BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『大人が知らない携帯サイトの世界 ~PCとは全く違うもう1つのネット文化~』
山川 健(ジャーナリスト)
ウェブもメールもケータイで完結するケータイ世代のネット文化
PC世代の大人にとって未知の世界で起きている事実を解き明かす
- 佐野 正弘 著
- ISBN:978-4-8399-2476-8
- 定価:780円+税
- 毎日コミュニケーションズ
「プロフ」「モバ」「パネェ画」「メーリス」。“まえがき”でいきなり出される問い。これらの用語の意味は? いずれも携帯電話向けのインターネットサービスから生まれたという。気になるのなら、それだけで一読の価値はある。私自身すべての正確な意味は知らなかったし、聞いたことがない言葉も2つ。しかし恥じる必要はない。タイトルにあるように、大人が知らない世界なのだから。
一言でインターネットといっても接続する端末が違うと、ユーザーの年代や考え方、使い方は大きく異なる。著者は利用形態から2分類した。携帯電話でネット利用が可能になったのは1999年2月のNTTドコモによるiモードサービス開始時。iモード以前からPCでネットを利用していた層は「PC世代」、iモード以降にネットに触れた層が「ケータイ世代」となる。年代は、PC世代が20代後半から30代以降、ケータイ世代は10代から20代前半。本書は、大人であるPC世代に対して、未知の世界であるケータイ世代の実体を伝えることが最大のテーマになっている。
PC世代にとってケータイのネットはPCの補助ツール。普段PCでアクセスしているブログやSNSなどを外で気軽に閲覧したり更新する使い方がメインだ。メールもPCが主で、ケータイはサブ。一方のケータイ世代はケータイのサービスがすべて。メールもケータイのみ。ケータイだけで完結する利用実態から、PC世代に理解されない独自の文化が生まれている。
代表例が「ケータイ小説」。書き手も読者も中心は女子中高生。1つの文章が極めて短く、1文ごとに改行し、数行空けて書かれている。私も何点か読んでみたが、文章表現があまりにも稚拙で、日本語の使い方さえおぼつかない子が少なくない。思春期の幼い恋の悩みを安直なご都合主義で塗り固めただけの独りよがりな内容は、小説ではなく妄想日記だ。私にとって、読むに絶えない代物ばかりだった。
こうした私の考えそのものが著者にかかると、別世界のこととしてケータイ世代を理解できないPC世代の特徴になる。著者はケータイ小説を、ケータイオリジナルのコンテンツが他の媒体に進出した初めての例と評価する。書籍化されて成功した例があるからだが、書籍を購入したのはケータイ小説を本として手元に置きたいと考える女子中高生。限られた市場の中での出来事に変わりはない。
とはいえ、今後ケータイ世代が大人になることでケータイ文化が若者文化ではなくなり、限られた市場とは呼べない状況になるかもしれない。著者は、日本のネットの未来はケータイにあると断言。企業がネットサービスを行ううえでは携帯への理解が不可欠で、それによって急成長するサービスも出ると予想し、ケータイ世代の発想が求められると指摘する。
いつの間にケータイは若者文化を代表するツールになってしまったのだろう。ふと思い出した。2004年6月、ドコモのiモード推進役の担当部長が記者発表会で言い放った“問題発言”。「10年前にはですね、携帯電話というと、ものすごいおカネ持ちか、ものすごく危ない人が使う物で……」。まさに隔世の感がある。
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