HCD-Net通信
「人間中心設計 (HCD)」を効果的に導入できるよう、公の立場で研究や人材育成などの社会活動を行っていくNPO「人間中心設計推進機構(HCD-Net)」から、HCDやHCD-Netに関連する話題をお送りしていきます。
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もっとユーザーの声を聞いてデザインを――マネーフォワードへ転身したデザイナー

バリューのひとつに「User Focus」を掲げているマネーフォワード。松永奈菜さんは、『マネーフォワード クラウド』と呼ばれる、クラウド型会計ソフトやクラウド型給与計算ソフトなどのプロダクトを開発している部署でデザイナーとして働いています。現場でどのような活躍をされているのか、お話を伺いました。
森川 裕美(HCD-Net)、羽山 祥樹(HCD-Net) 2021/12/2 7:00 | 印刷用
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2020年8月にマネーフォワードへ入社した松永さん。それ以前は、約12年間、産休や育休を挟みながら、ウェブサイトデザインの制作会社に勤務していたという。制作会社時代からずっと、「納品がゴールではなくリリースした後も継続してサービスに関わることのできる事業会社に行きたい」という気持ちがあったとのこと。育休が明けた1年ほど後に、動くなら今だと転職を決意。今から1年ほど前から進めてきたという、新規プロダクトのUXデザインについてお話を伺いました。

まずはユーザーの理解から。画面を作るだけではわからない事実

『マネーフォワード クラウド』と呼ばれる、クラウド型会計ソフトやクラウド型給与計算ソフトなどのプロダクトを開発している部署でデザイナーとして働いてる松永さん。関わっている新規プロダクト『マネーフォワード Pay for Business』は、法人や個人事業主を対象とし、カードやウォレット払いなど、多様な決済手段を通じてキャッシュレス化を促進し、経費精算・会計業務を楽にするキャッシュレスプラットフォームです。

マネーフォワードではプロダクトごとにデザイナーがいて、ビジネス・開発側の責任者であるプロダクトオーナーと協力しながらプロダクトの立ち上げを行うケースが多くなっています。松永さんは、この新規プロダクトのデザイナーとして、UI設計などを担当しています。

このプロダクトは、松永さんがこれまで関わってくることのなかったユーザーのため、競合調査を行ったのち、ユーザー視点の理解から取り組み始めたそうです。また、このプロダクトに参画したのは今から1年ほど前。転職直後だったこともあり、プロダクトオーナーがすでに作成していたユーザーストーリーを理解しつつ、インタビューしたいユーザーの属性パターンを決めていきました。

ユーザーストーリー

その後、プロダクトの開発と改善を進めつつ、スピード感を重視して、対象ユーザーの属性に近い10名ほどの社員にユーザーインタビューを行ったそうです。

まず、想定している表示情報や操作の流れで、意図したことが伝わるかを検証するため、類似サービスのスクリーンキャプチャなどを組み合わせながら、粒度の粗いプロトタイプを作成し、1時間ほどのユーザーテストを行いました。キレイなデザインに整えてしまうと、修正が大変になることが多いため、粗いデザインの段階で大まかな構成を確認するユーザーテストは有効です。

インタビュー協力者の方に、前提となる状況を説明したあと、プロトタイプを見せ、操作したいと思う箇所を指示してもらいながら、松永さんが操作する形式で進めたそう。「自分が個人事業主の経験がないため、毎回発見がありました」と松永さん。

プロトタイプ

対象ユーザーである個人事業主と法人とでは入力項目が異なるため、社内の経理部の方にも協力してもらいました。インタビューする際に、社内で利用している類似サービスの使い方も一緒に教えていただいたそう。すると、経理の方はクレジットカードを社員に渡す際に、「利用上限額を一時的に変更して翌月にもとに戻す」ということをしており、その旨をメモとして残していることがわかりました。

このような普段の利用状況は、「画面をデザインしているだけではわからない」と松永さんは話します。粗い状態でも、実際に画面を見せながら話を聞いていくと、利用時の状況や要望を思い出してくれることがあるといいます。「何も得られないようなテストはなく、やればやるほど発見があります」と松永さん。その他にも、会社のお金に関わる画面のため、法務観点で問題がないか、法務部の方にもチェックをお願いしたり、社内のさまざまな職種を巻き込んだりしながら進めました。

デザイン

「早く作り上げてお客様に届ける」共通認識をもち、改善しながら作り上げていく

インタビューで得た改善点は、即座に画面デザインに反映していきました。画面デザインの精度が上がっていくにつれて、得られるフィードバックも変わってきます。プロダクトオーナーとも都度コミュニケーションを取り、実現可能性の低い案は取り下げつつも、よい案に関してはどんどん取り入れていく。まず理想の形を作り、どこまで開発するかどうかは、スケジュールを考慮しながら決めていきます。ヒアリングを繰り返し、問題がなさそうなことがつかめたら、精度の高い画面デザインを進めていきます。

理想の形といいつつも、今私たちができる範囲で、ユーザーにとって一番良い見せ方を常に考えています。私もメンバーも、早く作り上げてお客さまに届けるということを心がけています。たとえば、技術だとシンプルなほうを選択します(松永さん)

