「最強のマーケティング戦略」は外注しないこと? “代理店依存”から脱却する実践ガイド

こんにちは。Webコンサルタントの森和吉です。
経営層から「Webを強化してほしい」という指示が下りたとき、多くのWeb担当者が「さて、どの代理店に依頼しようか?」と考えがちです。しかし、その思考の癖が、かえって会社のマーケティング基盤を弱体化させていないでしょうか。
外部委託は一見、専門知識への近道に見えますが、しばしばマーケティングのブラックボックス化を招き、Web担当者が戦略家ではなく、単なる進行管理者になってしまいます。重要な知見が社内に蓄積されず、戦略的な機会損失にまで及ぶ依存関係を生み出します。
この記事が提案するのは、「Do It Yourself(自分でやってみよう)」の精神で、自社内でマーケティング施策を試行する「DIYマーケティング」です。代理店や制作会社にお願いする前に、まずは自分で小さく試すことで、戦略の解像度も、外部パートナーへの指示の質も大きく変わります。
これは代理店を否定する話ではありません。自らが受け身の依頼主から、主体的な戦略的パートナーへと進化するための提言であり、前回の「安さの落とし穴」からの実践編です。
DIYマーケティングの真価とは
「DIY(自分でやる)」と聞くと「コスト削減」を思い浮かべるかもしれませんが、それは本質ではありません。むしろ会社の根幹となる資産を築くための戦略的投資なのです。
たとえば、自らブログを書き、SNSを運用することで、代理店のレポートからは得られない、顧客に対する直感的な肌感覚が養われます。これは「地図を読むこと」と「実際にその土地を歩くこと」の違いに似ています。
また、内製化は迅速かつ柔軟な意思決定を可能にし、高速なPDCAサイクルを実現します。日々変化するデジタル市場の好機を掴むにはスピードが命です。代理店との調整に時間を費やす間に、その好機は失われてしまうかもしれません。
そして最大の恩恵は、マーケティングのノウハウが社内に蓄積されることです。外部委託では、知見は代理店の資産となります。自ら実行した施策は、たとえ失敗に終わったとしても、すべてが会社の永続的なナレッジベースに蓄積されるのです。
ケーススタディ1SNS運用を代理店に丸投げしたA社の失敗
メーカーA社は、新商品のプロモーションを強化するため、SNSマーケティングを代理店に外部委託しました。自社で事前の戦略立案をせず、「認知拡大をお願いします」と曖昧な依頼をした結果、代理店は「メーカー側の伝えたい情報」をプレスリリース風に投稿するだけに終始。顧客との対話や関係構築を無視し、一方的な宣伝活動となってしまいました。
結果、エンゲージメント(反応やシェア)はゼロに近く、プロジェクトは早期終了。数百万円の予算を投じましたが、売上への寄与はほとんどありませんでした。原因は、自社で顧客を理解しようとせず、代理店任せにしてしまったことによるブラックボックス化です。
後日、自社担当者がDIYで顧客の声を集め、それらをもとにSNS投稿をテストしたところ、反応率が向上したそうです。このケースから学べるのは、外部委託前に自ら手を動かさないと、戦略のミスマッチが起きやすいということです。DIYマーケティングで肌感覚を養えば、代理店への指示も具体的になり、こうした失敗を防げます。
ケーススタディ2オウンドメディアの記事制作をアウトソーシングしたB社の失敗
B社は、オウンドメディアの強化を目指し、記事の作成を外部ライターに委託しました。依頼内容は、「テーマはツールの説明」と簡潔に指定しただけで、「ターゲットのニーズ」や「サイトの方向性」といった詳細な情報は共有しませんでした。
結果、納品された記事は、ツールの登録方法だけに偏り、使い方の全体像やメリットが不明瞭。さらには、サイト内で似たような内容の記事が乱立し、見出しの粒度も不揃いでサイトの統一感を損ない、SEO評価の低下を招きました。結局、B社は記事の修正に追加費用がかかり、メディアの成長は停滞してしまいました。
後から自社でキーワード調査を行い、DIYによるテスト記事執筆を試みたところ、ニーズに合ったコンテンツが増え、アクセス数が向上しました。この事例は、DIY経験なしの丸投げが、いかに戦略とのミスマッチを招きやすいかを教えてくれます。
DIYマーケティングの具体的な実践ガイド
では、気負うことなくDIYマーケティングを始められる、明確なステップを紹介します。小さく始めて、早く学びましょう!
