HCD-Net通信
「人間中心設計(HCD)」を効果的に導入できるよう、公の立場で研究や人材育成などの社会活動を行っていくNPO団体「人間中心設計推進機構(HCD-Net)」から、HCDやHCD-Netに関連する話題をお送りしていきます。
HCD-Net通信

ウェブから得られる情報とマインドコントロール/HCD-Net通信 #24

ネットで「あらゆる情報が入手できるはず」という思い込みがステレオタイプ化へのトリガーに
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インターネットの発展で、人々が得る情報の量は爆発的に増加し、その質も変化した。しかし、ネットはあくまでも社会の一部であり、そこにある情報は全体の一部でしかなく、何らかのバイアスがかかっているものだ。

「あらゆる情報が入手できるはず」という思い込みをしていると、気がつくと潜在的なマインドコントロールによってステレオタイプ化してしまうかもしれない。

まずはエピソードから。20才の頃「ロシュフォールの恋人たち」という映画を見た。それからしばらくして、週刊誌で、出演者のひとりだったフランソワーズ・ドルレアックが事故死したということを知った。1967年のことだ。しかも、記事にはそれが交通事故であり、フランソワーズは首を切断されてしまったというセンセーショナルな内容が書かれていた。彼女の美しい首が道路に転がっている情景を想像してしまった。

そんなこともあって、彼女のことはずっと記憶に潜伏していたのだが、最近、監督だったジャック・ドゥミのボックスDVDを買って、同じ作品を改めて見てみた。そして、ついでにフランソワーズのことをネット検索した。しかし、交通事故死したことまで書いてある記事はいくつもあったが、「フランソワーズ・ドルレアック 交通事故 首」で検索し、その結果をすべてチェックしたが、首が切断されたことに触れていたサイトは、たった1つしか見つからなかった。もちろん現場写真も見つけることはできなかった。

検索エンジンを使っても見つけられない情報があるし、検索エンジンというものが偏ったツールであるのはわかっているつもりだ。しかも、検索エンジンには独自の倫理基準があり、その基準に反する情報は出てこない(反対に、企業の営業になるような情報はいろいろとでてくる)。そういったバイアスのかかったツールであるとも思っている。

ともかく、1960年代のように、情報がデジタル化されていなかった時代に関する情報は、奇特な人がデジタル入力をしてくれない限り入手はできないのだな、と改めて感じた次第だ。

もう1つ。この冬休みにチベットに観光にいった。ラサ市内にあるホテルのネット端末で、中国政府による検閲の実態がどんなものか、短時間だったけど試してみた。たしかにクリティカルな内容は英単語で入れてみても出てこない。しかし、日本語のWikipediaにたどりついて、そこでノーベル平和賞の記事を開いたら、劉暁波氏のことが読めてしまった。

Wikipediaによると、中国の情報検閲は、IPアドレスブロッキング、DNSフィルタリング、URLフィルタリング、パケットフィルタリング、コネクションリセットなどの手段によって行っているらしい。しかし、英語のような「一般的」な言語を除けば、言語の壁を乗り越えるのは容易ではなかったのだろう。そして、劉暁波氏が中心になって作成した零八憲章の日本語訳は、日本語であれば容易に読むことができる。

どの程度の数の中国人が、中国政府による情報のブロッキングについて知っているのかはわからない。また、どれだけの中国人がそのブロックを突破して情報を得ているのかもわからない。しかし、壁を作れば穴があるのは世の常だ。その意味で、民主化やチベットのやウイグルの分離独立、通貨制度、死刑制度、軍拡などさまざまな課題を抱えている中国政府が躍起になって情報コントロールをしようとするのはわからないではない。

しかし、基本的に情報の受発信は自由であるべきだし、ネットというメディアでは、あらゆる情報が入手できるようになるべきだと考えている。

そこで問題になるのが、「あらゆる情報が入手できるはず」という思い込みである。すでに書いたように、「古い時代の情報」や「当該社会における倫理的通念に反するような情報」については、その思い込みに当てはまらない。そうした情報は、頑張ればそれなりに見つけられることもあるが、一般のユーザーが一般の検索によって探しても、ごくわずかしか見つからなかったり、特定のバイアスがかかったものしか見つからなかったりすることに注意する必要がある。その自覚のないまま、ネットを信頼してしまうと、ユーザーはある意味でステレオタイプ化された情報を繰り返し入手し、それが「世の中」であると思い込んでしまう危険性がある。

心理学に「強化」という概念がある。そして、何回も反復されるインタラクションは、強化にとって有用なものである。したがって、ネットが現在のように日常生活に入り込んでしまうと、ネットから得られるステレオタイプ的な情報が人々のマインドを強化してしまう可能性がある。

人間工学では「冗長性をもたせること」が重要な場合があることが知られている。何かをやろうとするときに「これが駄目ならあれがある」ということは、ヒューマンエラーを回避したり、ユーザーの特性や利用状況に適合したインターフェイスを提供するための基本的対策の1つである。

その意味では、ネットにおける情報検索についても、いつも同じ検索エンジンを使うのではなく、また、検索結果に表示されたページからさらにもう一歩リンクをたどって調べるような行動を習慣化することによって、既存の著名な検索エンジンによってもたらされる情報バイアスから多少なりとも逃れることはできるだろう。

そうした努力をしないと、近い将来、人々の考え方は特定の方向に固定化されてしまう恐れがある。これは、その特定方向に対する反対意見についても同じことだ。反対意見も固定化され類型化されてしまう可能性があるため、反対意見を「併せて読む」だけではステレオタイプの潜在的プレッシャーから逃れることはできない。

要は、ネットは「素材の一部」であるという自覚を忘れないことだろう。その他のメディア、たとえば書籍(古本を含む)をもっと活用することもしなければいけない。いろいろな人に会って話しを聞いたり議論をしたりすることも必要だ。

リアルな世界にはそうした多様なメディアがまだ残存している。それを活用し、さらに「自分の頭で考える」習慣をつけないと、今から5年10年たった時代には、潜在的マインドコントロールによって一様化(より正確には多面的な一様化というべきかもしれない)されてしまうかもしれない。

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