グーグルが検索結果ページに調整や修正を施すたびに、検索ビジネスにおける「潜在的なROI(投資収益率)」のバランスはSEOからますますクリック課金広告(キーワード広告)の方へと傾く。僕がこのことを認識したのは、「グーグルから学ぶマーケティング講座」というアーロン・ウォール氏の記事を読んだときだった。
その記事では、次のように書かれている(訳はWeb担編集部)。
- マネタイズを控えめにして、その代わりにマインドシェアを獲得する(グーグルのほとんどのカテゴリでやっている)
- 無料バージョンを提供して、望む人には製品やサービスを体験する機会を得られるようにする(グーグルのほとんどのカテゴリでやっている)
- ユーザーがサイトに戻ってくるような何かを提供する。または、ユーザーのブラウザにあなたの何かを統合させる(グーグルツールバー)
- 配信先の拡大と広報に強力に投資する。常に小さな変更をして、それがいかにすばらしくそのためにユーザーはサービスを利用する価値があると話し続ける。マーケットシェアを購入しているところとしても、自分の成功は優れた製品によるものだと主張する。
- 自社のビジネスモデルと競合するものが出てきたら、クチコミや市場の参加者を誘導してそれぞれを攻撃させることで自分にメリットが出るようにする(これが、何よりも、プロのSEO屋が表だって他のSEO屋を攻撃するのが賢明でない理由だ。グーグル以外にだれも勝者は残らないから)
- 競合の潤沢な売上源となっている製品の、無料バージョンや低コストバージョンを提供することで、撤退させたり変更を強いたりする(Googleドキュメント)
- 市場の主導的な立場を獲得したあとでも、補完的な市場に対する積極的な投資を続け、自社のポジションを強固なものにする。ユビキタスになる、多言語対応するなど(モバイルOSのアンドロイド)
- 製品やサービスの潜在的な能力を引き出すために、価値の高い垂直方向への展開を探す(ワンボックス検索、ユニバーサル検索、サイト内検索)
- レバレッジが効く状態を確保し、潤沢な見込み客を得られたら、自社がその中心になるように市場を変化させる(Google ChromeのOmnibox)
検索マーケティングにおいて優位に立つためには結果を出さなければならないため、同じSEO手法を使い続けるというのは間違いだ。問題なのは、グーグルのせいで、安定的かつ測定可能な検索結果を提供するSEOの能力が低下しいるという点だ。ウォール氏が記事の中で指摘しているように、グーグルは競合するビジネスモデルを弱体化させようとしている。
ウォール氏は以前、グーグルがいかにして情報提供型の検索結果を増やし、マーケターたちがアドワーズ広告を購入するように仕向けているかについて記事を書いてきた。だが僕はいつも、そうした見方は、よくあるSEO業者の嫉妬だと片付けてきた。もちろんウォール氏は、自分がどんな業界の仕事を手がけているか明らかにしていないので(住宅ローンがらみの話題をよく投稿しているあたりから何となくうかがえるが)、僕はウォール氏と情報を交換できず、彼の説の的確さを評価することが難しくなった。
だが、ランドの書いた「検索エンジンは常に変化している。だけど、SEOのやり方は変わらないんだ。」の箇条書きのリストを見ればわかるように、これはEコマースサイトの検索順位を下げることだけを目的としているのではない。以下の項目について、その影響を考えてみよう。
- 検索結果の上位に表示される複数の画像
- 多くの場合、上位3位の中に並んで表示される、動画ブロック(もちろん、YouTubeからのもの)
- グーグルの検索結果ページ上で最近増えてきた「Google Book Search」からのフィード。同サービスでは、アマゾンやバーンズ&ノーブルズなど、特定の書籍小売業者へのリンクが表示される(アフィリエイトなのかな?)
