BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

モバイル社会の現状と行方 利用実態にもとづく光と影

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『モバイル社会の現状と行方 利用実態にもとづく光と影』

山川 健(ジャーナリスト)

ケータイやメールによってもたらされた人間の変化とは?
便利なコミュニケーション環境の裏に隠れた心理的悪影響

  • 小林哲生、天野成昭、正高信男 著
  • ISBN:978-4-7571-0216-3
  • 定価:本体2,900円+税
  • NTT出版

8月にDVDが発売された話題の日本映画「バブルへGO!!」(劇場公開は今年2月)。現代に生きるフリーターの女がバブル経済絶頂の1990年の東京にタイムマシンで出掛け、歴史を変えて日本経済を救うストーリーだが、こんなシーンがあった。90年の東京に着いた現代の女と、その時代の男が待ち合わせの約束をする電話。時間と駅名だけを聞いた女は、男が詳しい場所を言おうとすると「駅に着いたら電話するね」と言って電話を切る。男は「電話するって、どこに?」と頭を悩ませる。

90年当時、すでに携帯電話サービスは始まっていたが、大きく重い端末、高額な料金制度などから稼働端末は26万台に過ぎなかった。映画のこのシーンは、ケータイによって現代人の行動スタイルが90年当時と大きく変わったことを象徴する事象として描かれている。

ケータイやメールの登場はどのような変化を人間にもたらしているかを探るのが本書のテーマである。2005年8月~9月に約1000人に実施したケータイ使用実態調査の結果を基に、心理学、人類学、社会学の視点から分析を行った。調査は、アンケート項目、言葉に関するテストなど計250問に近い膨大な内容で、アンケートの回答は、巻末に年代別グラフと解説で掲載。この生データだけでも現代のモバイル社会の実状を知る貴重な資料だと言える。

本書によると、ケータイは「時間や空間の制約を受けずに誰かと連絡をとることを可能にするメディア」。便利で快適なコミュニケーション環境であることは間違いないものの、映画のようなわかりやすい行動様式の変化だけでなく、調査結果からは心理的な悪影響も垣間見える。メールの即時返信を9割の人が実行し、送信してすぐに返事が来ることを期待する層も9割。「誰かと常につながっていたいという心情の現れ」がマイナス面にもなる。メールがすぐに来ないと不安になる人が5~7割。メールを介したコミュニケーション過多がストレスになる人も4割。便利さゆえの息苦しさも生み出している。

私は7月、ケータイが主要因のストレスに襲われた。本書では、ケータイによって家族のきずなが強くなったとの調査結果が報告されているが、家族や友人など気の置けない人たちからだけでなく、関わりを避けたい相手からも、時間や空間の制限なく追いかけられるのがケータイだ。特定の相手に着信拒否の手段を講じるとかえって刺激することになる。

それならいっそのことケータイの電源を切ってしまえばいいと思い立ち、1週間ほど実行した。映画の90年当時のように、時間と場所をしっかり決めればアポイントに問題はなく、連絡は固定電話で十分だ。現代は連絡手段として、自らの都合に合わせて受信して読むPCのメールもある。必要以上の即時性さえ求めなければ特に困ることはなかった。

さらにその後、休暇をとって国際ローミングもおぼつかない東南アジアの田舎に1週間滞在した。固定電話やメールも使えない、まさに誰ともつながっていない=誰にもつながれていない状態だったが、不安を感じるかもしれないという思いは杞憂に過ぎず、実際は近年経験したことのない解放感でいっぱい。極めてそう快に過ごすことができた。計2週間のケータイのない生活でストレスはほぼ消えた。

社会が映画の時代に戻ることはなく、現代社会はケータイがないと回らないことも事実。今を生き抜くためには、私のような荒療治とまでいかなくても、便利さと引き換えに降りかかって来るストレスや息苦しさとうまく付き合っていく必要がある。

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