BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『情報通信の政策分析』/流行り廃りの激しい情報通信業界の今を知る【書評】

情報通信政策研究者が書き下ろしたブロードバンド、メディア、コンテンツに関連した12編の論文をまとめた
ブックレビュー

BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『情報通信の政策分析――ブロードバンド・メディア・コンテンツ』

評者:森野 真理(ライター)

「日本の情報通信業界」の未来を考える手がかりに
気鋭の政策研究者が「社会の神経系統」情報通信市場を実証分析

  • 依田 高典、根岸 哲、林 敏彦 編著
  • ISBN:978-4-7571-0263-7
  • 定価:4,200円+税
  • エヌティティ出版

日々、FMCだのクラウドイノベーションだの、あるいはTwitterやらUGCやら、ことさら情報通信業界では流行り廃りの波が大きく、目先のトレンドを追いかけるだけでいっぱいいっぱいになりがち。そんな毎日で一歩踏みとどまり、自らが関わる業界の枠組みを大きくとらえ直すことが、今の仕事に関する思わぬ「気づき」につながったり、新たなビジネスチャンスの発想を得たりすることはしばしばある。思考の幅を広げるための手がかりになる一冊が本書だ。

本書は京都大学、甲南大学、放送大学などの情報通信政策研究者らが2005年度から2008年度まで行った助成研究を基に、ブロードバンド、メディア、コンテンツに関連した課題を選び、新たに書き下ろした12編の論文をまとめたもの。

日本の情報通信市場の特徴として、編者たちは1.(コンテンツ市場の充実よりも先に)ネットワークインフラの高度化と整備が先行していること、2.携帯電話サービスを中心に、一部できわめて先進的で先鋭化した市場が出現している点(いわゆるガラパゴス化の進行)、3.産業としての通信と放送の融合に時間がかかっている点――をあげている。規制産業としてスタートした日本の通信業界、放送業界は、時の政府の情報通信政策に大きく影響されてきた。産業界の戦略も国内市場に偏ったものにならざるを得なかったのだという。

本書は三部構成。各部最初の章は、それぞれのテーマに関する現状の解説になっている。時間のない人はここだけでも読んでおくことをおすすめしたい。

第一部ではブロードバンドの普及を踏まえ、メディアごとにインフラの発展ぶりと政策の影響などをまとめている。インターネット利用料金の変遷や、デジタル化を控えた放送市場の状況、携帯電話市場の展望などは詳細に分析されているが、コンテンツ分野についてはほとんど触れられていないのがやや物足りない。

第二部は情報通信分野の法政策分析にあてられている。本書の中でもっとも充実しているとともに、市場の今後に関する重要な仮説が詰め込まれているのだが、残念なことにかなり難解。少し我慢して読み解くと、たとえば2011年をめどに制定される見通しの「情報通信法」は、現状のさまざまな情報通信規制法を再構成するためにあることが理解できる。

第三部は各国のブロードバンド事情と通信政策が中心だ。米国通信業界の大型合併の動きや韓国と中国の通信業界の状況をまとめて読むと、日本が国内産業の保護だけを目的に、政府主導で通信政策を決めてきたかがわかる。

本書でも複数の著者が言及しており、コロンビア大学のエリ・ノーム教授がかねてから指摘しているように、技術革新のスピードが速い情報通信産業では法規制の徹底は不可能だ。業界のさまざまな場面で見られる矛盾やボトルネックは、業態変化や技術革新のスピードに追いつけない法規制がもたらしたゆがみから生じるものが大半だ。さまざまな企業活動や利用者の要求、業界の常識が、政策論議の場でどのように論じられているのかも、本書を読むとよくわかる。

たとえば、固定電話とインターネット、携帯電話サービスを一事業者にまとめることで料金が割り引かれるサービスは「バンドル・リベート」に当たる。利用者にとっては便利でお得なサービスだし、業界各社にしてみれば必死の努力の産物だ。しかし、競争政策の観点からは、「抱き合わせ販売」と同様の問題点(排他条件付取引)や、違法性(略奪的価格設定行為)を検討しなければならない。

収録されたデータや法分析は最新の状況に基づいており、その点においても本書は「業界リファレンス」として利用価値が非常に高い。部門の戦略構成に関わる立場の企業人だけでなく、現場で技術開発やコンサルティングを担当する業界人も目を通しておいて損はない。

あらかじめ書いておくと、本書は読みにくく、内容もずっしりと重い。研究者の文章にありがちな硬さも気になる。仕事の合間にぱらぱらめくって全体を「速読」でおおざっぱにつかむ構成にはなっていない。だが、収録されたテーマはどれも今日的で将来の展望が明るいものばかりだ。今後の情報通信政策が未来の市場のあり方を決定づけるのであれば、業界に関わる1人としてはぜひ、現在の状況と課題を知り、誤った方向に進まぬよう注目しておきたい。

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