- 「Onebox」検索機能で表示されるニュース記事などの項目
- 上位100位圏外のサイトでも上位10位以内に表示させられるパーソナライズド検索
- ユーザーが自分の検索結果を操作することで、さらにパーソナライズ化が可能になる検索結果
- 地域ごとや国ごとはもちろん、市ごとでも検索結果が変わるジオターゲティング。私見だが、これは非常に大きな影響をもたらす
- Webサイトを持たず、オンラインに進出していない競合企業までもすべて表示するマップ検索
こういったことから、もはや1位のサイトが検索結果で先頭に表示されなくなった。君がある街にいる間にはそのコンピュータ上で1位にランクしたサイトでも、次の日にどこかの間抜けが自分のオーソリティサイトに写真をアップロードすると順位が下がる。君がログインしている間にも、君のキーワードはニュース性を失ってしまうんだ。そして、次のアルゴリズム修正が行われると、君のリンクプロファイルは価値をなくしてしまう……。
人々はリスクをひどく恐れる。キーワード広告はすでに、企業の検索マーケティング予算の大部分を占めている。なぜなら、ほぼ同じ金額で入札している限り、一定のクリック数が保証されるからだ。さらにグーグルは、支出の最適化に役立つ企業向けツールの「簡易」バージョンを作り続けている(こうして人々は知らず知らずのうちに、グーグルがアドワーズを通じて上前をはねるのに加担している、たぶんね……)。
こうした変化はすべて、SEOの問題にさらなるリスクと不確実性をもたらすものだ。言うまでもなく、関連性の高い検索結果が上位表示されることに慣れてくると、人々は画面をスクロールしなくなる。ユーザーは検索結果の上位5件で満足してしまい、6~10位の価値は低下する。このように、このゼロサムゲームにおいて勝者と敗者の取り分にくっきりとした差が生じてくるにつれ、SEO業者の競争は激しくなるばかりだ。
だからこそ僕は、アクション・コーチ社との契約を結べなかったのだ。このビジネス・コーチング企業は、Google.caにおける検索順位を向上させるためのSEOサービスを求めて、僕に接触してきた。
同社のサイトはすでに、Google.comで1位のランクを獲得している(えーと、少なくともパーソナライズド検索を無効にしている場合はね。カナダ版ではなく、米国版のグーグルで検索してくれ)。それなら僕は、大喜びでこの簡単な仕事を引き受け、この会社のサイトをカナダで上位にランクインさせてあげるべきだったのだろうか?
ええと、SEOに対する僕の哲学は、顧客と僕自身の双方が得する道を求めるというものだ。したがって、潜在的ROIが良さそうだと思えない場合、僕は彼らにそのことを伝える。僕の友人で、トロントでSEOの仕事をしているデヴ・バス氏と昨晩話し合ったところなんだけど、僕らは2人とも、検索量が少なすぎてSEO支出を正当化できない場合には、仕事を引き受けないということがわかったんだ。誇りを持って言うが、SEOを実施する前に有料検索でテストを行うことを、僕はいつも企画書に記載してきた。アクション・コーチ社に関して行き詰ってしまったのは、この部分だったと考えている。
アクション・コーチ社が希望しているキーワードに対する検索数が、米国やその他の国々よりも、ここカナダにおいては格段に少ないんだ。僕が知らないだけかもしれないが、設定したキーワードから得られるROIが地域や国にかかわりなく等しいということを示す研究報告を、僕はいまだに見たことがない。どちらかといえば、アドワーズに地域ターゲティング機能があること自体、そうではないことを示している。
だから僕は、最初にアドワーズでテストしない限り、契約を結ぶことには応じない旨を企画書に書いておいた(これに対して返事がないということで、彼らはこのテストの実施を拒否したのだと思われる)んだけど……。それは何も、検索順位を基にROIを測定しても大して意味はないと言いたかったわけじゃないんだ。だがその意義は、検索順位が絶えず変動する中で、日に日に減少しているんだ。すでにSEOによるROIがどの程度になるかの見積もりは非常に難しくなっていて、この傾向はますますひどくなるばかりだ。
今度、パネルディスカッションで司会者に「検索は今後5年でどのように変化しますか?
」というよくある質問をされたら、それに対する回答は明らかなはず。オーガニック検索はもっとメチャクチャなことになっているだろうから、それまでにPPCロックスターになっておく方がまし、というわけ。
追伸:ランドへ。この記事をどうか悪く思わないでほしい。まだ初心者だったときにSEOmozから多くを学んでいなかったら、僕がSEO業務を行うなんていうチャンスは巡ってこなかっただろう。そして、この啓発的な記事が示しているとおり、この分野においてあなたが今でも僕のはるか先を行っているということを、僕は十分に認識している。
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