があるので協力してくれない。相手部署の目標も背負って、1つの目標にしていくことが重要である。さらに他部署の目標を110%達成できる提案をすることで、相手を強力に巻き込み、同志を作ることができるのだという。
ソフトバンクグループ統合サイト改革で本気でぶつかり合った他部署も、今では自らNo.1を目指しましょうと推進に協力してくれて、頼もしい同志となっています(笹本氏)
Web改革というものは、半年から数年の長期間にわたることが多い。最後の“PASSION(パッション・情熱)”とは、長い期間、モチベーションを保ち続けるためには、節目節目に評価されるような仕掛けを作ることが大事だということだ。
ソフトバンク流に言えば、Passionを維持するために“勝ちグセ”をつけることが重要です。まずWeb改革の工程をイチから因数分解し、成果を整理し、それぞれの成果が社内外に評価されるように3か月ごとに優先順位を決めていきます。そうすると、社内で評価されたとか、社外で評判になったとか、その1つひとつの成果がメンバーのモチベーションを上げ続けてくれる仕組みになります。
私は、改革で生み出せる成果を“花火”と呼んでいます。小さな“花火”を積み重ねていくことで、最後にWeb改革という 大きな成果である“大花火”を打ち上げることができるのです(笹本氏)
また、最後に笹本氏は、Web改革に取り組もうとする担当者に向けてメッセージを送った。
最後にみなさんにお伝えしたいことは、Web改革はだれにでも実現させることができるということです。インターネット時代においてWeb改革は、会社業績を改善成長させる最も良い施策となります。Web改革によって、各社の業績がより良くなることで、日本経済も活性化され、さらにより良いサービスが生まれて、それが日本やアジア、世界へと広がり、世界中を豊かに人々の幸せにつながっていくと確信しています。ぜひみなさんには、Web改革へチャレンジしてほしいと思います(笹本氏)
会員向けサイト「My SoftBank」をポータルサイトとして改革
第2部では、同じくWebコミュニケーション部の大黒悠氏が登壇し、ソフトバンクの会員向けサイト「My SoftBank」の改革の経験を基に、大型Web改革を成功させるコツについて語った。
大黒氏が上げる、大型Web改革実現のためのポイントは下記の3つだ。
- 現状を正しく理解する
- 大きな意義をつくる
- 伝え方を工夫する
改革したサイトの1つ「My SoftBank」は、パソコンやソフトバンクの携帯電話から、ソフトバンクの利用料金の確認や設定変更などが可能となる会員向けサイトだ。2013年の時点でスマートフォンからのアクセスが85%を超えたことから、まずはスマートフォン版から改革を実行した。
2014年4月には改革第一弾として、ヤフーとの提携によって、My SoftBankのトップ画面とYahoo! JAPANのトップ画面をワンタッチで切り替えて使用できるようにした。今後も、ユーザーのソフトバンクに関連する閲覧履歴や利用履歴、問い合わせ内容や公式コンテンツ紹介などを一元化し、My SoftBankを“ポータルサイト”として運用するべく改革を進めていく。
現状を正しく理解し、経営資源を配分してもらう仕掛けを考える
Web改革は、ただフロントを改修すれば成し遂げられるというものではない。必ず基幹システムの改修が必要になり、多額の予算がかかる。また、体制の強化なども求められる。大きなWeb改革を実施するには社内スタッフや新しい設備、予算などの「ヒト・モノ・カネ」が必要であり、Web担当者の重要な業務の1つは、それら改革のためのリソースを経営側から確保することと言っていいだろう。その必要を経営側に理解してもらうためには、まずWeb担当者が、広い意味で“現状を正しく理解する”ことが必要だと大黒氏は述べる。
ただ予算と体制を整えるよう経営側に要求するのはNGです。問題は、経営課題とWebの課題が一致していないところにあります。Web担当者にとってはWebサイトがすべてですが、経営層にとっては、ショップやコールセンターなど、さまざまな課題の中の1つにすぎないということをまず理解するべきです。
たとえばソフトバンクにおいて、契約件数のシェアはショップが圧倒的に多く、Webからの契約というのはわずか5%でした。経営層においては“Webは顧客接点の1つにすぎない”ということをまず把握したのです(大黒氏)
あくまでWebサイトは企業における顧客接点の1つ。会社全体の現状を正しく把握したうえで、経営資源を配分してもらう仕掛けを考えることがまず必須となるのだ。