制作会社の業務を長年経験したため、色々な表現の引き出しを持っていたり、マークアップの知識があることによって、開発に負担のないやりかたを提案できるのではないかと話します。

開発の段階になっても、仕様についてエンジニアと密にコミュニケーションを取りながら進めていきます。実際に動くものができたら、再度社内メンバーに試しに使ってもらい、意図した動きになっているか、操作上致命的な部分はないか確かめていきます。全体を通して確かめることもあれば、部分的に確認することもあります。部分的な確認であれば、その時に予定が合いそうな社内メンバーに声をかけ、10分間だけ協力してもらうこともあるそうです。

動くものになると、デザインだけでは見えてこなかったような新たな気付きがあります。読み込み時間やちょっとした言葉でユーザーが不安になっているようなポイントが見つかります。リリース後にはカスタマーサポートへ問い合わせが来ると思うので、やることは山積みだと思っています。そこの計画も立てないとと、今考えているところです(松永さん)

直接話を聞きユーザーを知る大切さを知った、サイト制作のプロジェクトでの原体験

松永さんが人間中心デザインの道に進もうと思ったのは、医学生向けの就職活動サイトを制作するプロジェクトに関わったのがきっかけだそうです。普段、医学生との接点がなかったうえに、彼らの就職活動についても知見がなかったため、なぜそのサイトに訪れるのか想像ができなかったといいます。そこでクライアントに相談し、プロジェクトマネージャーとともに合同企業説明会のイベントでインタビューをさせてもらうことにしました。

実際に話を聞いてみると、就職先が病院という特殊な環境のため、先輩からの情報が信頼できる情報として重宝されているということがわかりました。大半の学生が部活動の先輩から情報収集を行っており、情報収集するために部活動に入ることもあるという事実を知ったそうです。インタビュー前に作成していたサイトのデザインコンセプトでイメージしていた医学生とは異なっているということがわかったため、サイト内のライティングを変更したといいます。

イメージしていたのとは違って、みんなすごく悩んでいたり、迷っていたり、すごく親しみやすい学生たちだったんです。直接話を聞いてユーザーを知るというのはすごく大事なことで、UXデザインは楽しい、もっとやりたいと思いました(松永さん)

この経験がきっかけとなり、社会人でも通える人間中心デザインの大学のコースで本格的に学ぶことを決心しました。

資格取得により人間中心デザインをやれますと自信を持って言えるようになり、次のステップへ

松永さんが人間中心デザインの認定資格を受験したのは、マネーフォワードに入社して4か月ほど経ってから。松永さんが受験したスペシャリスト資格は「人間中心設計・ユーザビリティ関連の実務経験2年以上あること」「専門能力を実証するための実践事例が3つ以上あること」が資格受験の条件です。

松永さんは、以前から受験したい意志があったそうですが、実績の数に自信がなかったそうです。マネーフォワードで実践したことを合わせれば、何とか材料が揃うのではないかと受験しました。

また、人間中心デザインのプロセスをしっかり繰り返せている実感がなく、自身がやってきたことが他社で通用するのかどうか心配だったといいます。そのため、受験にはHCD-Netのような一定の評価機関に確かめてもらう意図がありました。

制作会社でデザインしていた頃から、クライアントの求めるものではなく、もっとユーザーの声を聞いてもの作りに取り組む仕事がしたいと、ずっと思っていました。2、3年後には、自信を持って『人間中心デザインをやれます』と言えるようになりたいという思いがありました(松永さん)

試験勉強のために費やした時間は3時間程度だったのですが、資格書類をまとめるのに30、40時間はかかったそうです。転職をするにあたってそれまでの経歴の棚卸しをしたため、言語化のムーブメントに乗っていたからこそ諦めずに受験ができました。

これまでの活動を言語化し、自分の経験が評価されるか確かめたかったと話します。受験には、自分は何のためにこの資格を受けるのか、強い意志が必要(松永さん)

実際に受験してみると、人間中心デザインに必要なコンピタンスの定義自体も勉強になり、言語化すること自体でも学びになったそうです。試験には、

  • A基本コンピタンス(13項目)
  • Bプロジェクトマネジメントコンピタンス(3項目)
  • C導入推進コンピタンス(4項目)

があり、スペシャリストの資格合格に必要なのはAのみ。専門家を目指す場合はAに加えてBとCが必要という構成になっています。

プロジェクトの企画や教育に関する部分がまだ足りないことに気づけたといいます。反対に、普段やっているはずの業務を言語化しづらいという気づきもありました。合格してほっとしたものの、受からなかったとしても満足はできていたのではと松永さんは話します。1年経った今では、足りなかった部分を説明できる状態になっているという手応えがあるそうです。

取材・文: 森川裕美(HCD-Net)、羽山祥樹(HCD-Net)

人間中心設計専門家・スペシャリスト認定試験が開催されます

あなたも「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」にチャレンジしてみませんか?

人間中心設計推進機構(HCD-Net)の「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」は、これまで約1200人が認定をされています。ユーザーエクスペリエンス(UX)や人間中心設計、サービスデザイン、デザイン思考にかかわる資格です。

人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度
  • 申込受付期間:2021年11月15日(月)~12月6日(月)
  • 主催: 特定非営利活動法人 人間中心設計機構(HCD-Net)
  • 応募要領: http://www.hcdnet.org/certified/
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