『Webアナリスト養成講座』/1日1時間でアナリストを養成。Webマーケター必読の赤本【書評】
BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊
『Webアナリスト養成講座』
評者:斉藤 彰男(編集者、システム・エンジニア)
これまでのウェブ解析方式を覆す斬新なアプローチの教科書
三位一体法は会社と顧客両方にWin-Winの成果をもたらす
『Webアナリスト養成講座』というタイトルを初めて書店で見たときは、アクセス解析ツールを使いこなす“HACKS本”かと思った。“ウェブアナリスト”という聞き慣れない言葉に惹きつけられて本書を開いてみると、突然「旧来のWeb Analyticsは死んだ」という見出しが目に飛び込んできた。
ページビュー、ヒット、上位離脱ページ、エンゲージメント、訪問者の画面解像度、「これらの指標に共通して言えるのは、何か意味のあることを示しているように見えて、実のところたいした意味はない
」という言葉に、まず衝撃を受ける。「それどころか、多くの場合、積極的に間違った道に誘い込ませさえする
」とも。さらに「その道の先には、多額の予算を使ってツールやレポートを購入した挙句、ROIには見るべき成果も無く、Webサイトのカスタマー・エクスペリエンスも改善しないという最悪の結果が待ち構えている
」と続く。これは面白そうだということで、さっそく書評することにして購入した。
本書は、Google Analyticsのエバンジェリストでもあるアビナッシュ・コーシックによるアクセス解析の教科書である。原題『Web Analytics: An Hour a Day』が示すように、本書の構成に従って毎日1時間かけてレッスンを積み重ねれば、ウェブアナリストに必要な知識を身につけられる、というわけだ。だだし512ページという厚さから想像できるように、レッスンは7カ月以上にわたっているので、簡単にウェブアナリストになれるというわけではない。
本書は4部構成になっていて、第1部「Web Analyticsの基礎」(第1章~第3章)は、アクセス解析の歴史から始まり、現状と課題、どうあるべきかを述べ、著者の提唱する三位一体的なアプローチの概観を示す。その後、データ収集の基礎知識、顧客の行動の裏にある「why」を理解する定性分析の概要について解説している。先に引用した語句は、この第1部で語られている。
第2部「三位一体的アプローチ」(第4章~第5章)は、第1部の概観を受けて、具体的な方法論を展開している。顧客中心主義、ビジネスの課題を解決する、10/90ルール、といったアクセス解析戦略の重要な要素について解説したあと、データ収集ツールの選定やページ遷移データの品質、タグの付け方、“だから何テスト”の実行などについて述べている。
ここまでが、この講座で実際にレッスンを始める前の“準備段階”にあたる。約150ページにわたる内容だが、できれば一気に読み進めるのがいい。
第3部「Web Analytics計画を実行に移す」(第6章~第12章)は、1章が1カ月のレッスンとして構成されている。1カ月目「Web Analyticsの基礎と基本的指標」、2カ月目「Webデータ分析を開始する」、3カ月目「検索分析――サイト内検索、SEOとPPC」、4カ月目「メールマーケティングとマルチチャネルのマーケティングを計測する」、5カ月目「Webサイトテストで顧客の声を聞く方法――顧客のパワーを利用して成果を挙げる」、6カ月目「ベンチマーク、ダッシュボード、シックスシグマを活用する」、7カ月目「総合分析とWeb 2.0分析」といった展開だ。
第4部「進歩したWeb Analyticsと『DNAに組み込まれたデータ』」(第13章~第15章)には、8カ月目以降の課題が収められている。レッスンというよりは解説中心の構成だ。第13章では、これまでの“アクセス解析の常識”の間違いを指摘している。続く第14章では、先進的な分析概念を紹介し、最後の15章ではデータに基づいて判断する企業文化を創造する実践的なステップとベストプラクティスを紹介して本書のまとめとしている。
もし本書に興味を持ったら、まずは第1章に紹介されている「三位一体法:新たな思考法と戦略的アプローチ」に目を通してみることをお勧めする。三位一体とは、ページ遷移を分析する「行動分析」、顧客と会社の成果を“だから何?”の問いを重ねて発見する「成果分析」、調査や定性・定量分析などを用いて顧客の声に耳を傾ける「エクスペリエンス分析」の3つを構成要素とするアプローチであるが、従来のアクセス解析では何が足りないのか、三位一体法では、何が実現できるのかなどが、図版を用いて丁寧に解説されている。「最終的には、三位一体思考法によってカスタマー・エクスペリエンスの根本的な理解に至ることができ、さらには最適な顧客行動に影響を与え、会社と顧客両方にWin-Winの成果をもたらすことができる
」と著者はその特長を述べている。
最後に本書を読んでいて気になった点を指摘しておく。本書の対象読者は、「イントロダクション」に記されているように、ウェブに興味がある人、CEO・経営層、ウェブビジネスの責任者、マーケッター、営業マン、ウェブデザイナー、ユーザ・リサーチャー、アナリストと多岐にわたっている。そのため、本書の第1章では本書を読むにあたって必要な基礎知識を解説している。たとえば、ページ遷移データの収集のメカニズムは、図版を使って丁寧に説明しているのだが、“ピクセル”“パケット”“JavaScriptタグ”といった言葉についてはすでに知っているものとして書かれている。またウェブでサーバーとブラウザがデータをやり取りする手順「HTTPプロトコル」の理解は必須なのだが、これについてのまとまった解説もされていない。
もしこのあたりが理解できなくてつまずくようなら、“基礎の基礎”について事前に学習しておいた方が良いかもしれない。また最近急速に利用が広まっているWeb 2.0的なAjaxやFlashといった技術では何故ページ遷移をともなわないのか、JavaScriptはウェブサーバーとどのようにデータのやり取りをするのかといったことも、事前に学習しておいた方が本書の理解がスムーズに進むことだろう。
近年、ウェブに期待される役割は急速に高まりつつあり、企業がウェブサイトの運営に投資する金額も増加の一途をたどっている。ウェブアナリストという職種は、現在はまだ認知度が高くないが、今後は必要不可欠な存在になること必至だ。本書をきっかけとして、今からその準備を始めてみてはどうだろうか。
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