社内の課題を集めてプロジェクト化し、“大きな意義”を作る
企業においては、経営資源は“意義の大きさ”によって分配される。大黒氏はまず、プロジェクトの意義を大きくするために社内で仲間を探すことからはじめたという。具体的には、社内で何か課題を持っている人を探し、Webサイトで一緒にできることはないかと声をかけてまわったのだ。すると、たとえばコールセンター部門からは「入電件数を減らし、コストを削減したい」、広告販売部門からは「販売枠を増やし、売上を拡大したい」、コンテンツ販売部門からは「加入を促進し、売上を拡大したい」といった、さまざまな課題が集まってきた。
大黒氏は、これらの課題について、Webサイト側のセクションが協力することを確約した。たとえば、Webサイト上でユーザーの疑問や不満を解決することができれば、コールセンターへの入電件数を削減できる。Webサイト上に広告枠を新設すれば、新しい良質な広告枠を確保できる。Webサイト上でコンテンツの露出を強化することで、既存顧客への販路を開発・強化できるといった具合だ。さらに、改革後の成果を高めるために、Yahoo! JAPANと相互リンクを張り、Webサイトの利用者が増える仕掛けを構築するようにした。
こうして、さまざまな部門の目標をWebサイトに集約したことにより、コストをかけても収益が上がるということを経営層に納得させることができたのだという。プロジェクトの必要性(意義)を高めるには、社内の課題をまとめて“大きな課題”にすることが大切なのだ。
経営層に理解してもらえるように伝え方を工夫する
大きな改革を成し遂げるには、大きな決裁が必要となる。経営者に決裁してもらうには「説得力」が必須だ。大黒氏は、説得力を生みだすためのプレゼンのポイントとして下記の3つを挙げた。
- 専門用語を平易な表現に直す
- 金額や人数はイメージがしやすい
- 将来性(のびしろ)を伝える
たとえば、技術トレンドや「アクセスログ」「オムニチャネル」などの業界用語・専門用語は、現場の人間であれば当たり前の内容であっても、経営層には伝わりづらい。「売上」「人数」「他社との比較」など、わかりやすい表現を利用することで経営層にもすんなり理解してもらえる。
リニューアル効果についても同じだ。経営層にとっては、「ページビュー数が120%増えた」と言われても、他の施策の成果と比較できなかったり、そもそもそのミッションの難易度が想像できなかったりして、妥当性を評価しづらい。具体的に、「コールセンターへの入電数が20%減少し、1か月当たり1,500万円の費用が抑えられた」というように金額換算することによって伝わりやすくなる。また、ショップの来客数が●●人、それに対して、Webサイトのアクセス数が●●人というように、人数を比較するのも有効である。
効果の持続性もアピールポイントだ。たとえば大黒氏は、リニューアル後、コールセンターへの入電件数が減少したことと、それがリニューアルした瞬間の一時的なものではなく持続的なものだということをグラフとして示し、説得力を持たせた。
また、従来のWebサイトとの方向性・ポジショニングの違いを明確にすることも大切だ。「My SoftBank」の場合は、従来の「トラブル解決の窓口」から「収益を生む売り場へ」という方向性の違いを示し、実際のページ構成としても、広告枠の新設に加え、データ販売、コンテンツ販売、アクセサリー販売、機種変更などのコンテンツを多く配置する形にしている。
大黒氏は最後に、「企業のWeb担当者は、予算や体制を自ら取りに行くもの。Webだけで大きな改革が難しい場合は、さまざまな部署の課題をまとめて大きな意義を作り、伝え方を工夫して経営層の理解と共感を得てバックアップしてもらうことが大事
」とまとめた。
また、それと同時に、そうした企業Webサイトに何らかの商品を提案したり制作に携わったりするWeb業界担当者に対しても、同様に意識すべきことがあると、講演の最後、大黒氏は次のように語った。
- 企業に対して決まった予算の中でやりくりするのではなく改革プロジェクトの発足を促すこと
- 「ページビューを増やしたい」などというWebだけの課題ではなく、その企業全体のビジネス課題を把握すること
- 提案する際に示す指標などはできるだけWebの指標ではなく、経営課題の指標に近い形で提案すること
ソフトバンク株式会社
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