『リファクタリング・ウェットウェア』/頭脳労働の達人から学習&思考スキルを盗め【書評】
BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊
『リファクタリング・ウェットウェア――達人プログラマーの思考法と学習法』
評者:森山 和道(サイエンスライター)
人間の脳をリファクタリングするための実践マニュアル
学習スキルと思考スキルの改善し、頭脳労働の達人になろう
運動でも、企画のような思考労働であっても、どんなことでも達人がやると、なぜか非常に簡単に見える。初心者にとっては何が問題かわからないような段階であっても、達人は問題をさっさと解決してしまう。だが実際にはもちろん簡単ではない。
この本は「ウェットウェア=脳」の「リファクタリング=内部構造の改善」を目指す一冊だ。副題には「達人プログラマー」とあるが、実際には頭脳労働者なら皆が普遍的に関係する話題が詰め込まれている。人間の技能習得過程を初心者から達人までの5段階に分類した「ドレイファスモデル」にのっとり、さまざまな思考法のコツを紹介していく。
達人になると、自分がなぜタスクを巧みにこなせているのかなかなか説明できない。初心者と達人の違いは、ルールではなく直感で物事を処理できるようになることだという。
この本では、人間の脳を2種類のCPUを搭載したメモリ駆動型の機械というメタファーで捉えている。1つは、速度が遅く、リニアにしか処理できないCPUである。つまりこれは意識的な処理に相当する。もう1つは、DSPのようなもので、非線形で高速に動作するが、直接、処理結果を言葉の形で表現することはできない。そしてメモリにアクセスできるのは一度に1つのCPUだけだと考える。まあ、いわゆる左脳と右脳のようなメタファーだ。
実際に脳がこうなっているかどうかはともかく、表面的に、脳がこんな感じで働いているらしいと考えるわけだ。そして、意識的かつ論理的にリニアに活動する脳(Lモード)だけではなく、直観的かつ並列、そして無意識の領域で活動する部分(Rモード)の働きを役立たせること、それの活動結果を意識して表面に汲み出すようにすることが、いわゆる達人的思考への近道となる、というのが著者たちの考え方の基本にある。
自由形式の日記を書いたり、なんとなく歩き回って思いつきを探したり、マインドマップを書いたり、Wikiを使ったり、果ては同僚の代わりに机の上に置いた黄色のアヒルに対して説明したりするだけでも、本書で呼ぶところの「Rモード」の出力を手に入れることができる。最善の方法は人によって異なるだろう。基本的コンセプトを示すことに、本書は注力されている。大事なことは、学びや遊びの過程のなかで、意識的に達人への道を登り続けることだという。
我々は「~したいのは山々なんだが、時間がなくて」と言いがちだ。だが、それは正しくないと著者は語る。本当に足りないのは、時間ではない。時間は我々が自分で割り当てるものだからだ。だから足りないのは時間ではなく、注意力の帯域幅である、と。どんなときでもリラックスし、かつ、真剣に注意を払うこと。それが達人への道であるらしい。
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