お店からの手書きメッセージは、なぜ嬉しい? デジタル時代の今、手間をかけることの意味を考えてみた

先日、本屋さんの通販を利用したところ、商品と一緒に手書きのメッセージが書かれた栞が入っていました。
あらかじめメッセージ欄のある栞だったので、きっとお客さん一人ひとりに手書きで言葉を添えているのでしょう。

他の通販でも、商品に手書きのメッセージが添えられていることがあります。私はそうしたメッセージカードが嬉しくて、手帳に貼って残しています。こうした手書きのメッセージを添えてくれるのは、比較的小規模なお店が多いように感じます。
小さなお店だからこそできる手書きメッセージですが、もらって嬉しいときと、それほど嬉しくないときがあります。その良さの本質とは、いったい何なのでしょうか?
手書きでも嬉しくない場合もある
手書きメッセージは、もらうとたいていは嬉しいものですが、だからと言って「手書きなら何でも心に響く」というわけではありません。
先日、不動産会社が主催するInstagramキャンペーンでAmazonギフトカードが当たり、郵送で届きました。宛名や一部のメッセージは手書きでしたが、不思議と嬉しい気持ちは湧きませんでした。
また、通販のお店によっては、納品書に「◯◯様、ありがとうございました」といった名前入りのメッセージを印刷してくれるところもあります。確かに個人宛ての言葉ではあるのに、あまり心は動きません。手書きに似せた工夫なのに、特別感は感じられないのです。
「時間」をかけてくれたことへの嬉しさ
手書きに感じる特別さは、文字の見た目や内容だけでなく、「誰かが自分のために時間をかけてくれた」という事実にあるのではないでしょうか。
たとえば、娘は誕生日にお店のケーキよりも、私の手作りケーキを欲しがります。私はお菓子作りを習ったこともなく、レシピを見ながら何とか作れる程度です。お店のケーキの方が美味しいし、見た目がいいにもかかわらず、「お母さんのケーキがいい」と言うのは、「母親が自分のために時間と手間をかけて作ってくれた」という事実が嬉しいからだと思います。
手書きのメッセージも同じで、文字の上手さや内容よりも、「この人が自分のために時間をかけて、手を動かしてくれた」という行為が嬉しいのかもしれません。印刷された名前入りのメッセージには、その感覚が薄いのです。
また、キャンペーンの賞品に添えられた手書きメッセージは、確かに時間はかけているものの、どうしても「マーケティングの手段ではないか」と勘ぐってしまい、素直に心が動きませんでした。
関係性、タイミングと文脈
手書きのメッセージをもらった場面を思い返すと、どういうタイミングで、どんな文脈で送られてきたのかによって感じ方が変わります。
小規模なお店からの手書きメッセージが嬉しいのは、「自分がそのお店を選んで買い物をした」という関係性があるからだと思います。
ある年、たまたま誕生日に飛行機に乗ったときに、客室乗務員の方から手書きの誕生日カードをもらったことがありました。「大切な日のご移動に当航空をお選びいただき、ありがとうございます」と書かれていました。このときは出張で、特にその航空会社を選んで乗ったわけではなかったので、嬉しさよりも、驚きのほうが大きかったです。
これとは逆に、意外な場面で手書きメッセージを受け取って、嬉しくて心に残っていることがあります。
今年4月、愛媛県松山市で開催されたRubyKaigi 2025の期間中、松山市のカフェダイニングを貸し切ってイベントを開きました。私たちの会社は東京を拠点にしていて、このカンファレンスのためだけに、初めてそのお店を利用したのです。
イベントから1ヵ月半ほど経った頃、お店からお礼のハガキが届きました。そこには手書きで、「またぜひ愛媛に来られた際にはお待ちしております!」と書かれていました。
再来店の可能性は地元に住んでいる方よりも低いとわかっていながらも、心を込めてハガキを送ってくれたことが素敵だなと感心しました。そのハガキの写真を撮って、社内に共有したほどです。

デジタル時代だからこその「非効率」な価値
私たちの日常は、デジタルなコミュニケーションで溢れています。メール、SNS、チャットなどは効率的で便利だし、もはや欠かせない存在です。そんな中で出会う手書きの文字は新鮮で、強く印象にも残ります。
効率性や合理性が重視される現代において、「手間をかける」という行為は一見すると無駄に思えるかもしれません。しかし、その「手間」こそが、受け取る側に特別感をもたらしているのだと思います。
以前、小さなお店を経営している方に、なぜ手書きのメッセージを添えるのか尋ねたことがあります。その方は「接客だから」と答えながら、たくさんの注文一つひとつに丁寧に手書きのメッセージを書かれていました。その方にとって、手書きメッセージは「特別なサービス」ではなく、店頭での接客の延長なのだと感じました。通販でも最後までお客さんと向き合い、接客をしたい。その気持ちが、手書きの文字に込められているからこそ、もらった人が嬉しくなるのです。

小さな手間が生む大きな価値
通販で届いた荷物を開ける瞬間は、いつもわくわくします。それに加えて、手書きのメッセージが添えられていると、さらに嬉しい気持ちになります。デジタル化が進む今の時代だからこそ、こうした人のぬくもり際立つのかもしれません。効率はもちろん大切ですが、時には「手間をかけることの価値」も忘れずにいたいです。
小さなお店からの手書きメッセージが教えてくれるのは、効率だけでは測れない価値の存在です。適切な関係性、タイミング、文脈の中で「時間をかける」という行為は、受け取る人の心に小さな幸せを届けてくれる。手書きのよさとは、きっとそのことにあるのだと思います。
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