ステップ1現状を理解する(分析)
施策の前に、サイト分析や自社の強みの洗い出しなど、現状を理解しましょう。
「競合(Competitor)」「顧客(Customer)」「自社(Company)」を分析する「3C分析」や、「Google 広告 キーワードプランナー」などのツールを使った基本的なキーワード調査も、顧客が使う言葉を理解し、客観的な視点をもつ訓練にもなります。
ステップ2「誰に」「なぜ」を定義する(戦略)
分析から得た情報を、シンプルな戦略へと転換させましょう。
たとえば、「30代女性、子育て中、情報収集はSNSで行う」などのように、「ペルソナ(理想的な顧客像)」を作成します。そして、そのペルソナが製品を知り、検討し、決定するまでの「カスタマージャーニー」を描くことで、届けるべきコンテンツが明確になります。
先のペルソナのカスタマージャーニーのステージ例であれば、次のような流れがあげられます:
- 知る(SNS投稿を検索・閲覧)
↓ - 検討(Web記事の閲覧・比較)
↓ - 購入製品の決定
ステップ3最初の一歩を踏み出す(実行)
実世界のデータを収集するために、管理可能ないくつかのタスクを実行に移しましょう。
ブログ記事を数本執筆する:
顧客が抱える最も基本的な質問に答える記事を書いてみましょう。なお、記事の執筆を始める際には、「1記事あたり100PVを目指す」といった、成功基準を設定してください。1つのSNSチャネルを90日間運用する:
ペルソナが最も利用しそうなチャネルを1つ選び、一貫性をもって投稿しましょう。その際、コメントへのエンゲージメントを心がけます。成功基準は、たとえば「エンゲージメント率5%超えで継続」のように設定するとよいでしょう。少額予算で広告キャンペーンを実施する:
失っても痛くない少額予算(たとえば、1日1000円)で広告を試し、プラットフォームの仕組みを学びましょう。失敗してもPDCA(Plan-Do-Check-Act)のデータになります。ここでは、成功基準を設けるというよりも、まずはデータを集めて調整することを目的とします。
DIYの経験が、代理店とスマートな協業関係を構築する
DIYマーケティングの目的は、代理店を不要にすることではなく、優れた代理店に選ばれる賢い依頼主になることです。
DIY成果1曖昧な依頼から、的確な指示へ
DIYマーケティングを経験することで、代理店への依頼は「SEOを改善したい」という漠然としたものから、次のような具体的で測定可能な指示に変わります:
このキーワード群を検索結果の1ページ目に引き上げるため、専門的な権威性構築と被リンク獲得を支援してほしい
これにより、代理店は的確な提案をしやすくなり、あなたは戦略を主導する立場に立てるのです。
DIY成果2目利きのできる依頼主になる
実践的な経験は、代理店の提案を批判的に評価する力を与えてくれます。「インプレッション数」のような見栄えの良い指標だけでなく、次のような鋭い質問ができるようになります:
この施策は、顧客を次のステージに進めるためにどう貢献しましたか?
DIY成果3賢明な役割分担を可能にする
DIYマーケティングの初期フェーズで、自社の強みと弱みを明らかにすることが、何を内製し、何を外部に委託すべきかという賢明な役割分担を可能にします。次の表は、役割を分担する際の目安です。自社の規模に合わせて調整をしてください。
| 業務カテゴリ | 内製(DIY)に適した業務 | 外部委託に適した業務(DIY経験後) | この分担が有効な理由 |
|---|---|---|---|
| 戦略・計画 | コア戦略、ペルソナ定義、カスタマージャーニー策定 | 広範な市場調査、大規模な競合分析 | マーケティングの「魂」は社内で保持し、大規模データや専門分析を外部に求める |
| コンテンツ制作 | 基幹となるブログ記事、SNSでの対話 | 高品質な動画制作、専門的なグラフィックデザイン | 日々のコミュニケーションは社内から発信し、専門スキルや大量生産を外部に委託する |
| SEO | 基礎的なキーワード調査、ページ単位のSEO | 技術的SEO監査、大規模な被リンク獲得キャンペーン | 基本を理解して戦略を主導し、深い専門知識を要する技術的側面を外部に委託する |
思考までアウトソースしてはいけない
会社のマーケティング活動において、「まずは自分でやってみる」ことは、戦略的な核となるプロセスです。最終的なゴールは、外部パートナーとの関係性を引き上げ、あなたが単なる依頼主から、戦略を描くディレクターになることです。
今回の記事で紹介したアクションのなかから、1つでも2つでも、選んで実践してみてください。その小さな一歩が、あなたの会社の揺るぎないマーケティング基盤を築きます。また、あなた自身が戦略的リーダーへと成長するための、最も重要な一歩になります。
ソーシャルもやってます!